アメリカ経済の景気拡大は既に10年経過し、この7月に11年目に突入しました。この「穏やかな拡大期」はいつ後退し始めるのか、いつまで続くのでしょうか?(『藤井まり子の資産形成プレミアム・レポート』藤井まり子)
※本記事は有料メルマガ『藤井まり子の資産形成プレミアム・レポート』2019年9月4日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にご購読をどうぞ。当月配信済みのバックナンバーもすぐ読めます。
「パラダイムシフトの始まり」を見越し、ゴールド価格は上昇開始
景気拡大期の終わりは、いつから始まるのか?
パウエルFRB議長がFOMC後の記者会見でも「サイクル半ばの政策調整」という言葉を使いました。今は本当に「サイクル半ば」なのか?専門家の間でも意見は割れています。
アメリカ経済の景気拡大は既に10年経過して、この7月に11年目に突入しています。危機後の実体経済の回復は従来より穏やかだったことが幸いして、その後の景気拡大期が長続きしているんですね!
「アメリカ経済の回復が穏やかなんて、嘘だ!」と思う人も多いと思うんですが、実体経済と株式市場をごっちゃにして考えてはいけません。
確かに、危機後の株式市場の上昇は力強いんですが、危機後の実体経済のほうは、インフレ率も賃金上昇率も「危機前までの景気拡大期」よりも低くなっているんですね!以前は、インフレ率は3%超えていましたし、賃金上昇率も4%超えていました。それが、危機後には、インフレ率は2%前後にとどまって、賃金上昇率も3%台で推移しているんです。
なにはともあれ、11年目に突入したアメリカの穏やかな景気拡大期。この「穏やかな拡大期」はいつ後退し始めるのか?この拡大期はいつまで続くのか?
このことは、株式投資を行っている人間、特に長期国際分散投資を継続する人間にとっては、大問題なんだと思います。
アメリカの人口動態は良好で、今後ともアメリカでは若年就業人口は増え続けます。パウエルFRBがバブルを恐れずに金融政策でうまくやってくれたら、アメリカの景気拡大はまだまだ向こう3年くらいは大丈夫かもしれません。
しかしながら、今のアメリカ経済では、企業債務(企業の借り入れた借金)が対GDP比で「危険ライン」まで膨張しています。「危険ライン」とは、「アメリカ全体の企業債務」が対GDP比でおよそ80%あたりです(今までの景気サイクルでは、企業債務が危険ラインにほぼ達すると、しばらくすると景気後退期に入りました)。
アメリカ企業は、景気サイクルの初期や前半では将来を極めて楽観視して、びしばし借金をして積極経営へと乗り出すわけです。(サイクル前半)
アメリカ企業は、収益が出てその収益で借金の利払いが可能なうちは、借金をし続けるのです。(サイクル半ば)
借金まみれになって、「もうこれ以上借金しても、売り上げも収益も伸びない。それどころか利払いも怪しくなりそうだ…」といった状態(サイクル後半)になるまで積極経営を展開するのです。
けれども、遅かれ早かれ、企業は慎重経営に転じて借金返済へと転じて、やがては「景気後退(リセッション)」がやってくるのです。
アメリカ民間企業(金融機関を除く)の債務が「対GDP比で危険ラインの80%あたり」まで膨張したのは、今回2018年初頭でした。
その後、この「債務の対GDP比」は少しつずつ少しずつ減少しています(慎重経営を始める企業がちらほら出てきているわけです)。
今、FRBが再び利下げへと転じるということは、「民間企業の対GDP比での借金比率を、FRBが複数回『利下げ』することで、もう一度増やそうとする『試み』」なんです
今、FRBがやっていることは、「企業の皆さん、利下げをしますから、もう一度積極経営に転じてください」という「呼びかけ」です。
これは、FRBの利下げで景気拡大期を人為的に伸ばそうとする「壮大な試み」なんです!
これが成功するかどうかで、今後のアメリカの景気拡大期の長さが変わってくるのです。
で、この「FRBの利下げの試み」が成功するかどうか?
