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なぜトランプはサウジ記者殺害の王室をかばう?~原油安は米国によるサウジへの制裁=江守哲

サウジアラビア周辺に動きがありました。CIAがサウジ記者殺害はムハンマド皇太子の命令と結論付ける一方、トランプはムハンマド皇太子の権力維持を望んでいます。(江守哲の「ニュースの哲人」~日本で報道されない本当の国際情勢と次のシナリオ

本記事は『江守哲の「ニュースの哲人」~日本で報道されない本当の国際情勢と次のシナリオ』2018年11月22日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方はぜひこの機会に、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:江守哲(えもり てつ)
エモリキャピタルマネジメント株式会社代表取締役。慶應義塾大学商学部卒業。住友商事、英国住友商事(ロンドン駐在)、外資系企業、三井物産子会社、投資顧問などを経て会社設立。「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」。商社・外資系企業時代は30カ国を訪問し、ビジネスを展開。投資顧問でヘッジファンド運用を行ったあと、会社設立。現在は株式・為替・コモディティにて資金運用を行う一方、メルマガを通じた投資情報・運用戦略の発信、セミナー講師、テレビ出演、各種寄稿などを行っている。

各国の思惑が交錯。トランプは真相よりもサウジとの関係を優先か

米CIA「記者殺害はムハンマド皇太子の命令」と結論付け

サウジアラビアの周辺が騒がしくなっています。

米紙ワシントン・ポストが16日に、サウジ人記者ジャマル・カショギ氏がトルコのイスタンブールのサウジ総領事館で殺害された事件に関して、関係者の話として、「米中央情報局(CIA)はサウジのムハンマド皇太子が殺害を命じたと結論付けた」と報じました。

対するサウジ政府は「ムハンマド皇太子は全く関係がない」と主張しています。しかし、このような報道が出てしまったことで、サウジは相当慌てています。

この報道が事実であれば、対イランなど中東戦略の柱であるサウジとの関係維持を重視するトランプ政権が困難な立場に立たされるとの見方があります。

しかし、本当にそうでしょうか。マスコミの論調はいつも外れますが、今回もちょっと違うように思います。

トランプの望みは「ムハンマド皇太子の権力維持」

ワシントンポスト紙によると、CIAの判断材料には、ムハンマド皇太子の実弟ハリド駐米サウジ大使とカショギ氏の電話内容などが含まれています。

ハリド大使はムハンマド皇太子の指示に従いカショギ氏に電話し、イスタンブールのサウジ総領事館に出向き、結婚の手続きに必要な書類を取りに行くよう求めたとされています。

CIAは、殺害の様子を記録した音声をトルコ当局から入手しています。それによると、カショギ氏は総領事館訪問直後に殺されたということです。

ただし、在米サウジ大使館は声明で「大使はカショギ氏と電話で話したことは一度もない」とし、報道内容を否定しています。

一方、米国は15日に、サウジ当局者17人を事件に関与したとして制裁対象に指定しています。しかし、ムハンマド皇太子は含まれていません。ここがポイントです。

トランプ大統領はホワイトハウス高官に、ムハンマド皇太子が権力の座にとどまることを望んでいると語ったとされています。

事件を終わらせたくないトルコ

一方、トルコのエルドアン大統領は16日に、トランプ大統領と電話会談を行い、事件について「事実の隠蔽を防ぎ、すべての点を明らかにする必要性がある」ことで合意したとしています。

この発言からもわかるように、エルドアン大統領は、ムハンマド皇太子の事件への関与を強く示唆しています。そのうえで、この事件の安易な幕引きを図らないようにくぎを刺しています。

トルコからすれば、サウジとの蜜月関係にある米国を揺さぶる格好の材料を手にしたと認識しているわけで、そう簡単にこの話を終わらせるわけにはいかないのです。

一方で、トルコには米国人牧師の開放を渋ったことで、トルコリラが急落した痛い過去があります。

これは、米国に逆らうと、このような目に合うことを改めて認識せざるを得ない事象だったといえます。

その意味では、トルコはこの事件に関する情報という最高の「武器」を持ったことに違いありませんが、使い方を間違えると自爆するリスクもあることになります。

したがって、トルコは思い切った対応ができない状況が続くことになります。

Next: 内心は揺れている? 真相よりもサウジとの関係を優先するトランプ



真相よりもサウジとの関係を優先するトランプ

トランプ大統領は声明を出し、カショギ氏殺害事件で「サウジのムハンマド皇太子が事件を把握していた可能性は十分にある」と指摘しました。これはかなり重い発言であるといえます。

その一方で、ムハンマド皇太子が事件に関与したかどうかは明言しませんでした

また、トランプ大統領は、「サウジは揺るぎないパートナーであり続ける」とし、真相究明よりも、対イランなど中東戦略の柱であるサウジとの関係維持を優先する意向を示しました。

これがまさに、トランプ大統領の本音です。

繰り返しますが、複数の米メディアは、ムハンマド皇太子がカショギ氏殺害を命じたと中央情報局(CIA)が結論付けたと報じています。

しかし、トランプ大統領は「われわれは事件に関わる事実のすべてを知ることはできないだろう」としています。

さらに、「ムハンマド皇太子は事件を知っていたかもしれないし、知らなかったかもしれない」とし、ムハンマド皇太子の責任を追及しない姿勢を示唆しました。

明らかに、ムハンマド皇太子をかばっています。

なぜトランプはムハンマド皇太子をかばうのか?

