ソフトバンク・グループの孫正義が、米企業ウィーワークへの投資の失敗で追い込まれている。「次のリーマンショック級の経済ショックが起きたらソフトバンクは死ぬ」とまで言われている。どういうことか?(『鈴木傾城の「ダークネス」メルマガ編』)
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プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営している。
株式公開という出口を見据えた壮大なババ抜き、負けたのは…
孫正義、投資で大失敗
最近、ソフトバンク・グループの孫正義が、オフィスシェアの企業「ウィーワーク(WeWork)」での投資の失敗で追い込まれている。
孫正義は今、ビジョン・ファンドという投資ファンドを立ち上げて、世界中のあちこちの企業に投資しているのだが、ウィーワークもその一環として1.1兆円も投資した企業だった。
孫正義はこのウィーワークを5兆円と評価していたのだが、本当にそう思っていたのか、市場へのポジショントークだったのかは分からない。
いずれにせよ、孫正義の今までのやり方は、「まだ未上場の企業に出資して上場したら売り逃げする」というものなので、ウィーワークもそのつもりで1.1兆円を投資してIPOに向けて準備していた。
ところが、ウィーワークはIPO前に「見てくれだけは立派」だが、中身は借金転がしのただの不動産屋で、借金まみれで潰れかけの企業であることが判明した。ただの不動産屋に5兆円の価値はない。またシェアオフィスには将来性もない。
それが上場前にすべてバレてウィーワークは経営危機に陥り、孫正義の売り逃げの目論みはものの見事に失敗してしまった。それが今の状況だ。
ウィーワークが潰れたらソフトバンクも潰れる?
ひとまず、口先だけで経営能力のないアダム・ニューマン(※編注:WeWorkの共同創立者)をそのままにしておくわけにはいかないので、孫正義は約1,800億円もの退職金を払って創業者とその仲間を経営から放逐したのはいいが、1.1兆円も投資した孫正義はババをつかんだような状況になってしまった。
問題は、いくらウィーワークが無価値な会社であるとしても、孫正義は絶対にこの会社を潰すわけにはいかないということである。
ウィーワークを潰したら、ビジョンファンドそのものが崩壊してしまうからだ。
ウィーワークはすでに資金がショートしているので、孫正義は追加で1兆円を再び出資せざるを得ない状況に陥ってしまった。
Next: 株式公開という出口を見据えた壮大なババ抜きゲーム、負けたのは孫正義?
投資家たちはアダム・ニューマンの夢に賭けた?
ウィーワークというのは、カリスマ的な雰囲気を持つアダム・ニューマンという創業者が立ち上げた会社だ。
アダム・ニューマンは、「世界の意識を引き上げる」「我々が世界を変える」みたいなビジョンを大袈裟に語り、大風呂敷を広げながら投資家を引き込んで、借金の規模を膨らませながら会社の規模を大きくしていった。
その調達金は凄まじいものがあった。2014年には300億円、2015年には1,000億円、2016年には430億円、2017年には760億円と、次々と投資家からカネを引き出していたのである。
投資家は本当にウィーワークがそんなに価値があると思っていたのか。いや、彼らは財務諸表を見てウィーワークの簿価を算出したのではなく、アダム・ニューマンの勢いを見てカネを出資していただけだ。
アダム・ニューマンと一緒になって「ウィーワークはすごい価値がある」と世間を煽り、最終的には「IPOで売り逃げ」するつもりでそれを行っていた。
つまり、IPO(株式公開)という出口を見据えた壮大なババ抜きゲームだったのである。
そこに最後にやってきたのが、孫正義だった。
ウィーワークの目論見書はボロボロ
孫正義は、ヤフーやアリババでこの手法を成功させた経営者でもある。
そこでこの手法をより大規模にするために、ビジョン・ファンドという投資ファンドを立ち上げて、どんどん新しい会社を買っていった。ウィーワークもまたそうした企業のひとつとして孫正義は目を付けたのだった。
孫正義もまたウィーワークのIPOでがっぽりと儲けられると皮算用して出資しているので、ウィーワークの「実際」の企業価値など目もくれなかった。
しかし、ナスダックに上場するためには、ごまかしのない目論見書や決算書を提出しなければならない。
ウィーワークの目論見書はボロボロだった。
化けの皮が剥がれたアダム・ニューマン
さらに、アダム・ニューマンは自分個人の不動産をウィーワークに買わせて自分だけに利益を得たりするような背信行為を裏で行っていたり、スピリチュアルみたいなものにハマっている妻に経営や人事に口出しさせたり、自家用ジェット機で世界中を飛び回って酒とパーティーに明け暮れたりして遊び回っていた。
そうしたものがすべて発覚して、IPOは失敗し、ウィーワークは一気に経営危機に陥り、こんな会社に1.1兆円も払った孫正義が窮地に陥った。
そして、ウィーワークを支えるためにさらに1兆円も突っ込んで、今度はソフトバンクの経営は大丈夫なのかと、投資家に疑念を抱かせる状態になっている。
Next: 迫る共倒れの危機。ソフトバンクはまだ地獄の一丁目だ
ソフトバンクはまだ地獄の一丁目
孫正義は今まで数々の窮地をくぐり抜けてきた経営者なのだが、ここ最近はスプリントの買収の失敗や、ウーバーやスラックやアームの不振、さらにウィーワークでの泥沼の救済劇、その上に膨れ上がっていくソフトバンク・グループの有利子負債などでアラが目立つようになっている。
おまけに、懸念材料が他にも次々と沸いて出てきている。
