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一時落ち着きを見せたアメリカ市場だが…米中間の通商問題ほか、まだまだ波乱の予感?=馬渕治好

米中通商交渉をはじめ、FOMCやEU離脱具体案の採決など、不透明な材料が盛りだくさんの今週。先週・今週の市場分析と合わせて、展望をお伝えします。(『馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』)

※本記事は有料メルマガ『馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』2019年1月27日号の一部抜粋です。毎週いち早く馬渕氏の解説をご覧いただくには、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。市場急変時には号外の配信もあります。

企業の決算発表が増加する今週、結果によっては市場心理が改善される可能性もありそうです。先週・今週の市場分析と合わせて、展望をお伝えします。

馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」2019/01/27号より

過ぎし花~先週(1/21~1/25)の世界経済・市場を振り返って

<市況は戻りの勢いは衰えたが、底固く推移>

先週のメルマガでは、足元の株高や外貨高(円安)の動きの背景には、楽観に過ぎるとも解釈できる点があるとして、次のように述べていました。

「足元の明るい市場の地合いも、そのまま少し続く可能性がありますが、(いつなのかは正確にわかり得ませんが)そう長くないうちに勢いが衰えるものと警戒しています」。

実際の先週の世界市場は、警戒したように「さらに株価や外貨相場が上値を追い続ける、といったような、全面的な強気相場」は継続しませんでした。ただ一方で、大きく崩れることもありませんでした

先週株価や外貨相場の勢いを減じた材料として指摘されているのは、世界経済の減速懸念です。

具体的には、まず1/21(月)に中国が10~12月期のGDP統計を発表しました。2018年通年の実質経済成長率は6.6%増となり、1990年(天安門事件の影響)以来28年ぶりの低水準になった、と報じられました。

加えて同日に、IMF(国際通貨基金)が、世界経済の成長率見通しを下方修正しました。

とは言っても、中国の経済成長率の場合、28年ぶりの低水準とセンセーショナルに報じられてはいますが、6%を大きく超える成長率が、それほど深刻だとは考えられません。加えてGDP統計と同じ日に公表された個別の経済データをみると、小売売上高前年比は11月の8.1%増に対し12月は8.2%増、鉱工業生産は同じく5.4%増に対し5.7%増で、年末に向かって増加率が大きく落ちて行っている、という様相は見出しにくいです。

IMFの見通し修正にしても、2019年の世界全体の実質経済成長率予想を、3.7%から3.5%に落とした程度で、それほど懸念するようなものかは疑問です。

ということは、中国の経済統計やIMFの見通し修正が、上がるべき株価の頭を抑えてしまった、ということではないのでしょう。元々先々週の世界市場の動きが楽観的過ぎて、材料が全くなくても株価上昇などの勢いが落ちて自然なところ、中国の統計やIMFの見通し修正が、上値が重いことの解説の口実に使われた、ということだと考えています。

また、別の警戒材料とされたのは、1/22(火)にファイナンシャル・タイムズ紙が、中国が米国に対し、閣僚級協議の前に予備協議を行なおうと提案していたものの、それを米国が拒否した、と報じたことでした。この報道が、米中間の交渉がうまくいっていない、との懸念を呼んだわけです。

なお、この報道の後、クドローNEC(国会経済会議)委員長が、「もともと予備協議は計画していない」と、否定発言を行ないました。ただし筆者は米国筋から、ファイナンシャル・タイムズの報道は正しい、と聞いています。

一方、株価を支えた材料としては、1/25(金)のウォール・ストリート・ジャーナルが、米連銀が保有資産縮小(量的緩和縮小)の終了を議論している、と報じたことが挙げられます。ただ、この報道は、米株価を支えた一方で、米ドルを他通貨に対して押し下げました。

なお、米国のS&P500指数がワースト11位で、先週は冴えなかった(大きく下げてもいませんが)ことがうかがえます。ニューヨークダウ工業株指数と、ナスダック総合指数は、先週は上昇してはいますが、週を通じては小幅です。

Next: 世界で材料が多くなる今週、どんな動きに注目すべき?



来たる花~今週(1/28~2/1)の世界経済・市場の動きについて

<不透明材料多く、世界市場は上にも下にも振れる恐れ>

今週は材料が極めて多い週です。また、個々の材料に対して、市場がどう反応するかも、読み切れない点があります。このため、思いがけず、世界市場が上にも下にも大きく振れる恐れがあると懸念されます。

米国については、長く続いていた政府閉鎖について、トランプ大統領が民主党の方針に妥協し、一旦政府閉鎖を解除する方針に転じました。

つまり1/24(木)に、議会上院で民主党は、メキシコとの間の壁建設予算を含まない短期間の暫定予算案を提案し、それによって政府機関閉鎖を解除するとともに、暫定予算が有効な間に壁の予算について議論しよう、という構えを見せました。この民主党案は、壁の予算を含む共和党案とともに、上院では一旦否決されました。

