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ドイツ銀行はほんとうに破綻するのか?不調の本当の原因はディーリング部門だった=山崎和邦

ドイツ銀行が破綻しそうだという話題が再燃している。なぜこのような事態を呼び込んだのか、また、今後ドイツ銀行はどうなっていくのかを考察してみたい。(山崎和邦)

※本記事は有料メルマガ『山崎和邦 週報『投機の流儀』』2019年7月21日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

個別銘柄の見方──今回は銀行業とドイツ銀行株

アベノミクス時代の数年かで最も経営環境の厳しかった銀行業

銀行業は、短期資金を集めて長期で貸すことをメイン・ジョブとしてきた。したがって、長短金利差(短期金利<長期金利)が収益源となる。ところが今、短期金利に低下の余地が残されている状態であり、アメリカでは短期金利の方が高い

長期金利の水準は将来にわたる短期金利の動きの平均値を基準とする。そのため将来短期金利が上昇する可能性があれば、その利益幅は小さくなるという道理だ。長短金利差の拡大は銀行の収益環境を好転させることはもちろんである。

ところが、短期金利が既にゼロ金利政策に直面して低下の余地をなくしている状態下で、このうえで長期金利を一層金融緩和で低下させるとすれば、長短金利差はますます縮小する。すなわち銀行の収益源はますます縮小することになる。

アメリカでは長短金利差の逆転現象が起こっている。これは金融政策の歪みである。
日本でも長短金利差の縮小は銀行経営を圧迫
する。資本主義経済体制の血脈たる銀行が疲弊したから「失われた13年」(90年~03年)の不良債権未処理で身動きがとれなかった銀行時代には全産業が萎縮した。「こうしたゆがみを放置すると、実体経済の資源配分にも悪影響が生じる」(これは池尾和人教授(★註)の言い分である。

(★註)53年生まれ、京都大学経済学部卒、同博士、現在立正大学教授)。

銀行株は最初に大底を採りに行く可能性が高いとみる。

ただし、「持ち合い解消の売り」が出るか否かを考慮に入れて、もしその件で下落したら長期の買いの好機だと思いたい。

Next: 1万8,000人の人員削減も、ドイツ銀行は本当に破綻する?



ドイツ銀行株の今後の行方について考察する

今回はドイツ銀行のことを要約したい。3~4年前にドイツ銀行が危ないという話しが出た時に筆者は外債に詳しい者から聞いて、ドイツ銀行の社債をジャンク債投資として買って短期間で少々利食いしたことがあった。

それ以来ドイツ銀行に興味を持った。まず、ドイツ銀行が危ない、潰れる寸前まで来ているという話しが根拠もなしに伝わっている

もしドイツ銀行が本当に破綻したならば、これはリーマンショックよりも大きい。日本で言えば、三菱銀行・三井住友銀行・みずほ銀行がいっぺんに破綻したのと同じぐらいのことになると想定して良いぐらいである。ドイツ銀行が「身を切る改革」に進んでいるがというが、1万8,000人を削減するという。

平時におけるみずほ銀行でさえも、2万人を削減すると言っている。ドイツ銀行の経営失敗は、もとはディーリング部門の失敗である。自社の金を使って相場で利益を上げようということに失敗したのが、山一證券・三洋証券等の巨大証券であり、その10年以上前から日本で5番目の証券会社の国際証券(今は三菱UFJ国際証券となって見る影もないが当時は5番目だった)に、豊田善一氏はそこの社長として野村證券の副社長から転籍した。

そして、10数番目だった国際証券を短期間で5番目の地位までもってきた。その国際証券元社長豊田善一氏とは筆者は新人の頃から良く知り合っていた。

筆者は、彼の直属の部下になったことはないがある程度親しい仲だった。

とにかく良く仕事をする超リアリストだった。彼が10数番目の会社をあっという間に5番目にした理由はそれは単純明快なことだった。会社の金を使って相場で儲けようということを一切やめさせたからだ。「儲かるからやろう」と主張するディーリング部門の責任者に対して「儲かるならば顧客に儲けさせろ。そして手数料を頂け」、これを徹底した。

単純なことだった。彼が野村證券で株式担当役員をしていたころ、相当に頭も良いし腕も良い優れた人をディーリング部門の責任者を担当させたが、全員が皆、うまく行かなかった。「相場を張ってとるということは難しいのだ。それを一切やめさせたからだ良かったのだ」と豊田氏は誰にも語っていた。

野村証券創業者の野村徳七翁は、日露戦争相場で大儲けし、そこで考えた。「もし相場の目が反対に出たら恐ろしいことになった。もう相場を張って儲けることは止めた。経済を調査し、企業を調べてそのうえで投資をするのだ」と。これが「調査の野村」のブランドの始まりだった。そこで周防行40周年を期して鎌倉に大規模な野村総合研究賞を設立した。これを以て日本の「総研」の嚆矢と為す。

