東証での株の売買は1日平均2.5兆円。対する米国は日本の8倍の1,850億ドルです。NYダウが下がると翌日の日経平均は高い確率で下がります。その理由を解説します。(『ビジネス知識源プレミアム』吉田繁治)
※本記事は有料メルマガ『ビジネス知識源プレミアム』2019年12月25日号の一部抜粋です。興味を持たれた方は、ぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
ヘッジファンドが買い越すと上がり、売り越すと下がる日本株
日本の個人投資家は、「下がったら買い」の逆張りオンリー
東証での株の売買は1日平均2.5兆円と少ない。米国は日本の8倍の1,850億ドル(NYSE+ナスダック=20兆円/日)です。このため、米国系ヘッジファンドの東証での売買が70%を占めるくらい大きくなります。
日経平均は、ヘッジファンドが買い越すとき上がり、売り越すとき下がる傾向をもちます。日銀の株ETFの買いが発動されるのは、前場で日経平均が1%以上(230円以上)、下がったときが多い。株価を下げないためです。
ヘッジファンドの売買は、80%以上がプログラムによるHFT(超高頻度売買:1,000分の1秒に数十回)です。世界の株式市場で、コンピュータによるHFTでの売買は60%を占めています。ファンドマネジャーは、売買はしてはいません。ほぼ3か月に1度、プログラムやパラメータ(独立変数)の変更のとき介在しているだけでしょう。
日本の株の投資家は、機関投資家(生損保と民間銀行)と、700万人の個人投資家でした。2013年からは政府系金融(GPIF、郵貯、かんぽ生命:総資金量450兆円)と日銀(総資金量は無限)が加わっています。
政府系金融を除いて、機関投資家と個人はリーマン危機での損失のあと、12年売り越しを続けています。政府系金融は、自分で運用する技術をもたない。投資信託に委ねるか、株ETFの売買をしています。日銀は、信託銀行に委託して株ETFを買っています。
個人投資家700万人(名寄せ後推計)は、全体では株価が下がったとき買い越すという「逆張り」しかしていません。合計では、12年間、一貫して、売り越しを続けています。個人投資家の株式保有シェアは、1970年の40%から2018年には17%に減っています。増えたのは、外国法人(30%)と、日銀を含む政府系金融だけです。
※参考:図5 主な投資部門別株式保有比率(市場価格ベース)‐独立行政法人 労働政策研究・機構
個人投資家の売買方法である、株価罫線(時々刻々の株価の動きのグラフ)と、遅れた平均値である過去25日、50日、100日などの(例えば25日移動平均=25日の株価合計÷25)乖離で売買すれば、「下がったときに買い、上がったときに売る」という逆張りにしかなりません。
(注)当方のシステムトレードでは「移動平均より遅れない加重平均値である指数平滑(超短期、短期、中期の3種)」を使っています。利益が上がりやすいという結果が出たからです。超短期、短期、中期のパラメータは、バックテストで最適値にしています。下がったあと上がるタイミング、上がったあと下がるタイミングを、確率的に見極めるためです。
安倍政権の2013年以降、日本株を買い越しているのは、
・日銀による、株ETF(残高31兆円:年間6兆円:週間1,150億円)、
・総資金量450兆円の政府系金融(現在は買いが少ない)、
・米国に倣って増えて来た、事業法人の自社株買い(2019年は、10兆円に急増)です。
Next: 日本市場への米国系ヘッジファンドの影響を紐解く
米国系ヘッジファンドのポートフォリオ調整で日本株は変動
ヘッジファンドは、ポートフォリオ投資(構成比を決めた分散投資)をします。株式では米国株は30%、日本株は8%、欧州株は20%というような、GDPにほぼ比例する構成が多い。
他に、国債、社債、CLOなどのデリバティブ、金先物、原油先物、穀物などにも一定の割合で投資しています(決算の3か月サイクルで、投資構成比を見なおす)。
米国株が上がったときは、プログラムで決めた投資構成比を上回ることになります。このため、日本株、欧州株を買い増して、構成比を維持します。
構成比維持の買いのためNYダウ、日経平均、欧州のFTSE100などは、1秒の遅れもなく、同時に上がります。米国株が下がるときは、同時に下げるのです→スイスのDUCASCOPYやTrading Viewでは、10秒単位で観察ができます。
これを見ながら、つぎの10秒は上げるか、下げるかを当ててみると面白い(1分足でもいい)。回数を重ねると、50%しか当たらないはずです(ということは当たらない)。株価の短期予想は、丁半博打と同じことを示しています。
※参考:ダウ平均株価 リアルタイムチャート
米国株の総時価は3,000兆円であり、日本株の総時価600兆円の5倍もあるので、「米国株の上昇(金額が6倍)→日本株上昇(金額は1倍)、米国株の下落(金額は6倍)→日本株の下落(金額は1倍)」になることが多い。
米国株と日本株の下げが連動しない時間は、ヘッジファンドの売り越しより、日銀の株ETFの買い(1週間平均1,150億円)が多いときです。
日経平均の上昇と円安、下落と円高が連動することが多いのは、ヘッジファンドが日本株を買うときのリスクはドルから見た円安です。日本株が10%上がっても、10%円安になれば、ドルから見た利益は0%に減るからです。
ヘッジファンドは投資のときリスクヘッジをします。ドル圏から日本株を買い増すときのリスクは、円安です。円の先物を売って、円が下がったとき、ドルベースの株価で減った利益を外為で回復できるようにしています。
日本株が10%上がるとき、円が10%下がる性質があるときは、日本株を買い増す金額の円先物売りをします。日本株が10%上がり、円が10%下がったときは、外為で10%の利益が出ます。円で10%上がっても、ドルに対しては0%の日本株の上昇を、10%にすることができるからです。
こうした、ヘッジの円の先物売り(または先物買い)があるので、「日本株高」が「円安」と連動します。
(注)米国株は、日本株と逆に、「ドル高=米国株上昇」になることが多い。海外からの米国株買いが多く、「ドル買いをしてドルで米国株を買うこと」が同時になるからです。
以上の、マネーの流れの構造はメディアがほとんど解説していないことでしょう。日々、日米の株価、およびドルと円の罫線の動きを観察すればわかることですが…。
image by: Sushiman / Shutterstock.com
『ビジネス知識源プレミアム:1ヶ月ビジネス書5冊を超える情報価値をe-Mailで』(2019年12月25日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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