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米景気に陰り、ドルの弱体化、中国の台頭…それでもアメリカの時代は終わらないワケ=山崎和邦

「日経平均はNYダウの写真相場だ」と言われてから4分の1世紀以上。そこで、米国の国内外の政治・経済・国際環境など市場に影響の強い要因を考察したい。(山崎和邦)

※本記事は有料メルマガ『山崎和邦 週報『投機の流儀』』2019年8月18日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

世界の主導権を握り続ける、アメリカの世紀に終わりは来るのか

NYダウと日経平均の相関関係とは?

「日経平均はNYダウの写真相場だ」と言われてから4分の1世紀以上を経るからには、かの国の国内外の政治・経済・国際環境など市場に影響の強い要因を無視するわけには行かない。そこで「アメリカの世紀は終わったか」と大それたタイトルになってしまったが本稿ではこのテーマに一考察を加えたい。

経済はもちろんのこと、政治・社会現象・文化・風土、世に有りて在るもの森羅万象ものみな全て、金融市場に影響しない物は何一つない、ということを筆者は実証的に経験的に承知している。

まずはNYダウの下降率と日経平均株価の下降率の関係を見る。

<NYダウ>       <日経平均>
87年8月~87年10月▼36%→87年10月~87年11月▼21%

90年7月~90年10月▼20%→(90年1月)~90年10月▼48%

98年7月~98年10月▼22%→(96年6月)~98年10月▼43%

00年3月~02年10月▼51%→(00年4月)~03年4月▼63%

07年10月~09年3月▼58%→(07年7月)~09年3月▼61%

アメリカ衰退論の流行現象はいつ始まったか

1979年にエズラ・ヴォーゲルが「ジャパン・アズ・ナンバーワン」を著し、日米ともにベストセラーとなり、アメリカの衰退を語る記事や議論が流行した。1987年、英国人のポール・ケネディが「大国の興亡」を出したのも、京大の高坂正堯教授が「文明が衰亡する時」を著した時期とも符合する。

NY株価が1965年~1985年まで1,000ドルを挟んで超長期の低迷保合を続け「株は死んだDeath of Equities」と言われた時期も概ね符合する。ベトナム後遺症と言われた帰還兵の社会復帰不能問題が多発して社会風土が荒れた時期とも符合する。

しかしながら、同盟国イギリスにサッチャーと言う新自由主義的傾向の盟友が現れたという「運」も大いにあったが、アメリカはレーガンの政策の主導を契機にして蘇った

「アメリカの世紀は終わらない」(ジョセフ.S.ナイ著、村井浩紀訳、日本経済新聞出版社、2015年刊)の原題は「アメリカの世紀は終わったのか」(Is the American century over?)であったが邦訳は、著者の結論をタイトルにしている。

Next: アメリカの覇権を脅かす国は現れるのか?



「世界の主導権を取る」とはどういうことか

中国のGDPと軍事費が10年後には米国を抜くという予測がある。その時、米主導の世界秩序は崩壊するのか、という問いがある。

2008年に中国はアメリカ衰退を断定した。

世界秩序を米が一国で仕切ることは難しくなる、ただしアメリカの世紀は続く」、これがハーバード大学教授、リベラル派を代表する知識人ジョセフ.S.ナイの結論である。

欧州・日本・ロシア・インド・ブラジルを分析して単独で米国の「覇権」を脅かすことは不可能で、何カ国かで組んで米国を凌ぐ可能性も低い。

しかし、米国が内部から崩れて行くリスクはある。

米国有利が揺るがないと考える根拠は経済力・軍事力だけでなく、第3のパワーたる「ソフトパワー」が国力を左右するという思想を筆者は支持してきた。

トランプは敢えて積極的にそれを放棄した。

「ソフトパワー」とは日本にはなじまない言い方であるが、アングロサクソン民族には長期間の植民地経営で培った国家運営のノウハウとでもいうDNA的にもなった能力がある。

