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どうなる米追加利上げ~FOMCメンバーの心証は再度タカ派に傾く可能性も

今週はあまり重要な材料はありません。敢えて言うと、イエレンFRB議長の議会証言が重要ですが、先月のFOMC声明を踏襲した内容になると思われるので、サプライズは見込み難いです。むしろ、他のFOMCメンバーが先週金曜に発表された雇用統計に関して発言するほうが重要と思われます。(『元ヘッジファンドE氏の投資情報』)

今来週の要人発言は利上げペースを見極める上で極めて重要

今週の注目材料

2/10水:イエレンFRB議長下院金融委員会証言
2/11木:イエレンFRB議長上院銀行委員会証言
2/12金:ユーロ圏域内GDP、米小売売上高

マネーの方向性

リーマンショック対応から始まったFRBの量的緩和が2014年10月のFOMCで終了し、2015年12月16日にはリーマンショック初となる米国の利上げが決定されました。

2014年10月の量的緩和終了で他に供給する基軸通貨マネーが無いとマネー逆流になり過剰流動性相場は完全終了するところでしたが、間一髪のタイミングの昨年10末に日銀が追加緩和をしたことで、先進国に関してはリスクオフには歯止めが掛かりました。

その後、原油安やギリシャ政情不安が出てきたところでタイミング良く2015年3月から欧州ECBによる量的緩和も始まり、昨年10月理事会後の定例会見で今年12月には更なる緩和があるとECBがアナウンスし、先月理事会で予定通りに追加緩和を決定しています。

何もなければリスクオフになるところを、日欧の中央銀行が必死にマネー供給してリスクオンマーケットを維持しているというのが現状なのです。

しかし、12月中旬の日銀政策決定会合での追加緩和もどきで、日米欧の当面の金融政策は出尽くしました。日欧の追加緩和は出尽くし、米国は今後粛々と利上げをしていくのみなので、日米欧中央銀行の金融姿勢は先々週を境にして完全に引き締めサイドに転じたといえます。

FRB金融政策のポイント

初回利上げが決まったので、FRB政策の今後のポイントは利上げ回数と利上げ幅、そして債券回収時期です。本格的なマネー逆流はFRBの保有債券売却(市中からドル札を吸い上げる)でB/Sを削減し始める2017年以降ですが、利上げをするだけで対外ドル資産が米国に還流するので、米国以外の地域でのドルの過剰流動性は減少します。

リーマンショック以降長く続いた緩和政策を大きなショックなく引き締め転じるために、FRBは文言を少しずつ変更し慎重に利上げに向けた地ならしを進めてきました。

ステップ1(~2014年11月):「相当な期間ゼロ金利を維持」
ステップ2(2014年12月~):「相当な期間」と「辛抱強くなれる」の併用
ステップ3(2015年1月~):「辛抱強くなれる」
ステップ4(2014年3月):「辛抱強くなれる」を削除
ステップ5:利上げが適切かどうかについて毎回議論→2015年5月から
ステップ6:2015年12月16日のFOMCで利上げ決定

12月FOMCで決定された初回利上げ幅は25bpsと想定通りでしたので、今後は、利上げペースと利上げ幅と来年末時点での金利水準で、それがマーケットの期待値とどれだけ乖離しているかが重要になります。

その理由は、FRBは3ヶ月に一度FOMCメンバーの金利見通し(ドットチャート)を公表するのですが、マーケットは当事者の見通しを全く気にしないで暴走するためです。

過去数年はFOMCの見方がハト派的に修正されていったので、楽観的なマーケット参加者の見通しが正しかったですが、今回は年内利上げを見込むFOMCメンバーに対しマーケットは直前まで来年3月以降の利上げを織り込んでいたために混乱が生じました。

昨年12月のFOMCで公表されたドットチャートを前回9月と比較すると、来年末のFFレートの平均値は変わっていませんが、分布が平均値近辺に収斂しました。

1%以下の極端に経済に悲観的な見方が減った反面、2%以上というタカ派的な見方も消えたのが今回の特徴です。

この結果、マーケットとの解釈相違は以下のようになります。

このため、私は年初までは以下のように考えていました。

しかし、年明けからの急激な株安で、米国株が急落した1月13日を境に要人発言が一気にハト派的になったことで、従来のタカ派的な見方を修正させました。

従来から多くのFOMCメンバーは「利上げで株が下がるのは当然なので、株安位では利上げの見直しはしない」といったニュアンスの発言をしていましたが、トーンが変わったのは下げ方が急過ぎる為です。

