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中国、経済崩壊寸前へ。銀行が抱える不良債権がGDPの10%にまで拡大=勝又壽良

米中対立は明らかに中国側が不利です。ファーウェイ問題と金融不安のダブルパンチで、倒産企業債権がGDPの10%にまで迫るほどの経済危機を迎えています。(『勝又壽良の経済時評』勝又壽良)

※本記事は有料メルマガ『勝又壽良の経済時評』2019年8月1日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にご購読をどうぞ。当月配信済みのバックナンバーもすぐ読めます。

プロフィール:勝又壽良(かつまた ひさよし)
元『週刊東洋経済』編集長。静岡県出身。横浜市立大学商学部卒。経済学博士。1961年4月、東洋経済新報社編集局入社。週刊東洋経済編集長、取締役編集局長、主幹を経て退社。東海大学教養学部教授、教養学部長を歴任して独立。

ファーウェイ問題と金融不安の2大厄災で中国経済は行き詰まり

米中「休戦」の間に中国経済はどんどん悪化

6月末の米中首脳会談によって、米中貿易戦争は「休戦」状態に入っています。通商協議再開で合意しましたが、ようやく7月末に上海で開かれたという始末です。米中は、互いに相手の出方を窺う様子見の状態です。

米国は、中国の農産物輸入が遅れていると非難しています。中国は、ファーウェイ(華為技術)への輸出禁止の緩和を求めています。互いに、相手国へ要求を出したまま「組み合って」います。

苛立ちを見せる米国トランプ大統領は、「中国は、自分の大統領再選が決まるまで合意を引き延ばす積もりだろう。だが、再選後には中国への条件はさらに引き上げる。あるいは、合意しないで放置する」とまで言い放っています。中国へ圧力を掛けていますが、中国は、「対等な条件」でなければならない、とやり返しています。

中国は、独裁政権ゆえに国内的には強い立場のはずですが、実際は「反習派」や党長老の意見も無視できません。8月に入れば避暑を兼ねて、党幹部と長老を交えた恒例の「北戴河会議」(河北省:非公式)が始まります。党幹部といえども、長老の前に出れば緊張します。昨年は、米国との貿易戦争が厳しく批判され、習氏は劣勢を強いられたほどでした。昨年の例から言えば、今年はさらに不利な状況です。この「北戴河会議」で、今後の方針についての了解を得た後に、米国と交渉するのでしょうか。

習政権が、こうした党内手続きに時間を取られている一方、中国経済の実態は悪化しています。

市場経済の国家であれば、経済データは経済政策決定において、重要な指針になります。中国のような統制経済国家では、悪い経済データが出て来てもさほど悩む気配は見られません。市場機構で処理するのでなく、政治機構で強制的に措置してきた慣例上、「誰かがなんとかするだろう」という高を括っているようです。

その結果が、対GDP比で300%を超える債務総額に膨らんでおり、手の施しようがない事態を招いています。

製造業PMIは50割れ

景気の実勢を示すのが、製造業PMI(購買担当者景気指数)です。7月は49.7で、3ヶ月連続50を割り込みました。これは、景気が縮小過程にあると判断されています。

7月の製造業PMIの中身を詳しく見て行きます。

製造業PMI:49.7(前月比+0.3%)
輸出受注:46.9(前月比+0.6%)
生産:52.1(前月比+0.8%)
雇用:47.1(前月比+0.2%)

サブ指数のなかでは、生産が前月より0.8ポイントも高くなっています。これは、大手国有企業の生産回復が寄与したものです。前月の6月は連休の関係で、7月はその分が「オン」されています。輸出受注と雇用は、50を大きく割っています。輸出受注が芳しくないので、雇用を削っていることが、ともに50を割る理由になっています。

以上の3つのサブ指標から「病める中国経済」の姿が浮かび上がりました。

Next: 病める中国経済。個人消費が伸び悩む当然の理由とは?



