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韓国だけが苦悩するGSOMIA破棄、米韓同盟解消の危機に国内からも文政権批判が噴出=勝又壽良

韓国は、安全保障政策という国家の根幹を守る政策で失敗した。GSOMIA破棄を決定したからだ。このままでは11月22日に失効し、脱米国へ向かう可能性もある。(『勝又壽良の経済時評』勝又壽良)

※本記事は有料メルマガ『勝又壽良の経済時評』2019年9月19日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にご購読をどうぞ。当月配信済みのバックナンバーもすぐ読めます。

プロフィール:勝又壽良(かつまた ひさよし)
元『週刊東洋経済』編集長。静岡県出身。横浜市立大学商学部卒。経済学博士。1961年4月、東洋経済新報社編集局入社。週刊東洋経済編集長、取締役編集局長、主幹を経て退社。東海大学教養学部教授、教養学部長を歴任して独立。

国内からも大批判。韓国に不利益をもたらす文政権の歴史修正主義

韓国が必要としていたGSOMIA

韓国は、安全保障政策という国家の根幹を守る政策で失敗した。GSOMIA(日韓軍事情報総括保護協定)を延長せず、破棄する決定をしたからだ。8月22日のことである。このままでは11月22日に失効する

GSOMIAは2016年11月23日、朴槿惠政権下で発効したものだ。当時、韓国国防部は、日本の提供する北朝鮮に関する軍事情報を高く評価していた。

GSOMIAでは、日韓が直接に軍事情報を交換できる。それ以前の日韓は、米国経由で軍事情報を交換する「間接方式」であった。それでも韓国国防部は、「米国経由で提供された日本の北スカッドERミサイル分析情報は、非常に有益だった」と述べたほど。

韓国側にとって、GSOMIAへの期待が大きかったことを物語るエピソードである。

日本が保有する偵察衛星5機は、北朝鮮の弾道ミサイルの動向収集に役立つとみられる。現在米国の偵察衛星は韓半島(朝鮮半島)上空を一日2、3回ほど通過するため、北朝鮮弾道ミサイルの動きを把握するのに限界がある。特に今回の情報(総括)保護協定(注:GSOMIA)は北朝鮮が開発している潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)への対応にも効果的だ。

北朝鮮が慶尚北道星州(ソンジュ)に配備される高高度ミサイル防衛(THAAD)体系の迎撃範囲を避けてSLBMを発射するには、独島(ドクト、日本名・竹島)近隣まで潜水艦を送る必要がある。その場合、日本の海上哨戒機(P-3C)77機と潜水艦に探知される可能性が高い。

出典:日本の偵察衛星5機、北朝鮮ミサイルを詳細に把握可能 – 中央日報(2016年11月23日配信)

GSOMIAの破棄で一芝居

このようにGSOMIAへは、韓国側から高い評価と期待がかかっていた。

政権が、保守派の朴政権から革新派の文政権に代わって、位置づけが180度の変わりようである。現在では、日本が韓国のプライドを傷つけ、日本との相互信頼関係がなくなったので、GSOMIAを延長せず破棄すると決めた、というようになっている。もはや、ここには軍事情報の重要性が消えている

韓国のプライド論が、厳粛な安全保障政策を左右する議論として、余りにも感情的という批判を呼んでいる。

韓国の本当の狙いはどこにあったのか。それが最近、明らかになってきた。

韓国は、日本が韓国を「ホワイト国除外」にしたことを取り消すことを条件に、GSOMIA破棄を取り消す米国が、その仲介をしてくれるという図式を描いていたことだ。

ところが、日米は全く動かないことが明らかになってきた。むしろ、GSOMIAが日米韓3ヶ国の安保ラインの象徴的な存在であり、それを無視した韓国へ批判が高まったのである。

こうなると、文政権は民族主義で視野狭窄症という、はなはだ芳しからざる立場に立たされることになった。

Next: 国内からも批判殺到? 韓国へ不利益をもたらす文政権の歴史修正主義



GSOMIA破棄が韓国へ不利益をもたらす

韓国国内でGSOMIA破棄は、韓国へ不利益をもたらすという議論が増えている。その1つを取り上げたい。

文政権は、南北の信頼構築、特に軍事的な信頼構築を強調し、反面で米韓・日米韓軍事協力を弱体化させる方向に進んでいる。こうした姿勢は、韓国がこれまで維持してきた伝統的な外交・安保の軸から離脱する兆候に見えるようになった。ここには、親米より親北朝鮮の要素が強く現れているのだ。中国に対しては沈黙し順応する姿勢を見せながら、日本には強く反発し、不買運動を展開するという極端な違いを見せている。

