Tポイント離れが加速する背景には、キャッシュレス化と楽天ポイントの急成長があります。なぜTポイントは、数あるポイントの1つに成り下がってしまったのか。その理由を考察します。(『達人岩田昭男のクレジットカード駆け込み道場』岩田昭男)
※本記事は。『達人岩田昭男のクレジットカード駆け込み道場』2019年3月15日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
消費生活評論家。1952年生まれ。早稲田大学卒業。月刊誌記者などを経て独立。クレジットカード研究歴30年。電子マネー、デビットカード、共通ポイントなどにも詳しい。著書に「Suica一人勝ちの秘密」「信用力格差社会」「O2Oの衝撃」など。
ネット上も制するかに見えたTポイントは、どこで間違えたのか?
スポーツ用品大手アルペンも「Tポイント離れ」
楽天カードは3月18日、大手スポーツ用品チェーンのアルペンと組んで、提携カードを4月に発行すると発表した。
新しく出るのは「アルペングループ楽天カード」。利用のたびに楽天スーパーポイントとアルペンポイントがたまり、還元率が最大6.5%にもなるというお得なカードだ。楽天にとって、初めての小売業者との提携カードというので注目を集めている。
もうひとつの注目ポイントは、Tポイントとの関係である。アルペンは長く続けたTポイントとの契約を終了させ、4月から楽天スーパーポイントに乗り換えるといわれる。
質疑応答の際にも、アルペンとTポイントとの関係を聞くメディアが多く、今更ながらにTポイントへの関心の高さに気づかされた。
今回はTポイントの行方に続く第2弾として、共通ポイントをめぐるTポイントと楽天の確執について詳しく紹介したい。
共通ポイントの先駆けとなったTポイント
前回は、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)のNo.1共通ポイント「Tポイント」に起きている異変について述べた。
今回は、これまであまり語られなかった、Tポイントと楽天の知られざる攻防についてお話したい。
共通ポイントとは、業種を超えて使えるポイントサービスのこと。
店舗側のメリットは、まったく違う業種の客を相互に誘導することで、新規の顧客獲得が見込めること。利用者にとってのメリットは、特定の企業に限定することなく、生活の導線にある店舗で効率よくポイントを貯められることにある。
Tポイントが先行者利益を得た「1業種1社」戦略
その共通ポイントの先駆けとして2003年にスタートしたTポイントは、それまでになかった利便性と「Tポイントをお持ちですか?」という合言葉を使った店頭での声掛けによって、大都市圏のサラリーマンを中心に消費者の心をがっちりつかんで急速に会員数を増やした。
さらに、Tポイントが成功した理由の1つは「1業種1社」戦略がある。「同業他社との競争をできるだけ避け、業界の秩序を乱さないようにするためのルール」という大義名分を掲げたことによって、後続の共通ポイントに対して大きなアドバンテージを得ることができた。
つまり、Tポイントは各業種のトップ企業もしくは有力企業1社に限って提携し、その企業の店舗を加盟店にしてポイントを発行してきた。たとえばネットショッピングではヤフー、通信ではソフトバンク、コンビニならファミリーマート、ガソリンスタンドならENEOS(エネオス)、ファミレスはガスト、焼き肉なら牛角といった具合だ。
CCCは、1つの企業・店舗が2つの共通ポイントを入れてはいけないというルールを、(身も蓋もない言い方をすれば、)勝手に作って定着させてしまった。その「1業種1社」戦略が功を奏して、さらに新たな共通ポイントの参入が遅れたこともあって、Tポイントはしばらくの間「我が世の春」を謳歌した。
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2番手の共通ポイントであるPonta(ポンタ)ポイント
2番手の共通ポイントとして三菱商事系のロイヤリティ・マーケティングが発行・運営するPonta(ポンタ)が登場したのが2010年。Tポイントがサービスを開始してから7年が経っていた。実はポンタがスタートした当初は、Tポイントに対抗できるだけの加盟店を集められるのか不安視する声が強かった。
そこで、ポンタのバックについている三菱商事グループが総力を挙げて加盟店開拓に協力し、各業種のトップではなく2番手グループの企業を攻めるという現実的な戦略で臨んだこともあって、ローソン、ケンタッキー・フライド・チキン、昭和シェル石油などの三菱系企業が多くポンタ陣営に参集した。
各業種のトップ企業ではなく、セカンド・グループの企業が比較的すんなりとポンタ陣営に加わっていくのを見たTポイントは、「市場が活性化するので歓迎する」として、ポンタの参入を受け入れた。
ポンタが各業種のトップ企業を取りにくれば死闘を覚悟しなければならなかったが、それは避けられたために、Tポイントとポンタの棲み分けはうまくいき「1業種1社」のルールによって共通ポイントのヒエラルキーは守られた。
