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日本人の給料はまだまだ下がる。政府の「統計だけ」賃金アップに騙されるな=斎藤満

個人消費の弱さが慢性化・重症化してきました。政府が発表した1-3月の雇用者報酬増は「見かけ倒し」であると判明。賃金が増えなければ消費が増えないのも当然です。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2018年6月6日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

政府が調査企業を入れ替え。「雇用者報酬」の増加はウソだった…

政府も判断を下方修正

個人消費の弱さが慢性化し、重症化してきました。

総務省の「家計調査」によれば、4月の家計消費は物価上昇分を除いた実質で前月比1.6%減少し、これで3か月連続の減少となりました。前年同月と比べても1.3%の減少です。

4月の実質消費水準は1-3月の水準を2.2%も下回っていて、このままでは4-6月期も消費は減少となりそうです。政府も「弱さが見られる」と判断を下方修正しました。

国民の収入がどんどん減っている

基本的には「先立つもの」が増えないためです。勤労者世帯の実収入は、実質で前年比0.2%減と今月も減少しました。

特に「世帯主の定期給与」は前年比2.0%減となっていて、大黒柱の給与減少を、配偶者や他の家族の働きで穴埋めしようとしている姿が見て取れます。

無職世帯では、年金収入が実質で前年比1.0%の減少となり、こちらは政治的に実質減少が続くことになります。

見かけ倒しだった雇用者報酬の増加

1-3月期のGDP(国内総生産)が発表された際、家計消費は実質で0.1%減となったものの、実質雇用者報酬が0.7%増えていました。そのため、4月以降はこの分が消費増に寄与するとの期待がエコノミストの間で見られました。

しかし、少なくとも4月の家計消費には、その効果が微塵も見られません。それは雇用者報酬の増加が実は「見かけ倒し」だったからです。

内閣府が示す「雇用者報酬」は、厚生労働省の「毎月勤労統計」から1人当たりの給与として「現金給与総額」をとり、これに同省の「労働力調査」から雇用の数をとって掛け合わせたものとして計算されます。

以前、当メルマガでは「毎月勤労統計」が歪んでいる可能性を指摘しました。本来、もっとも安定しているはずの「所定内給与」が、昨年は1年を通じてほぼ0.3%程度の増加となっていたのですが、今年の1月以降、突然これが1%前後の増加に高まりました。

日本の企業は賃上げを4月から6月あたりに実施するところが多いのですが、1月になって急に「ベア」があった形になっています。

これは、突然1月にベースアップをする企業が増えたからではなく、1月以降、調査企業のサンプルが入れ替わったために、不連続に所得水準が上がったためと考えられます。

調査対象に賃金水準の高い企業が多く入っただけで、ここで賃上げがなされたわけではないようです。

Next: 消費低迷はあたりまえ。企業業績が好調でも人件費として還元されない…



消費性向は上がっていない

雇用者数も今年1月以降は伸びを高めていますが、これはパートなどの非正規雇用が中心です。

本来ならば給与水準の低いパートが増えれば、平均給与水準は低下します。ですが、先の「毎月勤労統計」では調査サンプルが入れ替わったために、1人当たり賃金も実体を離れて伸びが高まっていました

両者を掛け合わせた「雇用者報酬」は、その分大きくなったというわけです。

もし1-3月に所得が増えていたのに消費が減っていたとすれば、1-3月の消費性向が低下(貯蓄率が上昇)し、その分だけ4月以降にその貯蓄を消費に回し、そこでの消費性向が上昇し、貯蓄率が低下してもよいはずです。

ところが、4月の消費性向は82.7%と、前年の85.9%から大きく低下し、季節調整後の水準でも3月から0.4%低下しています。そもそも、1-3月も消費性向は低下気味でした。

黒田総裁「所得と消費の前向きな循環が働いている」は大ウソ

少なくとも、黒田日銀総裁の言う「所得と消費の前向きな循環が働いている」との認識は、こと個人消費ではあてはまりません。

勤労者も年金生活者も、所得が減少しているために消費を増やせない状況にあります。

財務省の「法人企業統計」から、安倍政権発足当初の2013年1-3月期と、5年が経った今年1-3月期とを比較してみると、企業の経常利益はこの間に40%増加し、企業の内部留保は284兆円から427兆円に50%も増えた半面、企業が支払った人件費は5年前の41.4兆円から43.7兆円と5.5%しか増えていません。

拡大した企業の利益は、人件費で還元されずに、企業の内部留保にたまる構図で、黒田総裁の「所得から支出への前向きな循環」は、企業の内部留保によって切断された形になっています。

