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メルカリ、もうすぐ上場。時価総額4000億円にして実は「赤字企業」の落とし穴=栫井駿介

メルカリ<4385>が6月19日に東証マザーズに上場します。上場時の時価総額は約4,000億円と、今年最大となる見通しです。しかし、これだけ有名な会社にもかかわらず、業績は赤字となっています。果たしてメルカリは買うべき株なのでしょうか。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介) ※編注:公開価格が3,000円に決定したことに伴い、初出時よりタイトル及び本文の一部を加筆・修正しております(2018年6月13日)

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

拡大期で巨額の広告宣伝費が必要。この先も成長を期待できるか?

ダウンロード数1億件も、業績は赤字

メルカリは、個人間で物品の売買を行うスマートフォンアプリを提供・運営しています。相手に住所を知られることなく売買ができることや、アプリで簡単に商品の登録ができることから人気を集め、アプリのダウンロード数は日米で1億件にのぼります。

出典:有価証券届出書

サービス開始以来快進撃を続ける一方、1年前には現金が出品されたことでマネーロンダリングや貸金業法違反が指摘される問題も発生しました。そのような困難を乗り越えてようやく上場に至ったという経緯です。

企業が上場すると、「目論見書」や「有価証券報告書」が公表され、事業の状況や業績を確認できます。メルカリの業績を見ると、売上高こそ順調に伸びていますが、直近の損益は赤字となっています。
参考:新規上場申請のための有価証券報告書(メルカリ)※PDFファイル

※国内・海外の合算

ただし、赤字企業だからといって投資対象から切り捨てるのは早計です。米Amazonは、ほとんど利益を出していないにもかかわらず株価は上昇を続け、いまや世界第2位の時価総額を誇ります。特に、利益を圧迫している要因が将来の利益のための投資であるのなら、今の業績だけで企業を評価するべきではありません

メルカリは、国内事業では黒字を確保しています。利益を圧迫しているのは海外事業であり、費用は主に広告宣伝費です。2018年6月期を見ると、220億円の連結売上高に対し、141億円が広告宣伝費となっています。逆に言えば、それ以外のコストはほとんどかからないビジネスモデルなのです。

このようなビジネスでは、まずは利益度外視で市場シェアを勝ち取ることで、売上がある程度まで伸びれば利益は瞬く間に増加します。メルカリの海外事業はまだはじまったばかりですから、今が赤字なのは当然の成り行きと言えます。

Next: 予想株価は妥当なのか? ZOZOTOWN運営のスタートトゥデイと比較する



株価は「スタートトゥデイ基準」なら正当化できる

赤字企業に対しては、最も一般的な株式指標であるPERが使えませんから、それに代わる何らかの指標で価値を評価する必要があります。

そのひとつはPSR(株価売上高倍率)です。費用がかさんで利益が出ていないのなら、費用を差し引く前の売上高で比較してみようという試みで、成長企業の評価でしばしば用いられます。

2018年6月期の売上高を3月期の業績から単純に引き伸ばすと、約350億円です。時価総額が4,000億円とすると、PSRは11.4倍と計算できます。上記に挙げた米Amazonが4.6倍、似た業態のスタートトゥデイ(ZOZOTOWN)<3092>が13.2倍です。メルカリはどちらかと言えばスタートトゥデイの基準で見られていることがわかります。

スタートトゥデイと言えば、新興企業の中でも破竹の勢いで業績を伸ばし続ける会社です。売上高は10年で10倍となり、株価もほぼ同じペースで上昇しています。最近では、服のサイズを自動で計測する「ZOZOSUIT」の無料配布が大きな期待を呼んでいます。

スタートトゥデイ<3092> 月足(SBI証券提供)

