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韓国、GSOMIA破棄撤回への下準備が進行中。日本に頼るしかなく、北のSLBM発射で観念=勝又壽良

北朝鮮が10月2日、新型の潜水艦発射弾道ミサイルを発射したことで、韓国のGSOMIA破棄問題が再注目されている。水面下で破棄撤回の準備が進んでいるようだ。(『勝又壽良の経済時評』勝又壽良)

※本記事は有料メルマガ『勝又壽良の経済時評』2019年10月7日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にご購読をどうぞ。当月配信済みのバックナンバーもすぐ読めます。

プロフィール:勝又壽良(かつまた ひさよし)
元『週刊東洋経済』編集長。静岡県出身。横浜市立大学商学部卒。経済学博士。1961年4月、東洋経済新報社編集局入社。週刊東洋経済編集長、取締役編集局長、主幹を経て退社。東海大学教養学部教授、教養学部長を歴任して独立。

韓国国内では未発表?日米韓の軍制服組トップが多国間協力で合意

破棄決定後に存在感を増すGSOMIA

北朝鮮が10月2日、新型の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を発射したことを受けて、韓国のGSOMIA(日韓軍事情報包括保護協定)破棄問題がクローズアップされている。

SLBMは、発射地点や発射の兆候が分かりにくく迎撃が難しい厄介なミサイルだ。こうなると、軍事情報把握はより広角が求められる。韓国は皮肉にも、GSOMIAの役割が一層、大きくなってきた

GSOMIAは、2016年11月23日から発効した。韓国側では当初、北朝鮮に対する情報源の拡大という意味で期待をかけていた。具体的には、今回の発射実験で成功した北のSLBMへの対抗措置であったのである。発効当時には以下の報道があった。

GSOMIAは、北朝鮮が開発している潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)への対応にも効果的だ。北朝鮮が慶尚北道星州(ソンジュ)に配備される高高度ミサイル防衛(THAAD)体系の迎撃範囲を避けてSLBMを発射するには、独島(ドクト、日本名・竹島)近隣まで潜水艦を送る必要がある。その場合、日本の海上哨戒機(P-3C)77機と潜水艦に探知される可能性が高い。

出典:中央日報(2016年11月23日配信)

北朝鮮のSLBMが試射に成功したので、韓国はGSOMIAが本格的にその役割を果たすはずだった。

その矢先に、韓国がGSOMIA廃棄では、感情論の誹(そし)りを免れない。米国が、この決定に強く反発しているのは当然である。

米国は、GSOMIAを軸にして日米韓3ヶ国の軍事情報インフラを強化して、東アジアの安保体制強化を狙ってきた。その足下で、韓国がGSOMIAを廃棄することは想像外の事態であろう。

韓国は「日本が譲歩すれば再検討」との立場を継続

韓国と米国が、安全保障上の主要懸案を調整する協議体として9月26・27両日、統合国防対話(KIDD)第16回会合がソウルで開催された。

米国は、韓国が日本とのGSOMIA終了を決めたことで、改めて懸念を表明した。韓国国防部によると、米国側はGSOMIA終了が日米韓の安保協力に影響を及ぼすとの懸念を示した

韓国側は、これまでの立場を再度伝達したという。日本政府が対韓輸出規制強化を撤回すれば、GSOMIA終了決定を再検討するとの立場を強調したものだ。

韓国国防部関係者は、「米側の懸念は(GSOMIA終了により)、日米韓の安保協力が弛緩するのではないかというところにある」とし、「今回の会議の焦点は、日米韓安保協力を持続して推進していくという米韓の立場は強固だというところにある」と伝えたという。

だが、「GSOMIAを廃棄しても日米韓3ヶ国の安保協力を持続する」。米国が、こういう韓国の建前論に納得するはずがない。韓国に対して、GSOMIA復帰を迫った

これが、9月下旬までの韓国の対応であった。

Next: 韓国は日本に頼るしかない?GSOMIA復帰への下準備が進行中か



北のSLBMで事態急変

ところが、10月に入って事態は急変する。北朝鮮によるSLBM発射が、暗い影を落とし始めたのである。

米国の要求する韓国のGSOMIA復帰論に、緊急性を帯びてきた。その背景として、次の報道(『日本経済新聞』10月6日付)に注目していただきたい。

SLBMは、海中の潜水艦から発射できるミサイルということだ。移動する潜水艦が撃てば発射地点が察知しにくく、兆候もつかみにくい。日本は米国の早期警戒衛星でミサイル発射の情報を得ている。兆候をつかめば陸海空のレーダーで探知・追尾し、イージス艦の海上配備型迎撃ミサイル「SM3」と地対空誘導弾パトリオットミサイル(PAC3)で迎撃する。