中国に対して沈黙順応する裏には、次のような「三不政策」が根拠になっている。これは、朴政権が2016年7月、韓国東部に米軍のTHAAD(超高高度ミサイル網)設置を決めたこと。中国が、これに強く反対して韓国へ経済制裁を加えて現在に至っている。

文政権は、中国に対し、次のような約束の「文書」を書かされている

<中国に対する「三不政策」>

(1)THAAD追加配備中止
(2)ミサイル防衛(MD)不参加
(3)日米韓の安保協力を3カ国軍事同盟に発展させない

上記のの3箇条である。いずれも中国語表記では不可を意味する「不」が入るため「三不」と呼ばれるものだ。

GSOMIAは、前記の「三不」のうち、(3)に該当する。文政権は、これを根拠にしてGSOMIA破棄を決めたのでないか、という憶測もされている。

米国が、神経を使っている点はこれだが、後で取り上げる。

文政権の歴史修正主義が問題

文政権は、民族主義に基づき、韓国現代史に対する修正主義的解釈を加えている。

具体的には、北朝鮮の金日成が唱えた「チュチェ(主体)思想」を信奉していることだ。これによる「親中朝・反日米」路線が、文政権の外交・安保戦略に組み込まれている可能性を否定できないのだ。中国に対しては、経済制裁されても従順に振る舞う。一方、日本が「ホワイト国除外」をすれば烈火のごとく怒り、「反日不買運動」を煽る。こういう極端な違いは、「チュチェ思想」の影響なのだ。

問題は、この「親中朝・反日米」路線がもたらす地政学的リスクに対して、韓国がどれだけ耐えられるのかだ。

中朝は、朝鮮戦争を仕掛けた「侵略軍」である。文政権は、中朝を侵略軍」と見なさず、「民族統一戦争」として位置づけている。この歴史修正主義に立つと、韓国が再び、中朝から手痛い打撃を受けるリスクを抱えるのだ。先の「三不政策」は、まさに歴史修正主義の顕著な例である。

韓国経済は、今後の少子高齢化によって一段と厳しくなる。その上、「親中朝・反日米」に伴う安保リスクが拡大すれば、外交的に孤立する懸念が強まる。

GSOMIA破棄は、以上のような潜在的なリスクを秘めた危険な政策選択になろう。文政権は、民族主義という狭い視点でGSOMIA破棄を決めた。感情論に流されており、すでに大局的視点の「日米韓3ヶ国の安保ライン維持」が消えているのだ。

Next: 韓国、脱米国の可能性も。世界的孤立は避けられない?



韓国は脱米国の可能性秘める

文政権の外交・安保戦略には、「親中朝・反日米」が基本的に影を落としている。このことから、米国は韓国に疑いの目を向けている

米戦略国際問題研究所(CSIS)のマイケル・グリーン上級副所長は9月4日、米議会傘下の米中経済安保検討委員会が主催した「2019年米中関係検討公聴会」で、次のように述べた。

「韓国は、日本と非常に異なる歴史を持ち、非常に異なる地政学的状況にある。こうした要因によって中国は、韓国が米国との同盟から離脱する可能性がはるかに大きいと見ている」と。

この発言は、きわめて暗示的である。

韓国が、かつて中国の属国であったという事実と儒教文化圏にあることを理由にしている。これが、韓国人の潜在的な意識において、「中国に逆らえない」という敗北意識を持たせてきた。

先に挙げた「三不政策」は、この潜在意識がもたらした典型的な事例であろう。同盟でもない他国に、国家の安全保障政策の根幹を約束することなど、常識的にあり得ない。韓国は、そういうあり得ないことを行ったのだ。

中国の圧政に屈した韓国

グリーン副所長は、米議会に提出した陳述書で「中国の習近平国家主席が就任した後、中国は韓国が米国との同盟から離脱するよう強圧的に接した」と診断した。2017年の超高高度防衛ミサイル網(THAAD)設置当時、韓国企業への圧力および中国人観光客の訪韓禁止政策を、その例として挙げた。 

中国に進出している現代自動車起亜自動車は、「不買運動」によって業績不振に陥り、両社とも一工場を売却せざるを得なくなったほど追い詰められている。販売シェアは現在(1~8月累計)4.4%に止まり、いずれインドへ工場移転する計画が持ち上がっている。

