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親の借金から逃げられない?ただ「遺産はいらない」と伝えるだけじゃダメな理由=小櫃麻衣

故人にお金を貸していた人は、死後しばらくは遺族に連絡を取らないと言われます。うかつに動いて借金の存在を知られると、相続放棄の手続きに走られるからです。(『FPが教える!相続知識配信メルマガ☆彡.。』小櫃麻衣)

相続しなくても返済義務は消えない? 相続放棄に潜む落とし穴

相続方法は3種類

今回は「相続放棄」を選択する際に気を付けなければならないことについて解説いたします。

相続が発生すると、死亡した方の遺産をどのように相続するのかを決めなければなりません。

債務も含めた全財産を相続する「単純承認」、逆に一切相続しない「相続放棄」、資産の中から債務の返済に充てる「限定承認」の3つの選択肢の中から決めなければなりません。

相続放棄のデッドラインは「3ヶ月」

単純承認では特に必要な手続きはありませんが、相続放棄限定承認を選択する際には、相続発生を知った翌日から3カ月以内に家庭裁判所で所定の手続きを行わなければなりません

相続放棄は単独で申請できますが、限定承認は相続人全員の同意が必要です。

相続人になれるのは誰?

さて、今回の本題でもある相続放棄に関しては、勘違いされがちなポイントがいくつかありますので、例を挙げながら説明していきましょう。

相続放棄を選択すると、その相続人は当然、相続権を失います

そうなると、相続放棄を選択した人数分、相続権が減少するわけですが、必ずしもその相続権が完全に消滅するわけではありません

相続が発生すると、法定相続人となる方を確定させるわけですが、相続順位が設けられています。

常に相続人となれるのは配偶者、第1順位の相続人は子ども、第2順位の相続人は両親、第3順位の相続人は兄弟姉妹となり、配偶者がいる場合には、配偶者と順位のある相続人がセットで相続人となります。

当然ながら、順位の高い相続人が優先して相続権を獲得し、自分よりも上の順位の相続人が1人でもいる場合には、順位の低い相続人に相続権は発生しません

Next: 放棄すれば、相続権は自動的に次の順位の親族へ。当然、借金も…



放棄したことを全相続人に伝えること

ということは、第1順位の相続人である子どもが全員相続放棄を選択すれば、その相続権が死亡した方の両親へ、両親も相続放棄をすれば死亡した方の兄弟姉妹へ相続権が移行することになるというわけです。

つまり、順位の同じ相続人が全員相続放棄を選択すると、その相続権が消滅するわけではなく、次順位の相続人がいる場合にはその相続権が移行するのです。

債務が資産を上回る場合に、相続放棄を選択する可能性が高いと思いますので、多額の債務を理由に相続放棄を選択したところで、次の順位の相続人へ相続放棄を選択したことを伝えなければ、その相続人に債務の返済義務が生じてしまいます

万が一、相続放棄を選択するのであれば、相続権を有する可能性のある方全員にその趣旨を伝えることを徹底し、後のトラブルにつながることがないようにしましょう。

おじいちゃんの借金は自分に来ない?

さて、相続放棄を選択すると、次順位の相続人へと相続権が移行する可能性があるわけですが、次順位の相続人へ相続権が移行する前に、その相続人に代襲相続が発生するのかを確認しなければならないような気もします。

相続欠格者や相続廃除者がいる場合には、その相続人の子どもや孫が代襲相続者として相続権を継承することになりますが、実は相続放棄には代襲相続が適用されません

多額の債務を理由に、死亡した方の子どもである自分の親が相続放棄を選択すると、孫である自分に相続権が移行しそうな気もしますが、次順位の相続人がいるかどうかが判断基準になりますので、心配することはないでしょう。

「お母さんが全部相続しなよ」に潜む罠

そしてもう1点、気をつけなければならないことがあります。

例えば、父親の死後、子どもたちが気を利かせて「夫婦2人で協力して築き上げてきた財産だし、配偶者控除で相続税もかからないのなら、お母さんが全部相続しなよ」と申し出てくれ、自分たちの相続権を確実に母親に委ねるために、子どもたちがわざわざ相続放棄を選択するケースです。

子どもたちが相続放棄を選択すると、両親兄弟姉妹、さらに兄弟姉妹の代襲者である甥・姪へ相続権が移行する可能性があります。

従って、特定の相続人に全財産を相続させたい気持ちがあったとしても、わざわざ相続放棄をする必要はなく、その趣旨を遺産分割協議書に書けばそれで問題ないのです。

Next: 1銭も相続しなくても、返済義務が消滅するわけではない?



自分に相続権があるなら、忘れずに「負債の」相続放棄を

ただし、1銭も相続しなかったからといって債務の返済義務まで消滅するわけではありません。

相続人が自分たちで債務をどのように負担するのかを決めない限り、法定相続分に応じた割合を負担しなければなりません。

債務の返済義務を負わなくていいのは、相続放棄を選択した相続人のみなので、その点についても、勘違いしないようにしましょう。

また、相続放棄を選択すると、はじめからその相続人がいなかったものとみなされるわけですが、相続税の基礎控除額を計算する際や、みなし相続財産の非課税枠を計算する際の法定相続人のカウントは、相続放棄者も含めて行います。

つまり、相続放棄者がいるからといって控除額や非課税枠が減少することはありませんので、覚えておきましょう。

焦らずに冷静な判断を

今回は、見落としがちな相続放棄のポイントについて解説しました。

“言われてみれば当然”と感じるかもしれませんが、相続放棄には3カ月という期限が設けられているので、つい焦ってしまい、確認不足からトラブルに発展することも珍しくありません。

最低限の知識を身に付けておけば、相続が発生しても気持ちに余裕を持たせることができると思いますので、「相続手続きを行う際の注意点」についてはしっかり把握しておきましょう。

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FPが教える!相続知識配信メルマガ☆彡.。』(2018年10月9日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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