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正しく理解する「バブル崩壊」の歴史~暴落と調整を見分けるために=若林利明

東京株式市場を30年間強見てきましたが、暴落とされる相場は3回あったと思っています。人によって暴落の表現の意味・内容が若干異なりますが、今回取り上げるのは運用上の“皮膚感覚”とも言うべき私なりの定義です。以前にもこの内容に触れましたが“調整”との比較をしながら見ることが重要です。(『投資の視点』若林利明)

筆者プロフィール:若林利明
外資系機関投資家を中心に日本株のファンドマネージャーを歴任。現在は創価女子短期大学非常勤講師、NPO法人日本個人投資家協会協議会委員。世界の株式市場における東京市場の位置づけ、そこで大きな影響力を行使する外国人投資家の投資動向に精通する。著書:「資産運用のセンスのみがき方」(近代セールス社)など。

この株価下落は「暴落」か「調整」か?見分けるために大切なこと

暴落と調整の違い、私なりの皮膚感覚

暴落を特徴づけるのは特にその期間と下落率です。大雑把に高値からの下落率50%以上、暴落する期間が1年以上であることがその内容を決定づける主たる条件です。

暴落は当然その渦中に“暴落”と明確に分かるわけではありません。あくまで、後日振り返って理解出来るものと思います。

しかし、論理的ではありませんが、ただ何となく一過性でないことを肌で感じることがあり得ると思っております。

一方、暴落に似て非なるものに“調整”があります。この認識も非常に重要です。

暴落が生じた時、その最大の回避方法は撤退です。つまり株式投資から一端すべて手を引くことが最善の策です。期間の長さを暴落の条件としておりますが、それを1年以上としたことには大きな意味があります。

仮に暴落に遭遇した場合、個人投資家が自分自身の運用株式を、いわゆる塩漬けにして数年間触れずにおくことは良くあることです。

しかし、運用をビジネスとする機関投資家はそれが出来ません。1年以上の空白期間が予想され、顧客の決定が撤退ということになればそれは運用ビジネスの休業、あるいは閉鎖かもしれません。つまり商売できません。

“調整”と呼ばれる場合は市場の短期的修正と見ていることにより使われる用語です。市場の上昇スピードが速すぎてオーバーヒート状況になると「目先調整が必要」といった市場用語で説明する場合があります。

「暴落」の例

「調整」の例

全く自然に生ずる場合もあれば、経済指標の部分的悪化などをきっかけに生ずる場合もあります。要するに市場に一服感が満ちた時、誰かに背中を押され、それが引き金になるケースです。

Next: アベノミクス相場における「調整」/バブル崩壊と「暴落」の歴史



アベノミクス相場における数回の「調整」

2012年の年末から東京市場はアベノミクスをきっかけに上昇局面に入りますが、その流れの中で直近に至るまで数回“調整”があったように思われます。 前述したように暴落との対比で下落率、下落期間の異なる点が重要です。

世界的低金利状態が定着した市場では、機関投資家間の競争、またそれに呼応する金融商品の開発等が、しばしば、調整という“綾”を作り出します。「この綾は、本格的に米国のマクロファンダメンタル、企業業績に反映すれば深刻ですが、単なる綾であれば調整となります。基本は米国経済の中期的な動き」です。

日本で生じた暴落は3回ですが、その時の外国人投資家の投資スタンスが異なることを再度確認しましょう。当時の行動をレビュー、彼らの行動を理解すれば今後の東京市場の見方の助けとなるのは確かです。調整時の外国人投資家の売り買いと比較して整理しておくことが大事です。

覚えておきたいバブル崩壊と「暴落」の歴史

1.金融バブル

歴史的高値を付けた段階で東京市場のPERは60倍以上、PBRも5倍~6倍の状態でした。当時外国人投資家の東京市場での株式保有比率は5%~7%です。外国人はこの相場に売り手として市場参加しました。

世界の市場からみると東京市場というローカル市場が国内要因(過剰流動性、余剰資金吸収の一環)で勝手にクレージーな上昇をした、との印象です。最近、当時の動きと比較することがありますが、あまり意味のないことです。

2.ITバブル

米国ではハイテクブームが起こり、その種の銘柄が多く上場しているNASDAQ市場に資金が殺到、市場平均でなんとPER30倍まで買われたのです。ニューヨーク市場はそれ程踊っておりません。

その余力で東京市場のハイテク銘柄と称される7業種(自動車、精密、電気機器等)が集中的に買われました。2000年には外国人による東証一部日本株の保有比率は20%近くに達しておりました。日本の投資家は大手銀行への公的資金が投入され東京市場に安堵感が漂っている頃、外国人投資家のハイテク銘柄への積極買いにより活気づけられたのです。

しかし、NASDAQはその後、業績予想が落込む事が次第に明らかになり買い上った銘柄が急速に値を崩すことになったのです。東京市場もそれに追随、外国人投資家の売りで崩れたのです。金融バブル崩壊とは全く異なるものです。

3.米国金融市場崩壊

米国、ニューヨーク市場は米国国内の資金余剰のはけ口を各種商品に求めました。その典型がサブプライムと称する個人向け住宅融資です。単純にいえば個人の信用膨張を金融機関が煽ったのです。法人向けには信用保証のビジネスを展開、こうした低金利を背景としたビジネスが破綻したのが2008年のリーマンショックです。

米国第4位の証券会社の倒産です。金融業界発信の世界不況です。落ち着くまでには時間がかかりました。東京市場も外国人の売りに呼応し同一歩調です。しかし、急速な円高により日本企業の利益落ち込みが加速され、日本の不況感は4年位続き先進国間では最長となりました。

そこには、企業業績、PER水準等が世界の株価同一現象の下に忠実に再現されております。ニューヨーク株式市場の動きとそこでの株価決定要因の反映された東京市場です。

【関連】デフレの国・日本における「マイナス金利政策」の盲点=三橋貴明

投資の視点』(2016年2月2日号)より一部抜粋

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