「純利益1兆円のソフトバンクが法人税ゼロ」というからくりが不正なものであることを財務省が指摘していることだ。ソフトバンクは、グループ内で赤字を振り分けて「巨額の赤字が出ている」ことにして法人税を払ってこなかった。
法の抜け穴をついて税金を払わないソフトバンクを見る目が世間的にも厳しくなってきている。
国民はみんな消費税を10%に引き上げられて無理やり政府に毟り取られているのに、ソフトバンクは巧みに法人税を逃れて税金を払わない。孫正義を見る世間の目は冷たいものになっていく。
アメリカでは、トランプ大統領が「中国企業はアメリカで上場させないようにしろ」「アメリカに上場している中国企業は上場廃止にしろ」「アメリカの投資家は中国に投資するな」と言い出しているのだが、そうなるとアリババなどは一気に時価総額を喪失する。
このアリババの実質的な支配者はソフトバンクなので、そうした話が進めば進むほどアリババと共にソフトバンクもまた窮地に落ちる。
ソフトバンクを取り巻く環境は「悪化」している。
ソフトバンクの環境が悪化して実際に投資先の企業の赤字や株価下落などによる含み損がソフトバンクの決算に反映されていくようになると、ソフトバンクの受難はここからが本格化していくことになる。
言って見れば、ソフトバンクはまだ地獄の一丁目に辿り着いたばかりである。
今の株式市場は割高に評価されている
ところで、現在の世界は米中新冷戦の真っ只中にある。
巨大な経済大国であるアメリカと中国が激しく互いに報復関税をかけ合って対立している。中国の経済成長は鈍化し、状況は想像以上に悪化している。
グローバル経済は、「成長」に向かっているのではなく、「後退」に向かっているのである。
そうであれば、世界の株式の総本山であるアメリカの株式市場はそれを織り込んで「下がっていなければならない」のだが、下がるどころか上がっている。
つまり、今の株式市場は実体経済と乖離して割高に評価されている。
株式市場が割高かどうかを評価する指標で最も分かりやすいのはバフェット指数である。バフェット指数というのは、稀代の投資家であるウォーレン・バフェットが指し示した指数なのだが、「株式時価総額 ÷ 名目GDP × 100」で算出される数字だ。
バフェット指数は「株式時価総額と名目GDPは、本来であればだいたい一致する」という点を利用した指数である。要するに実体経済(名目GDP)に対して株価は高いのか安いのかを評価しているものだ。
そのため、100%を超えてくるようであれば「株価は実体経済よりも高く評価されているので下落しても不思議ではない」という考え方ができるし、実体経済よりも株価が低いと「売られすぎ」という考え方もできる。
今はどうなのか。今のバフェット指数は140%台にある。つまり、株価は実体経済よりも高いということが分かる。
さらにシラーPEレシオ(CAPEレシオ)というものもある。通常のPERは現在の株価を1株あたりの純利益で割って計算するのだが、シラーPERは現在の株価を「過去10年間の1株あたり純利益の平均値」で割る。それによって「長期的に見て現在の株価が割高か割安か」が分かる。
それを見ても、現在のアメリカの株式(S&P500)はシラーPEレシオで「ほぼ30ポイント」になっているので、やはり「割高」であると判断できる。15ポイントあたりがシラーPEレシオの心地良い数字ではあるが、30ポイントと言えば「ほぼ2倍」である。
Next: 次の経済ショックでソフトバンクは死ぬ?
大暴落で追い込まれるのは「借金をして株を買っている人」
もちろん、株価が高いからと言って「ただちに暴落する」とは誰にも言えない。
実体経済が停滞しており、株価が割高に評価されているのであれば、いずれは株価の下落が来るのは間違いないのだが、それは「いつ来るのか」「どれくらいの規模でくるのか」は誰にも分からないところである。
しかし、それは必ずやってくる。
実は、ソフトバンクを破産寸前にまで追い込むかもしれない最も大きな懸念がここにある。いつの時代にも「経済的ショック」によって追い込まれるのは、「借金をして株を買っている人間」である。
借金をして株を買うと株が下落して評価損が出た時、追証を求められることになる。追証が払えないと、損失覚悟で次々と株は売り払われる上に、足りない分を補填しなければならない。
借金をして株を買っている投資家は、株をじっと保有するということが許されない。そして、一番カネに困っている時にもっとカネが必要になる。さらに「安い時に仕込む」ということすらもできなくなるのである。
次の経済ショックでソフトバンクは死ぬ?
「ソフトバンクはいまや投資企業である」とよく言われている。
そのソフトバンクの有利子負債を見て欲しい。約17兆円である。
孫正義は「ソフトバンクグループが保有する株式だけで26兆円の価値を持つ」と言うのだが、そうであれば保有する株価が35%以上の下落を見ると、保有する株式以上の有利子負債を抱える会社になるということでもある。
株式市場全体が暴落すると、ソフトバンクグループは一気に資金にショートをきたす危うい経営に追い込まれているのが今の状況だ。
「次のリーマンショック級の経済ショックが起きたらソフトバンクは死ぬ」と言われているのはそういうことでもある。
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『鈴木傾城の「ダークネス」メルマガ編』(2019年10月27日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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