異議を唱えた楽天の三木谷社長
ところが、2014年に楽天ポイントが3番手の共通ポイントとして名乗りを上げてから、共通ポイント戦線は風雲急を告げていく(楽天は2002年に楽天スーパーポイントのサービスを開始しているが、これはネット限定だった)。
ネット=Eコマースで成功した楽天は、リアルでは出遅れ感があった。しかし、テレビCMの効果で楽天カード会員が急増し、メジャーカード(会員数1,000万人)の仲間入りを果たし、長年赤字続きだった電子マネーの楽天Edyもようやく黒字転換して好調に推移していた。
機は熟したとみた楽天は、ここで一気に共通ポイントを使って、リアル店舗の開拓に乗り出したのだ。楽天の共通ポイントのスキームは、ネットショッピングで貯めたポイントをリアル店舗でも使えるようにするというもので、リアル店舗の加盟店をどれだけ集められるかがカギとなる。
その楽天の前に立ちはだかったのがTポイントだった。共通ポイントで先行したTポイントは、楽天の参入を何としても阻みたいと考えていた。そして、打った手が「1業種1社」の徹底だったのだ。
Next: うまく防衛したTポイント。楽天ポイントは2016年には虫の息に…
不発に終わった楽天の営業努力
楽天は、共通ポイント事業に参入する前に、新規の営業マンをたくさん雇い、全国で営業活動を展開したが、加盟店開拓は思うようにいかなかった。
Tポイントがつくった「1業種1社」という壁が大きく立ちはだかったのだ。その結果、楽天ポイントの加盟店には、デパートの大丸松阪屋や石油販売の出光興産などの大手も加わったが、大半は業界3番手クラスの企業になってしまった。
有力企業はTポイントとポンタにとられた後であり、3番手の楽天には目ぼしい企業はほとんど残っていなかった。先行者のおこぼれを楽天が拾うという構造になっており、楽天は不利な戦いを強いられた。
そこで、楽天の三木谷浩史社長は記者会見などの公の席で「わがグループは1業種1社にはこだわらない」と繰り返し述べることになる。三木谷社長は、寡占化を招くルールにしばられることなく、企業が2つでも3つでも自由に共通ポイントを受け入れるのを認めるべきだと主張した。後発組がトップを狙うには同じ土俵で戦っても勝てない。積極的に下克上を仕掛けなければならない。三木谷社長はそう考えたのだろう。
しかし、Tポイント陣営が三木谷社長の声に耳を貸すことはなかった。「1業種1社」の壁は簡単には崩れず、共通ポイントとしての楽天ポイントは、鳴かず飛ばずの状態がしばらく続いた。
それでも、業界4番手のサークルKサンクスというコンビニを取れたので、楽天はホッとした。なぜなら、共通ポイントにはコンビニは欠かせないからだ。コンビニを拠点に顧客獲得ができるし、さまざまな仕掛けをつくることができる。大手にくらべて見劣りするものの、サークルKサンクスを起点に息長く努力すれば、道は開けると楽天は期待した。
楽天の転機となった2016年
しかし、その期待も見事に打ち砕かれた。転機になったのは2016年だった。この年、サークルKサンクスがファミリーマートによって吸収合併された。私は、ファミリーマートにサークルKサンクスが吸収されても、当面は楽天ポイントも使えるだろうと考えていた。
しかし、甘かった。店舗があっという間にファミリーマートのデザインに塗り替えられるのに合わせてTポイントが導入され、楽天ポイントは追い出されるようにして撤退せざるをえなかった。
その結果、楽天はリアル攻略における足場を失い、ローソンの軒先を借りて細々と楽天ポイントを続けるしかなかった。このとき私は、ビジネスの非情さを目の当たりにした思いがした。
楽天は同じころ(2016年12月)、スマホのアプリ決済、楽天ペイのサービスも開始している。しかし私は、もう楽天はリアルへの進出はあきらめたほうがいいのではないかと思った。いまから思えばこうした動きは、ネットとリアルの両方の顧客を取り込むO2Oへの強いこだわりの結果だったのだが、私にはそれがわからなかった。
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キャッシュレス化の波に流された「1業種1社」の壁
一方、Tポイントはどうだったか。2013年7月、Tポイントはヤフー・ジャパンと提携し、Yahoo!ポイントをTポイントに統合してしまった。その結果Tポイントはリアルだけではなくネットでも使える利便性の高いお得なポイントとして生まれ変わった。
そのころTポイントは破竹の勢いだった。Tポイントがトップに君臨する共通ポイントの勢力図が固まり、ビッグデータを含めた顧客情報販売ビジネスが軌道に乗って、磐石の体制を整えたように見えた。
ところが、Tポイントの本業であるDVDレンタルのツタヤの業績が振るわなくなってきた。ネットフリックスなど動画サイトの隆盛に押されてDVDレンタルが敬遠されるようになってきたからだ。そのために全国の店舗を次々に整理し始めている。この店舗数の減少がデータ販売ビジネスに悪影響を与えている可能性もある。
