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景気後退は進むのか…2020年の中国市場はどうなる?中立、楽観、悲観の3つのシナリオ=田代尚機

2020年の(中国)本土市場をあえて予想する。極めて感覚的なものではあるが、中立、楽観、悲観の3つのシナリオを示し、大雑把な発生確率をイメージで示す。(『中国株投資レッスン』田代尚機)

対米などの問題は不透明ながら、5Gスマホの新製品が需要を喚起

証券アナリストの予想は強気になりやすい、そのワケとは?

あえて2020年の(中国)本土市場を予想する。この時期になると、各メディアから、来年の市場予想を書いてくれといった依頼が重なる。

誤解を恐れずに敢えて言えば、プロのストラテジスト、アナリスト、エコノミストであれば、予想など、悲観的なものから楽観的なものまで自在に書くことができる。もちろん、どれも、しっかりと根拠のある予想である。しかし、投資家が一番知りたいのは、どの予想が一番起きる可能性が高いのかといった点であり、それに応えることのできるプロは決して多くない。

残念ながら、セルサイドの予想は、どうしても楽観的なものに傾きがちである。なぜなら、証券会社といった営利企業に勤務する彼らは、その予想が証券会社の収益に有利な方向にバイアスがかかってしまいがちであるからだ。

株価が上昇するような相場では、外部から資金が流入し、売買の回転が上がる。出来高の増加は、売買代金の増加に繋がり、それが手数料収入の増加に繋がる。

営業体からすれば、調査部門から悲観的な予想が出されることによって、買いが入らなければ営業成績に響く。売り、空売りを勧めればよいのではないかと思うかもしれないが、売りが強い相場(弱気相場)は、出来高は少なく、証券会社にとっては望ましくない。また、投資家にとって空売りはリスクが高く、結果的に投資家が大きく傷ついてしまい、その後の取引に重大な影響を与えてしまうことが多い。

書く側からすれば、悲観的な予想をしたうえで、実際の結果が楽観的であった場合の営業体から受けるプレッシャーは大きい。悲観的な予想が当たったところで、営業体、顧客からの評価は、楽観的な予想が当たった時と比べれば小さい。そうした彼らへの評価基準の非対称性が強気予想に傾くといった結果を生みやすくしている。

さらに言えば、将来のことは分からない。先のことほど不確実性が高まる。わからないのなら強気の予想をしておいた方が自分にとっては有利である。だから、年末にかけて上がるといった予想が多くなる。

最近では証券会社の収益構造も変化しており、かつてほどここで示したような極端な状態ではないと思うが、それでもバイアスは存在するとみている。

同じようなことが年初の企業経営者の相場予想でも当てはまる。市場の予想は投資成績に大きな影響を与えるので重要ではあるが、その精度は高くないとあきらめて、具体的な銘柄選びに集中することをお勧めしたい。

…と、これだけ書いておきながら、それでも敢えて来年の本土市場の予想を示しておく。ただ、3つのシナリオを示し、極めて感覚的なものではあるが、大雑把な発生確率をイメージで示しておく。

Next: まずひとつめ、2020年上海総合指数の中立シナリオは?



2020年の上海総合指数の見通し

(1)中立シナリオ(50%)

安値の時期:1月
安値:2,800~2,900ポイント

高値の時期:11月
高値:3,200ポイント

<理由>

・現在のバリュエーションは相対的に割安である

12月6日現在の上海市場における市場平均PERは13.9倍に過ぎない。過去20年間のデータと比較すると、10倍割れは2014年5、6月だけ。現在の水準は、2012年後半から2014年秋あたり、2018年秋から2019年初めにかけての期間に次ぐ低さである。PERが低いからと言って、すぐに上昇するといったわけではないが、業績見通しが崩れる感じがしない中で、株価の下値は堅いとは言えそうだ。

・5Gの立ち上がりで関連の設備投資が出る

中国では11月1日から5Gサービスが開始された。最初は、一線都市、新一線都市、二線都市など規模の大きな50都市に限定してサービスが開始されるが、2020年には営業範囲は340以上の都市に広げられる。その時点で、中国の5Gネットワークは世界最大となるだろう。

