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日本人は個人情報保護を諦めたのか? 世界は自分の情報は自分で守る時代へ=岩田昭男

もともと情報漏洩に敏感だった日本人が、ポイントカードを通じて個人情報を企業に売り渡しています。しかし世界では、自分の情報は自分で守る時代が来ています。(『達人岩田昭男のクレジットカード駆け込み道場』岩田昭男)

※本記事は、『達人岩田昭男のクレジットカード駆け込み道場』2018年9月1日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:岩田昭男(いわたあきお)
消費生活評論家。1952年生まれ。早稲田大学卒業。月刊誌記者などを経て独立。クレジットカード研究歴30年。電子マネー、デビットカード、共通ポイントなどにも詳しい。著書に「Suica一人勝ちの秘密」「信用力格差社会」「O2Oの衝撃」など。
岩田昭男の上級カード道場:http://iwataworks.jp/

情報漏洩に厳しかった日本はどこへ? 購入履歴や嗜好が筒抜けに

必ず聞かれる「Tポイントカードはお持ちですか?」

Tポイントの加盟店に行くと必ず「Tポイントカードはお持ちですか」と聞かれます。

私は持っているのですが、加盟店によってポイント還元率が0.2%から0.5%とバラツキがあるうえにポイントの貯まりも悪いので、わざわざカードを出す気になりません。そのため「いま持ってないよ」と言って、なるべく早くレジを去るようにしています。

そういう中年男性は多いと聞きます。

わかっているが「個人情報が筒抜け」になっている

ポイントカードを出したくない理由は、もう1つあります。それはTポイントで提供した自分の個人情報がどこか他の企業で使われる懸念があるからです。

懸念と言いましたが、もともとTポイントは自社で集めた顧客情報を他企業に販売するというビジネスモデルなので、今さら警戒する方がおかしいのでしょう。

しかし、そこはやはり大事な個人情報ですから、ポイントカードでの履歴やDVDレンタルの履歴などが全国の企業の間をぐるぐる回っていると思うと、いい気はしません(たとえ名前との紐付けはないとしてもです)。

以前、TSUTAYAでDVDをレンタルしていた頃、料金を支払うと、レシートと一緒に牛角(焼き肉店)のクーポン券が出てきたことがありました。Tポイント側は私の利用履歴を見て、この男なら焼肉を食べたがっているから喜んでくれるだろうとクーポンを出してきたわけです。

そのあともTSUTAYAでDVDをレンタルするたびに色々な企業のクーポン券が出てくるようになりました。これはTSUTAYAだけではなく今やあらゆる決済の現場で起こっていることです。

私たちはポイントやクーポン券をもらう代わりに、大切な個人情報を意識もしないで売っているわけです。

Next: 日本人は個人情報保護を諦めたのか? ビッグデータとSNSが追跡する…



ビッグデータとSNSで精度アップ

そして、それから数年経った現在、マーケティングの技術は長足の進歩を遂げました。ビッグデータやSNSを使うようになって、その正確度がさらに高まっています。

例えば、ネット検索をしているときやSNSを眺めているとき、今まさに興味を持っている商品の広告が現れてドキッとしたことはないでしょうか。

まるで壁の裏から覗かれているようで薄気味悪い気がしますが、これは、FANG(Facebook、アマゾン、Netflix、Google)が関連するサイトでよく起こります。そうしたIT大手企業が、あなたの検索履歴や購買履歴をもとにマーケティングを行っているからです。

Tポイントの場合は、買い物のたびに「いつ」「どこで」「いくらで」といったデータが中心でしたが、今はどの事業者もこうした購買履歴だけではなく、位置情報、検索履歴、ウェブでの行動履歴まで集めてAIの力も借りながらソーシャルCRMという技法であなたを分析しています。

こうしたビッグデータを使った広告手法によって分析の迅速性と正確性は飛躍的に向上しています。利用者が欲しいもの、求めるものをリアルタイムにキャッチできる状況が生まれています。

しかし、それは、便利な面がある一方で、プライバシーが侵害されているようにも感じます。しつこく繰り返される広告に、「いくらなんでもやり過ぎ」とウンザリしている人も多いと思います。自分の情報が企業によって勝手に使われていると気づくからです。

日本人は個人情報保護を諦めたのか?