「金融不安」が中国経済最大の問題点に

7月PMI調査では、国有企業を中心とする大企業の活動が拡大に転じた様子がわかります。中小企業は逆に、前月から悪化したことが明らかになっています。これは、中小企業が信用不安に襲われていることを示唆しています。

中国の国有企業や民営大手企業の金融は、国有銀行を窓口にしていますので安泰です。中小企業は、中小金融機関との取引か、「影の銀行」(シャドーバンキング)に頼ってきました。このいずれもが、多額の不良債権を抱えて身動きできないのです。

企業経営にとって、日々の資金繰り不安があっては前向きの経営に取り組めません。7月の非製造業PMIは53.7と、前月の54.2から低下し、8カ月ぶりの低水準となりました。

この背景には、金融不安が相当の影響を及ぼしていると見るほかありません。金融不安が、中国経済最大の問題になっています。これには、解決の妙案がありません。解決は長い時間とコストがかかります。詳しくは、後で取り上げます。

中国共産党中央政治局は30日、需要喚起など景気支援に向けた取り組みを強化すると表明しました。しかし、不動産市場を活用した短期的な刺激策は行わない考えを示しています。

今まで、景気の即効薬として不動産市場をテコ入れしてきました。これが、消費者に「住宅価格は必ず上がる」という住宅神話を植え付けたのです。所得に見合わぬ高値の住宅を買い込んだ理由です。

こうして家計部門が、過剰債務を抱えて消費を切り詰める事態を迎えています。個人消費が伸び悩んで当然なのです。

不動産バブルに頼れない

現在、中国経済に起こっている現象は、紛れもなく不動産バブルの後遺症です。

中国政府は、私の知る限り一度だけ「不動産バブル」という言葉を使いました。私はこれを見て、中国政府の「経済失政」を批判しました。その後は一切、使っていないようです。自らの責任になる言葉を忌避しているのです。

不動産バブルで、農地を見境もなく宅地に転用した結果、農地不足が深刻になっています。そこで、古い墓を潰して農地に戻す事態を招いています。中国では、「祖先墳墓の地」を大切にするはずです。そういう美風を覆してまで、農地確保の必要性に迫られています。このことからも、もはや不動産バブルで経済成長を図る時代でなくなったのです。

Next: 中国が不利なのは当然?ファーウェイ問題と信用不安のダブルパンチ



米中対立で中国が苦しむのは当然

経済構造大転換の現在、米中貿易戦争が起こりました。

中国の経済改革派は、米中貿易戦争への突入に強く反対しました。米国の要求は理に適っており、中国経済の近代化に資すると主張しました。保守派=民族派はこれに反対したので、関税引き上げ競争に突入しました。勝敗の帰趨(きすう)は、最初からわかっていました。中国の対米輸出額と、米国の対中輸出額を比較すれば、関税引き上げで不利になるのは中国です。中国経済が今、輸出不振で塗炭(とたん)の苦しみに遭っているのは当然のことです。

こういう状況下でも、中国政府は米国との妥協を拒否しています。ファーウェイが、米国から禁輸措置を受けたからです。

ファーウェイ問題は、中国が5月突然に、米中合意を土壇場でひっくり返した報復措置です。中国は、これにこだわっていると、本題の通商交渉が進みません。中国経済は、7月の製造業PMIで明らかなように、輸出不振が景況悪化をもたらしています。

一方では、信用不安が襲っています。前門の虎(ファーウェイ)と後門の狼(信用不安)という2大難関に挟まれています。

信用不安から信用収縮へ

信用不安とは何か。改めて考えてみます。

信用不安とは、まず企業が倒産するかもしれないという噂や情報が飛び交うことです。金融市場で信用不安が広がると、クレッジットクランチ(信用収縮)を引き起こします。信用不安が社会全体に広がると、金融市場の暴落金融機関の破綻などに結びつきやすく、経済を悪化させる要因と考えられています。

現在の中国は、前記の状況にはまり込んでいます。社債のデフォルト(債務不履行)が頻発しています。最近は、ドル建て債券までが元利金を返済できず、デフォルトに陥っています。

