韓国輸出規制に対する国際社会の反応について解説したい。海外メディアの多くは、日本の今回の対応を自由貿易の原則に違反するとして厳しく非難している。(『未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ』高島康司)
※本記事は有料メルマガ『未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ』2019年7月26日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
なぜ悪者に?歴史問題に踏み込んで日本を批判する海外メディアも
韓国輸出規制問題に対する各国の厳しい反応
いま大きく注目されている韓国輸出規制問題に対する国際社会の反応について解説したい。
7月1日に安倍政権が適用したIT機器製造には不可欠な化学製品3品目の韓国への輸出規制に、韓国は強く反発した。7月24日には、日本は27の友好国に適用されている貿易優遇処置のホワイト国のリストから韓国を排除する決定をした。日韓関係は戦後最悪な状態になりつつある。
こうした状況を打開すべく、韓国は今回の日本の輸出規制が自由貿易の原則に違反しているとして、「世界貿易機関(WTO)」に審査を要請した。
23日にスイス・ジュネーブで始まった「WTO」の一般理事会では、日本と韓国が半導体材料の対韓輸出規制を巡り討議する。双方が正当性を主張して加盟国に理解を求めるが、「WTO」のルール違反にあたるかどうかの議論は平行線に終わる見通しだ(編注:24日に終わった一般理事会では、日韓以外の第三国から発言はなく、韓国の訴えに同調する声は出ませんでした)。韓国は「WTO」への提訴の準備を進めており、「安全保障上の適切な措置だ」とする日本の主張が認められるかが焦点になる。
「WTO」の審査には、相当に時間を要すると思われる。日韓ともに、これから国際社会の理解を得られるかが焦点になる。
日本に非常に厳しい国際世論
しかし、日本の今回の輸出規制に対する国際世論は相当に厳しい。日本国内では韓国非難の世論が激しいので、こうした海外の動向が報道されることはない。客観的に何が起こっているのか知っておくべきだろう。
もちろん、国際世論が韓国の主張を支持しているというわけではない。
そうでなく、日本の今回の対応を自由貿易の原則に違反するものだとして、厳しく非難しているのだ。
韓国に対する貿易規制が発動された7月1日からしばらくの間は、海外の主要メディアでも「困ったことになった」という論調が強く、どうしてこのようなことになったのか事情を解説するものがほとんどだった。しかし、10日を過ぎる頃から、日本の今回の処置を強く非難する記事や社説が次第に増えている。
筆者は、この件に関するメディアやシンクタンクが出した数十の記事や社説、また論説を読んだが、安倍政権がいま主張しているように、国際社会に説明するなら日本の立場は理解してもらえるなどということは実質的に不可能なのではないかという印象を持った。
日本の立場に理解を示すき記事は日本国内のメディア以外、ほとんどなかった。いずれ日本は国際社会の圧力に屈して、方針転換せざるを得なくなるのではないだろうか?
今回は、そうした社説や記事の代表的なものの要約を掲載する。
Next: 国際世論は日本を猛烈批判?ブルームバーグの社説から見えること
「ブルームバーグ」の社説
最初は大手経済紙「ブルームバーグ」が7月22日に掲載した社説だ。
21日投開票の参院選で勝利した安倍晋三首相は多くを成し遂げる政治的影響力を得たわけだが、まずやらねばならないのは、隣国の韓国に対して始めたばかげた貿易戦争をやめることだろう。
安倍政権は今月、半導体生産に不可欠な3つの材料の対韓輸出規制を強化した。日本の当局者はハイテク関連の輸出品が北朝鮮などに不法に渡らないようにする措置だと主張するが、元徴用工を巡り日本企業に損害賠償の支払いを命じた韓国大法院(最高裁)の判決への報復を意図したものであるのは明らかだ。<中略>
悪影響は安倍首相の評判悪化どころでは済まない可能性がある。日本のサプライヤーは市場シェアを落とし、信頼性でも評判を落とすだろう。韓国は「ホワイト国」リストから除外されれば、間違いなく報復しようとするだろう。既に日本製品の不買運動は広がり、高まる緊張は安全保障関係を損ねるリスクがある。対立は、トランプ政権との関係も不必要に複雑にする恐れがある。
