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通信障害で嵐の船出、ソフトバンク上場は成功するか?過去最大2.6兆円も不人気のワケ=栫井駿介

ソフトバンク<9434>が、12月19日に東証1部に上場します。売出し総額は2.6兆円と過去最大のIPOは買いなのでしょうか?通信障害の影響も踏まえて解説します。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

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短期の値動き重視の投資家にはおすすめできない。長期投資なら?

いまやソフトバンクグループは巨大な投資会社

ソフトバンク<9434>が、12月19日に東証1部に上場します。

「え、ソフトバンク?そんなの昔から上場してるんじゃないの?」と思う方もいるかもしれません。ややこしい話ですが、昔から上場しているのはソフトバンクグループ<9984>という持株会社であり、今回上場するのは通信事業を行う子会社です。

ソフトバンクグループはいまや通信だけの会社にとどまりません。ヤフー<4689>や中国のアリババ、イギリスの半導体会社アーム、さらには10兆円規模の「ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)」に出資する巨大な投資会社なのです。

投資会社ということになれば、買った株をやがて売却して利益を得ます。ソフトバンクは2006年に1.7兆円でボーダフォンの日本事業を買収しました。それから12年が経ち、上場価格時価総額は約7兆円と4倍になりました。年率リターン13%と、投資としてはまずまずの成果をあげたと言えます。

ソフトバンクグループは、通信事業の一部を売却した資金を、新たな投資に振り分けたい考えです。孫社長はビジョン・ファンドであらゆる国のIT関連ビジネスを買い漁り、一層の巨大化を目指しています。

需要倍率「1.1倍」は不人気のサイン

今回売却されるのが、通信事業を行う「ソフトバンク株式会社」の株式です。「ソフトバンク」や「Y!モバイル」といったブランドを持つ携帯電話事業や、固定インターネット接続事業を行っています。多くの日本人にとって、最も馴染み深い事業です。

売出し総額は2.6兆円と、1987年のNTT<9432>を上回り過去最大のIPOとなります。証券会社が投資家に購入意向を聞く「ブックビルディング」が12月7日までに行われ、販売株数の「1.1倍」の需要を集めました

しかし、この1.1倍という数字は決して褒められたものではありません。IPOは上場後すぐに値上がりすることが多く、人気化しやすいものです。最近の大型IPOの個人投資家の需要倍率を見ても、メルカリ<4385>が35倍、JR九州<9042>が15倍、日本郵政<6178>が5倍に比べて、ソフトバンクの「不人気さ」が目立ちます。

もっとも、調達金額の巨大さや、最近の不安定な相場環境を踏まえると同じ土俵で比べるのは酷かもしれません。

新たに株を買うには資金を用意しなければなりませんから、多くの人は持ち株を売却します。しかし、株価が下がっていれば、売れる株もなく需要につながりません。そのような環境で2.6兆円もの資金をかき集めることは容易ではありません。

しかし、それ以上に問題なのは、ブックビルディング期間中に発生した通信障害でしょう。全国的にソフトバンクの携帯電話が数時間にわたって使えなくなり、社会に混乱をもたらしました。障害がソフトバンクだけだったことから、先行きを不安視する見方が拡がったのです。

問題が発生したのがブックビルディング終了前日ですから、それ以前に購入意向を申告した投資家も少なくないはずです。これから本格的な申込みにあたってキャンセルが発生することもありえます。それでも、証券会社の営業員は這ってでも株を売らなければなりません。ソフトバンクの上場は、まさに嵐の中の船出となったのです。

Next: 当面の値動きには期待できないが、配当利回りが高く下値は限定的



当面の値動きには期待できないが、配当利回りが高く下値は限定的

一番大変なのは、こんな状況でも株を売らなければならない証券会社の営業員ですが、初値やその後の株価の動きは投資家にとって重大な関心事です。

一般的なIPOでは、抽選で外れた投資家からの根強い需要が見込めますから、初値や当面の株価は公開価格を上回ることがほとんどです。すぐに上がるからこそIPOの抽選倍率は高くなり、倍率が高くなるほど株価は上がりやすくなります。

しかし、今回のように低い倍率であれば、買いたくても買えなかった人がほとんどいない状況のため、上場後の買いがあまり見込めないということになります。したがって、初値やその後の短期的な値動きにはあまり期待が持てないということになります。

一方で、通信会社であるソフトバンクの最大の売り文句は、安定したキャッシュフローを裏付けとした高い配当利回りでした。配当性向を85%の高水準に設定し、予想配当利回りは5.0%にのぼります。これは、同業のNTTドコモ<9437>やKDDI<9433>を上回る水準です。

同じ5%を超える配当利回りでも、例えば6%超の日産自動車<8201>は景気によって利益が大きく変動するため、減配も起こりやすくなります。その点、通信事業は利益が安定しているため、減配される心配が小さいと言えます。