メルカリも、スタートトゥデイのような大きな成長が期待できるのなら、PSR11.4倍の評価が正当化されてもおかしくないと言えるでしょう。

Next: フリマアプリ市場は「レッドオーシャン」。多額の広告宣伝費が必要になる



フリマアプリ市場は「レッドオーシャン」

しかし、メルカリがスタートトゥデイと同じ基準で評価されるためには、大きな壁があると考えます。それは競合環境です。

スタートトゥデイはアパレルのショッピングサイトです。アパレルのインターネット通販としては、Amazonや楽天などの大手を含む他の追随を許しません。その要因の1つは、早くから著名ブランドを囲い込んだことがあると考えられます。

一方のメルカリには強力な競争相手がいます。Yahoo!の「ヤフオク!」はインターネットによる個人間売買の先駆けであり、メルカリへの対抗策も次々に打ち出しています。また、楽天の「ラクマ」は、メルカリなら10%かかる販売手数料を3.5%に抑え、顧客の奪い合いを行っています。

Yahoo!と楽天はいずれも資金力豊富な巨大企業ですから、マーケットシェアを取るためには採算度外視で手数料の値下げや広告費の投下を行うことができます。

このようなサービスは1社総取りになることも多いため、メルカリは現在の高いシェアを取られないために広告宣伝を続けなければならないのです。

スマートフォンの普及による個人間売買市場の拡大を考えると、メルカリの売上高は大きな成長余地があるでしょう。しかし、その市場は競合がひしめく「レッドオーシャン」なのです。

国内ではすでに利益が出ていますが、おいしいビジネスだとわかると競合は攻勢を強めるでしょうから、再び広告宣伝費により利益が削られます。

同質の商品(サービス)の利益が逓減するのは、経済学の基本原理です。

Next: メルカリは買い? 先駆者の強みを活かせるかが今後のポイントになる



他社に負けない「経済の堀」を確立せよ

それでもメルカリが安定した利益を出し続けるためには、競合に突破されない「経済の堀」を確立しなければなりません。

現在は「使いやすさ」「匿名配送」を強みとして謳っていますが、これらは少し研究すればすぐに真似できてしまうものでしょう。スタートトゥデイを手本とするならば、先駆者の強みを生かさなければなりません

1つの方向性として考えられるのが、出品者の囲い込みです。特に大口の出品者に対しては、他に移らなくて済むような優遇措置を取る必要があるでしょう。そうすれば、いくら他のサイトが広告を出しても、出品が少ないサービスからはユーザーは離れていきます。

もう1つの方向性は、海外展開です。実は、個人間売買のアプリで成功している例は世界でも珍しく、アメリカでもダウンロード数が3,700万件に達するなど一定の成功を収めています。広告宣伝費の大量投下は、サービスを世界に拡大しようという意気込みが見て取れます。

日本で培ったノウハウを活かし、一気に海外展開を進めることができれば、事業規模を何倍にも拡大できる可能性があります。ただし、そのためには有能な人材の確保が不可欠でしょう。今回の上場は、そのための資金や知名度を補う目的もあると思われます。

長期投資を考えるのは慎重に

成長企業の評価は非常に難しいところがあります。比較対象に挙げたスタートトゥデイですらPERが45倍を指すなど、一般的に割高と言われる域に入っています。

人気銘柄のため、IPOの抽選に当たった人はすぐに売れば利益を出せる可能性が高いと言えます。しかし、上場後に市場で買ったり、長期投資を考えるのは少し慎重になった方が良いと考えます。

成長株への長期投資における本当の勝負は上場時ではなく、その後大きく株価が下がる「デスバレー(死の谷)」に差し掛かったときです。その時までに真の成長性を見極めてからでも、投資は決して遅くないでしょう。


つばめ投資顧問は相場変動に左右されない「バリュー株投資」を提唱しています。バリュー株投資についてはこちらのページをご覧ください。記事に関する質問も受け付けています。

※上記は企業業績等一般的な情報提供を目的とするものであり、金融商品への投資や金融サービスの購入を勧誘するものではありません。上記に基づく行動により発生したいかなる損失についても、当社は一切の責任を負いかねます。内容には正確性を期しておりますが、それを保証するものではありませんので、取扱いには十分留意してください。

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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2018年6月10日)

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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