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北朝鮮の巧みな罠。「核実験凍結」で日本が見落としていること=江守哲

北朝鮮が「核実験凍結」を表明しましたが、世界の反応は様々です。日本が見落としていること、続く南北・米朝会談の焦点などから今後の経済動向を読み解きます。(江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて

本記事は『江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて』2018年4月23日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方はぜひこの機会に、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:江守哲(えもり てつ)
エモリキャピタルマネジメント株式会社代表取締役。慶應義塾大学商学部卒業。住友商事、英国住友商事(ロンドン駐在)、外資系企業、三井物産子会社、投資顧問などを経て会社設立。「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」。商社・外資系企業時代は30カ国を訪問し、ビジネスを展開。投資顧問でヘッジファンド運用を行ったあと、会社設立。現在は株式・為替・コモディティにて資金運用を行う一方、メルマガを通じた投資情報・運用戦略の発信、セミナー講師、テレビ出演、各種寄稿などを行っている。

続く米朝・南北首脳会談の焦点は? 報道されない米朝韓の思惑

北朝鮮「核実験凍結」の狙いは

米国株はまだまだ上値が重いですね。今後にビッグイベントが控えているため、ある程度は仕方がないかもしれません。そのイベントが米朝首脳会談であることは、言うまでもありません。

さて、週末に大きなニュースが飛び込んできました。北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が20日の朝鮮労働党中央委員会総会で、核実験と弾道ミサイル(ICMB)の発射中止を表明しました。

朝鮮中央通信によると、北朝鮮の金正恩委員長が党中央委員会第7基第3回総会で行った新たな戦略的路線に関する報告の要旨は次の通りです。

このような決定を行った背景には、南北、米朝と続く首脳会談を控え、国際社会への融和姿勢を演出する狙いがあるとみられています。

発表されていない重要情報

しかし、上記の内容でも明らかなように、保有しているとみられる核兵器の放棄には踏み込んでいません

そして、発表されていない決定内容の中に「核武器の兵器への転用」が含まれています。これはきわめて大きなポイントで、マスコミにも出ていない重要情報です(海外に通じている私の独自ルートの情報です。日本政府も知らない可能性があります)。

また、今回の決定内容には、朝鮮統一に向けた考え方も、議事録に明記されました。当メルマガの読者は、日本政府も知らない可能性がある、きわめて重要な情報を目にしているわけです。これが、今回の北朝鮮の会議で決定された、最も重要なポイントです。

Next: 北朝鮮の態度に劇的な変化も? 米朝首脳会談の議題はどうなる



北朝鮮の態度に見られる劇的な変化

ただし、これまでとは違う部分もあります。というのは、核実験の全面中止などの国際的な努力に協力する姿勢を示したことです。

また、核の脅威や威嚇がない限り核兵器を絶対に使用しないことも、核兵器と核技術を移転しないことも明記しました。

さらに、強力な社会主義国を建設し、人民の生活を画期的に高めるとしました。周辺国と国際社会との緊密な連携と対話を積極的に行うともしました。

日米が求める「完全非核化」は実現するのか?

核保有を継続することが明確になっていますので、日米が求めている「完全非核化」は難しいものと思われます。

ここが米朝首脳会談での議題の中心になります。

ただし、ポンペオ中央情報局(CIA)長官がすでに昨年来、北朝鮮を訪問し、金委員長と直接交渉しており、その結果として米朝首脳会談が実現の方向にまで来ています。

報道では最近になってポンペオ氏が訪朝したことになっていますが、実は昨年から行っています。これも独自情報です。

ここまで来たことを考えると、今回の米朝首脳会談では完全核廃棄は求めず、まずは国際社会との対話ができるところまで持っていき、さらに朝鮮統一を米国主導で行うことを提案する見通しです。

「拉致被害者の帰国」はこれまで通り難航する

ですので、日本が求める拉致被害者の帰国や完全核廃棄は難しいでしょう。

米国は日本の拉致被害者には関心がありません。拘束されている自国民の帰国だけがターゲットです。

この部分は、日本が直接交渉するしかありません。北朝鮮にとって、日本はあまりメリットのある国ではないので、交渉はこれまで通り難航するでしょう。

「核戦力の完成」で実験をやめただけ

マスコミの報道を引用すると、今回の金正恩委員長の表明では、非核化に向けて踏み込んだとの印象を受けますが、実はそうでもないということになります。

北朝鮮は昨年11月に、米本土を射程に収めるICBM「火星15」の発射後に「核戦力の完成」を宣言しました。それ以降、核・ミサイル挑発を止めています。

核実験と弾道ミサイルの発射中止は現状を維持するだけともとれるとしていますが、まさにその通りです。

日本のマスコミは真の情報を持っていないので、どうしても推測記事になってしまいますが、私の情報は決定事項です。この差は大きいですね。

一方、今回廃棄を表明した北東部豊渓里(プンゲリ)の核実験場も、すでに役割を終えているとの見方もあります。この実験場は、もともと日本の所有物で、これを転用したわけです。

韓国の北朝鮮専門家の間では、17年9月の6回目の核実験で核弾頭開発の技術的な課題は解決したとの見方が支配的ですが、それはまず間違いありません。

Next: 北朝鮮の「核実験凍結」を喜べない日本。その本音とは



北の新スローガンは「経済建設に総力を集中」

一方で、金正恩委員長は今回の総会で、13年から続く政権の基本指針である「核開発と経済再建の並進路線」の看板も下ろし、「経済建設に総力を集中」という新たなスローガンを掲げました。それが、前述した「社会主義国の建設」です。

今回の発表で、並進路線が確立できる体制になったと金正恩委員長は判断し、これまで核・ミサイル開発に集中さていた国防予算を経済に回すことで、新しい国家の建設に向かうことができると判断したわけです。

