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米利上げ、恐るるに足らず。世界的な「資金余剰状態」は続く=若林利明

金利引き上げ時に必ず論議されるのが金融市場からの引上げ論ですが、しかし、今回予想される引き上げは警戒的ポーズを示すといったものに留まる事は明らかです。広く、世界が金利上昇局面に入るとは到底考えられません。(『投資の視点』若林利明)

世界が金利上昇局面に入るとは到底考えられない

現状は経済刺激を低金利により継続

リーマン・ショック後の世界主要国の政策金利の動きを示しました。リーマン・ショックは世界経済、金融の中心地米国で起きた証券会社の倒産事件です。

強欲資本主義が自ら招いた災いと称せられましたが、金融資本の不況が産業資本にまで大きな影響を与えたのが最大の特徴と言われております。世界中が不況感に覆われました。

景気回復、企業活動の活性化を求め政府、中央銀行は果敢に低金利政策を推し進めます。その時、日本は1989年の金融バブル崩壊以降、失われた十年、二十年と言われておりましたので、世界の主要先進国の中で唯一低金利が常態になっておりました。

リーマン・ショック以後他の国の金利水準が急速に追随した形です。不況克服は企業活動の活発化が最善の策です。企業が頑張ることによる雇用の増大、失業率の改善等により経済成長の下地が作られ社会の安定に直結します。

これが為政者の願いです。したがって企業活動を刺激するため金利低下は為政者、中央銀行の好むところです。いわば、企業活性化の間接療法です。

リーマン・ショック後、別の方法により一人気を吐いたのが中国です。共産党支配の中国は国家予算の半分の規模を公共事業に用い経済の落込みを支える動きを実践したのです。

西欧の民主化された国と異なり、政府による直接療法とも表現できる経済刺激策です。実際これにより成長が維持されその恩恵が先進資本主義国にもたらされたのです。現在、中国の不振はその反動とも言われております。

不動産投資が焦げ付き後始末に悩まされている状態です。直近の金利の引き下げ等、一連の不況対策も見えてきました。今後、中国は不況感がなくなるまで金利を下げることがあっても上げることはできないでしょう。

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資産運用業界の好環境は変化なし

企業活動の活性化を通じて経済成長を助長する低金利政策は、また別の役割を派生させることになります。

企業の投資活動が十分にあれば良いのですが、成熟化した先進国の中で本腰を入れて業容拡大を狙った大規模投資がそれ程簡単に見つけられる訳ではありません。ベンチャー的な事業開発案件の資金需要はあるでしょうが、これはあくまで卵です。

実験的、先行投資的資金需要の域に留まる範囲では、資金需要の額は限られたものになります。一方で、低金利の影響はすべての業界に普遍的に浸透、巷にはお金が溢れることになります。

さらに、これまで高金利のもと貯蓄に励んできた人たちの行動にも影響を及ぼします。お金がお金を生まない構造になっているのです。

日本の個人金融資産の現状をみれば良くわかります。1700兆円を超える日本人個人金融資産の残高は大雑把に50%は銀行の定期性預金です。年利1%にも満たない状況では、もう少し高い水準を考えても不思議ではありません。

機関投資家の顧客も低金利の状況下で、それなりのリターンを実現している運用機関があれば資金を委託することはごく当たり前のことです。現在、資産運用市場は、証券市場、債券市場、金市場、原油先物市場等多くありますが、証券市場以外は市況変動要因が、為替、金利といったごく限られたものであり変動が一方通行になるのが特徴です。

多様性に富んだ運用市場は間違いなく証券市場です。投資ビジネスで積極的展開を求める人々はその活路を株式に求めることにより各種投資手法を開発します。

ヘッジファンドに代表されるような新たな運用手法が開発されるのは証券市場です。

こうして、低金利、資金余剰状態は企業活動の活発化を促す役目を期待されながら、一方で資産運用、取り分け証券市場に潤沢な資金を提供、好環境が実現されているのです。

2015年、年初から米国金利上昇について連銀が何時、決断するかが大きな話題になってきました。金利引き上げが景気の落ち込みを招くようであればその判断が社会的非難を浴びることになります。

それでも、経済成長が若干プラス、しかも持続性が考えられる状況では、金利のボトムアウト感を示す必要があります。その意味が強い引き上げ論議と見られております。

金利引き上げ時に必ず論議されるのが金融市場からの引上げ論ですが、しかし、今回予想される引き上げは警戒的ポーズを示すといったものに留まる事は明らかです。広く、世界が金利上昇局面に入るとは到底考えられません。

米国連銀の金利政策は自国のことは無論ですが、他国の経済、為替状況も考えながら判断されております。結果として過度の米国金利水準の上昇は新興国通貨から米ドルへとの流れを促進する副作用も考えなければなりません。

こうした米国金利を取り巻く環境を考えれば、目先の調整的金利引き上げの動きに限定されるのは明らかです。資産の運用環境、取り分け証券市場の環境に大きな変化が起こる可能性は殆どないと考えて良いでしょう。

筆者プロフィール:若林利明
外資系機関投資家を中心に日本株のファンドマネージャーを歴任。現在は創価女子短期大学非常勤講師、NPO法人日本個人投資家協会協議会委員。世界の株式市場における東京市場の位置づけ、そこで大きな影響力を行使する外国人投資家の投資動向に精通する。著書:「資産運用のセンスのみがき方」(近代セールス社)など。

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投資の視点』(2015年12月1日号)より一部抜粋

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