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過度の懸念は後退へ。原油価格の低迷を織り込み始める株式市場=馬渕治好

原油価格はまだ下落する可能性が高いが、今後、それが世界の株価などに与える影響は小さくなる――その理由とは?メルマガ『馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』より、米CFA協会認定証券アナリスト・馬渕治好さんの分析をご紹介します。

原油価格の先行きと、その影響をどう考えるか?

中国の景気後退よりも、供給側の要因が左右

原油価格の先行きについては、まだ下押しする可能性が高く、将来価格が底入れ上昇しても、上昇余地は極めて限定的であると考えます。

しかし原油価格下落ないし低迷が、世界の株価などに与える影響については、足元の過度の懸念は後退し、株価押し下げ要因になりにくくなってくると予想します(ただし、原油輸出国の株価、債券、通貨に対しては、もちろん警戒的に臨むべきです)。

原油価格下落の背景には、中国などの景気後退とエネルギー需要減退も要因として存在はしますが、それより供給側の要因が大きいと推察します。

12/4(金)のOPEC(石油輸出国機構)では、減産に向けての合意が全くできませんでした。これは産油国それぞれが、「うちの国は稼ぎたいから大いに増産したい、しかし原油価格が下落することは困るから、他の国が減産しろ」と身勝手なことばかりを考えているため、まとまるものもまとまらない、と言えます。

加えて、サウジアラビアが引き続き減産に後ろ向きです。原油生産量が第1位であり続けたサウジアラビアは、2014年に米国に抜かれてシェア2位に転落しました。サウジは生産量を維持して原油価格を低迷させ、体力勝負で米国やロシア、ブラジルなどを振り落とし、再度シェア1位に踊り出る腹積もりです。

ところがその米国のシェールオイル・シェールガスは、次ページで述べるように、生産コストを下げ続けており、足元では1バレルの生産コストが20~25ドルのところも出てきているようです。したがって、サウジの我慢比べは失敗し、米国に敗れると見込みます。

加えて、核開発疑惑について米国と合意に至ったイランの原油輸出が、近いうちに本格的に再開されると予想されています。米国も12/18(金)に、40年ぶりの原油輸出解禁を決定しました。また、長期的な代替エネルギー開発や省エネの潮流も、止まることはないでしょう。

こうした需給要因を踏まえると、原油価格は当面はさらなる下落の可能性があり、中長期的に価格が底を打っても、余り上がることはない、と考えられるわけです。

こうした原油価格(並びにそれにつれての、天然ガスなどのエネルギー価格)の下落ないし低迷は、中東諸国やロシアなどの原油輸出国には打撃です。こうした諸国の株式、債券(国債など)、通貨への投資は避けるべきでしょう。

しかし、日米欧やインドなど、多くのエネルギー輸入国にとっては、原油価格下落は経済にプラスです(米国は、述べたように原油生産量が世界第1位ですが、原油消費量も莫大であるため、原油を輸入しています)。

日本の株式市場では、サウジアラビアやクウェートなどの産油国が、日本株の売却を進めていることが悪材料視されています。しかしそうした産油国が、日本株に投資してきた原資がどこから来たかと言えば、日本などの原油輸入国が支払った輸入代金です。そうして日本が支払った資金の一部が、日本株投資の形で還流していたわけです。

原油価格下落で、産油国から日本への投資が減少することを懸念するが、日本から原油輸入代金の支払いという形で産油国に流れ出す資金の減少は好感しない、というのは、余りにも片手落ちであると考えられます。

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原油価格に影響大、シェールガスを取り巻く状況は?

シェールガスについては、2012年12月23日付の当メールマガジン第78号でも述べましたが、再度解説します。

シェールガスは、既に多く報じられ、かなり有名になってしまいましたが、頁岩(けつがん)の層にある天然ガスを言います。頁岩は泥板岩とも呼ばれ、英語でシェール(shale)と言います。泥からできた堆積岩で、堅いのですが、横に薄く割れます。薄く割れた様子が、ちょうど本の紙のページ(頁)のようなので、「頁岩」の名前がつきました。

技術革新によって、この頁岩の層に、薬品を含めた水を送り込んで、地層内の割れ目に少しずつある天然ガス(シェールガス)を取り出せるようになりました。

シェールガスについては、米国産ばかりが話題になっていますが、米国だけではなく、様々な地域に存在します。

IEA(国際エネルギー機関)の推計によれば、シェールガスの埋蔵量が最も多いのは中国で、続いてアルゼンチンなどの南米であり、米国は第3位です(米国の埋蔵量は、中国のほぼ半分強)。また、メキシコ、欧州、アルジェリアなどの北アフリカなどにも、広く存在します。

しかし次のような理由から、生産拡大は米国が他国より有利な情勢です。

  1. 大量の水が必要なため、中国山間部や北アフリカなどでは水の確保が難しい。
  2. 枯渇すると次の場所に移って掘削するため、広大な土地があった方が有利で、欧州では難しい地域が多い。
  3. 土地所有権の調整が難しい国や環境規制が厳しい国がある。
  4. 米国では、ガス開発のベンチャーが多く、投資資金もつきやすい。

なお、シェールガスは、述べたように、シェールの地層に少しずつあるので、探索が難しく、しかも当初は有効な採掘方法がありませんでした。このため、シェールガスの採掘に最初取り組んだのは、ベンチャー企業ばかりで、大手エネルギー企業は手を出しませんでした。

当初のシェールのガス田では、生産コストが原油に換算して、1バレル当たり80ドル近辺であったと言われています。したがって、原油価格が下落した局面では、シェールガスを手掛ける、一部のベンチャー企業が立ちいかなくなりました。

そうした企業は大手エネルギー企業に買収され、大手企業は豊富な資金力を活用して、採掘の先端技術に投資を行ないました。結果として、買収されたガス田の生産コストが低下し、昨年の段階では、1バレルの生産コストが40ドルのガス田が現れた、と言われていました。

さらに今年、筆者が11月の米国出張で取材したところでは、1バレル20~25ドルのコストのガス田が出てきているとのことでした。こうした数値は、先般来日した、世界銀行の国際商品市況アナリストからも、同様のものを聞いています。

このように、米国のシェール業者は、生産コストの低減を大いに進めていますので、サウジアラビアが体力勝負に出ても、負けるのは米国ではなく、サウジアラビアの方ではないか、と考えています――


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馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』(2015年12月20日号外)より一部抜粋
※チャートと太字はMONEY VOICE編集部による

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