明らかな妥協策は、日本側が輸出規制強化をやめ、追加措置の実行も我慢するというものだ。韓国は元徴用工問題で仲裁委員会の設置に応じる必要がある。今回の争いを始め、選挙で無事勝利した安倍首相がまず行動すべきだろう。そして韓国大統領が速やかに報いるよう、米国は保証しなければならない。
そして日韓両国は、歴史上の紛争に対するもっと創造的な解決策を模索するべくコミットすべきだ。深いわだかまりが簡単になくなると考える者はいない。それでも、文大統領も安倍首相も自らの責務は緊張を高めるのではなく、和らげることにあるのだと自覚する必要がある。
以上である。今回の安倍政権の動きを日本が標榜している自由貿易の原則に違反するものだとして、安倍政権に即刻方針転換するように要求している。
「ニューヨークタイムズ」の記事
次に、米大手紙「ニューヨークタイムズ」が7月15日に掲載した記事だ。「ブルームバーグ」ほど激しい口調ではないものの、やはり日本は戦後の自由貿易体制のルールに違反しているとして、日本の動きを批判している。
先月、安倍首相は世界のリーダーが居並ぶG20の席上で、トランプ政権が損なっているグローバルな自由貿易を世界の繁栄と平和の基礎だと強く擁護した。
しかし2日後、韓国のIT産業を狙い撃ちにした日本製化学薬品の輸出規制で、自由貿易に打撃を与えた。その理由は、アメリカやロシアが口実として使う、漠然としていてはっきりとしない安全保障上の考慮だ。
自由貿易体制のもとでは、こうした口実は各国間の争いがコントロールできなくなることを恐れ、各国の指導者はこれを使うことを避けてきた。もしこの口実が1カ国や2カ国えはなく、10カ国や15カ国が頻繁に使うようになると、自由貿易体制は根本的に破壊されるかもしれない。
日本の当局によると、韓国は軍事物資として潜在的に使用可能な戦略物資である化学薬品を韓国の企業が適切に管理できなかったとしているが、企業名も管理不備の実態は明らかにしていない。
しかし韓国は、これが戦前の徴用工問題に対する報復として見ている。安倍はトランプと同じように貿易をこん棒に変えようとしていると見ている。これは、他国を脅かすために関係のない問題を持ち出す行為だ。歴史問題に対する日本の抗議には合理的な面もあるが、貿易問題にするべきではない。
韓国は国連に調査を要請した。もし韓国に不正が見つからなければ、日本は輸出規制を即座に撤廃すべきだとしている。日本は自由貿易の原則を侵犯しているというのだ。
戦後、大恐慌の後の保護貿易を反省し、世界経済は自由貿易体制になった。この体制のルールには、安全保障という例外規定が始めからあったものの、どの国もこれを保護貿易の口実として使うことは避けてきた。自由貿易体制が損なわれる可能性があったからだ。
以上である。このように、今回の日本の動きが戦後の世界を支えていた自由貿易の原則を踏みにじるものだとする見方は海外メディアにはとても多い。
Next: 歴史問題に踏み込んで安倍政権を批判する海外メディアも
「フォーリンポリシー」の記事
最後に著名な外交誌「フォーリンポリシー」誌の記事を紹介する。これは今回の問題の原因が戦前の戦争犯罪に無反省は安倍政権にあるとして、歴史問題に切り込んでいる。
中国や北朝鮮ではなく、東アジアにおけるアメリカの同盟国の日本と韓国が対立している。7月1日、日本はIT産業には不可欠な化学製品の韓国への輸出規制を導入した。これが長引けば、両国の経済関係を損なうだけではなく、ちょうど5Gの導入が進む時期に、IT機器の世界的な生産に甚大な影響を与えることになる。
7月1日、日本は半導体やフラット・スクリーンなどのIT機器の生産には不可欠な化学薬品の輸出規制を韓国に適用した。これに対して韓国は強く反発し、文在寅大統領は50年間の両国の経済関係を傷つけるものだとした。「WTO」に日本の自由貿易のルールの侵犯を訴えた。
日本は、韓国は軍事使用が可能な輸入化学薬品の適切な管理を怠り、安全保障上の懸念を生じさせたとしている。韓国が北朝鮮へ横流しした可能性も示唆している。だが、日本のこうした非難には具体的な証拠が示されていない。アメリカが仲介に乗り気でないとき、両国の関係がどうなるのかとても気になるところだ。
