安倍政権は2015年10-12月期の経済成長率がマイナスに落ち込んだことを受け、「暖冬のせい」と情けない言い訳をしていますが、データの中身を見れば嘘であることが誰にでも分かります。
記事提供:『三橋貴明の「新」日本経済新聞』2016年2月22日号より
※本記事のタイトル・本文見出し・太字はMONEY VOICE編集部によるものです
「アベノミクス失敗」の現実から逃げ続ける安倍内閣
自動車や家電などの消費減少は暖冬のせいではない
内閣府の国民経済計算では、家計最終消費支出の詳細が公表されます。各消費支出の中身を見ると(2015年10-12月期 左が対前期比、右が対前年比)、
耐久財 | ▲3.1% | ▲8.6% |
---|---|---|
半耐久財 | ▲3.7% | ▲5.1% |
非耐久財 | ▲0.8% | ▲0.8% |
サービス | ▲0.1% | 0.8 |
と、耐久財と半耐久財が消費の減少を牽引したことが分かります。半耐久財とは衣服等なので、「暖冬のせい」はあるかも知れません。
とはいえ、自動車や家電といった耐久財も対前期比で3%を超す大きなマイナスになっているのです。
しかも、対前年比で見ると、耐久財の落ち込みの方が大きくなっています。日本の個人消費(民間最終消費支出)の落ち込みを牽引したのは、耐久財の消費減少なのです。
「今年の冬は暖かいから、自動車を買うのはやめよう」
などと思った国民は、一人もいないでしょう。
本当の原因は、実質賃金の低下と日本国民の貧困化
日本国民が自動車を買わなくなったとしたら、それは単に実質賃金が下がり、貧困化しているためです。
貧困化しているが故に、消費を減らした。この単純な事実すら、安倍政権は認めることができないでいます。
ちなみに、実質賃金の下落には「消費税増税」が大きく影響しています。消費税は賃金とは無関係に、強制的に物価を引き上げるイベントであるのに加え、「実質的な需要(量)」を減らすことで、実質賃金引き上げを不可能にしてしまうのです。
この辺りの話は、月刊三橋や三橋経済塾、さらには著作で解説していくつもりです。少し細かい話なのですが、落ち着いて聞けば「誰でもわかる」と思います。
それはともかく、実質賃金を三年連続で落ち込ませ、消費の実質「量」ですら野田政権を下回らせる惨状に至ったにも関わらず、未だに政府が「財政出動」「新たな補正予算」という議論を始めていないのは、まさに「異様」です。
無論、国会で通常予算を通さなければならないというのは分かりますが、3月に通常予算を通し、それから議論を始めたのでは「遅すぎ」です。
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失敗したアベノミクス。現実から逃げ続ける安倍内閣の行き着く先
あるいは、新たな補正予算は「アベノミクスの失敗」を認めることになるため、現実から顔を背け続ける、という可能性もあります。ちなみに、ここで言う「アベノミクスの失敗」とは、
「金融政策と財政政策を共に拡大する」
はずだったアベノミクスが、金融政策一本やりに変質してしまい、財政は緊縮財政に舵を転じ、需要を縮小させてしまったという安倍政権の失政を意味しています。別に、日銀の金融緩和を否定しているわけではありません。
いずれにせよ、「デフレは貨幣現象」という誤った認識(正しくは「デフレは総需要の不足」)に基づき、デフレ脱却を日銀に丸投げした安倍政権は、現実という巨大な怪物に追いつめられつつあります。今後の安倍政権には、
「緊縮財政路線の過ちを認め、大規模な財政出動に踏み切る」
ことで国民経済を救うか、もしくは、
「このまま緊縮財政を継続し、国民を貧困化させ、怨嗟の対象となる」
のいずれかの道しか残されていません。ちなみに、後者の道を進むと、金融市場で国債が不足するため、量的緩和が困難になり、日本銀行も追いつめられることになります。
「デフレは貨幣現象」という間違った発想に支配された結果、袋小路に追いつめられつつある。「発想」とは、ここまで大きな影響を与えるのです。
「経済学者や政治学者たちの発想というのは、それが正しい場合にも間違っている場合にも、一般に思われているよりずっと強力なものです。というか、それ以外に世界を支配するものはほとんどありません。
知的影響から自由なつもりの実務屋は、たいがいどこかの破たんした経済学者の奴隷です。虚空からお告げを聞き取るような、権力の座にいるイカレた連中は、数年前の駄文書き殴り学者からその狂信的な発想を得ているのです。出典:ジョン・メイナード・ケインズ「雇用、利子、お金の一般理論」」
『三橋貴明の「新」日本経済新聞』2016/2/22号より
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