さらに悪いことに、昨年から政府がキャッシュレス・ビジョンを打ち出して、国をあげてのキャッシュレス化への邁進を始めた。これがTポイントの足を引っ張り、打撃になっている。いま政府は、20%程度のキャッシュレス比率を2025年までに40%に高めるという目標を掲げている。その結果、さまざまなキャッシュレスの決済手段が推奨されるようになった。
なかでも最新のキャッシュレス手段であるQRコード決済が脚光を浴びたことで、まさに雨後の筍のようにいくつもの新しいQRコード決済が登場した。
「楽天ペイ」もその1つで、はじめはさして注目されることもなかったが、いまでは楽天のキャッシュレス決済、スマホ決済の切り札的存在として浮上した。楽天ペイはQRコードで決済できる便利なツールであるが、同時に共通ポイントの楽天スーパーポイントも0.5%たまる。しかも、楽天カードを紐づけておくと、1%のポイントがつくので、合計で還元率が1.5%になるなどお得も用意されている。それで人気になっているのだ。
こうしたキャッシュレスという大きな流れのなかで、共通ポイント(QRコード決済)が1つのキーアイテムとなり、重要性を増した。同時に、さまざまな決済システムの氾濫によって、「1業種1社」のルールが有名無実化して急速に崩れつつある。
いまはローソンでもファミリーマートでも、複数のQRコード決済と共通ポイントが使える。そして、Tポイントは数ある共通ポイントの1つにすぎなくなった。
これがTポイント低迷の理由でもあるが、言い換えれば、Tポイントも「普通のポイントカード」になったといえるのかもしれない。
Next: 最も使われているQRコード決済は楽天ペイ。Tポイントの巻き返しはあるのか?
楽天の新会社「楽天ペイメント」とは
昨年末から今年の初めにかけて行われたQRコード決済の利用に関する複数の市場調査で、楽天ペイがいずれもトップになった。つまり、日本でいちばん使われているQRコード決済が楽天ペイというわけだ。
もともとLINEペイとオリガミペイくらいでさして強力なライバルがいなかったのだからそれも当然なのだが、昨年、ペイペイが登場して派手なキャンペーンを繰り広げたこともあって、ナンバーワンの座を奪われるのではないかと楽天は戦々恐々としていた。
しかし、ペイペイに勝ってほっと胸をなでおろしたというのが楽天ペイ関係者の正直な気持ちだったはずだ。
それはともかく、楽天経営陣はこの勢いに乗じるかのように、3月18日から「新楽天ペイアプリ」を提供する。この新アプリは楽天ペイ、楽天ポイント、楽天Edyをひとつにまとめたもので、ユーザーはこれらの決済サービスのなかからそれぞれの店舗にあった、あるいは自分の使いたいものを選んで簡単に支払いを済ませることができるから、利便性は一段と向上する。
楽天ではこの新アプリのサービス開始に合わせて、モバイル決済サービスを統括する部門を独立させて、4月1日に新会社「楽天ペイメント」を立ち上げるという念の入れようだ。
Tポイントの巻き返しはあるか
新楽天ペイアプリは、それまでバラバラだった楽天Edyと楽天ペイ、楽天ポイントの加盟店を1つにまとめたという点でも画期的である。楽天によればその数を合わせると約200万店に達するという。それだけ大きなネットワークを形成するリアルな市場を手に入れたことになる。
楽天の望んでいたネットからリアルへ、オンラインからオフラインへ、すなわちO2Oのかたちが見えてきたということでもある。
一方のTポイントは、昨年10月遅ればせながらスマホでTポイントを貯めたり使うことができるカードレスの「モバイルTカード」がスタートしている。だが、正直いって「時すでに遅し」の感は否めない。かつて「1業種1社」のルールで輝いていた威光がすっかり色あせ、単なるポイントの1つに成り下がってしまった。
もともとTポイント=CCCのビジネスモデルは、顧客の囲い込みはもちろんだが、同時に顧客の属性(性別、年齢など)や購買履歴などの顧客情報を集めて販売することだ。言葉は悪いが「名簿屋」にすぎないともいえる。だから、ウェブやモバイル対応へのモチベーションにやや欠ける。
それに対して楽天は、O2Oを貫徹するというはっきりした目的があった。そこが大きな違いだ。
ただし、Tポイントもこのままただ手をこまねいてはいないだろう。モバイルTカードは今年の2月から、ペイペイにも対応するようになった。Tポイントの巻き返しにも注目していきたい。
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『達人岩田昭男のクレジットカード駆け込み道場』(2019年3月15日号)より抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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