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ついに調整入りの日米株式市場。「人民元の切り下げさえなければ」は誤りだ=ブーケ・ド・フルーレット 馬渕治好

突然の人民元切り下げをきっかけに、堅調と思われていた日米の株価が調整色を強めています。二度目の切り下げがあった12日夜間の日経平均先物は一時20040円まで下落。そんな中、米CFA協会認定証券アナリストの馬渕治好氏がメルマガ『世界経済・市場花だより』号外を配信し、日米株価の今後の見通しをいち早く解説してくれました。押し目買いをせず、しばらく静観すべき理由とは?

人民元は口実にすぎない?下落トレンド入りした米国株式市場

「人民元の切り下げさえなければ」の誤り

米国株が、8/10(月)は短期的に反発したものの、下落基調を再開しました。また、日本株も8/11(火)前場をピークとして大きく反落し、8/12(水)の日経平均は20400円割れ(20392.77円)で引けました。

こうした日米株価の下落は、中国の2度の通貨(中国元)切り下げ(8/11火に2%、8/12水に1.6%)によるものだ、と言われています。

その背景は後述するとして、このため市場の一部(一部の専門家等の間)では、日米の株価について、「中国元の切り下げがなければ、日米の株価はもっと上がっていたはずなのに」したがって、「中国元切り下げ騒ぎが一巡すれば、日米の株価はすぐに力強い上昇基調を取り戻す」といった声が聞こえます。

また中国の経済については、「中国株がこれ以上下がらなければ、中国経済は大丈夫」「通貨切り下げや先日の金融緩和など、中国政府が次々と景気対策を打ち出しているため、中国経済は改善に向かう」という意見も目にします。

ただ、筆者は、上記の見解は、すべて誤りではないか、と考えています。

そもそもPERが高すぎる米国株

まず、米国株式市場については、これまで当メールマガジンで何度も述べてきたように、株価が調整色を強めてきた(ニューヨークダウ工業株指数は、終値ベースでは既に5/19(火)の18312.39ドルから、下落基調に入っています)根本の理由は、PERが高すぎることにあります。

S&P500指数の予想利益PER(ファクトセット調べ)は、近年は概ね12~18倍で推移し(リーマンショック直後などの例外はありますが)、2006年以降の平均値が14.9倍にありますが、直近週(8/7金に終わる週)の平均値はまだ17.6倍と上限に近く、高いです。

S&P500指数 週足(SBI証券提供)

この高PERは、金融相場だから、という口実で正当化されてきましたが、9月とも見込まれる米連銀の利上げを控えて、金融相場から脱却せざるをえず、その過程でPERの調整が起こりつつあると考えられます。

その調整のきっかけは、利上げ観測が一段と有力視され、長期金利が上昇することではないか、と見込んでいましたが、高いPERが下がるきっかけは何でもよいのでしょう(もしくは、きっかけがなくても、既にPERの調整は起こってきており、さらに続く、とも考えられます)。

そのため、中国元の切り下げが仮になかったとしても、米国株価の下落基調の再開は生じたでしょうし、元切り下げ騒ぎが一巡しても、PERが十分に下がらない限り、まだ米国株の下落は続くと予想します。

Next: 根拠なき楽観の「罠」に嵌った日本株、まだ押し目買いは危険な水準


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根拠なき楽観の「罠」に嵌った日本株式市場

まだ押し目買いは危険な水準

日本株については、前号のメールマガジン(8/9付)では、米国株価の軟調展開を無視して日本株が上昇気味で推移しており、しかもそうした日米株価の乖離を正当化するような、日本国内の材料(経済面、企業収益面、政治面など)はない、と述べました。

一部の専門家が、4~6月期の日本の企業収益は2割以上伸びており、これは欧米と比べて高いから、欧米株が下落しても日本株は上昇してよい、といった「暴論」を語っています。

日本の前年4~6月期は、消費増税の影響で国内売上が落ち込んでいますので、その落ち込んだ時期と比べて日本の企業収益の前年比増益率が欧米を下回っていたら、それこそ驚異です

