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Tポイントが消える?ファミマからヤフーまでもがそっぽを向き始めたワケ=岩田昭男

いま、急速に「Tポイント離れ」が起きている。ファミリーマート、ヤフー、ソフトバンク、ドトールなど各社がTポイントとの取り組みを改めようとしているのだ。(『達人岩田昭男のクレジットカード駆け込み道場』岩田昭男)

※本記事は。『達人岩田昭男のクレジットカード駆け込み道場』2019年3月1日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:岩田昭男(いわたあきお)
消費生活評論家。1952年生まれ。早稲田大学卒業。月刊誌記者などを経て独立。クレジットカード研究歴30年。電子マネー、デビットカード、共通ポイントなどにも詳しい。著書に「Suica一人勝ちの秘密」「信用力格差社会」「O2Oの衝撃」など。

このまま自然消滅へ向かう?なぜ提携企業の気持ちは離れたのか…

「Tポイント」が呼ばれなかったペイペイ記者発表会

昨年12月に行われたQRコード決済・ペイペイの「100億円あげちゃうキャンペーン」は、その金額の大きさと、当初は今年の3月末までの予定だったにもかかわらず、100億円の原資があっという間になくなり、たった10日間で突然終わってしまったことで大きな話題を呼んだ。

すでに旧聞に属するこのキャンペーンのことをまた取り上げたのにはわけがある。このキャンペーンの少し前に記者発表会があった。その会場に足を運んだ私は、テレビCMに起用されたお笑いタレントが「100億円」や「20%還元」を連呼する、文字通りの大盤振る舞いと派手な演出にまず驚かされた。

そして実はもう1つ、ほかのマスコミ関係者がどのように受けとめたかはわからないが、私はTポイントについてまったく触れられなかったことに驚いていた。

ペイペイは、ソフトバンクとヤフーの合弁会社であるPayPay(株)が提供するQRコード決済サービスだ。

記者発表の壇上では、PayPay社長がペイペイの説明を行い、親会社であるヤフーの社長やソフトバンクの副社長がエールを送り、ペイペイ導入企業のファミリーマート社長をはじめとしてエイチ・アイ・エス、ビックカメラ、ヤマダ電機などの幹部が顔をそろえた。しかし、そこにTポイントの母体であるカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)や運営会社の首脳の姿はなかった

そこで今回は、なぜTポイントが呼ばれなかったのか、そのことを少し考えてみたい。

崩れる「Tポイント」の1社独占

ご存じのように、TポイントはもともとビデオレンタルのTSUTAYAのポイントサービスだったが、2003年から共通ポイントの先駆けとしてさまざまな業種の店舗で利用されるようになった。

ペイペイのバックにあるヤフーとソフトバンク、それにファミリーマートはTポイントを核にした強力なグループを形成している。したがって、ペイペイのサービス開始にあたっては当然のことながらTポイントが中心になって加盟店開拓などを行うのだろうと考えていた。

ところが、前述したように記者発表ではTポイントに対する言及は一切なく、CCCの幹部は誰も招かれてはいなかった。だから、私は少なからず驚いたのだ。

これはのちに噂話として聞いた話だが、「今後、ヤフーで貯めたTポイントのうち半分はペイペイに移していき、ペイペイ残高に加える方針」という。

これを聞いて私は、「なぜ」と思った。

また、ファミリーマートでも異変が起こっていた。いままでファミリーマートの共通ポイントといえばTポイントだった。「1業種1社」という暗黙のルールがあって、鉄の団結を誇っているのだとばかり思っていたのだが、最近になって今後はTポイントの1社独占ではなく、ペイペイのポイントや楽天ポイント、dポイント、LINEポイントも貯められるようになる――そんな話も聞こえてきた。

ずいぶん展開が急だなと驚いていると、コーヒーチェーンのドトールもTポイントの取り扱いをあらためようとしている、という話も伝わってきた。

そんなこともあって、ここにきて「Tポイント離れ」が始まっているように私には思えた。

Next: なぜ提携企業の気持ちが離れた?そこにはビッグデータをめぐる主導権争いが…



群を抜くTポイント会員と提携企業数

共通ポイントは業種の垣根を越えて消費者にポイントサービスを提供するもので、イギリスの航空会社ブリティッシュ・エアウェイズ(英国航空)のマイル政策を手本にしたともといわれている。