また、サウジへの武器売却についても「米国が中止すれば、ロシアや中国が代わりに巨額の利益を得ることになる」とし、サウジへの武器輸出を継続したい考えを表明しました。

サウジは米国にとって、まさに重要な資金源であり、武器売却を止めるわけにはいきません。トランプ大統領は実を取る方を選んだわけです。

米政府は事件に関わったとして、ムハンマド皇太子の側近らサウジ当局者17人を制裁対象に指定しましたが、米議会からはムハンマド皇太子の責任を問う声が上がっています。

これに対して、トランプ大統領は「議員は自由に行動できる」とし、「米国の絶対的な安全に一致する限りにおいて、議会の提案を検討する」ともしています。

ここに、トランプ大統領の揺れ動く気持ちがうかがえます。

サウジ外相は全力でムハンマド皇太子を擁護

一方、サウジのジュベイル外相は、かなり厳しい言葉でムハンマド皇太子を擁護しようとしています。

ジュベイル外相は、サウジ人記者殺害事件で実力者ムハンマド皇太子の関与が取り沙汰されていることについて、「サルマン国王とムハンマド皇太子はレッドライン、つまり『越えてはならない一線』」とし、「国王と皇太子を傷つけたり、おとしめたりする試みには対抗する」として、事件をめぐる王室指導部への責任追及を断固認めない考えを強調しています。

トルコのエルドアン大統領は「サウジ政府の最高レベルが殺害を命じた」と断定し、ムハンマド皇太子の関与をほのめかして批判を強めていますが、これに対してジュベイル外相は、「トルコ側に発言の真意を照会した際、最高レベルがムハンマド皇太子を指しているのではないと明確に説明された」と主張しています。

さらに、記者殺害を命じたのはムハンマド皇太子だったと米中央情報局(CIA)が結論付けたと伝えた米メディアの報道については、「証拠に基づかないリークであり、全く根拠がない」と改めてムハンマド皇太子の関与を否定しています。

サウジの外相の立場であれば、このような発言をするのは当然ですので、全く驚くことではありません。

しかし、ここまで事態が大きくなり、情報が出てきています。私が言うまでもなく、事実はみなさんももうお判りでしょう

Next: トランプの方針転換はまだある? G20にムハンマド皇太子が出席か



G20にムハンマド皇太子が出席か

ムハンマド皇太子は、外遊の一環として11月末にアルゼンチンで開かれるG20サミットに出席すると報じられています。

トランプ大統領は「会うかもしれない」と発言していますが、いつもの思い付きの発言ですので、まだわかりません。

サウジ王室も揺れている

一方で、カショギ氏殺害事件によるサウジへの批判が世界的に高まる中、サウジ王室でムハンマド皇太子の王位継承阻止を模索する動きが一部に出ているもようです。

サウジを支配するサウド家の王子ら数十人が王位継承の見直しを望んでいるとされています。

ただし、サルマン国王が息子であるムハンマド皇太子への継承に反対する可能性は低いとみられています。さらに、サルマン国王の生存中は行動を起こさない方針とみられています。

これらの王族は、サルマン国王が死去した後に、サルマン国王の弟であるアハメド王子を後継に充てる可能性を協議しているとされています。アハメド王子は海外で2年半過ごした後、今年10月にサウジに帰国したとされています。アハメド王子については、サウド家や治安組織のほか、一部の欧米主要国の支持を得るとの見方を示しています。

サウジ王位継承問題の背後にも「米国」

このような動きの背景には、実は米国がいます。

複数の米政府高官はサウジのアドバイザーに対して、サルマン国王の後継候補としてアハメド王子を支持する考えを示唆しているといいます。

ムハンマド皇太子はこれまでに社会・経済改革を実行してきました。万が一、ムハンマド皇太子が後継できず、アハメド王子が後継者となった場合でも、ムハンマド皇太子が実行したこれらの政策や改革は撤回されず、既存の武器調達契約も維持されるとみられています。

また、最も重要な「王族の結束」を取り戻すとされています。

ムハンマド皇太子がカショギ氏の殺害を指示したとの米中央情報局(CIA)の判断が出ていますが、トランプ政権はムハンマド皇太子と距離を置くことを急いでいないようです。

つまり、能動的にサウジとの関係を変えることはしないようです。

しかし、トランプ大統領が事件に関する最終報告書を受け取った後に方針が変わる可能性はあります。

Next: 米当局はサウジの態度にいらだっている? 重い決断を迫られるトランプ



重い決断を迫られるトランプ

すでにトランプ大統領の耳には、CIAがカショギ氏の殺害はムハンマド皇太子の命令と断定したとの情報は入っているはずです。

しかし、今の段階でこれを認めるわけにはいきません。したがって、「非常に早計だ」と指摘する一方、CIAがそうした結論を出すことも「あり得る」として、かく乱しているわけです。

一方、サウジ関係筋は、ムハンマド皇太子が国防省に対して、武器の代替調達先としてロシアを検討するよう指示したとされており、これが米当局者のいら立ちにつながっているとみられています。

サウジ関係筋や外交筋は、サウジにとって経済・安全保障面で重要な同盟国である米国が今後の展開を左右する重要な鍵になるとの見ています。

トランプ大統領はきわめて重い決断を迫られています。遅くとも、月末には何かしらの結論が出るでしょう。

その結果は、この事件の存在が明確になってから下落基調が鮮明になった原油相場の動きを見ていればわかるかもしれません。

原油相場は下げ止まり、反転し始めたときがそのサインといえそうです。

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image by:Michael Candelori / Shutterstock.com

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