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日本人のビール離れが止まらない。大手4社の「生き残り」対策に明暗=栫井駿介

猛暑が予想される今年の夏。投資家としてはビール会社の業績が気になります。ビール出荷量は13年連続で減少するなど「ビール離れ」はさらに加速。安価ですぐに酔える「ストロング」を謳うチューハイが人気になっています。いま投資するなら、ビール大手4社を比較するとどこが一番魅力的と言えるのでしょうか?(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

ビール出荷量は13年連続減。多角化や買収など対策は様々だが…

売上高は「サントリー」が頭ひとつ抜ける

夏が近づき、ビールの季節がやってきました。今年は猛暑になるとも言われていて、投資家としてはビール会社の業績も気になるところです。

ビール会社と言えば、アサヒ<2502>、キリン<2503>、サントリー(非上場、子会社のサントリー食品<2587>が上場)、サッポロ<2501>の4社がしのぎを削りますが、投資対象としてはどこが一番魅力的と言えるのでしょうか。

まず、4社の売上高を比較します。

サントリーが頭ひとつ抜けていることがわかります。もともとサッポロを除く3社は2兆円前後で肩を並べていましたが、サントリーが2014年にアメリカのビーム社を買収したことなどから業績を伸ばしています。

また、アサヒも2017年にビール世界最大手のアンハイザー・ブッシュ・インベブから東欧5ヶ国のビール事業を買収するなど、積極拡大路線を展開しています。

一方、この5年間で唯一売上高を減らしているのが「キリン」です。直近でブラジル事業から撤退するなど、拡大路線のサントリーやアサヒに対して「選択と集中」を進めています。その結果、直近の営業利益率は4社でトップ(11.3%)となっています。

この4社の中で、規模感が明らかに異なるのがサッポロです。「大手4社」として取り上げましたが、「大手3+1社」と考えたほうが良いかもしれません

ビール系飲料首位は「アサヒ」

次に、ビール分野について見ていきます。下のグラフは、ビール系飲料における各社のシェアを示しています。

アサヒが約4割と高いシェアを占めています。これは、主力の「スーパードライ」の売れ行きが大きく影響していると考えられます。また、第三のビールでも「クリアアサヒ」が好調で、こちらも2005年以来初めてキリンから首位の座を奪いました。

スーパードライと並び称されるのがキリンの「一番搾り」です。最近は都道府県別の商品を発売するなど、力の入れようが伺えます。キリンは「ビール事業の収益基盤強化」を掲げていますが、これは発泡酒や第三のビールの「増税」により、需要がビールに回帰することを見据えての動きと考えられます。

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アサヒやキリンとはシェアは劣りながら、独自のポジションを築いているのがサントリーとサッポロです。サントリーは「プレミアムモルツ」サッポロは「ヱビス」と、プレミアムビールで盤石の基盤を構築しています。「ビールは高級品」となりつつある現状において、せっかく飲むなら多少高くても美味しいものをという消費者のニーズに応えていると言えるでしょう。

Next: 世間のビール離れは想像以上。酎ハイと買収に力を入れる各社の戦略は



ビール系飲料は13年連続減少、「RTD」の市場が拡大

しかし、各社がビール系飲料で激しく火花を散らしたところで、人口減少や若者のビール離れが進む状況では泥舟に乗っているようなものです。ビール系飲料の出荷量は13年連続で減少しています。

ビール系飲料に代わって伸びているのが、「RTD(Ready to Drink)」と呼ばれる商品です。簡単に言うと、缶を開けたらすぐに飲める酎ハイなどのジャンルを指します。

いま、RTDの市場は二極化が進んでいます。

サントリー「ほろよい」に代表されるアルコール度数が低くて飲みやすい商品は、女性や若者から人気を集めて売上を伸ばしています。ビールの苦さが苦手という人にはありがたい商品です。

一方で、「すぐに酔いたい」という需要に応えたのがいわゆる「ストロング系飲料」です。アルコール度数7~9%と、飲むとガツンとくる商品です。代表格がキリン「氷結ストロング」サントリー「-196℃ストロングゼロ」です。この市場は、2010年から2017年にかけて2.5倍に成長したと言います。

嗜好の多様化が進み、「とりあえずビール」の時代は終わりを迎えつつあるのかもしれません。ビール会社は、生き残りをかけて新たな商品を開発し続けなければならないのです。

海外買収加速も、リスクは気にかける必要がある

これから成長しようと考えたら、国内だけにとどまっているわけにはいきません。各社は海外進出を積極的に進めています。

サントリーは2014年にアメリカのビーム社を1.6兆円で買収しています。アサヒも2017年にアンハイザー・ブッシュ・インベブから東欧5ヶ国のビール事業を8,000億円で買収しました。サッポロも、2017年にプレミアムビールを展開する米アンカー社を95億円で買収しています。

一方で、キリンは2017年にブラジルから撤退しています。約3,000億円をかけて進出した事業でしたが、業績は低迷し、2015年に1,100億円の特別損失を計上していました。同社はオーストラリアのライオン社2009年に買収し収益の柱に成長させましたが、海外事業の運営が一筋縄ではいかないことを示す事例と言えるでしょう。

サントリーやアサヒについても、同じようなことが起こらないとは限りません。買収した企業の経営がうまくいかないと、「のれん/無形資産」の減損により多額の損失を余儀なくされます。買収は成長のために必要な要素ですが、リスクとして気にかける必要があるでしょう。

Next: キリンとサッポロは多角化に成功。ビール脱却の成否で各社に明暗



キリンとサッポロは多角化に成功

ビールや食品以外で大きな利益を挙げているのが、キリンとサッポロです。

キリンは医薬品事業を強化しており、営業利益に占める同事業の割合は3割を超えます。多角化としては成功している部類と言えそうです。

サッポロは「恵比寿ガーデンプレイス」を保有しており、不動産事業の利益が営業利益の半分を占めます。サッポロ「ビール」ではなくサッポロ「ビル」と揶揄されるゆえんです。ヱビスビールと恵比寿ガーデンプレイスで持っている会社と言っても過言ではないでしょう。

投資指標に大きな差は見られない

各社を比較すると、生き残りをかけて様々な施策を打っていることがわかります。ただし、大枠としてはドル箱だったビール市場の縮小をどのように補うかということになりそうです。

アサヒやサントリーは、グローバル市場を見据えて積極的な海外買収を行っています。拡大路線を取ることで、世界でブランド力を高めようとしているのです。ただし、高額の買収はその後の巨額損失のリスクもはらんでいる点を忘れてはいけません。

キリンは、ブラジルでの失敗を機に選択と集中を進めています。酒税改革で顧客回帰が見込まれるビールの収益力強化や、高いシェアを誇るオーストラリア事業に集中するようです。一方で、医薬品事業で大きな成長を目指すとしています。

サッポロは、エビスビールと恵比寿ガーデンプレイスに頼る経営が続きそうです。いずれも安定していることが売りですが、成長性の種を見出すには物足りないと言えます。

4社の株価指標を比較すると、似た数字が並びます。いずれをとっても割安・割高といったことは特になさそうです。

株を買うなら、自分の好きな商品がある企業を買うのがいいかもしれません。


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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2018年5月24日)

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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