その共通ポイントを日本に根付かせたTポイントは、1業種1社にかぎって、それぞれの業種の有力企業と手を組んで会員を獲得していくという方針でスタートした。

たとえばニュースサイトはヤフー、コンビニはファミリーマート、石油販売はENEOS(エネオス)と手を組んで大発展を遂げた。共通ポイントのなかで、Tポイントの提携企業数の多さは群を抜いている。

街中にたくさんある提携店舗を訪れると、「Tポイントはお持ちですか?」と声をかけられ、加入を勧められるようになり、さらに知名度がアップし普及促進につながっている。

Tポイントの収益モデルといえば、ポイント会員の顧客情報を使ってグループ企業のマーケティングのサポートをすることである。

これを提携企業側から見ると顧客の囲い込みになるのだ。これがTポイントの提携企業が急増した理由の1つだった。

こうしていまではTポイントの会員数は6,800万人近くまでになっている。単純計算すれば、国民の2人に1人はTポイント会員ということになる。

ビッグデータの取り扱いをめぐる主導権争いか

そのTポイントの周辺がにわかに騒がしくなったのはなぜか、ファミリーマートを例にとって考えてみよう。

ファミリーマートがTポイントと提携した理由は、他の企業と同様、Tポイントをつければ、そのポイント欲しさにお客がたくさん来るからというもので、単純明快だった。

最初はそれでよかったのだが、しかし、ファミリーマート自身も顧客の囲い込みだけでなく、購買履歴などを使ってマーケティングで経営力の向上を図りたいと考えるようになった。

そこで、顧客情報の取り扱いをめぐってTポイントとファミリーマートの間にバッティングが生じたのではないだろうか。ファミリーマートが完全に情報を独占しようとしたかどうかはわからないが、かなり不満がたまっていたことは確かだろう。

SNSの普及にともなって、顧客情報がビッグデータとして価値を高めていく。そうしたなかで、同業他社の、例えばセブン・イレブンなどは自社のポイントであるnanaco(ナナコ)を使って新たにさまざまな試みを行っている。

ファミリーマートにとっては、同じポイントサービスなのに、Tポイントと提携しているがゆえにそれが自由にできない。だからTポイントとは少し距離をとりたいと考えていたのだろう。いずれ、ファミリーマートは、自分のポイントを持ちたいとさえ考え、7月には「ファミペイ」をリリースする予定である。

ヤフーとソフトバンクはもっと明確に、いまTポイントが担っている役割をペイペイや電子マネーのYahoo!マネーに向けようとしている。ヤフーで買い物をした際にペイペイにポイントを移して、Tポイントの比率を下げていくことになりそうだ。

要は外部(Tポイント)に委託するのではなく、できるだけ自前で賄おうというわけだ。

Next: 無断で当局に個人情報を流していたTポイント、このまま自然消滅へ向かうのか…



Tポイントの当局への情報提供の波紋

今年の1月下旬、こんなニュースが業界関係者の間で話題になった。ご記憶の方も多いかもしれない。

Tポイントが貯まるTカードの会員情報が、裁判所の令状なしに捜査当局に提供されていた」というもの。氏名や電話番号のほか商品の購入履歴、ポイント数などが当局の求めに応じて提供されていたが、会員規約にこのことが明記されていなかった。

この報道を受けてTポイントカードの運営会社であるCCCは、捜査当局に情報提供していたことを認め、今後はそのことを会員規約に明記することを明らかにした。

報道がCCCのライバル会社によるリークである可能性も考えられるが、たとえ捜査のためとはいえ、令状もないのに個人情報を無断で当局に提供するのはポイント事業者としては、当然、やってはならないことである。

われわれ消費者はこのことをよく理解する必要があるし、ビッグデータ時代のいま、企業は個人情報の取り扱いにはより慎重でなければならない。

そうしたことを考えると、そのTポイントの乱暴ともいえる個人情報の取り扱い方に違和感を覚えたヤフーやソフトバンクなどが「やれない」と見限りつつあるのかもしれない。

真相はわからないが、いずれにしろ、SNS時代になってますます価値を高める顧客情報をめぐってさまざまな駆け引きが始まっているのは確かだ。今後の行方に注目である。

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達人岩田昭男のクレジットカード駆け込み道場』(2019年3月1日号)より抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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