9年半ぶりの米利上げを前に、原油をはじめとする商品や世界の株価が軟調に推移しています。そんな中、米CNBCが2016年のアメリカ市場に関する「10の懸念」を発表しました。バルチック海運指数の低迷、商品安、ドル高などがマーケットに与える影響は?元為替ディーラーの矢口新氏が解説します。(『相場はあなたの夢をかなえる ―有料版―』)
米CNBCによるアメリカ市場「10の懸念」を矢口新氏が解説
バルチック指数低迷、商品安、S&P500の高PER…
米CNBCが米市場における2016年の「10の懸念」を取り上げている。
1. 海運価格と世界の商品需要の指標、バルチック(・ドライ)海運指数が1985年来の低水準になっている。世界の貿易が縮小していることを示している。
2. 世界の商品価格がリーマンショック後の安値水準にある。
3. 米連銀が利上げに踏み切った過去7回の時点の名目GDPは5%~7%増の間だった。前回2004年第2四半期は6.6%増だった。2015年第3四半期の名目GDPは2.7%でしかない。
4. 売上が落ち、在庫が増えている。これは景気後退の前兆だ。
5. 米国債の利回り曲線がフラット化している。短期が利上げを織り込み、長期的なインフレ懸念がないからだ。短期調達・長期運用の銀行の利ザヤが減るため、貸し出しに消極的になる。景気後退の懸念となる。
6. 企業が自社株買いなどにより、1株利益を膨らませている。実際の利益は減っている。
7. ドル高が多国籍企業の利益を蝕んでいる。
8. 製造業はすでに景気後退入りしている。
9. 信用リスク・プレミアムが広がっている。
10. S&P500のPERが過去2番目に高い。
1つずつ補足してみよう。
1. バルチック海運指数の低迷について
ドイツや中国の輸出減少がしばしば取沙汰されているが、両国ともに輸入も減少している。むしろ輸入の減少の方が大きく、貿易黒字は拡大している。
為替の影響を除けば、短期間で競争力が目に見えて低下することは少ないので、その国にとっては、輸出の減少よりも、実のところは輸入の減少の方が問題だ。輸出減は世界的な景気後退を暗示するが、輸入減はその国の景気後退を暗示するからだ。
とはいえ、貿易額の減少は世界的な傾向で、バルチック(・ドライ)海運指数はそのことを反映している。
貿易額の減少は価格の低下の影響もあるが、海運価格と世界の商品需要の指標の低下は、積荷そのものの減少を暗示する。貿易障壁が低くなる中での世界貿易の減少は、世界の経済が停滞していることを暗示している。
もっとも、大型原油タンカーのスポット(随時契約)運賃水準を示すワールドスケール(WS、基準運賃=100)は12月9日現在、代表的航路である中東-東アジア間で95となり、この1週間で5割上がった。これが底入れの兆候となって貰いたいものだ。
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2. 商品価格の下落について
商品価格の下落は供給過多によるところが多い。これは需要を先食いしたともいえ、将来の景気後退を暗示する。
原油については、下記を参照して頂きたい。
※原油の長期需給バランスは低価格でしか安定しない。目先は反発も。[PFF]
先物市場は本来、商品の生産者がヘッジ目的のために利用するものだ。例えば、原油価格が1バレル50ドルを超えれば、採算が合う生産者がいるとする。
現状では、採算割れなので何もできない。しかし、原油先物が50ドルを超えてくれば、先物を売却することで、利益を確定することができる。
コスト45ドルの生産者が、先物価格50ドルの時、先物100万バレル相当を売ったとすれば、その後価格が60ドル、70ドルに上昇しても、40ドル以下に下落しても、500万ドルの利益が確保できる。先々の生産分までも売ることができれば、それ以下のコストのものを新規に採掘することもできる。
生産者の数と事情、埋蔵量の大きさとを鑑みれば、原油価格の上値は重い。
代替商品を含めれば、大半の商品は似た状況にあると思われるので、商品価格の上値は重いかもしれない。
3. 2015年第3四半期の名目GDPが2.7%にすぎないことについて
米連銀の現状の金融政策は、ゼロ金利と未曽有の資金供給量を維持したままという、非常事態のままのものだ。このことは、仮に米国が景気後退入りをすれば、量的緩和再開以外の手がないことを意味する。
貿易量が減り、モノ自体が動かない中で、マネーだけを刷り続けるという異常事態に陥ることになる。
4. 売上の低下と在庫の増加について
モノ自体が動かなくなってきている。
5. 米国債利回り曲線のフラット化について
米国にも日本化現象が起き始めている。超低金利政策の継続、量的緩和による長期国債の買い上げでは、起きるべきして起きる現象だ。
6. 企業の自社株買いと実際の利益の減少について
モノが動かず、カネが余ると、自社株買いやM&Aは自然な選択肢だ。モノが動かないと増収増益は難しくなる。
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7. ドル高について
各国通貨の価値はゼロサムだ。多国籍企業の利益もゼロサムに近くなるが、本国送金に関すれば、通貨安での利益を通貨高に送れば減少する。大きな懸念ではない。
8. 製造業における景気後退について
モノ自体が動かなくなっているので、これは世界的な兆候だ。
9. 信用リスク・プレミアムの拡大について
信用リスク・プレミアムは本来あってしかるべきものだ。これがカネ余り、信用バブルで、異常なレベルまで縮小していた。つまり、ジャンク債を高値で買った人が多いということだ。この広がりは2016年の最大懸念の1つかもしれない。
10. 過去2番目に高いS&P500のPERについて
米連銀の現状の金融政策は、ゼロ金利と未曽有の資金供給量を維持したままだ。不況の株高を表す金融相場が継続中だといえる。金融相場でPERをアテにすることは、基本的に間違いだ。
『相場はあなたの夢をかなえる ―有料版―』(2015年12月14日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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