そのためには、国際社会と連携していないと、とても目標は達成できません。そこで、並進路線を打ち切り、国際社会の要請に従う形を取ろうとしているわけです。

米国、韓国などとの対話路線を見せているのは、今後の国家の方向性を明確にするうえで重要と判断したからにほかなりません。

金正恩の評価が高まっている

一方、海外ではこれを評価する声が多く聞かれます。

中国外務省の陸慷報道局長は、今回の北朝鮮による核実験やICBM試射中止などの決定を受けて談話を発表し、「歓迎を表明する」と高く評価しています。さらに、朝鮮労働党が経済発展に注力し、国民の生活水準を高める方針を掲げたことも併せて歓迎しています。

今回の決定は「朝鮮半島情勢のさらなる緊張緩和、非核化と政治解決プロセスの推進に役立つ」とし、「半島非核化と地域の恒久平和実現は、半島・地域の国民の共同利益に合致し、国際社会にとっての共通の期待でもある」としました。

ちなみに、習近平国家主席が6月中に北朝鮮を訪れる案が浮上しているようです。

中国側は「われわれは北朝鮮とのハイレベル交流を維持・強化したい」としており、早期訪朝に前向きなようです。

日本側の本音は「口だけでは何とも言えない」

一方、安倍首相は今回の北朝鮮の決定を「前向きな動きと歓迎したい」としました。

その上で「この動きが核、大量破壊兵器、ミサイルの完全、検証可能、不可逆的な廃棄につながるかどうか、しっかり注視したい」とし、北朝鮮に具体的な行動を求めました。

安倍首相は今後の対応に関して「既に日米首脳会談で北朝鮮の変化にどう取り組むか、しっかり打ち合わせは終わっている。それに従って日米、日米韓で対応したい」としています。先の日米首脳会談では、この点についてかなり話し込んだことを示唆しています。

しかし、賢い小野寺防衛相は、重要なポイントを見逃していません。つまり、「今回の北朝鮮の決定では、中・短距離の弾道ミサイルの放棄は触れていないし、核の放棄にも触れていない。これでは不十分だ」としています。

さらに「現段階で圧力を緩めるタイミングではない。引き続き最大限の圧力を加え、核・ミサイルの放棄を目指す姿勢に変わりはない」としています。

また、麻生副総理兼財務相は「北朝鮮はこれまで数々約束したが、核・ミサイル開発はそのまま続いた。口だけの話では何とも言えない」としています。

これが日本サイドから見た本音でしょう。

しかし、これまでミサイルを打たせていたのは、実は日本です。ほぼ時効ですからいいでしょう。詳しくは、いずれ詳細をお話しすることにします。

ちなみに、北朝鮮のミサイル発射の技術者はロシア人、燃料は中国からのものでした。北朝鮮にはそこまでの技術はなかったのです。これも重要なポイントです。

Next: 強硬姿勢に出れない韓国。南北首脳会談の焦点は?



南北首脳会談の焦点

さて、今回の決定に対して、南北首脳会談では文在寅大統領がどこまで金委員長から核放棄に向けた言質を取れるかが焦点となるでしょう。

しかし、文大統領の両親は脱北者であり、ノスタルジックな気持ちになる可能性があります。もともと、今回の北朝鮮の融和を図ろうと仕掛けたのも文大統領ですが、気持ち的にそこまで強硬姿勢に出れるとは思えません。

北朝鮮は3月に核放棄の条件として、「軍事的脅威の解消」や「体制保証」などを提示しています。米国の「敵視政策」や「核の脅威」を非難しており、体制保証などの問題を米朝首脳会談で話し合うことになるでしょう。

文大統領も「南北会談だけでなく、米朝首脳会談まで成功して、はじめて対話の成功と言える」としています。

果たして、そこまで踏み込んだ会談になるのか、その可能性は今のところ低いというのが結論です。

トランプ大統領にとっては、米朝首脳会談の開催と核開発の停止にもっていっただけでも、大きな成果といえます。この成果を強調して、中間選挙さらに19年の大統領選を戦えると考えているでしょう。

そうなると、日本の思惑通りにはいかないことになります。

安倍首相は既に辞意を表明している?

国際社会では、安倍首相は完全にレームダック化しています。事実、後述するように、安倍首相は幹部にはすでに辞意を表明しています。あとは辞めるタイミングだけです。

しかし、国際社会から取り残されないように、中国や北朝鮮に対して、「資金を提供するから仲間に入れてほしい」と猛烈にアピールしています。

それでも、反応はいまいちのようです。日本の存在価値がなくなりつつある点は、かなり危険な状況であるといえます。個人的にはかなり不安です。

北朝鮮に関する情報をここで解説するのが正しいかはわかりませんが、いずれにしても、表面上は米国は評価するでしょう。あとは市場参加者がこれをどう考えるか、ということになります。

一定の評価をするのであれば、これまでの慎重姿勢に変化が見られるかもしれませんね。それを期待したい面はあります。

さて、実体経済に目を向けましょう――

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本記事は『江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて』2018年4月23日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方は、バックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。本記事で割愛した米国市場金、原油各市場の詳細な分析もすぐ読めます。

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2018年4月23日号の目次

・新メルマガ:江守 哲の「ニュースの哲人」~日本で報道されない本当の国際情勢と次のシナリオ
・マーケット・ヴューポイント:北朝鮮の核実験・ミサイル発射中止だけでは不透明感は払しょくできず
・株式市場:米国株は答えが出るのはもう少し先、日本株は浮揚できるか
・為替市場:ドル円は上向き基調
・コモディティ市場:金は下落、原油はさらに高値更新!さらにアルミとニッケルが吹き上がり
・今週のポジショントーク:方針に変更なし
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