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ゴーン逮捕で「移民法」のスピン報道に成功、日本をカースト構造にする移民政策へ=世に倦む日日

12月8日未明の参院本会議にて、事実上の「移民法」とも言われる外国人労働者の受け入れ拡大に向けた改正出入国管理法(入管法)が可決された。その半月ほど前、衆院での審議・採決期間では、マスコミの報道はゴーン逮捕の話題一色になり、外国人労働者の問題は脇役に追いやられた。ひっそりと日本の労働者を不幸にする移民政策が成立したのだ。(『世に倦む日日』)

※本記事は有料メルマガ『世に倦む日日』2018年11月26日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

ただでさえ低い日本の最低賃金がさらに下がる…。政府の狙いとは

ゴーン報道だらけの裏側では…

日産のゴーン逮捕の後、マスコミはこの事件の報道一色になり、外国人労働者の問題はすっかり脇役に追いやられた

朝日新聞の朝刊を見ると、逮捕翌日の20日以降、27日の今日まで8日間、1面トップはゴーンの記事が掲載されている。8日連続の1面トップは珍しい。今回、朝日は逮捕前に検察からリークを受け、羽田空港での逮捕時の様子を独占で撮影させてもらうという特別扱いを受けた。その恩返しで、おそらく検察との間での約束だろうが、小出しリークを1面トップに刷るという措置に及んでいるのだろう。

無論、検察と朝日にそれをさせているのは官邸で、移民法(=入管法改正)を世間の関心から隠すためである。いわゆるスピンの政治だ。

ゴーン逮捕はかなりの荒業に違いなく。フランス政府との外交問題にも発展しかねない問題であり、こんな重大な決定を特捜部長や検事総長の小役人が独断で出せるわけがない。菅義偉にお伺いを立て、杉田和博と北村滋と谷内正太郎が長官室に寄って車座で相談し、安倍晋三氏の差配で逮捕が行われている。そのタイミングを周到に移民法の政局に合わせた。ゴーン氏が逮捕された時期は、法案が委員会で審議入りする最も重要な局面だった。

外国人労働者の問題「移民法の国会審議」にまったく触れないマスコミ

ゴーン逮捕の報道は、1週間、特に新しい情報の進展はなく、毎日毎日、NHKのニュースが同じ内容ばかりを単調に繰り返している。ルノーが持つ日産株の比率が45%で、議決権がどうのこうのと。ベイルートとリオの高級住宅がどうのこうのと。

だが、国民の関心はそこに誘導され、外国人労働者の件はすっかり二の次の問題になった。マスコミは「国のかたちを変える大きな問題」と言いながら、全く特集報道をすることなく、ゴーン逮捕事件にフォーカスした。

11月中旬、松原耕二氏の『報道1930』は一度も外国人労働者問題を取り上げなかった。11/24のTBS『報道特集』も、ゴーン逮捕を取材して外国人労働者問題を無視した。11/25の『サンデーモーニング』の「風をよむ」も、ゴーン逮捕の特集だった。NHKは11/25にゴーン逮捕のNHKスペシャルを放送したが、クローズアップ現代を確認すると、事件前後どころか、11月に入って1度も外国人労働者問題について報道していない(※編注:原稿執筆時点11月26日。12月8日未明には参院本会議でも改正出入国管理法が可決、成立しています)。

安倍晋三氏がゴーン逮捕を移民法の国会審議に合わせたのは確実だが、マスコミの側がそれに積極的に協力している点を見逃せない。本来、反安倍の論陣を張らなくてはいけない朝日新聞とTBSが、このスピンに熱心に協力している。

Next: なぜ反安倍系のマスコミまでスピン報道に協調しているのか?



野党も移民政策に賛成か

なぜ、反安倍系のマスコミが今回のスピンに協調しているのかというと、彼らが基本的に移民政策に賛成の立場だからだ。

松原耕二氏の『報道1930』は、これまで2回、外国人労働者問題を特集した。1度目は韓国の「雇用許可制」を紹介し、先進的な成功事例として持ち上げ、日本も「外国人に選ばれる国」になるよう追いつけと発破をかける論調だった。2度目は浜松市長の鈴木康友を出演させ、やはり先進的な自治体として成功体験を訓示するという内容だった。

20日に放送された『報道ステーション』の特集も、台湾を取材し、台湾が外国人受け入れの先進国であると賛美する趣旨の報道だった。

どれもこれも、多文化共生主義を後押しし、日本の国のかたちを変えることを積極的にプロモーションする報道で、移民政策に正面から反対する報道は1つもない

そのため世論調査では、外国人受け入れ拡大に賛成する世論が多数となり、今回の移民法(=入管法改正)に反対する世論の圧力は萎む結果となった。

対決法案の衆院強行採決というのに、反対世論は全く盛り上がっておらず、意外なほど無風状態のままだ。結局のところ、野党も反安倍マスコミと同じで、移民政策に総論賛成の姿勢であるため、徹底抗戦という政治にならない。