この結果、クレッジットクランチ(信用収縮)が進んでいます。金融機関が貸し渋り状態になっています。中国人民銀行が、相次ぎ預金準備率を引き下げても、マネーサプライ(M2)の増加率は、毎月前年比8.5%程度でそれ以上は増えません。銀行が、信用創造を抑えている=貸し渋りをしている結果です。

この状態は、日本もバブル崩壊後に起こりました。当時は、多分に銀行がヤリ玉に上げられました。「銀行は雨が降ると傘を取り上げる」という比喩で、マスコミを賑わせました。

銀行にとって最も怖いのは、デフォルトの発生です。ある銀行では、貸出責任者の三代前まで責任遡及という話を聞きました。それだけ、貸出には銀行マンの責任が伴うという例でしょう。

Next: なぜ中国の銀行は中小企業に融資できない?中国経済は行き詰まりへ



なぜ中国の銀行は中小企業に融資できない?

中国の銀行が、中小企業融資に二の足を踏んでいる理由として、次の3つが上げられています。

  1. 経済の先行き不透明感
  2. 米中貿易摩擦
  3. 当局が進めてきた金融システムのリスク圧縮の取り組みへの対応

それぞれにコメントをつけます。

1)経済の先行き不透明感:バブル経済崩壊という事態の中で、過剰債務が重圧となっています。6月の生産者物価指数(PPI)上昇率が、前年比ゼロ%(横ばい)では、損益分岐点の上昇から経営は赤字でしょう。これでは債務の返済が不可能です。

2)米中貿易摩擦:中国の最大の輸出先である米国との衝突です。高関税で競争力を失った中国企業は輸出を諦めるか。また、ベトナムなど近隣国へ移転して高関税の壁を乗り越えるかです。銀行にとっては、競争力がなくて他国進出を諦める先には融資できません。

3)当局が進めてきた金融システムのリスク圧縮の取り組みへの対応:当局は、影の銀行融資が、放漫融資の原点という捉え方で、昨年春頃から取締を厳しくしてきました。銀行は、高い利ざやが稼げることから、影の銀行への融資を増やしてきました。それだけに、当局の取締は打撃となり融資全体を絞りました。

以上の3点に示されているように、中国の金融システムは相当なダメージを受けています。

146兆円の無価値資産

世界最大級の金融グループで、スイスに本拠を置くUBSグループのアナリスト、ジェーソン・ベッドフォード氏は、250行近い中国の銀行が公表する財務諸表を細かく読み込んだ結果、次のような驚くべき事実が浮かび上がったと報じました。

中国の銀行が計2兆4000億元(約38兆円)相当の資本不足に陥る可能性があると分析。同氏の試算によると、より幅広い国内銀の「ディストレス」資産は9兆2000億元(約146兆円)と、市中銀行システムの約4%、GDPの10%近くに上る。

出典:中国の銀行、38兆円の資本不足-中小銀に警鐘のUBSアナリスト – Bloomberg(2019年7月31日配信)

この試算結果を発表したジェーソン・ベッドフォード氏は、包商銀や錦州銀の倒産問題が市場に広く認識されるかなり前から警鐘を鳴らしていたエコノミストとして著名です。この深く掘り下げたリポートは、「中国の銀行システムが、どこに向かっているのかを知る手掛かりとして、世界の投資家にとって必読」とブルームバーグは報じています。

「ディストレス」資産とは、経営が行き詰まった企業の資産で、銀行が担保で抑えているものです。それが、中国GDPの10%、市中銀行システムの4%にも達するとは驚くほかありません。

ベッドフォード氏は、この分野のスペシャリストだけに、固唾を飲む思いがするのです。ここまで、不動産バブルを放置した習近平の統治責任は重大です。

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2019年7月配信分
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勝又壽良の経済時評』(2019年8月1日号)より一部抜粋
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勝又壽良の経済時評

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経済記者30年と大学教授17年の経験を生かして、内外の経済問題について取り上げる。2010年からブログを毎日、書き続けてきた。この間、著書も数冊出版している。今後も、この姿勢を続ける。

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