これは公式には安全保障の問題であると日本は言っているが、実はそうではないことは明白だ。問題の発端は、韓国の最高裁である大法院が戦前の徴用工の補償を認めたことにある。元徴用工は日本製鋼や三菱重工に対して補償を要求したが、拒否された。これに苛立った安倍首相は経済的に報復するとしていた。
安倍首相は、戦前の売春宿で女性を強制労働させた問題に対して謝罪する気もないし、反省もしていない。これは公式には2015年には解決している。また安倍首相は、中国や韓国からの強い抗議にもかかわらず、何人もの戦争犯罪人を祭っている神社に繰り返し奉納している。中国と韓国は、安倍首相は戦前の戦争犯罪を反省していないと抗議している。
最近では日韓は、韓国軍の艦艇が日本の哨戒機をレーザー照射した件で対立した。日本はレーザー照射に抗議し、韓国は日本の哨戒機が不適切な挑発を行ったからだとしている。
日本は韓国の対応に疲労している。韓国は中国と距離を縮め、アメリカや日本との同盟から距離をおく方向に動いていると日本は見ている。
この輸出規制の影響は大きい。いま韓国のIT産業は1カ月程度の在庫があるため影響は出ていないが、輸出規制が長引くと、IT産業全体の発展を阻害するだろう。また、もし日本が韓国を優先的待遇のホワイトリストから外すなら、日本の輸出規制の影響は広い範囲の製品に及ぶことだろう。日本は、安全保障の懸念という口実の言語道断の悪用によって、自由貿易体制を危機に陥れている。
トランプ政権は、アルミから鉄鋼、そして乗用車などに対しても、「安全保障上の懸念」を口実に貿易規制を適用している。アメリカは自国のみが「安全保障」の内容を決定できないとしているが、これに対して「WTO」が反論している。トランプ政権が安全保障を口実に同盟国、非同盟国にかかわりなく課している高関税は、パンドラの箱を空け、自由貿易体制を引き裂くかもしれない。
日本と韓国のケースはこれから「WTO」に持ち込まれる。しかし、「WTO」が結論を出すには1年以上かかるかもしれない。一方トランプ政権は、日韓両国の仲裁には関心がない。両国の関係は損なわれるだろう。
※出典:Why Are Japan and South Korea in a Trade Fight? – Foreign Policy(2019年7月15日配信)
以上である。これは安倍政権が、戦前の戦争犯罪という歴史問題に、自由貿易の原則に違反した輸出規制で対応したとして日本を批判した記事だ。こうした論調の記事も非常に多いのである。
Next: 東京五輪の狂騒のなかで日本は孤立?外交問題の早期解決が不可欠
オリンピックの狂騒のなかで日本は孤立する?
もちろん、日本にも今回の輸出規制を正当化する合理的な理由はある。それは、韓国のあまりにずさんな戦略物資の管理である。
すでに5月7日に韓国の大手紙「朝鮮日報」は、「2015年は14件だった戦略物資の違法輸出の摘発件数は、昨年は41件と3倍近くに増えた。さらに今年は、3月までの摘発件数だけでも31件に上り、急増する様子を見せている」として、違法輸出が文在寅政権で急増している事実を指摘している。韓国の戦略物資管理があまりにずさんであることは論を待たない。
しかし、これを安全保障上の懸念として輸出規制を発動した日本の立場を、国際社会と世論が日本の期待しているように受け入れるかといえばそうではない。
「安全保障上の懸念」という口実は、すでにアメリカもロシアもサウジアラビアも使っている。これは貿易で他国に圧力をかけ、脅すための口実として使われているという理解が一般的だ。
G20などで自由貿易を宣言していた日本が、自らの方針を裏切ったとして見られても仕方がないかもしれない。
オリンピック開催までちょうど1年になった。これから日本国内はオリンピックの狂騒で沸くに違いない。しかし、この問題が早期に外交的に解決しない限り、この狂騒のなかで日本は孤立するのではないだろうか?
直観的だが、嫌な気がしてならない。次回はその理由を具体的に書く。
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