ところが、日本の株式市場は、目先はそうした根拠なき楽観が持続し、8/11(火)前場にはふわふわと20900円台に突入しました。しかし述べたように、米国株価の軟調さを無視して日本株が勝手に上がる、という動き自体に無理があったため、その無理が下向きに解消される(米国株価の低迷に日本株が下落する形で追いついていく)という形で、自律的に大幅反落に入ったと考えています。

日経平均株価 週足(SBI証券提供)

つまり、日本株についても、無理矢理な日本株の浮つき加減が解消されるきっかけは、何でもよかったわけで、元切り下げがなかったとしても、いずれは日本株が今回と同様に大幅反落した、と解釈します。

以上からは、仮に中国元を巡る騒ぎや中国への種々の懸念が一巡したとしても、高PER解消のための米国株価の下落基調は続き、日米株価の乖離を正当化する材料を欠くなか、日本株も並行的に(あるいは時折は米国株価の下落以上のスピードで)下落を続けるでしょう(もちろん、短期的には多少の株価リバウンドはあるでしょうが)。

日経平均株価は、当メールマガジンで「ブル・トラップ」と表現していた、20800円超えを、6/23(火)~25(木)、7/21(火)、8/10(月)~8/11(火)と、3回形成しました。

いずれも20800円超えで、早く買わないともっと上がってしまうのではないか、と飛びついた買い手が、その後は株価反落という罠(トラップ)にかかっているわけです。もう押し目買いでよい、という投資家もいるようですが、まだ早すぎて、危険だと考えます。

Next: 「為替に手を付けるほど中国経済は危ない」市場心理の変化に注意を


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「為替に手を付けるほど中国経済は危ない」市場心理の変化に注意を

悪化する中国の実体経済

さて、肝心の中国ですが、足元は中国政府の強硬策で株価は比較的落ち着いています。しかし中国でビジネスを営む日米等の海外企業からは、中国での売り上げの軟調などが伝えられており、株価の上下にかかわらず、中国経済は悪化の道をたどっている、と考えるべきでしょう。

中国の経済対策・株価対策については、当メールマガジンでは、やはり何度も、「対策を打っているから大丈夫だ」との楽観論が、いずれ「こんなに経済対策を必死に打っているということは、中国経済はとても悪いということの表れではないか」「これでは、いくら対策が出ても、景気の悪化は止まらないかもしれない」という不安に化けるだろう、と述べてきました。

8/11(火)、8/12(水)の、2度の中国元の切り下げに対する市場の反応は、予測した通り、「こんな対策まで打つとは中国経済は危ない」という正当な見方が市場で広がってきた、と考えられます。

アメリカは米ドル高を容認できない

特に為替調整に手を付けたのは、極めて危険な策です(逆に言うと、為替に手を出さざるを得ないほど中国政府が追い詰められている、とも解釈できますが)。というのは、これも当メールマガジンで継続して述べている通り、米国が米ドル高について、神経をとがらせてきているからです。ここで米国が、中国元の切り下げを容認するとは思えません。いずれ何らかの強いけん制発言が出るものと見込まれます。

そうした形で、米中関係の緊張が為替絡みで生じたところへ、安倍首相の戦後70周年談話(8/14金公表予定)を巡って日中関係も悪化する、という事態が重なることが、政治面から世界株価に不安を与えるといった展開もありえます。

米ドル/円 5分足(SBI証券提供)

また、米国は、決して中国元だけに対して、米ドル高を容認しないわけではありません。もちろん、日本円に対しても、米ドル高は快く思わないはずです。本日(8/12水)は、中国元切り下げによる元安米ドル高で、対円でも米ドル高になってもよい、という根拠を欠いた考え方から、一時は円安米ドル高が125.29円まで進みましたが、さすがにそんな動きは米国が認めない(日本からも対米配慮がなされるかもしれない)と正しく気づいたのか、米ドルは対円で急速に反落しています。

当面は市場の調整が十分に進むまで、静観する姿勢がよいと考えています。

馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』(2015年8月12日号外)より一部抜粋
※太字とチャート画像はMONEY VOICE編集部による

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