日本人は情報漏洩には敏感です。というより敏感でした。

かつてはソフトバンクが自社の顧客情報を漏らしたとして大騒ぎとなり、1件あたり500円で補償したといった事件がありました。2014年には教育事業大手のベネッセが3,504万件もの顧客情報を流出させるという事件が起こりました。この時は子どもたちの情報を盗まれたと社会的な問題となりました。

このように以前はこの種の問題は大きな事件となったのです。ところが、今は少々の情報漏洩や個人情報の無断使用では誰も騒がなくなりました。テレビのコメンテーターの中には、ポイントでお得をもらうのだから個人情報の提供は当然だと言って憚らない人まで出てきました。

しかし、なんでもありの今の企業のやり方を許し、こうした御用コメンテーターたちの言葉を垂れ流していると、いつか私たちのプライバシーは丸裸にされて、将来は言論の自由も、行動の自由も失われてしまうのではないかと心配になります。

そうならないように個人情報の乱用に規制をかけて個人情報を自分の手に取り戻したいと最近は考えるようになりました。

といっても、日本では、2017年5月に施行された「改正個人情報保護法」を見ても、企業寄りの内容で、利用者への配慮がほとんど見られません(企業が個人情報を利用する際に本人の同意を求めなくても良い、通知だけで良いといった内容になっています)。これでは、いつまで経っても今の状況は改善しません。

この絶望的な社会で買い物を続けなければならないのか…と考えていましたが、この5月に欧州(EU)で歴史的な動きがあり、一筋の光が差し込みました。

Next: 期待されるデジタル世界の人権宣言。個人情報を私たちはどう守る?



期待されるデジタル世界の人権宣言

2018年5月、EUで「GDPR(一般データ保護規則)」という新しい法律が発効されました。

EU28カ国にノルウェーなどの3カ国を加えたEEA(欧州経済領域)でビジネスをする企業が、名前・住所・勤務先・メールアドレス・クレジットカードの番号など個人を識別できるあらゆる情報を、域外に移すことを原則禁止するものです。違反すると最高で2千万ユーロ(約26億円)もの罰金が科せられます。

メールアドレスを移動させただけで罪になるとは厳しい規制ですが、この法律は、個人情報の独占を狙うシリコンバレーのFANGをEU領域から締め出そうとして作られたと言われています。FANGを始め、米国の大手IT事業者たちが、EU内で先を競って個人情報の収集を始めているため、域内の業者を守る目的もあって作られたものです。

しかし、同時にその根底には、企業の意のままにされている個人情報を利用者の手に取り戻そうと言う意志があります。本来自分のものである個人情報を自身の手元に置こうという考え方です。

そのためにこの法律は、1789年のフランス革命で発せられた人権宣言になぞらえて、「デジタル世界の人権宣言」と呼ばれています。次の4点がその狙うところです。

1. 個人情報の収集、利用に際しては、個人からの明確な同意の取得が必要である
2. 企業に渡った個人情報を削除するよう要求する権利(忘れられる権利)を付与する
3. 個人情報を個人が持ち運べる権利(データポータビリティー)を付与する
4. 購買履歴などをコンピュータ処理して個人を分析し、ダイレクトマーケティングに使用することに異議を述べる権利を付与する

個人情報は企業のものでなく利用者のもの

画期的な項目が並んでいますが、なかでも注目すべきは、(1)の「個人情報の収集・利用に際しては、目的を説明して同意を取るように」という項目でしょう。企業が個人情報を利用しようという時には、その都度、本人の同意が必要になります。

また、個人はデータ提供を拒否する権利に加え、(2)の「企業に対してデータを消すように求められる権利(忘れられる権利)」も付与されましたから、提供した情報の削除を求める権利も持つようになります。使って欲しくない個人情報が企業に利用されていた場合は、もちろん削除を要求できます。

これらの基本にあるのは、個人情報を企業から持ち出したり、他社に移したりできる(3)の「データポータビリティ権」の考え方です。これこそがこの法律の核心で、個人情報は企業のものでなく利用者のものであるとはっきりと宣言しているのです。そして、こうした考え方が、この規制が「デジタル世界の人権宣言」と呼ばれるゆえんなのです。

この規制が施行されてから、FANGのFacebookはもちろん、Twitterなども会員に登録のやり直しを求めたりしてパニック状態に陥っています。

そのうち日本でも様々な動きが出てくるでしょうが、いずれにしろ、この規制が周知されることで、「自分の個人情報は自分で守る」と言う意識が強くなるはずです。

Next: 自分の情報は自分で守る時代、企業と行政が取り組む「情報銀行」とは?



自分の情報は自分で守る時代へ

自分の情報は、自分で守る。新しい時代の訪れを予感させるのが、行政と力を合わせて設立を目指している「情報銀行」です。

検索履歴や購買データ、健康情報、預貯金といった個人情報を一括で管理・運用し、欲しい企業に貸し出すのが「情報銀行」の役割で、これまで企業が独占してきた情報を個人が管理できるようになる、画期的なアイデアといえます。

例えば、「購買履歴くらいならポイントと引き換えに提供してもいいが、健康情報は絶対に教えたくない」というように、「情報銀行」が立ち上がれば、自分で個人情報を切り分けて活用できる可能性がでてきます。

まだ議論は始まったばかりですが、実現に向けて期待が高まります。

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達人岩田昭男のクレジットカード駆け込み道場』(2018年9月1日号)より抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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