100年以上前に野村徳七翁が悟り、40年前に豊田善一氏が実行し、30年前に筆者が銘記して実行してきた基本方針を、ドイツ銀行は今から「改革」に取り組むという。聡明なはずのゲルマン民族の銀行としては遅きに失した感がある。だからこそ今から大底圏内を買うという好機がある。

ドイツ銀行はその部門で失敗した。米モルガンスタンレーも米ゴールドマンサックスもトレーディング分野の見直しを進めている。スイスのクレディスイスもトレーディング部門を縮小して、顧客の資産の運用部門に軸足を移したという。

30年数年前に野村證券副社長から国際証券社長に就任した豊田善一氏は、平成バブルの真っ最中、どこの会社でもディーリング部門で儲かっている最中に、それを一切やめさせた。「一株でも買ったらクビにするぞ」とディーリング部門の責任者に言い渡した、と筆者にも語ったし30年前に三井ホームが上場するときに7%の幹事証券になったので豊田社長は時々三井ホームに来た。その時にも常に同じことを言っていた。

Next: 今後、ドイツ銀行はどのように持ち直していくつもりなのか



商業銀行部門を軸足に考えるも、シェアの割り込みは厳しい見込み

ドイツ銀行が欧州を基盤に投資銀行部門(日本で言えば証券会社)のディーリング部門を縮小して、商業銀行部門(日本で言えば普通の銀行)の企業取引を軸にして青写真を描いているようだ。

だが、地元のドイツ国内市場は公的資金や地域金融機関が高いシェアを締め、そこに割り込んでいくのは難しい。隣国に仏パリバ銀行がある。イタリアのウニクレディトなどとの競争も激しい。国内の商業銀行部門(日本で言えば普通の銀行)が儲けにくいから20年前に投資銀行部門(証券会社)のディーリング・ブームに走った。これが間違いのもとだ。山一證券や三洋証券がやって来た道だ。この部門の蹉跌をまず直し、銀行部門で立ち直ろうしているという。

だが、この先は視界不良である。だから投資のチャンスがあると筆者は見ている。株価で言えば、ドイツ銀行が危ないと言われ出してから約半値になり、6月はじめに「史上最低値段の6ユーロ前後」まで下がり、今は再建計画を発表したその期待から7ユーロまで少し戻している。ここからが正念場だ。

著名投資家ジョン・テンプルトンは約80年前に英国留学から帰ってきた若者だったが、生命保険に入れるだけ入って、その生命保険の保険証券を担保として借りられるだけ金を借りて(伝記に、「自分の命を担保として」と書いてあるが)、1ドル未満の株を104銘柄買った。日本で言えば額面割れの株というところであろう。アメリカが第2次世界大戦に参入するという暴落の最中であった。

その後数年で彼は、104銘柄の中で破綻する銘柄も少しはあったが、合計したら巨富を得た。そして彼は企業に就職することなく、投資顧問業と自己の投資で生涯を優雅に暮し成功裡に2008年(だったと思う)に,カリブ海の別荘で知的で質実な大投資家らしい生涯を閉じた。

ウォール街に伝わる名文句や格言は、ジョン・テンプルトンの言ったことがそのまま残っているケースが多い。

彼のマネをするわけではないが筆者は、学ぶべきところは大いに学び(「学ぶ」は元来「真似ぶ」から来たという)ドイツ銀行株を大底買い銘柄候補の一つに加えたいと思っている。ドルで買える証券会社が日本にある。ドイツに口座を開く必要はない。

だが、まだ早いと思っている。しかし、「まだはもうなり」という格言もある。一体どっちなんだ、早く決めろ、というのが「二見に堕す」(禅語)ということで二者択一の窮地に自分を追い込むだけで正解は得られない。ここは考えかつ迷うところである。

もしドイツ銀行がECBの支援を入れてECBからの監視の手が伸びてくるのを嫌って、あるいは介入を嫌って、一騒動でもあれば買いの好機と思いたい。

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第1部;当面の市況

第2部;中長期の見方

第3部;個別銘柄の見方──今回は銀行業とドイツ銀行株

第4部;「太陽黒点と経済危機」──「ジェボンズの太陽黒点説」ではなく

第5部;読者との交信蘭

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image by : Martynova Anna / Shutterstock.com

山崎和邦 週報『投機の流儀』』(2019年7月21日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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大学院教授(金融論、日本経済特殊講義)は世を忍ぶ仮の姿。その実態は投資歴54年の現役投資家。前半は野村證券で投資家の資金運用。後半は、自己資金で金融資産を構築。さらに、現在は現役投資家、かつ「研究者」として大学院で講義。2007年7月24日「日本株は大天井」、2009年3月14日「買い方にとっては絶好のバーゲンセールになる」と予言。日経平均株価を18000円でピークと予想し、7000円で買い戻せと、見通すことができた秘密は? その答えは、このメルマガ「投機の流儀」を読めば分かります。

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