こう考えている筆者はジョセフ.S.ナイの結論に与するものである。

30年前、日本の一人当たりGDPが米国を追い越した時、日本は完全にアメリカをキャッチアップしたと日米ともに言われたことがあった。アメリカのアナリストの一部は、日本は核武装した超大国となって日本が主導する太平洋ブロックはアメリカを排除し、日米は戦争にまで発展すると真面目に予想する者も出た。日本の目覚ましい経済的発展が異常な強さでアメリカを圧迫したのだ。

過去の急速な経済成長にのみ基づいて、国力総体の成長を過去現在の延長線上で直線的に予測することが如何に過ちであったかを示す好個の事例である。

その後、日本は主として政治不作為と金融政策失敗によって20年間の低成長に苦しんだ。

国際間の権力闘争というものは、自国の望むままに他国に影響を及ぼす能力のことである。ガルブレイスの権力論によれば権力の発動の仕方に3つある。1つは脅威を与える威嚇権力、2つ目は報償や名誉を与える報償権力であり、3番目は彼がCondithoned Powarと呼ぶもので彼の著作「権力の解剖」(J.Kガルブレイス著、山本七平監訳、日本経済出版社)によれば「条件付け権力」と和訳されているものである。ジョセフ.S.ナイによれば「ソフトパワー」であり、ヒラリー・クリントンが言った「スマートパワー」である。

威嚇権力こそ、説得力や魅力や文化力によって国威を張るという、パワーである。それ故1の具象たる軍事力、2の淵源となる経済力、これだけで国威を測るべきではない。例えば19世紀末にアメリカが最大の経済大国となったときも、グローバルな勢力図のうえでは主要プレーヤーとはみなされなかった。1880年代のアメリカ海軍はチリの海軍より小さかった。そのアメリカをして経済力を軍事増強に結びつけたのはセオドア、ルーズベルトとウッドロ-、ウイルソン両大統領だった。アメリカが世界勢力の上で主要プレーヤーとなったのはそれ以降である。

つまり報償権力の源にあたる経済力を以て威嚇の増強に向けたことと、それを許容するアメリカ文化(つまりソフトパワーの一部)であった。

Next: これまでに、アメリカの栄華を脅かしてきた国とは?



アメリカ衰退論の経緯

1898年に起きて短期間に終わった米西戦争でアメリカは衰退しつつあったスペインからキューバ・プエルトリコ・フィリッピンを植民地として取り上げた。しかし、アメリカが帝国主義的に振る舞った期間は短かった。

大きな変化は第1次大戦への参戦だった。そうすると「アメリカの世紀」の始まりは1914年からである。

しかし、アメリカは1930年代になると極端な孤立状態に陥った。

しがって、アメリカの世紀がいつから始まったかを正確に示すならば、第1次大戦への参戦ではなくフランクリン・ルーズベルト大統領による第2次世界大戦への参戦であろう。

もし日本がアメリカとではなく中国と同盟関係を結んだ場合は、この2カ国の経済がアメリカを凌ぐであろう。現に2006年以降、中国は日本の最大貿易国となっている。報償権力は解決される。やがて軍事力も中国がアメリカをキャッチアップするであろう。

では、ソフトパワーで同盟できるか?…できないであろう。これが国際間の最大の結合力である。レーガンが出て20年間の「Death of Equities株は死んだ状態」から覚醒させ「アメリカよ、どこへ行く」と言われた老衰大国を覚醒させて活性化したのも同時代に英国にサッチャー首相が出現し、新自由主義で同盟したからであった。つまりソフトパワーでの同盟であった。

今、ソフトパワーのことを考慮に入れると、日中同盟に進む可能性は極めて薄い。先ずは絶対と言ってよい確率でないであろう。小平が「政治的には冷えていても経済は熱く」(「政冷経熱」)と説いた時代は、中国が未だ貧しく報償権力のパワーその物が未達成だった時代の指導理念だった。今は違う。