取り上げられない反対派の言論

この問題に対する反対言論では、右翼の三橋貴明氏だけが気を吐いていて、移民流入のために社会が荒廃したスウェーデンの事例を紹介し、過激な口調で警鐘を鳴らしている。スウェーデンでは移民による性暴力の頻発など治安が悪化し、遂に極右政党が台頭するに至った。

こうした現実に日本のマスコミが焦点を当てれば、外国人人材拡大についての世論調査の数字も変わっていただろう

政府は「移民政策」に大きく舵を切った

今回、政府は大きく移民政策に転換したが、これは、もともと、野党が追求していた方向性であり、反安倍左派のマスコミ論者が肯定していた政策だ。それを安倍晋三氏が実際に持ち出してきたため、国内で反対する勢力がいなくなった

三橋貴明氏のような一部を除いて、右翼は全員が安倍晋三氏の政策に無条件で盲従であり、ネオリベ政策の徹底を求める経済界は移民に大賛成であり、読売や日経が反対するはずもない。

そうした政治状況のため、今回の法案は、日本人全員が移民政策を納得するための政治的機会になってしまった。従来の常識では、外国人単純労働者受け入れは、国内で低賃金化を媒介するものだから、絶対に許してはいけない脅威だったはずだが、人手不足を口実に、また多文化共生主義のイデオロギーの説得力の影響で、それは悪ではなく善へと意味が転換した。

Next: ただでさえ低い日本の最低賃金がさらに下がる…。政府の本当の狙いとは?



安く使える技能実習生を大量に招き入れたいだけ?

本来、国のかたちを変えるこの大きな国家方針の転換については、政策体系の考案は厚労省が中心に行うべきであり、所管官庁を厚労省にして、文科省や法務省や総務省をサブにして、制度設計をした上で、厚労省が国会に法案を提出すべきものだ。

外国人労働者数の上限の問題もあるし、日本語教育の支援をどうするか、年金など社会保険をどうするか、子どもの学校教育をどうするかの問題に新制度をあてがわないといけない。新制度を行政構築する必要があり、そのための省庁の予算も必要だ。

来年4月から実施ということは、来年度予算、すなわち12月に上げる政府予算の歳出の中に盛り込まないといけない。

無論、そんなことは霞ヶ関はやってないし、官邸も指示を出しておらず、要するに、入管の門戸を開放して技能実習生(最低賃金以下の劣悪な環境で働く単純労働者)を大量に輸入するというのが今法案の本当の狙いだ。

スピン報道で「外国人労働者受け入れ法案」の争点が伝わっていない

立憲民主党の長妻昭氏とか山井和則氏は、この問題の専門家であり、かつまた多文化共生主義の旗手でもあるのだから、政府が作ろうとしない新制度の設計を自前でやるべきで、対案として国民に提示すべきだと思うが、そうした動きは全くない。

単に技能実習制度の悲惨な実態ばかりを言い、外国人の人権問題にばかり注目を集めさせている

そのため、国民一般にとって法案の争点が他人事になってしまった。

格差が広がり、日本の労働者が不幸になる

実際には他人事ではなく、外国人労働者を受け入れることにより、賃金は下押し圧力がかかり、ただでさえ低い日本の最低賃金が、より低く下がることが確実だ。

法務省の調査票で暴かれた事実を見れば、失踪した外国人のほとんどが時給500円以下で働いていた現実が分かる。外国人技能実習生の相場、特に地方で農業に従事している者の賃金は月10万円で、だからこそ彼らは都会へ失踪するのだという真相が分かった。

経済界は、月10万円で働く外国人の労働市場を拡大し、固定化するのが狙いであり、それが日本人の最低賃金を押し下げるシステムとして有効に機能する。外国人技能実習制度を廃止せず、この制度を維持し、この制度で外国のブローカーを温存させ、パイプを温存するのは、実習生という身分をそのままにして現行の労働実態を永続化するためだ。

私が移民政策に反対するのは、これが窮極のネオリベ政策であり、労働者を不可逆的な不幸に導くからだ。ただでさえ格差が拡大して、富裕層と中間層と低所得者層に分かれ、階層が上下に分割拡大している日本社会で、低所得者層のさらに下に新しい貧困層が生まれ、その上の日本人層から差別されるというカースト構造になるからである。

Next: 労働者の賃金は確実に下がる。本当に労働組合は移民政策に賛成なのか?



労働者の賃金は確実に下がる

マスコミや左翼は綺麗事ばかり言っているが、悲観論ではなく、実際に社会がそうなる。

そして、矛盾拡大の中で極右が勢力を増す。日弁連のHPを見たが、移民法に反対する声明を上げていない。不思議だ。

連合のHPを見たが、会長名で反対の声明を出していない。移民法に賛成なのだろうか。

労働者の賃金が確実に押し下げられるのに、労働組合が移民政策に反対しないなど、そんなことがあるのだろうか。

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世に倦む日日』(2018年11月26日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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