夫の給料から生活費を受け取り、残りを貯金している専業主婦は多いでしょう。しかし、そのように貯めたヘソクリが相続時に思わぬトラブルを招く場合があります。(『FPが教える!相続知識配信メルマガ☆彡.。』小櫃麻衣)
ヘソクリで貯めた4,000万円は、いったいだれのもの?
毎月の生活費の残りは贈与にはならない
専業主婦の妻が毎月夫から生活費をもらい、使い切らなかったお金については、毎月コツコツ貯蓄に回しているといった方も多いのではないでしょうか。
しかし、専業主婦の妻が所有するヘソクリは、夫の相続時にある疑いをかけられてしまい、場合によっては税負担の面で大変な思いをする可能性がかなり高いということをご存知でしたでしょうか。
そこで今回は、妻のヘソクリが相続時にもたらす影響について解説させて頂きます。
あるご家庭で行われた税務調査を例に挙げて説明していきましょう。
60年間連れ添った夫が他界し、無事に三回忌の法要を終えた数ヶ月後のある日、相続税の申告を担当した税理士から連絡が入り、税務調査の対象になったことを伝えられました。
担当税理士と日程調整を行い、数週間後に税務調査を迎えることになりました。税務調査当日を迎え、何気ない世間話から始まったところで本格的な調査が始まることになります。夫がどのように亡くなったのか、どのような仕事に就いていたのか、年収はどれくらいあったのか、どのような趣味があったのかなど。
さらには、相続人である妻や子供達についても詳しく聞かれることになります。そこで調査員からこのような質問がありました。
調査員「奥様は何かお仕事をされていましたか?」
妻「結婚をきっかけに退職し、夫が他界するまでの60年間、ずっと専業主婦です」
調査員「失礼ですが、奥様が働いていた当時の年収はどれくらいありましたか?」
妻「だいだい300万円ぐらいですね」
調査員「それでは、奥様の口座にある4,000万円はどのようにして貯めたのですか?」
妻「主人が定年するまで現役で働いていた期間、毎月もらっていた生活費の余りを貯めていた結果です」
調査員「それではその4,000万円はご主人のお金ですね?相続税を課税します」
突然そんなことを言われれば、妻が驚くのも分からなくはないですよね。そこで妻は当然、調査員に反論します。
妻「主人は使い切らなかったお金については、自由に使ってもいいと言っていました。それに主人が退職して、年金暮らしになった時には、足りない部分はこのお金の中から生活費に充てていたんです!」
調査員「ご主人と奥様が協力して4,000万円という大金を貯蓄したというのは分かりますが、税務の世界ではご主人の収入はご主人の財産とみなされますので、相続税を支払わなければならないのです」
このまま認めてしまえば追徴課税の対象となって、多額の税金を支払わなければならない。そう思った妻は、以前テレビで見た贈与税の時効のことを思い出します。
妻「…そういえば贈与税の時効って7年ですよね?生活費の余りは、夫から贈与されていたものだから、時効が成立していない7年分は贈与税を払いますよ!でも、年金暮らしが始まって15年以上も経っているから、主人が現役で働いていた頃に生活費を貰っていた時期の時効は成立している!だから、相続税も贈与税も払いません!」
一見、妻の主張は理にかなっていると思われる方も多いのではないでしょうか。しかし、この主張が調査員に認められることはないと考えておいた方が良いでしょう。
一体、なぜなのでしょうか。
Next: 生活費の贈与が、なぜ認められないのか?
贈与契約書のない贈与は、贈与と認められない
妻の主張を聞いた調査員は、「贈与というのであれば贈与契約書はお持ちですよね」と質問します。
そこで妻は、「夫婦間での贈与でわざわざ契約書を作る人なんているんですか?口約束でも契約は成立するって聞いたことがあります」と反論。
対して調査員は、「贈与契約書のない贈与は、贈与と認められませんので、相続税を課税します。さらに、期限内に申告していなかったので延滞税、相続財産を過少に申告していたことによる過少申告加算税も合わせて徴収させて頂きます」。
ここまで言われてしまえば、妻は何も言い返せないですよね。
夫が急死したことのショックに加えて、何気なく貯めていたヘソクリに相続税が課税され、さらには罰金までも支払わなければならなくなってしまった妻の気持ちは計り知れませんよね。
このようなケースに該当する方は非常に多く、税務調査に入られ、追徴課税の対象となる確率は非常に高いです。
誰がどう言おうと、生活費の残りは夫の相続財産となってしまうのです。
今回のケースをみてみると、生活費の残りが贈与とみなされなかったために贈与税の時効が適用されず、ヘソクリの全額に相続税が課税されることになってしまいました。
そこで税務署からこのような疑いをかけられないようにするための対策として、一番に思い浮かべるのは贈与契約書を作成しておくということでしょう。
贈与者である夫が死亡した現在、贈与契約書のない贈与は、贈与者と受贈者の同意の下で行われたものという贈与の大原則を満たすことができませんよね。
しかし、毎月夫から生活費を貰う度に、贈与契約書を作成するというのは現実的ではありませんし、そもそも家族間で生活費を贈与したとしても贈与税の課税対象とはなりません。
大学進学を機に一人暮らしをしている子供に対して、もしくは年金暮らしの高齢な両親に対して、贈与税の年間非課税枠である110万円を超えた贈与を行なっていたとしても、何の問題もありませんよね。
それでは今回のケースではどこに問題点があったのかというと、“生活費の残り”を貯蓄していたということ。
それではどんな対策が一番現実的なのでしょうか?
それは、使い切ってしまうこと。
また、生活費の残りは夫の口座に戻すというのも一つの方法です。
そして、何にも対策せずに相続が発生したら、正直に自分の口座にある生活費の残りを夫の相続財産として申告する。
ただしこのケースでは、もともと自分の口座にあるお金と混ざってしまうので、生活費の残りを貯めておく口座を開設しておくのも一つの方法かもしれませんね。
どの対策を選択するにせよ多少の手間はかかりますが、税務調査の対象となり、当初から夫の相続財産として申告していれば課税されなかった税金まで徴収されるというリスクを考えれば、何かしらの対策を講じておくことをオススメします。
『FPが教える!相続知識配信メルマガ☆彡.。』(2019年3月11日・13日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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