しかし、そのように短期的な暫定予算で政府機関閉鎖を回避し、その間に議論を進めよう、という案は、実は昨年上院共和党によって提案されていたものです。つまり、今回の民主党案には、共和党も乗りやすいものだった、と言えます。

トランプ大統領がその方針で良い、と容認したため、2/15(金)までの暫定予算が、まず上院で可決しました。続いて下院でも可決され、政府機関閉鎖は「一旦」解除されました。

この政府機関閉鎖解除決定を受けて(ただし週末1/25(金)の米国市場の引け前に、閉鎖が解除されるだろう、という報道は既に流れてはいました)、今週の市場に明るさがもたらされる展開は否定はできません。ただ、今回の暫定予算が切れる2/15(金)でも、大統領と議会民主党の間に妥協が成立せず、再度政府機関閉鎖に追い込まれるリスクはあり、市場が全面的に楽観に振れるとも見込みにくいです。

1/29(火)~1/30(水)には、FOMC(連邦公開市場委員会)が開催されます。「過ぎし花」で述べたウォール・ストリート・ジャーナルの報道を受けて、連銀が量的緩和の縮小を変更するのかが、注目されるでしょう。市場の波乱要因となる恐れがありますが、この点は、後の「理解の種」で述べます。

米国の主要な経済指標の発表も多いです。具体的には、下記のようなものです(日付は発表日、全て1月分の統計、カッコ内は(12月実績→1月市場予想))。

1/30(水)ADP雇用統計(雇用者数前月比:27.1万人増→18.0万人増)

2/1(金)雇用統計(非農業部門雇用者数前月比:31.2万人増→16.0万人増)

同日 ISM製造業指数(54.1→54.3)

市場が注視している、米中間の通商交渉については、1/30(水)~1/31(木)に、閣僚級の協議がワシントンで行なわれます。この点は、この後の「盛りの花」で述べますが、楽観的な展開も悲観的な展開もありえます。

企業決算は、米国では引き続きかなりの数の企業が発表する予定で、日本でも週半ばから発表社数が増えてきます。

英国ではEU離脱の具体案について、メイ首相による修正案が再度1/30(火)に議会で採決されます。首相は当初案からほとんど修正らしい修正を行なっておらず、否決の可能性が高いと見込まれます。

ただ、前回の否決の際も市場はほとんど無視しましたので、今回も何らの波乱が起きない展開がありそうです。ただ、市場心理が弱気に振れていると、前回から一転して騒ぐことも否定はできません。

Next: 今週特に注目すべき、米中間の通商問題の動きはどうなる?



盛りの花~世界経済・市場の注目点

<米中貿易交渉の、楽観シナリオと悲観シナリオ>

「来たる花」で述べたように、米中間の通商問題については、両国の閣僚級会議が、1/30(水)~1/31(木)に、米ワシントンDCで開催されます。楽観的なシナリオも悲観的なシナリオも想定され、予断を許しません。

楽観的な展開としては、中国側は米国からの輸入を増やす項目を数多く挙げる(天然ガス、大豆など)方針ですが、知的所有権侵害や技術移転強要といった問題については、ほとんど何もしない構えです。ただ、米中間の交渉難航観測が米株価の下落となって跳ね返ってくるため、それでよし、という方針に米政権が傾き、中国が実利をとる形で米中の交渉が進むという感触となれば、米株式市場には楽観が広がるでしょう。

筆者は、米国の足元をみた中国側が、このように実質的に勝利するが、トランプ大統領は「私が素晴らしい大統領だから、中国が大いに妥協してきた」と口先ばかりで誇示して終わる、という展開が、最もありそうだと見込んでいます。

ただ、悲観的な展開も否定はできません。

たとえば、今のところトランプ政権内では、対中穏健派である、ムニューシン財務長官やクドローNEC委員長が、主導権を握っているように見受けられます。しかし、強硬派のライトハイザーUSTR(米通商代表部)代表やナバロ国家通商会議議長が巻き返し、知的所有権侵害や技術移転強要の確実な改善を中国側に強く求め、協議が決裂する、ということはありえます。

また、カナダで拘束されている、ファーウェイ社の孟副会長兼最高財務責任者について、米国は身柄の引き渡しを要求するとみられます。その引渡し申請の期限が1/30(水)です。

もし米国の引き渡しの申請が、米中間の閣僚級の会議とぶつかると、中国側が抗議のため、交渉団を引き上げてしまう、という結果になることもありうるでしょう。

このように、今週の米中閣僚級会議を巡っては、どういう展開になり、それが市場にどのような影響を与えるかは、見通しが極めて難しい状況です。

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image by: Joseph Sohm / Shutterstock.com


※本記事は有料メルマガ『馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』2019年1月27日号の一部抜粋です。毎週いち早く馬渕氏の解説をご覧いただくには、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。本記事で割愛した項目もすぐ読めます。

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馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』(2019年1月27日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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