1月最終週こそ上昇しましたが、それまでの下げは年初来では歴史的な下げでした。

株式のボラティリティを考えると、年間2割程度の下げ、3ヶ月で1割程度、月間で5%程度の下げが金融引き締め時の一般的な下げ相場になりますので、FOMCの要人もこの程度の下げを想定して「最高値圏から株式が調整するのは当然」と発言していたでしょう。

ただ、年初からの下げが半月で1割を超えると言う異常事態を受け、多くの要人の見方が変わってきたと思われます。

しかし、先々週の原油反発を受け、米国株が落ち着いたのに安心したからでしょうか、先週はタカ派的なトーンに戻った印象を受けます。

Next: 誰が追加利上げに積極的なのか?要人のスタンスをチェックする



誰が追加利上げに積極的なのか?要人のスタンスをチェックする

先週の記事でも紹介したジョージ総裁の発言はかなりタカ派です。氏のトーンですと、1月の株式の下げ程度では問題ないと言っているわけですから。この記事が出たとき、私はここまでタカ派なのは、他に居ないのではないかと思っていた位です。

しかし、間違えていました。

また、メスター総裁はもともとタカ派ですが、全くぶれていません。ど真ん中のタカ派のままです。氏のトーンでは、この程度の株価下落なら、FOMCメンバーのコンセンサスである年4回はしても問題ないというニュアンスです。

一方のハト派はやはり1月のマーケット調整を鑑みて、少し様子を見た方が良いように変わった印象です。先週のマーケットでも話題になったダドリー総裁のハト派発言と並んで、ブレイナード理事もコメントしています。

ブレイナード理事はタルーロ理事やエバンス総裁と並んで、私の印象ではもっともハト派に位置する方です。氏は昨年10月の弱い雇用統計を受けて、利上げは当分見送るべきだと強いトーンで発言したこともあったので、今年1月の下げがきつかったときに、「利上げは戻すべきだ」というのではないかと懸念していましたが、今回の発言を見る限りでは、数カ月程度の様子見が必要と見ているだけのようです。

ここまでの整理をすると、タカ派メンバーは従来通りの利上げペースと利上げ幅が望ましいと見ているのに対し、ハト派は「数カ月程度の利上げ様子見が望ましい」と見ているようです。即ち、FOMCのハト派の決断としては今年6月が第2回目の利上げとしては適当と考えているという事です。

1月中旬には、タカ派のブラード総裁も慎重になったほうが良いというハト派的コメントをしていたので、タカ派が主流の今年のFOMCメンバーですが、平均よりハト派的な決定をする可能性が高くなっているという見方が出来そうです。

だとすると、現在のメンバーが下す可能性が高い決断は、昨年12月のドットチャートの平均値と昨年12月ドットチャートでのハト派の見方の中間になるということになります。

そう考えると、今年初の利上げは3月から6月の間になり、今年末時点でのFFレートは0.8~13.75%の間になるという見方が出来ます(もちろん今後のマーケット次第でFOMCメンバーの意見も流動的になります)。

これが先週の要人発言から推定できる利上げについての見方ですが、ここに先週金曜に発表された雇用統計が加わると、更にタカ派的になります。

さきほどの記事で書いたように、マクロや国際金融情勢云々よりも労働需給ひっぱくを示唆した内容だったので、原油さえ落ち着いたら一気にインフレが加速してしまうでしょう。

現在、PCE(個人消費支出)などは15%前後で、FRBのターゲットインフレ率2.0%を下回っていますが、これは原油安の影響が大きいです。週賃金が前年同期で2.5%も増えている以上、原油価格が下げ止まったら、あっという間にインフレターゲットを超えてしまうリスクが高くなってきたのです。

つまり、今の労働環境はインフレを嫌う中央銀行からすると一刻も早く利上げを進める方が良いくらいに危険なレベルだと思われます。

結果、雇用統計を受けて、年内の利上げ確率が上昇しました。

3月4月で予想している人は1割程度ですし、今年6月で予想している人も3割程度しかいません。今、マーケットの主流は今年9月が第1回利上げなのです。しかし、9月で見ている人は上昇したといっても45%です。