ロッテは、中国で展開した110店舗以上のスーパーが、不買運動と当局の理不尽な立入検査で閉店に追い込まれ、全店舗を売却し撤退した。

これだけの不当な扱いを受けながら、文政権は一言の抗議もすることなく、中国の圧政に屈した

グリーン氏は、韓国が中国の強要に対抗する姿勢で、日本や豪州より慎重であると評価した。また、米国のインド太平洋戦略への参加にも、韓国が消極的であると指摘している。 これらは、「朴槿恵政権から文在寅政権まで、中国が朝鮮半島統一で重要な役割をするとの信念を抱いている」現れとしている。これが、中国に対し低姿勢を取らせていると分析した。

以上のように、韓国が日本や豪州と異なる歴史ゆえ、潜在意識面で中国と深く結びついていると喚起している。米国政府高官が、今回のGSOMIA破棄問題で、韓国を警戒する理由だ。

Next: 大きく揺らいだ米韓関係。日本にとってGSOMIA破棄の影響は少ない



韓国に失望した米国

米国は、韓国がGSOMIA延長問題で結論を出す前に、新国防長官や大統領安全保障担当補佐官を訪韓させ、GSOMIA延長を要請していた。それにも関わらず、破棄になったことで一斉に不満と失望を表明した。外交慣例上、従来にない厳しさである。

米国側は、GSOMIAの果たす日米韓3ヶ国の安保ライン維持が、中ロ朝の3カ国に対する結束を象徴するものと表明した。

これに対して韓国大統領府は、「国益は同盟の利益より優先する」との声明を出すなど感情的に対応して問題になった。国益は、同盟によって守られるものであり、単独では不可能である。だからこそ、同盟が存在する意義がある。

韓国は、朝鮮戦争で大きな打撃を受けながら、米国を核とする国連軍によって独立を維持できた。こういう歴史的な事実から言えば、国益は同盟によって維持できた現実に目を覚まさなければならない。

米韓関係が大きく揺らいだ瞬間である。

米国は、韓国に対してGSOMIA破棄を取り消して、原状に復することを希望している。韓国が狙った、米国による日本への「ホワイト国除外」撤廃要請は不発に終わった。

GSOMIAと「ホワイト国除外」は、もともと別次元の問題である。これを絡めようとした韓国に、認識不足があったというほかない。

日本は自前の軍事情報収集へ

日本にとって、韓国によるGSOMIA破棄が、軍事情報取得上において致命的な欠陥になるわけでない

現在、光学衛星3機、レーダー衛星3機、予備レーダー衛星1機を稼働している。最終的に光学衛星4機、レーダー衛星4機、データ中継衛星2機など計10機の情報収集衛星が確保される。このほか対空レーダー11機や海上自衛隊6隻の護衛艦に航空機やミサイルを探知して対応するイージス戦闘システムを搭載した。建造中の護衛艦2隻も同じである。

このように軍事情報収集体制の整備を急いでいる。

日本は自前の軍事情報収集体制に加えて、米国からの情報伝達がある。仮に、韓国が抜けたとしても、それが決定的なマイナスにはならない

ただ、ミサイル発射など1分1秒を争う緊急事態では、日米韓3ヶ国が瞬時に同一情報を得て行動できるメリットは大きいのだ。韓国では、この点の認識が足りず、「自尊心」が優先する「古代の戦法」のような考えに囚われている。

Next: 自作自演の「GSOMIA破棄劇」は不発に終わった



自作自演の「GSOMIA破棄劇」は不発に終わった

韓国にとっては、自作自演の「GSOMIA破棄劇」である。

GSOMIAが失効する11月22日まで後2ヶ月間、冷静に考え直す最後の時間が与えられる。

文政権は、任期5年のほぼ中間点に差し掛かっている。民族主義に基づく「自尊心」によって、国家存続の安全保障政策を歪める危険性を改めて問い直すべきなのだ。

文政権は5年間で終わるが、韓国の歴史は続く。韓国経済の将来性がにわかに怪しくなってきた現在、安全保障政策で日米韓が協調するメリットを考えることだ。

仮に、中国陣営に馳せ参じたいとしても、国民の賛同がなければ不可能である。

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2019年9月配信分
  • 韓国、GSOMIA破棄の大博打で失敗、日米は動かず11月22日失効前に苦悩(9/19)
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image by:duma.gov.ru at Wikimedia Commons [CC BY-SA 4.0], via Wikimedia Commons

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勝又壽良の経済時評』(2019年9月19日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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経済記者30年と大学教授17年の経験を生かして、内外の経済問題について取り上げる。2010年からブログを毎日、書き続けてきた。この間、著書も数冊出版している。今後も、この姿勢を続ける。

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