国民全体が防衛的な消費パターンへ

年金世帯のみならず、勤労者世帯でもなかなか所得が増えない状況が続くだけに、おのずと消費パターンも防衛的になっています。

年金世帯では貯蓄の取り崩しをなるべく少なくするよう、つまり節約して消費性向を抑制しています。

この4月の消費性向は67.1%で、前年同期の72.7%から目立って低下しています。自動車の買い替え、維持補修を抑制しているのが目立ちます。

また所得が増えない中で、物価上昇は直接、家計に響きます。4月の消費費目のうち、原油高で価格が上昇した電気ガスの消費を5.6%減らしています。単価が3.4%も上昇しているためです。またマグロを中心に魚介類の価格が上昇したため、この分野の消費抑制が、消費全体を0.21%下押ししています。

総じて物価が上がった分の消費を抑制しています。冠婚葬祭の祝儀、香典など「贈与」も減少しています。

Next: エンゲル係数が上昇中。国民の貧困化を打破するには



エンゲル係数が上昇している

その一方で、携帯通信料は着実に増加しています。価格が下がったエアコンの購入も増えました。

また、所得が減少する中で、支出全体に占める食料費支出の割合(エンゲル係数)が上昇気味です。特に年金世帯では28.0%と、1年前の27.7%から上昇しています。全体として消費が弱い中で、食料品市場は安定が見込めます。

政策の大転換が必要

こうした状況を打破するには、政策の基本的な転換が必要と思われます。

企業にただ賃上げを要請するだけでなく、米国のアップル、アマゾン、グーグルに負けない新市場の開発を官民挙げて進め、市場・所得機会の創造を図る必要があります。

そのための規制緩和は必要です。AI、ロボットなど、起業の機会を増やしたいものです。

財界は反対するでしょうが、非正規雇用の社会保険負担を企業が持つようになれば、年金の払い漏れも軽減され、将来不安も軽減され、それが消費に回ってきます。企業に偏った所得配分は、結局、消費市場の縮小から企業に跳ね返ってきます。

労働者にも目を向けた政策への転換が必要になってきました。働き方改革も、企業のためではなく、労働者の視点に立つべきものです。

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・個人消費の弱さは重症(6/6)
・FOMC前後の為替の動きに要注意(6/4)
・日銀に追い打ちをかけた弱い鉱工業生産(6/1)

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5月配信分
・収まらない米中貿易戦争(5/30)
・FRBが直面するジレンマ(5/28)
・市場から見た米朝会談破談リスク(5/25)
・景気の減速は本当に一時的か(5/23)
・「ミニ石油ショック」でも油断は禁物(5/21)
・米朝会談までは新興国不安回避要請?(5/18)
・インフレ目標事実上のギブアップ(5/16)
・米長期金利はすでに上昇トレンドに(5/14)
・新興国にイラン不安の追い打ち(5/11)
・トランプ貿易戦争のインフレ性(5/9)
・FRBの姿勢変化に注目(5/7)
・トランプ大統領ノーベル賞を意識(5/2)

4月配信分
・窮地の安倍政権、解散か総辞職か(4/27)
・物価目標2019年度も黄色信号(4/25)
・米長期金利再上昇の重み(4/23)
・日米首脳会談も安倍延命にはならず(4/20)
・無視できない政治混乱の影響(4/18)
・無理筋な日銀の物価目標(4/16)
・米為替報告書に注目(4/13)
・米はシリアで多国間軍事対応を検討(4/11)
・安倍政権維持への3つのハードル(4/9)
・物価上昇の内容が変わる(4/6)
・FRBはどこまで利上げできるか(4/4)
・キーパーソンはH.キッシンジャー氏(4/2)

3月配信分
・ハイテク株にもトランプ・リスク(3/30)
・見えてきた点と線(3/28)
・見えてきたドル円の100円割れ(3/26)
・姿を現したパウエルFED(3/23)
・自動車業界と流通業界とのコラボ(3/19)
・日銀の金融政策も政権如何(3/16)
・安倍政権に春の嵐(3/14)
・雇用絶好調でなぜ賃金が上がらない(3/12)
・金利差円安論はすでに破たん(3/9)
・二転三転する黒田発言の真意は(3/7)
・トランプならではの貿易戦争リスク(3/5)
・エネルギー株に3つのリスク(3/2)