こうなると、FOMCメンバーが見ている世界との体感温度の差が気になります。

Next: 近い将来、市場の見方がFOMCの見方に収れんして株価下落へ



近い将来、市場の見方がFOMCの見方に収れんして株価下落へ

先ほど、ハト派とタカ派の先週の発言を比べて、彼らの慎重にというのは今年6月程度だということが予想できました。一方で、従来通りという見方もあったので、今年の第1回目利上げは(年4回を想定した場合の)3月から(年2回を想定した場合の)6月の間だろうという推定になったのです。

しかし、利上げを示唆する雇用統計を受けて変わったマーケットの見方は、FOMCの最もハト派よりもはるかにハト派的な見方になってしまっているのです。

これは近い将来に(長くても今年3月のFOMC)、市場の見方がFOMCの見方に収れんする過程で株式に金融引き締め的な動きを与える可能性が高いことを示唆しています。つまり、あまりに楽観的な見方で現在の米国株は支えられているということになります。

この楽観はFF金利先物市場でも判ります。

3月限のFF金利先物がこのところ37.5bpsで横ばいですが、6月限FF金利先物の予想利回りは45bpsに上昇しました。

つまり、FOMCの見方には程遠いですが、6月までにあと25bps程度利上げすると見ている人が増えてきたという事です。

一方、12月限のFF金利先物は先週半ばまで金利が低下しましたが、先週金曜の雇用統計で一気に上昇して、週間ではフラット程度になりました。

先週末の雇用統計を受けて、来週以降は6月限~12月限のFF金利先物が上昇して行くでしょうから、これに連れて米国債は下落し、多少のタイムラグはあるでしょうが、米国株もリスクオフ的な動きに拍車がかかるでしょう。

従って、今週の相場見通しを作成するための前提も先週と同様に、「昨今の株安を受けてFOMCメンバーはハト派的なトーンに変わったものの、マーケットはそれ以上に非現実的なくらいのハト派になってしまったので、マーケット正常化の過程では、楽観的な市場見通しがFOMCの見方に収れんする」という見方をしたいと思います。

常にFOMCより先走ってハト派的な見方になっているマーケットの見方は、過度に楽観的で3月FOMC時に公表されるドットチャートが出るまでに引き締めサイドに収れんするという見方は変わっていません。

なお、私の利上げ予想は先週と同様です。
次回利上げ時期:3月(2割)、4月(5割)、6月(3割)
来年利上げ回数:3回
来年末FFレート0.75%~1.0%

初回利上げをしたばかりでいきなり襲ってきた株安で、タカ派のメンバーも見方も大きく修正せざるを得なくなったと判断しています。

元々私の見方はハト派的になったとはいえ、FOMCメンバーのトーンを忠実に咀嚼したうえで予想しているので、雇用統計を受けてもあまり変わりません。

このところ、1月の下げがきつくFOMCメンバーの心証が大きく変わったため、今年前半のマーケットが「マネー逆流の恐怖でリスクオフになる」というシナリオの確度はかなり低下したと思われますとこちらで書いていました。

しかし、のど元過ぎれば熱さ忘れるではないですが、下げのペースが弱まった先週に入り、タカ派は依然として早く利上げをしたかったという本音が出てきました。

加えて、タカ派でなくても早期利上げをしないと危険かもしれないという賃金上昇の結果が判明した以上、FOMCメンバーの心証が再度タカ派的に傾く可能性が高くなりました。

従って、今来週の要人発言は早期利上げの必要性を感じさせる雇用統計を受けて、FOMCメンバーの見方に変化があるかどうかを見る上で非常に重要です。

仮にハト派的な見解のままでも、現在のマーケットがあまりにも楽観的過ぎるので、2カ月程度でFOMCの見方に収れんするリスクが高いですが、タカ派的な見解に変わったと思わせた場合は、FOMCの見方への収れんが一気に進むリスクが高まります。

【関連】さあどうするイエレン議長、押しても引いても市場大混乱の利上げゲーム

元ヘッジファンドE氏の投資情報』(2016年2月8日号)より
※太字はMONEY VOICE編集部による

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