しかし、潜水艦から撃てば、発射の兆候や場所の探知は遅れ、対応が後手になる。10月2日の北朝鮮のSLBM発射は潜水艦からではなかったとの見方が多い。それでも海中からの発射技術は確立したとみられている。液体燃料を注入するミサイルは準備に時間がかかり、衛星などで発射の兆候をつかみやすい。今回のような固体燃料の場合は、陸上でも移動式発射台を使って様々な場所からすぐに発射できる。

出典:日本経済新聞(2019年10月6日配信)

ここに報じられたような事態になると、日本ですら北朝鮮の軍事動向に一層の神経を払わざるを得ない。

韓国にとっては現実問題として、GSOMIAで日本の軍事情報提供の必要性がさらに高まったのである。

現に、韓国国防部は北朝鮮のSLBM発射情報について、日本側に提供を申し入れてきた11月23日まで、GSOMIAは効力を持つので、韓国が、日本に情報提供を求める権利はある。

韓国の鄭景斗(チョン・ギョンドゥ)国防部長官は、北朝鮮が2日午前7時11分ごろ未詳の飛翔体を東海(日本名・日本海)方向に発射したことに関連し、日本に対して情報共有を要請したと明らかにした。

出典:中央日報(2019年10月2日配信)

GSOMIA復帰へ足慣らし

このように、韓国が「恥を忍んで」日本へ情報提供を求めた裏には、日米韓の間で何らかの「合意」ができていることを覗わせる報道が出ていることだ。

これら情報を丹念に繋ぎ合わせると、米国による韓国への説得が功を奏しており、韓国がGSOMIA復帰への下準備を始めている様子が窺える。

米統合参謀本部は10月2日(現地時間)、マーク・ミリー同本部議長が米国防総省で、日本の山崎幸二統合幕僚長、韓国の朴漢基(パク・ハンギ)合同参謀本部議長と1日に会い、北東アジアの平和と安定のための多国間協力を活用することで合意したと発表した。日本の防衛省統合幕僚監部も3カ国の軍制服組の会談結果を発表している。

だが、なぜか韓国合同参謀本部だけ、公式結果の発表をしなかったのだ。

このことについて、韓国メディアが注目するのは、「3カ国の軍制服組トップが多国間協力を活用することで同意したと明らかにした点」である。韓国政府が、今年8月にGSOMIA終了を宣言して以降、日米韓の軍制服組トップが一堂に会したのは今回が初めてだ。

米統合参謀本部は10月1日付の報道資料で、今回の会談について「高位の軍指導者たちは相互安全保障の諸懸念を取り上げ、地域の平和と安定を促進するための多国間協力を活用することで合意した」と明らかにしていた。

米統合参謀本部は、GSOMIAに言及していないが、3カ国の軍制服組トップが多国間協力を活用することで同意したと明らかにした点が目を引く。

つまり、韓国がGSOMIA復帰へ同意したことを示唆しているのだ。

Next: GSOMIA復帰に現実味。なぜ、いったんは破棄へと舵を切ったのか?



GSOMIA復帰、韓国国内では未発表

韓国国防部が、「3カ国の軍制服組トップが多国間協力を活用することで同意」を発表しなかったのは、GSOMIA復帰が韓国国内で未発表であることだ。

だが、韓国の朴漢基合同参謀本部議長は、「多国間協力を活用することで同意」したと、米統合参謀本部が10月1日付の報道資料で公表している。韓国の合同参謀本部議長が、独断でこのような重要事項に合意するはずがない。大統領府の了解を得た上でのことであろう。

こういう伏線で見ると10月4日、韓国の南駐日大使による「韓国のGSOMIA復帰」発言に注目せざるを得ない。

南大使は、韓国文大統領に近いとされている。文氏が南氏を日本大使に送り込んだ理由は、日韓関係の打開という大きなミッションを与えた結果とされている。

となると、「南発言」は文大統領の意向を受けた発言とも読めるのだ。

なぜ、いったんはGSOMIA破棄に向かったのか?