・スマホ、自動車が今年悪かった反動で生産台数が伸びる

Gartnerによれば2019年7-9月期の世界スマホ販売台数は3億8,700万台で0.4%減だが、華為技術は6,582万台でサムスン電子に次いで第2位、26%増と急増するなど、中国勢は全体で見れば、好調である。今後、5Gスマホの新製品が需要を喚起するとみられる。また、国家統計局による10月の自動車販売台数は▲2.1%減であったが、累計の▲11.1%減と比べれば、減少率が小幅となってきた。7月から排ガス規制の強化に繋がる国六排出基準が実施されたこと、7月から制度変更による新エネルギー自動車に対する補助金が削減されたことなどの悪影響が薄らぐと予想している。

・足元の景気減速への対応策として、インフラ投資の拡大、不動産価格抑制策のフェイドアウト、金融緩和などが期待される

政府は景気減速を無視できず、2020年は2019年以上に景気に配慮した政策が打ち出されると予想する。

・米中貿易戦争が一旦、小休止となる

トランプ大統領が仕掛けた米中貿易戦争は、トランプ大統領の都合によって小休止となる。11月の大統領選挙でトランプ氏は再選されるだろう。選挙が終わるまではアメリカ経済、株価への影響に配慮して、米中協議において部分合意を結び一旦、追加関税措置の一部を撤廃すると予想する

・資本市場の自由化、国際化が進展する

米中貿易戦争は、中国に対して対外開放への圧力を強める。共産党は2020年、証券会社、先物会社、資産運用会社などに対する外国金融機関への資本規制を無くす方針である。また、中国証券市場が引き続き国際化を進めることで、海外の株価指数算出会社を含め、金融機関はA株への投資を構造的に拡大させる

<高値、安値の時期>

既に、5G投資が立ち上がり、スマホ、自動車の販売台数が底入れしている。米中部分合意は遅くても2020年1月中に行われる。株価は右肩上がりと予想する。ただし、トランプ氏の再選が決まれば、対中政策は再び強化されることから、11月中にピークを打つと予想する。

Next: 上海総合指数、楽観シナリオと悲観シナリオとは?



(2)楽観シナリオ(40%)

安値の時期:1月
安値:2,800~2,900ポイント

高値の時期:11月
高値:3,600ポイント

中立シナリオと比べると高値の目標値が異なる。先ほど示した株価変動要因(理由)がより強く表れる、あるいは、金融緩和が想定よりも強く、資金流動性の高まりから、各要因に対する株価への感度が高まる。

ちなみに、中立シナリオの高値は2019年4月の高値辺り。ここが上値抵抗線になって跳ね返されるイメージで、楽観シナリオの高値は2018年2月の高値に到達するイメージ。

(3)悲観シナリオ(40%)

安値の時期:12月
安値:2,400ポイント

高値の時期:1月
高値:2,800~2,900ポイント

中立シナリオ、楽観シナリオとは逆に、年初が高く、下げトレンドが発生するイメージである。中国がアメリカに対して強硬な態度を示すことで、トランプ大統領は米中協議の合意を選挙後に持ち越す。中国の景気減速はよりはっきりとしてくるが、当局はあくまで供給性構造改革や、不動産バブル防止、レバレッジ縮小政策を緩めないため、金融緩和が市場の予想ほどには進まない。

安値のイメージは2019年年初の安値を少し下回ったところ。このあたりは2012年から2013年前半にかけてもみ合った水準であり、バリュエーションの面からも、このあたりで下げ止まると予想する。

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image by : Poring Studio / Shutterstock.com

中国株投資レッスン』(2019年12月13日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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TS・チャイナ・リサーチの田代尚機がお届けします。中国経済や中国株投資に関するエッセイを中心に、タイムリーな投資情報、投資戦略などをお伝えします。中国株投資で資産を大きく増やしたいと考える方はもちろん、ただ中国が好きだという方も大歓迎です。

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