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「物価下振れ」で日銀が打ち出す“緩和微修正”とは?~黒田総裁が直面する3つの変化=斎藤満

日銀は今回の金融政策決定会合で、金融緩和の副作用を軽減する修正策を打ち出すとの観測があります。状況が大きく変化する中、どんな手が考えられるでしょうか。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2018年7月30日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

日銀の金利修正に「追い風」か。利上げするならどんな手がある?

日銀「政策修正」観測に戸惑う市場

ロイター通信が日銀の政策修正の可能性を報じてからも、市場には懐疑的な見方も多く、依然として戸惑いが拭えません。

今回の日銀決定会合で長期金利目標の引き上げETFなどの買い入れを弾力化する、との予想を織り込みつつも、なお東京市場には否定的な見方も根強く残っています。その裏には、物価見通しを下方修正することと矛盾する点や為替の円高リスクがあります。

確かに、日銀は物価見通しについて、18年度・19年度ともに下方修正されるとの見方が広がっています。足元の物価上昇率と、今年度の予想1.3%との乖離が大きくなっていることから、今回も水準訂正は不可避と見られています。物価予想を引き下げるなら、追加の金融緩和策で対応するのが筋、となりますが、逆に金利の引き上げ、資産買い入れの縮小を打ち出すというのでは、理解されない面があります。

不可解な「指値オペ」

しかし、この報道の後の市場の反応、つまり長期金利が0.1%近くまで上昇し、為替が円高になるのを半ば黙認する日銀を見ると、やはり何かが変わったと見るのが自然です。

確かに日銀は長期金利上昇を見て「指値オペ」に出ましたが、初回のものは「ポーズ」にすぎず、26日は金利がまた0.1%に迫ってもオペをせず、27日は0.105%を付けたのを見て、午後2時に指値オペの通告をしました(編注:日銀はきょう7月30日にも今月3度目となる指値オペを実施。今回の応札・落札額は1兆6403億円と過去最高額となりました)。

従来であれば、日銀が動く前に、市場が日銀の意向を「忖度」して金利上昇を自粛していましたが、今回は市場での金利上昇を、日銀はぎりぎりまで容認し、0.1%前後を見てやっと動く、というもので、明らかに日銀の動きはこれまでと異なり、状況が変わった可能性を示唆しています。

状況の変化その1:緩和策の持続性

状況変化の第1は、現行の緩和策の持続性が危ぶまれていることです。黒田総裁は、これまで会見の席などで行き過ぎた金融緩和の副作用を指摘されながらも、「金融機関の利益、資本量がしっかりしていて問題ない。金融機能もワークしている」と述べてきました。

ところが、地銀やメガバンクの業務純益が大きく減少し、地銀の中には本業が赤字になるところも多く出現するようになりました。

超低金利の影響は累積的にのしかかるとの認識があり、今後も現状の低金利政策を続けると、金融機関の負担はさらに累積的に大きくなり、いよいよ経営が成り立たなくなるリスクが高まりました。

金融緩和をしておきながら、その副作用で子分の民間銀行がつぶれ、金融仲介機能が縮小したのでは、冗談にもなりません。この先も金融緩和を続けるなら、金利を修正して持続可能な形にする必要があります。

Next: トランプのドル高けん制が「日銀の金利修正」の追い風になる



状況の変化その2:トランプのドル高けん制

第2に、米国のトランプ大統領が「ドル高は米国に負担になる」と言い、中国やEU(欧州連合)に対して為替操作していると批判するようになったことです。

中国もEUも為替介入はしておらず、金融緩和を利用して自国通貨を安くする「誘導」をしていると批判されたわけです。

その点に関しては、日本も同罪で、いずれ日本にも同様の批判が出てくる可能性があります。

日銀はこれまで円高には神経質すぎるくらいに気を使ってきました。したがって、金融調整で円高になる事態は極力避けてきました。今の金利コントロールも、口に出さずとも円安になりやすいようにとの配慮があります。

しかし、米国がこれを認めなくなれば、これらの配慮が無意味になります。ある程度円高を覚悟した政策運営が必要になります。

その点、トランプのFRB批判、ドル高けん制以来、米国の長期金利が上昇し、その面から日本の長期金利にも上昇圧力がかかるとともに、円高圧力を緩和する形になっています。

このチャンスを生かせば、日銀が長期金利を引き上げても、それによる円高圧力は減殺されます。それだけ日銀の金利修正には追い風が吹いていることになります。日米が裏で連携している可能性も考えられます。

状況の変化その3:低インフレは供給側にも

そして3つには、物価が上がらない理由として、日銀の対応が不十分なためではなく、企業の生産性向上努力、ネット通販など、低価格での供給チャネルが増えたことなどを要因として考えている節があります。