2月配信分
・親子バトルが銀行株を圧迫(2/28)
・裁量労働制論議で露呈した日本の問題(2/26)
・中央銀行の支配者(2/23)
・半島融和の裏で中東に火種(2/21)
・(金利差・ドル円・株の関係が崩れる2/19)
・米国債のバブル性(2/16)
・トランプ予算教書に2つの危険性(2/14)
・日銀人事の裏側(2/13)
・市場不安定化が3月利上げの負担に(2/9)
・適温経済と適温相場は別(2/7)
・米金利とドル円の関係、ここに注意(2/5)
・米金利高が日本の投資家を襲う(2/2)

1月配信分
・個人消費の低迷に歯止めがかからず(1/31)
・物価本位主義見直しの時(1/29)
・安倍総理の密かな戦略を探る(1/26)
・規律を失い惰性に走る財政金融政策(1/24)
・米長期金利上昇は「吉」か「凶」か(1/22)
・強まる中国への風当たり(1/19)
・地政学リスクとビジネス・チャンス(1/17)
・粉砕される円安期待(1/)
・デフレ脱却宣言を拒む実質賃金の低迷(1/12)
・北朝鮮問題に新展開か(1/10)
・インフレ如何で変わる米国リスク(1/5)

12月配信分
・新年に注意すべきブラック・スワン(12/29)
・新年経済は波乱含み(12/27)
・日銀の過ちを安倍政権が救済の皮肉(12/25)
・金利差と為替の感応度が低下(12/22)
・インフレ追及の危険性(12/20)
・日銀が動くなら最後のチャンス(12/18)
・不可思議の裏に潜むもの(12/15)
・制約強まるFOMC(12/13)
・生産性革命、人材投資政策パッケージを発表(12/11)
・米国に新たな低インフレ圧力(12/8)
・政府と市場の知恵比べ(12/6)
・長短金利差縮小がFRBの利上げにどう影響するか(12/4)
・原田日銀委員の「緩和に副作用なし」発言が示唆するもの(12/1)

11月配信分
・中国リスクを警戒する時期に(11/29)
・会計検査院報告をフォローせよ(11/27)
・改めて地政学リスク(11/24)
・低金利で行き詰まった金融資本(11/22)
・内部留保活用に乗り出す政府与党(11/20)
・日銀の大規模緩和に圧力がかかった可能性(11/17)
・リスク無頓着相場に修正の動き(11/15)
・トランプ大統領のアジア歴訪の裏で(11/13)
・異次元緩和の金融圧迫が露呈(11/10)
・戦争リスクと異常に低いVIXのかい離(11/8)
・変わる景気変動パターン(11/6)
・日本的経営の再評価(11/1)

10月配信分
・日本の株価の2面性(10/30)
・FRBの資産圧縮が米株価を圧迫か(10/27)
・リセット機会を失った日銀(10/25)
・低インフレバブルと中銀の責任(10/23)
・フェイク・ニュースはトランプ氏の専売特許ではない(10/20)
・金利相場の虚と実(10/18)
・米イラン対立の深刻度(10/16)
・自公大勝予想が示唆するもの(10/13)
・中国経済に立ちはだかる3つの壁(10/11)
・自民党の選挙公約は大きなハンデ(10/6)
・当面の市場リスク要因(10/4)
・景気に良い話、悪い話(10/2)

9月配信分
・アベノミクスの反省を生かす(9/29)
・高まった安倍総理退陣の可能性(9/27)
・日銀も米国に取り込まれた(9/25)
・安倍総理の早期解散に計算違いはないか(9/22)
・日銀は物価点検でどうする(9/20)
・中国経済は嵐の前の静けさか(9/15)
・トランプ政権はドル安志向を強める(9/13)
・気になる米国の核戦略(9/11)
・日銀の政策矛盾が露呈しやすくなった(9/8)
・ハリケーン「ハービー」の思わぬ効果(9/6)
・北朝鮮核実験の落とし前(9/4)
・内閣府は信頼回復が急務(9/1)

8月配信分
・個人消費の回復に疑問符(8/30)
・あらためて秋以降の中国リスクに警戒(8/28)
・米債務上限引き上げかデフォルトか(8/25)
・利用される「北朝鮮脅威」(8/23)
・バノン氏解任でトランプ政権は結束できるか(8/21)
・日銀の「ステルス・テーパー」も円安を抑制(8/18)
・中国習近平長期政権の前途多難(8/16)
・北朝鮮の行動を左右する周辺国の事情(8/14)
・経常黒字20兆円強のデフレ圧力(8/9)
・日銀の物価目標が最も現実離れ(8/7)
・内閣改造効果に過大な期待は禁物(8/4)
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マンさんの経済あらかると』(2018年6月6日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。

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