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しまむら、客離れ加速で業績悪化。ユニクロを目指して主婦に嫌われる大失策=栫井駿介

しまむら<8227>の業績悪化が続いています。2019年2月期の営業利益は41%減少し、減収減益となりました。直近の第1四半期も20%営業減益と冴えません。ライバルのユニクロは好調を維持していますから、環境のせいでもなさそうです。しまむらは「オワコン」になってしまったのでしょうか。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

なぜ主婦の心は離れた?「裏地あったかパンツ」の成功が転機に…

営業利益は2年前の半分に…

しまむらといえば、「主婦向け格安ファッションの店」として郊外を中心に出店を拡大し、勢力を伸ばしてきました。主力ブランドの「ファッションセンターしまむら」は1433店舗にのぼります。2017年2月期には過去最高の売上高、営業利益を達成し、飛ぶ鳥を落とす勢いでした。

出典:マネックス証券

しかしそこから業績に陰りが見え始め、2018年2月期は減収減益に転じ、2019年2月期には利益が2年前の半分になってしまったのです。当然、株価も大きく下落しています。

しまむら<8227> 週足(SBI証券提供)

なぜこんなにも急に業績を落としてしまったのでしょうか。そのヒントは、決算短信に記載されています。

「当社グループは、当連結会計年度の期初に“規模の拡大と基盤の整備”をテーマとして掲げ、全事業の業績最大化に向けて取組みを行って参りました。第2四半期までの取組みにおいて、極端な品揃えの絞込みや価格政策は、お客様に不信感を与え、結果として既存店の売上を落とす結果となりました。」(2019年2月期決算短信)

特に目立つのが「極端な品揃えの絞込みや価格政策」の部分です。これが業績不振の最大の要因と見られます。一体どんな失敗をしてしまったと言うのでしょうか。それを知るためには、さらに1年前の決算短信にさかのぼる必要があります。

「「CLOSSHI(クロッシー)」に集約したプライベートブランドは、新たに「CLOSSHI Sports」「CLOSSHI Baby」「CLOSSHI Kids」「CLOSSHI VALUE」の展開を始め、価値と価格のバリエーションを広げて品揃えを充実させ、お客様の支持拡大を図りました。」(2018年2月期決算短信)

このように、主にプライベートブランドについて施策を実施したことが分かります。

Next: なぜ主婦の心は離れた?「裏地あったかパンツ」の成功がもたらしたもの



「裏地あったかパンツ」の成功がもたらしたもの

しまむらはこのプライベートブランドで「プチバブル」を経験しています。

2017年2月期は「裏地あったかパンツ」が大ヒットし、過去最高業績を達成する原動力となりました。これに気を良くして、売り場でもプライベートブランドの拡充を図ったと思われます。

プライベートブランドは、小売業にとっておいしいものとなっています。自社で一貫して開発や製造をおこないますから、中間コストが省けて高い利益率を達成できるのです。大手スーパーやコンビニでもよく見られるようになりました。

同業のユニクロはその最たる例で、全ての商品がプライベートブランドです。ここまでくると「製造小売業」(SPA)と呼ばれます。

しまむらも「ユニクロ型」を目指したのでしょう。裏地あったかパンツに続くヒット商品をと、次々にプライベートブランドを投入しました。

私も数ヶ月前に店舗を訪れましたが、どの棚へ行ってもプライベートブランドがアピールされている印象を受けました。

しかし、私は結局何も買わずに店を出てしまいました。どこか「思っていたのと違う」印象を受けたのです。この違和感が、現在の業績不振の要因になっているように感じます。

何が違うのか。それは顧客がしまむらに求めるものです。

顧客がしまむらに求めるもの

しまむらと言えば、本来「数多くの種類の商品が手頃な値段で並んでいる」場所です。様々な(ほとんど無名の)メーカーの商品が並べられ、この中から自分のお気に入りの商品を見つける「宝探し」のような感覚がありました。

これが主婦層の心に絶妙にマッチしたのだと思います。主婦は価格に厳しい一方で、女性として他人と「被る」のを嫌います。私の妻もそうです。だから、安易にユニクロで統一することを敬遠します。