1950年代から60年代前半までは、ソ連がアメリカを追い越して世界を主導する国になるだろうと思われた。迂闊にも学生時代の筆者もそう思った。

原油と天然ガスでサウジアラビアを上回っていたソ連は、世界全体の概ね半ばの核兵器を保有しアメリカより多くの兵員を擁し、プロパガンダは巧妙だった。

ニキータ.フルシチョフは1970年もしくは80年までにソ連はアメリカを抜くと公言していたことは有名な事実だった。(キューバ事件は1962年)。

ところが1991年、ソ連が主として内部要因によって崩壊してからアメリカが唯一の超大国になり、これを「一極支配」と呼ぶようになった。従って91年が「アメリカの世紀」となった正確な年代と言える。この時、アメリカの海軍規模は2位以下の17カ国の合計と同じ規模になった。アメリカは空軍でも制空権を持ち、宇宙とサイバー空間でもリードした。

Next: アメリカはいつまで世界のトップであり続ける?



「アメリカの世紀」の存続期間

ヘゲモニーと言う概念は不正確だが、これを「パワーをもたらす資源の保有で優位にあること」又は「他者に対してルールを設定する行動」や「自らが好む結果を得る力」とする、この曖昧さの故に、それはいつ始まっていつ終わったかを計測できない。が、もし、アメリカにそれらがあったとしたら、それはアメリカ経済が世界全体の概ね半分を占めていた1945年に始まり、世界シェアの4分の1に低下した1970年代までだったということになる。

経済力だけで見ればそうなる。

大英帝国が200年続いたのに、アメリカは未だ「唯一の超大国」になってから3分の1世紀だ。

アメリカの世紀は続くが、アメリカの主導力は現在のものとは違ってこよう。

大英帝国の世紀は産業革命から始まったとしよう。世界最大の工業国になったところからであろう。アメリカの世紀を仮に世界最大の経済国の期間だとすれば概ね20世紀だということになる。

世界銀行の一部の試算によれば、購買力平価ではGDPは中国がアメリカを抜いたという。しかし、世界の主導国家とは必ずしも経済力だけではない。

筆者は経済力だけでなく、軍事・ソフトパワーまで含めて、ジョセフ.S.ナイが言うところの「傑出Preeminence」「卓越性Primacy」を採りたい。

一国の手には余り、問題が多数存在して多国間で対応しなければならないようになっている。そして国家以外の主体、例えば国連・OPEC・ECB.IMF・OECDなどが持つ力が拡大することによって「アメリカの世紀」が続いていても、従前とは確かに違うという変化が起きていることは事実であろう。

歴史家たちは一世紀ごとに、支配的な地位にある国の栄枯盛衰を見出そうとしてきた。世界を主導する国は百年間で交代するという説もある。

ベネチュアは貿易航路が変化して対外的な衰退を余儀なくされたが、文化的な発展は続いた。古代ローマは侵攻してくる新興勢力に敗れたのではなく、ローマより弱い諸部族からの長期的な圧力で経済的に衰退して国力が衰退した。ローマは自分たちより弱いはずの非定住型の諸部族から略奪される羽目に陥った。これがジョセフ.S.ナイが言うところである。

中国のGDPと軍事費がいずれは米国を抜くという予測がある。その時、米主導の世界秩序は崩壊するのか、という問いである。

「世界秩序を米が一国で仕切ることは難しくなる、ただしアメリカの世紀は続く」、これがハーバード大学教授、リベラル派を代表する知識人ジョセフ.S.ナイも結論である。

欧州・日本・ロシア・インド・ブラジルを分析して単独で米国の「覇権」を脅かすことは不可能で、何カ国かで組んで米国を凌ぐ可能性も低い。

米国有利が揺るがないと考える根拠は経済力・軍事力だけでなく、第3のパワーたる「ソフトパワー」が国力を左右するという思想を筆者は支持してきた。(過去形で述べるのはトランプという破壊者が出てから後は別だ、という意味である)。トランプが出ても、例えば、アメリカには世界の学生や次世代を担う若者を留学に引き付ける文化がある。現に、中国共産党の子弟の多くがアメリカに留学している。

つまり、どの国よりも「求心力」を持っている。

原油と天然ガスでサウジアラビアを上回っていたソ連は世界全体の概ね半ばの核兵器を保有しアメリカより多くの兵員を擁し、プロパガンダは巧妙だった。

Next: アメリカの栄華は続く…そう結論付ける理由とは?