このように考える投資家も少なくないことから、少しでも値下がりすると、高い配当利回りを目的とした需要が見込めます。例えば、株価が1,250円まで下がれば配当利回りは6%となり、かえって強い需要が見込めるでしょう。安定した配当は株価の下支え要因となります

あなたが短期の値動き重視の投資家なら、当面の購入はおすすめできません。期待するような値動きにはならないでしょう。

一方、配当目的の長期投資家なら、公開価格で買っても、下がってから買っても、安定した配当を受け取りながら黙って持ち続ければ良いということになります。配当が続く以上、下値は限定的です。

Next: 長期の見通しは? 通信障害、料金値下げほか後ろ向きのニュースは続くが…



通信障害、料金値下げ…後ろ向きのニュースは続くが

通信会社ソフトバンクの長期的な見通しはどうでしょう。足元では良くないニュースが続きます。

12月6日に発生した通信障害は、スウェーデンのエリクソン社製の部品に問題が生じていたことから発生しました。必ずしもソフトバンク固有の問題とは言えなさそうです。

通信障害はどの会社でも起こりえます。今回たまたまソフトバンクに当たっただけで、他の会社で起きてもおかしくなかったことだと考えます。

ただし、万が一ソフトバンクにばかり続くようであれば、会社に問題があるということになり、客離れは免れないでしょう。

それ以上に大きな問題が、政府による料金引き下げ要請です。政府は携帯電話料金を現在の4割引き下げられるとし、ドコモもそれに呼応する動きを見せています。

しかし、これを額面通りにとらえてはいけません。携帯電話会社は、これまで割高な通信料の一方で、端末代金を割り引いてきました。したがって、通信料を引き下げるなら、今度は端末代金の割引をなくせば良いという話になります。

その結果、料金を引き下げても、携帯キャリアの収入はトントンになるはずです。

これまで端末料金を引き下げていたのは、キャリア間で顧客獲得競争に明け暮れていたからでした。しかし、市場が飽和してその必要性がなくなり、革命児だったソフトバンクもすっかりおとなしくなっています。寡占状態となった市場では、競争せずに甘い汁をすするのが最適解です。

競争の活性化を期待されて楽天が参入しますが、すでにKDDIと提携し、あまり業界を覆すようなことはできないでしょう。結果的にはソフトバンクがY!モバイルを持っているのと大きく変わらないのではないかと考えます。

誰もが携帯電話を手放せなくなり、なおかつ寡占市場である携帯電話事業を悲観する必要はほとんどないと考えます。今後も5GやIoTの進展により携帯通信はますます需要が高まるでしょう。情報技術が進展すればするほど、必要な会社としての立場がより強くなると考えます。

もっとも、急激な成長が見込めるわけでもありません。普及率はほぼ飽和状態であり、需要増の見込みは限定的です。格安キャリアの台頭や5Gの投資コストを考えると、利益を削られるリスクを抱えています。当面は、小幅の需要拡大と利益率の低減が続くことになるでしょう。

ダイナミックな動きはありませんが、一方で確実性は高いと言えます。そこから安定した配当があれば、比較的限られた株価変動の中で手堅い配当収入を得続けることができるでしょう。手堅い人にとってはおすすめの投資対象と言えます。

Next: ハイリスク・ハイリターンがお好みなら親会社へ投資すべし



ハイリスク・ハイリターンなら親会社へ投資すべし

一方で、それだけではつまらないという人には、親会社であるソフトバンクグループへの投資をおすすめします。

通信子会社を上場させるのも、新たな投資を行うための資金調達手段に他なりません。調達した資金を使って、より成長が見込める事業に投資しようとしています。

投資会社としてのソフトバンクグループの特徴は、誤解を恐れずに言うならハイ・レバレッジ投資です。多額の借入金を利用し、大きなリスクを取ってだれも追いつけない成長を目指します。これは、借金を嫌うバフェットとは対極の考え方です。

ソフトバンクグループの純有利子負債は約13兆円あります。投資会社と考えるなら、保有株式の時価が25兆円なら、純資産は12兆円(25兆円-13兆円)になります。

ところが、相場の変調や投資の失敗で保有株式の時価が3割下落したとすると、資産額は17.5兆円、純資産は4.5兆円です。その結果、3割の資産価値下落に対し、半分以下の純資産価値になってしまいます。

反対に、保有株式の時価が3割上昇したとすると、資産価値は32.5兆円、純資産は19.5兆円で6割増加します。つまり、成功しても失敗しても、純資産の変動幅がより大きくなる投資を行っているのです。

大きなリスクを取りながらも、安定した通信子会社を上場させて成長企業に投資するのは、孫社長にそれだけの自信があるからでしょう。

実際にこれまで数々の投資を成功させてきた張本人です。これからも投資に成功し続けるなら、ハイ・レバレッジが功を奏し、企業価値を大きく伸ばすことになるでしょう。

多少のスリルと大きな成長を求めるなら、通信会社のソフトバンクよりも、親会社ソフトバンクグループへ投資も一考すべきと考えます。


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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2018年12月13日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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