前述の通り、南官杓(ナム・グァンピョ)駐日韓国大使が10月4日、「GSOMIAは復帰が望ましいと考えている」と述べた。

南官杓大使は、駐日韓国大使館で行われた韓国の国会外交通商委員会の国政監査で、「GSOMIAを破棄しても情報交流は全く問題ないのか」という尹相現(ユン・サンヒョン) 議員=自由韓国党=の質問に、「GSOMIA終了という事態は韓日両国間において望ましくない状況であり、このような状況が起こらざるを得ない局面は遺憾だ」と語った。

また、キム・ソンハク駐日国防武官(海軍准将)も、前記の国会外交通商委員会国政監査で、「情報は1つでも多く持っている方がいい。GSOMIAは日韓関係から離れて友好国との関係、北東アジア情勢も考えなければならない」と述べた。以上は、『朝鮮日報』(10月5日付)が報じた。

駐日国防武官による、「GSOMIAは日韓関係から離れて友好国との関係、北東アジア情勢も考えなければならない」という指摘は核心を突いている。

GSOMIAが、単なる日韓の2ヶ国関係に止まることなく、韓国の友好国や北東アジア情勢に関わっているという指摘は、まさに正論である。

この正論がなぜ8月22日、韓国大統領府での国家安全保障会議で否定されたのか。

前記の国政監査では、「南官杓大使が青瓦台国家安保室第2次長時代、GSOMIA破棄が検討されていたか」という質問に、「そのようなことはない」と答えている。南大使のこうした回答は、同大使の後任者である金鉉宗(キム・ヒョンジョン)現・国家安保室第2次長の主導でGSOMIAが破棄されたことを間接的に表したものと言えそうだ。

金鉉宗・国家安保室第2次長は、通商問題で民族主義立場を強調する弁護士として、文大統領の目にとまったとされている。

安全保障の専門家でない人間が、安全保障会議を牛耳るという前代未聞のことが起こり、GSOMIA廃棄という破滅的結論をまとめ上げたのだ。

Next: 韓国は大人として振る舞うべき? 日韓対立で損をするのは韓国側



日韓対立で損をする韓国

米ヘリテージ財団の創設者エドウィン・フールナー氏が9月27日、韓国でGSOMIAについて気になる発言(『朝鮮日報』9月28日付)をしている。

ヘリテージ財団は、トランプ政権の外交安保政策に大きな影響力を持つとされている。それだけに、「気になる発言」なのだ。

最近の韓国と日本との対立についてフールナー氏は、「韓国がGSOMIAを破棄し、日本と対立する状況が続けば、最終的に損害を被るのは韓国だ」と断言した。

フールナー氏は「韓国の一部の友人は(米国が日本の側にばかり立つという)被害者意識を持っているようにもみえるが、トランプ大統領とその周辺の幹部たちは韓日対立についてもよく理解している」と指摘した。

フールナー氏は人差し指、中指、薬指を立て、「韓米日はこのように緊密な関係を維持すべきだ。中国とロシアの面前で韓日が歴史問題で引き続き争うよりも、南シナ海問題など共同の利害がある分野で協力できることを見いだしてほしい」と述べた。

出典:朝鮮日報(2019年9月28日配信)

ここでは、韓国がいくら反日行動を取ろうとも、日米韓3ヶ国の安保インフラとしてGSOMIAが機能している現実を忘れてはいけないと指摘している。

韓国が、早く「大人」として振る舞うことが必要になってきた。

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  • 韓国はGSOMIA復帰?米国に外濠埋められ 北のSLBM発射で観念(10/7)
  • 金大中に遠く及ばない文在寅 経済無策と反日が韓国を破滅させる(10/3)

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勝又壽良の経済時評』(2019年10月7日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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勝又壽良の経済時評

[月額864円(税込)/月 毎週木曜日(年末年始を除く)予定]
経済記者30年と大学教授17年の経験を生かして、内外の経済問題について取り上げる。2010年からブログを毎日、書き続けてきた。この間、著書も数冊出版している。今後も、この姿勢を続ける。

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