「成功するかどうか」については、当メルマガでも、とてもとてもその判断に苦しんでいます。
率直に言って、このあたりはシンクタンクによっても意見が違います。著名なエコノミストやファンドマネージャーによっても意見が違います。
Next: アメリカが大統領選前に景気後退する確率は…40%?
レイ・ダリオはかく語りき「アメリカが景気後退する確率は40%」
「ジョージソロスの再来」と呼ばれているレイダリオ(世界最大のヘッジファンド:ブリッジウォーター・アソシエイツを率いています!)。ダリオ氏は、「来年の大統領選挙までに、アメリカ経済がリセッション入りする可能性は、40%、アメリカ経済の拡大期が向こう1~3年継続する確率は、60%」とみています。
言い換えると、レイダリオは、「FRBの複数回の利下げ」が成功する確率は60%、失敗する確率は40%と見ているわけです。
たとえば、今現在の香港の抗議デモに、万が一人民軍(武装警官)が介入したりすれば、米中貿易戦争どころじゃなくなって、アメリカをはじめとする西側諸国は中国へ経済政策を発動することになり、今度こそ「新冷戦」が華々しく開幕してしまうわけです。
こうなれば、株式市場は暴落して、世界経済はリセッション入りしてしまうことでしょう。アメリカ経済も然り。
不確実性は、香港だけではありません。
不確実性は、「香港抗議デモ」以外にも、「中国経済の軟調(通貨危機にまで発展するか?)」のリスク、「エスカレートするかもしれない貿易戦争」リスク、「アメリカの逆イールドカーブ」問題、「台湾をめぐる米中間の緊張の高まり」リスク、「韓国(中国に先んじて通貨危機まで発展しそう)」リスク、「合意なきブレグジット」リスク、「日本の消費税増税」リスク、トランプの「大統領選で再燃ならず」リスク、などなど今の世界経済にはリスク要因があまりに多すぎるのです。
こんな時に、消費税増税を実施する安倍政権も頭がおかしいとしか言いよう無ないんですが…。
ですから、あのレイ・ダリオでさえも、こういった「40%:60%」の「微妙な予測」をしているんですね
それだけ今の世界経済は不確実性が高く、不透明感が強くなっているんです(そして最大の不確実性は、トランプ大統領そのものなのかもしれないです)。
といっても極度に悲観するなかれ、あのレイ・ダリオも、60%の確率でアメリカ経済はまだまだ向こう1年から3年は拡大し続けると、予測しています。
どんなリスクエクスポージャーとアセットアロケーションが有効か?
ダリオによれば、こういった時こそは投資においては、必ず身の丈に合った「リスクエクスポージャー」(≒ポジション)で、分散、分散なのだそうです。
しかも、今まで運用成績が良かったものがこれからも良いとは限らないのだそうです。分散、分散、分散なのです。
そして、アセットアロケーションの中に、ゴールドをいくばくか(7.5%くらいか?)含めることをダリオは推奨しています。
さらに、景気後退や大幅調整が近いかもしれないからと言って、ポジションをゼロにはしてはいけないのだそうです。
そして、どういうわけか、レイ・ダリオは数年前から「中国の将来」を極めて高く評価しています。
ダリオ曰く「20世紀の新興勢力はアメリカだった。20世紀の初めにアメリカ株を長期保有しておこうと思う人は少なかった。けれどもその後アメリカ株は上昇した。21世紀の初めに、中国株を長期保有しておこうと思う人は少ない。けれども、100年後には…」と、「中国株の長期上昇トレンド」を示唆しています。
なにはともあれ、身の丈にあったポジションで、分散分散ですね!