そこで、しまむらを活用することで「ユニバレ」(ユニクロがばれること)や「被り」を回避できたのです。しまむらの商品は買ったお店を特定することが困難ですし、数多くの種類の中から選ぶので被りはほとんどありません。

すなわち、顧客がしまむらに求めるものはこの「宝探し感」にあったのです。それを、事業的には細かな在庫管理や物流コストの削減で安く提供していたのです。

しかし、当のしまむらはその「強み」を認識していなかった可能性があります。

売り場をプライベートブランドで固めたら、他の商品は目立たなくなり、種類も減少してしまいます。すると「宝探し感」がなくなってしまうばかりか、「ユニバレ」ならぬ「シマバレ」が発生してしまいます

顧客はしまむらで買いたいわけではありません。ユニクロでは買いたくない人が、その代替策としてしまむらを利用しているのです。そこで明らかにしまむらとわかるプライベートブランドをメインに売ってしまったら、もはや誰も買いたがる人はいないでしょう。

つまり、しまむらはプライベートブランドによって自らその強みを消してしまったのです。目の前の利益を追求してしまったがために、本当に大切なものを失ってしまったように見えます。

Next: マネして大失敗…?ユニクロも最初からうまくいったわけではない



ユニクロも最初からうまくいったわけではない

プライベートブランドによる失敗では、最近だとZOZOが浮かびます。「ZOZOスーツ」を無料配布し、オリジナルのオーダーシャツなどを開発しましたが、出店ブランドとの軋轢を生む結果となりました。

【関連】ZOZOTOWNとユニクロの全面戦争勃発!アパレル業界の覇権を握るのはどっちだ?=栫井駿介

ZOZOの場合は、自社の収益が出店ブランドに支えられているにもかかわらず、それらを裏切る行為を行ってしまったことが悪手と言えます。また、商品自体があまりうまく生産できていないという話もあります。

すなわち、小売企業がいきなり商品を作るのは簡単ではないのです。確かに設計をして中国やベトナムの工場に持ち込めばそれなりのものは作ってもらえるでしょう。しかし、高いクオリティを維持し、かつ顧客の心を捉える商品を作り続けるのは容易ではありません。

あのユニクロですら、フリースこそヒットしたものの、最初の頃の商品はちゃちでダサいものばかりでした。それが長い時間をかけてようやく洗練され、今ではようやくデザイン、クオリティともに最先端の水準にあります。「ローマは一日にして成らず」です。

ファーストリテイリング<9983> 月足(SBI証券提供)

ユニクロを目指すのか、元のしまむらに戻るのか

気になるのが、しまむらの今後です。失敗を受けて挽回を図っていますが、まだその効果はあらわれていません。一度失った顧客を取り戻すのは容易ではないのです。

方向性としては、このままユニクロのようなSPAを目指すか、あるいはもとのしまむらに戻すかが考えられます。

しかし、すでにユニクロという強者がいる中で、真っ向から戦うのは現実的ではありません。ひとまずは、一刻も早くもとのしまむらに戻す必要があるでしょう。そのためには、顧客に真摯に向き合わなければなりません。

Next: どうすれば復活できる?強みを伸ばすことが長期的な成長につながる



強みを伸ばすことが長期的な成長につながる

落ち着いてきたら、次の戦略を打たなければなりません。

「非ユニクロ戦略」にも限界があると思います。会社全体としては、「しまむら」ブランドだけでなく「アベイル」「バースデイ」などを成長させ、マルチブランド戦略を強化するのが現実的だと思います。

間違ってはいけないのが、自社の強みから離れてはいけないということです。しまむらの強みは、機動的な流通戦略によってもたらされる低コストと品揃えの豊富さにあります。これらはまだネットでは太刀打ちできない分野です。

強みしっかりと認識し、履き違えることなくいかにうまく活かせるかが、今後のしまむらの成長の鍵を握ると言えそうです。


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image by:田村淳 at Wikimedia Commons [CC BY 3.0], via Wikimedia Commons

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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2019年7月23日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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