これらは、いわば金融政策の埒外にあり、デフレ要因でもないので、物価目標自体を柔軟に、幅広くとらえる必要性を提示するものです。

つまり、供給側の努力による低価格維持が主因であれば、物価が上がらなくても、追加緩和の必要はないことになります。

むしろ日銀はこれまでの金融緩和策によって需給改善・失業者の減少などの経済成果を上げたとなれば、副作用の修正は正当化される、と考えてもおかしくありません。

Next: 日銀には表向きは利上げにならない「奥の手」がある



具体的な金利修正策は

では、日銀が現行の金利を修正するとした場合、どういう手があるのか。

一番ストレートなのは、10年国債のゼロ目標を0.1%などに引き上げることで、次いで金利変動幅を弾力化し、現在暗黙の了解事項となっているゼロ・プラスマイナス0.1%という幅を広げることです。

しかし、前者はあからさまな利上げであり、円高をもたらすリスクも大きくなります。後者については一見ありそうですが、日銀はこれまでゼロからの変動幅については何の言及もしていません。市場が勝手に思い込んでいるだけです。日銀は自ら提示していないメルクマール(指標)を修正するわけにはいきません。

その点、実質的に利上げをもたらし、表向きは利上げにならない「奥の手」があります。

現在10年国債をゼロ目標設定の対象にしていますが、これを5年国債に移すことです。その限りではゼロ金利対象国債が変わるだけで「利上げ」ではありません。しかし、5年をゼロにすれば、10年国債利回りはおのずと上昇余地が大きくなり、事実上の利上げが可能となります。

金融機関にとっては短期のマイナス金利も負担ですが、優先順位としては長期金利の押し上げが先で、その次にマイナス金利の廃止が続くことになると思います。長短両方を同時に利上げすることは、まだ抵抗が大きいと見ます。

このほか、国債やETFなど資産買い入れについても、市場には副作用の指摘があり、これらについても買い方を弾力的に運用し、国債の80兆円、ETFの6兆円を、事実上形骸化させ、ステルス減額を進める可能性もあります。