「アメリカの世紀」は続くがそれは変容する

NY株価が異例の長期間、高値圏に居座っているという事実は、NY市場がそれを敏感に嗅ぎ取っているものと解する。

アメリカの世紀は続くが、アメリカの主導力は現在のものとは違ってこよう。アメリカの主導力は絶対的なものではなくそれは「相対的な強さ」に変容する。

現にみられる現象でも、

1:アメリカのイラク攻撃以降、世界各国からアメリカへの信頼を失墜したし、

2:アメリカの経済は繁栄しているように見えても内部では深刻な問題を抱えている。NY株価の高値圏での長期保合はこれを象徴している。

3:アメリカの制止を聞かずに欧州主要諸国は先を争うようにして中国インフラ銀行AIIBに加盟した。

4:ウクライナ問題が生じたにもかかわらず、欧州各国は北大西洋条約機構の軍事予算を申し合わせた金額より縮小した。アメリカの言うことを聞かないのは中国とロシアだけではない。同盟国の中にも生じている。しかし、これらの現象を以て「アメリカの世紀は終わった」とするのは早計である。

2009年にオバマ内閣で国務長官を務めたヒラリー・クリントンが発表したオバマ外交の基本方針は「スマートパワー」であり、それは「ハードパワーとソフトパワーの賢明な組み合わせ」であるとした。

こういう第3のパワーを考慮に入れれば、安易にアメリカ衰退論に与しない方が聡明であろうということを以て本稿の結語に替えたい。

地政学的要因であろうとなかろうと、市場経済を動かす力は需給に勝る要因はない。そこで事実上の要因を上げれば世界経済は、原油・ドル・キンの上で動いている。この3つを制し得る国はアメリカしかない。アメリカは「軍事という暴力装置」だけでなく「市場」を使って「外交」を遂行する唯一の超大国として存続する。

よって、アメリカ衰退論を本気で信ずる者は天に唾する者であるとまで本稿は言いたい。

主要な参考文献5冊・50音順
1;「アメリカの世紀は終わらない」ジョセフ.S.ナイ著、村井浩紀訳、日本済新聞出版社、2015年刊)
2;「権力の解剖」(J.K.ガルブレイス著日本経済新聞社、1984年刊)
3;「なぜ大国は衰退するのか」(グレン・ハバード著、日本経済新聞社、2015年刊)
4;「秘密裏に遂行される『世界覇権の100年戦略』」マイケルピルズリー著、野中香方子訳、日経BP社、2015年刊)
5;「文明が衰亡する時」(高坂正堯著、新潮社、1985年刊)

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第1部;当面の市況

第2部;中長期の見方

第3部;読者との交信蘭

第4部;アメリカの世紀は終わったか、に関する一考察

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山崎和邦 週報『投機の流儀』』(2019年8月18日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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大学院教授(金融論、日本経済特殊講義)は世を忍ぶ仮の姿。その実態は投資歴54年の現役投資家。前半は野村證券で投資家の資金運用。後半は、自己資金で金融資産を構築。さらに、現在は現役投資家、かつ「研究者」として大学院で講義。2007年7月24日「日本株は大天井」、2009年3月14日「買い方にとっては絶好のバーゲンセールになる」と予言。日経平均株価を18000円でピークと予想し、7000円で買い戻せと、見通すことができた秘密は? その答えは、このメルマガ「投機の流儀」を読めば分かります。

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