重ね重ねお伝えしますが、アメリカ株が横ばいか若干上昇する確率はまだまだ60%くらいはあります。
Next: 1930年代後半とよく似ている、現在のアメリカ経済
「向こう数年から10年間」は「大きな時代の変わり目」
今は「大きな時代の変わり目に近づいている」というのが、レイ・ダリオの見方です。
1年以内なのか?1~3年後あたりなのか?遅かれ早かれアメリカ経済はリセッション入りすることでしょう。ダリオは「その後の世界」について以下のように見ています。
9月4日の貞子ブログでも紹介しています。
※参考:『The Three Big Issues And The 1930s Analogue』
ダリオは、今のアメリカ経済を1930年代後半にとてもよく似ていると考えているようです。
1930年代後半の景気後退期を脱するために、アメリカは第二次世界大戦に参戦、軍需部門でばかすか財政出動を行って財政ファイナンス(ヘリコプターマネー)を開始しました。この財政ファイナンス(ヘリコプターマネー、別名MMT)のおかげで、1940年代初めにはアメリカ経済はなんとか景気後退から脱して、株価も物価もコンスタントに上昇しはじめます(数年間もばらまき続けないとインフレにならないくらい、当時のデフレ圧力も強かったようです)。
そして、永らく低下傾向をたどった長期金利も、やや遅れて1950年ごろには上昇トレンドへと戻っていったのでした。
めぐりめぐって、2019年。「来たるべく2020年代(?)の景気後退」を回避するために、アメリカでは「財政ファイナンス(ヘリコプターマネー)」がばかすか始まることでしょう。やがてアメリカ株も物価も上昇し始めるでしょう。
この頃には、アメリカではトランプよりももっともっと大衆迎合的な大統領が登場しているのかもしれません(それほどまでに、今のアメリカでは貧富の差が拡大し過ぎてしまっているのです…)。
というわけで、レイ・ダリオは当面はゴールド価格が(向こう10年くらい?)上昇するだろうと予測しているわけです。
戦後、長期金利は1950年から1981年まで上昇トレンド辿りました。この時代の経済学では、「景気後退期には金融緩和よりも財政出動が有効である」と広く信じられていました。各国は不況になると競ってインフラ投資などの積極財政へと邁進します。
その後、長期金利は1981年から現在に至るまで下落トレンドを辿っています。この時代の経済学では、「景気後退期には財政出動よりも金融緩和が有効である」と広く信じられていました。各国は不況期には競って金融緩和を続けます。
そして、長期金利が「上昇のメガトレンドから下落のメガトレンド」へとシフトする「大きな時代の変わり目のおよそ10年間」には、ゴールド価格が急騰しています。
1970年は、アメリカ政府がドルとゴールドとの兌換を止めた年です。その後の10年間である70年代にはゴールドは暴騰、ものすごい勢いで「ドル安・ゴールド高」が進行した時代だったのです。
めぐりめぐって2019年。今後、長期金利が「下落のメガトレンドから上昇のメガトレンド」へとシフトする「大きな時代の変わり目の10年間」が始まることでしょう。向こう10年間、大きな時代の変わり目になるんです!
この新しい10年間においても、ゴールド価格は上昇するだろうというのが、ダリオの見立てです。
おそらく2020年には、アメリカのポピュリスト政府は財政ファイナンス(=ヘリコプターマネー)に着手することでしょう。2020年代も1970年代同様に「ドル安・ゴールド高」が進行する時代になるだろうというのが、ダリオの見立てです。
2020年代の10年間、ドル安の進行でどの通貨が高くなるのでしょうか?それは、台頭する新興勢力の中国人民元をはじめとする新興国通貨なのかもしれません。
ドル安の進行とともに、ドルは今度こそ「基軸通貨の座」から少しずつ滑り落ちるのでしょうか?アメリカは「覇権の座」から少しずつ滑り落ちるのでしょうか?
世界は、向こう10年間くらい、「勝者無き多極化の時代(群雄割拠の時代)」を迎えるのでしょうか?
【要注意!】なお、資産形成および投資は、必ず「自己責任」でお願いします。この記事は藤井まり子の個人的見解を述べたもので、当メルマガ及び記事を読むことで何らかの経済的及び精神的被害を被ったとしても、当方は一切責任を負いません。
image by: cocozero / Shutterstock.com
『藤井まり子の資産形成プレミアム・レポート』(2019年9月4日号)より一部抜粋、再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による
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