それを同時に提示するか、分けて提示するか、リフレ派委員の多い状況からは、小出しにする可能性が高そうです。

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・物価下振れ下の日銀政策微修正とは(7/30)
・中国経済の実態は苦しい?(7/27)
・「トランプ」プラス「日銀」は円高(7/25)
・トランプの金利高、ドル高けん制発言が示唆するもの(7/23)
・トランプ外交の見えない部分(7/20)
・中国カードにもなるFRBの利上げ(7/18)
・見えてきた価格戦略の勝敗(7/13)
・列島豪雨、多くの死を無駄にしないために(7/11)
・トランプ「米国第一」の功罪(7/9)
・日銀の物価見直しとリスク(7/6)
・トランプの影響、相場にもくっきり(7/4)
・原油高に見る各国の思惑(7/2)
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※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2018年7月30日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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6月配信分
・所得分配をゆがめる日銀の金利調節(6/29)
・ドル高、終わりの始まり?(6/27)
・貿易戦争に隠されたトランプの狙い(6/25)
・景気の陰りが広がった(6/22)
・なぜ日本で消費者物価が上がらないのか(6/20)
・無視できない米イールドカーブのフラット化(6/18)
・綱渡りのパウエルFRB(6/15)
・歴史的米朝会談と日本の困惑(6/13)
・日銀は物価見通しの引き下げ準備(6/11)
・日銀は密かに金利高め誘導か(6/8)
・個人消費の弱さは重症(6/6)
・FOMC前後の為替の動きに要注意(6/4)
・日銀に追い打ちをかけた弱い鉱工業生産(6/1)
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5月配信分
・収まらない米中貿易戦争(5/30)
・FRBが直面するジレンマ(5/28)
・市場から見た米朝会談破談リスク(5/25)
・景気の減速は本当に一時的か(5/23)
・「ミニ石油ショック」でも油断は禁物(5/21)
・米朝会談までは新興国不安回避要請?(5/18)
・インフレ目標事実上のギブアップ(5/16)
・米長期金利はすでに上昇トレンドに(5/14)
・新興国にイラン不安の追い打ち(5/11)
・トランプ貿易戦争のインフレ性(5/9)
・FRBの姿勢変化に注目(5/7)
・トランプ大統領ノーベル賞を意識(5/2)
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4月配信分
・窮地の安倍政権、解散か総辞職か(4/27)
・物価目標2019年度も黄色信号(4/25)
・米長期金利再上昇の重み(4/23)
・日米首脳会談も安倍延命にはならず(4/20)
・無視できない政治混乱の影響(4/18)
・無理筋な日銀の物価目標(4/16)
・米為替報告書に注目(4/13)
・米はシリアで多国間軍事対応を検討(4/11)
・安倍政権維持への3つのハードル(4/9)
・物価上昇の内容が変わる(4/6)
・FRBはどこまで利上げできるか(4/4)
・キーパーソンはH.キッシンジャー氏(4/2)
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3月配信分
・ハイテク株にもトランプ・リスク(3/30)
・見えてきた点と線(3/28)
・見えてきたドル円の100円割れ(3/26)
・姿を現したパウエルFED(3/23)
・自動車業界と流通業界とのコラボ(3/19)
・日銀の金融政策も政権如何(3/16)
・安倍政権に春の嵐(3/14)
・雇用絶好調でなぜ賃金が上がらない(3/12)
・金利差円安論はすでに破たん(3/9)
・二転三転する黒田発言の真意は(3/7)
・トランプならではの貿易戦争リスク(3/5)
・エネルギー株に3つのリスク(3/2)
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2月配信分
・親子バトルが銀行株を圧迫(2/28)
・裁量労働制論議で露呈した日本の問題(2/26)
・中央銀行の支配者(2/23)
・半島融和の裏で中東に火種(2/21)
・(金利差・ドル円・株の関係が崩れる2/19)
・米国債のバブル性(2/16)
・トランプ予算教書に2つの危険性(2/14)
・日銀人事の裏側(2/13)
・市場不安定化が3月利上げの負担に(2/9)
・適温経済と適温相場は別(2/7)
・米金利とドル円の関係、ここに注意(2/5)
・米金利高が日本の投資家を襲う(2/2)
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1月配信分
・個人消費の低迷に歯止めがかからず(1/31)
・物価本位主義見直しの時(1/29)
・安倍総理の密かな戦略を探る(1/26)
・規律を失い惰性に走る財政金融政策(1/24)
・米長期金利上昇は「吉」か「凶」か(1/22)
・強まる中国への風当たり(1/19)
・地政学リスクとビジネス・チャンス(1/17)
・粉砕される円安期待(1/)
・デフレ脱却宣言を拒む実質賃金の低迷(1/12)
・北朝鮮問題に新展開か(1/10)
・インフレ如何で変わる米国リスク(1/5)
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12月配信分
・新年に注意すべきブラック・スワン(12/29)
・新年経済は波乱含み(12/27)
・日銀の過ちを安倍政権が救済の皮肉(12/25)
・金利差と為替の感応度が低下(12/22)
・インフレ追及の危険性(12/20)
・日銀が動くなら最後のチャンス(12/18)
・不可思議の裏に潜むもの(12/15)
・制約強まるFOMC(12/13)
・生産性革命、人材投資政策パッケージを発表(12/11)
・米国に新たな低インフレ圧力(12/8)
・政府と市場の知恵比べ(12/6)
・長短金利差縮小がFRBの利上げにどう影響するか(12/4)
・原田日銀委員の「緩和に副作用なし」発言が示唆するもの(12/1)
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11月配信分
・中国リスクを警戒する時期に(11/29)
・会計検査院報告をフォローせよ(11/27)
・改めて地政学リスク(11/24)
・低金利で行き詰まった金融資本(11/22)
・内部留保活用に乗り出す政府与党(11/20)
・日銀の大規模緩和に圧力がかかった可能性(11/17)
・リスク無頓着相場に修正の動き(11/15)
・トランプ大統領のアジア歴訪の裏で(11/13)
・異次元緩和の金融圧迫が露呈(11/10)
・戦争リスクと異常に低いVIXのかい離(11/8)
・変わる景気変動パターン(11/6)
・日本的経営の再評価(11/1)
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10月配信分
・日本の株価の2面性(10/30)
・FRBの資産圧縮が米株価を圧迫か(10/27)
・リセット機会を失った日銀(10/25)
・低インフレバブルと中銀の責任(10/23)
・フェイク・ニュースはトランプ氏の専売特許ではない(10/20)
・金利相場の虚と実(10/18)
・米イラン対立の深刻度(10/16)
・自公大勝予想が示唆するもの(10/13)
・中国経済に立ちはだかる3つの壁(10/11)
・自民党の選挙公約は大きなハンデ(10/6)
・当面の市場リスク要因(10/4)
・景気に良い話、悪い話(10/2)
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9月配信分
・アベノミクスの反省を生かす(9/29)
・高まった安倍総理退陣の可能性(9/27)
・日銀も米国に取り込まれた(9/25)
・安倍総理の早期解散に計算違いはないか(9/22)
・日銀は物価点検でどうする(9/20)
・中国経済は嵐の前の静けさか(9/15)
・トランプ政権はドル安志向を強める(9/13)
・気になる米国の核戦略(9/11)
・日銀の政策矛盾が露呈しやすくなった(9/8)
・ハリケーン「ハービー」の思わぬ効果(9/6)
・北朝鮮核実験の落とし前(9/4)
・内閣府は信頼回復が急務(9/1)
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8月配信分
・個人消費の回復に疑問符(8/30)
・あらためて秋以降の中国リスクに警戒(8/28)
・米債務上限引き上げかデフォルトか(8/25)
・利用される「北朝鮮脅威」(8/23)
・バノン氏解任でトランプ政権は結束できるか(8/21)
・日銀の「ステルス・テーパー」も円安を抑制(8/18)
・中国習近平長期政権の前途多難(8/16)
・北朝鮮の行動を左右する周辺国の事情(8/14)
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・日銀の物価目標が最も現実離れ(8/7)
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マンさんの経済あらかると』(2018年7月30日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。

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