Googleが小売店舗の商品をオンラインに掲載するためのサービスを展開しているPointyを約163億円で買収しました。今回はその狙いについて考えてみます。(『決算が読めるようになるノート』シバタナオキ)
※本記事は有料メルマガ『決算が読めるようになるノート』2020年1月21日号の抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
Googleが買収で目指すのは、小売店の在庫情報のオンライン化
Q. Googleの小売戦略はAmazon Goと何が違うのか?
今日の記事は、先日発表になった「GoogleのPointy買収」について詳しく見ていきたいと思います。
※参考:Googleが実店舗のネット活用を支援するスタートアップPointyを買収へ(TechCrunch:2020年1月15日)
この記事にあるとおり、Googleが小売店舗の商品をオンラインに掲載するためのサービスを展開しているPointyを$163M(約163億円)で買収しました。
Pointyとは?
初めにPointyのサービスについて、簡単にご紹介します。
この写真にあるようなデバイスを購入して既存のPOSシステムに差し込むか、メーカーによっては無料のアプリが提供されているPOSシステムもあります。
その後、自店で販売している商品をダッシュボードから登録することで、自分の店で売っている商品がオンラインにも掲載されるようになるという仕組みです。
Pointy had also managed to pick up quite a lot of traction as a small startup, working with around 10% of all physical retailers in the U.S. in certain categories (pets and toys were two of those, I was told).
出典:Pointy
TechCrunchの記事にもある通り、Pointyにという会社はアイルランドのダブリンに拠点を置くヨーロッパの会社です。しかしアメリカ国内でカテゴリーによっては10%以上の小売店舗で導入されていると言われている非常に市場シェアの大きいサービスです。
導入店舗数が実店舗の10%を超えているカテゴリーは、少なくとも「ペット」と「おもちゃ」の2つ以上あるといわれています。
Next: 想定以上に成長したAmazon GOに対抗して?Googleの小売り参入のワケ
Googleはなぜ小売へ参入したいのか(ヒント: Amazon Goの事業規模)
Googleが小売に参入するというのは意外に思えるかもしれませんので、なぜGoogleが小売市場に参入したいのか?ということを簡単に書いてみたいと思います。
最大のヒントは、「Amazonの無人コンビニであるAmazon Goが想定していたより、とても大きくなりそうだから」というのが一番の理由だと言えるでしょう。
In a research note, RBC estimated average annual sales of $1.5 million apiece for the current nine Amazon Go stores.
出典:Report: Amazon Go could become $4 billion business(SUPERMARKET NEWS:2019/1/8)
前も書いたことがあるのですが、Amazon GOは1店舗あたり年間$1.5M(約1.5億円)もの売上が上がると言われています。
A Bloomberg report in September said Amazon.com Inc. may open up to 3,000 Amazon Go outlets by 2021.
さらに、2021年までに3,000店舗まで拡大する可能性があるとも言われています。
Based on the per-store sales estimate by RBC, that would translate into a $4.5 billion business over the next several years.
単純に掛け算すると、Amazonの無人コンビニ事業は$4.5B(約4,500億円)のビジネスになる可能性があるわけで、Googleとしてはこれだけ巨大なビジネスが出来上がるのを脇で見ているだけではなく、何かしらアクションを取らざるを得ないというのが本音なのではないでしょうか。
Next: コンビニと比較して高い、Amazon GOの面積当たりの売上
Amazon Goのユニットエコノミクス
少し脇道にそれますが、Amazon GOのユニットエコノミクスも押さえておきましょう。
In addition, RBC’s analysis pegged average sales per square foot at the Amazon Go stores at $853, with a range of $639 to $1,279 per store. Those figures are based on an estimate of 550 visitors per store spending $10 per visit, with the Amazon Go’s current store sizes ranging from 1,200 to 2,400 square feet. That compares to an estimated $570 per square foot for typical convenience stores, excluding tobacco sales, according to RBC.
上記の文章を整理すると以下のようになります。
・1日あたりの来客数: 550人
・1来客あたりの購買金額: $10(約千円)
・1店舗あたりの面積: 1,200~2,400sq=スクエアフィート(約111.5㎡=33.7坪~約223㎡=67.5坪)
=>
1sq(約0.09㎡=0.03坪)あたりの年間売上: $853(約8.5万円)/(店舗によって約6.4万円~12.8万円の間)
1日当たり550人、一回あたり10ドルの購入が行われるとすると、1 sqft(約0.09㎡=0.03坪)当たりの年間売上が853ドル(約8.5万円)という計算になります。
これは、「既存のコンビニなどと比べて圧倒的に面積当たりの売上が高い」ということで以前話題になりました。
(余談ですが)Amazon Goは小型店舗の方が単位面積あたりの売上が大きい、というのがとても意外でした。
※参考:Amazon’s cashierless Go stores could be a $4 billion business by 2021, new research suggests(Vox:2019/1/4)
Next: GoogleがPointyを買収した、その戦略とは?
PointyとGoogleの連携方法の詳細
さて話を本題に戻します。GoogleがPointyを活用した、どのような小売戦略を立てているのかということを書いてきたいと思います。
小売店がPointyを導入して自店舗の商品を登録すると、このようにオンラインに自動的にEコマースストアが開設されることになります。
登録された商品やお店の情報は、Googleの検索結果やGoogle Mapの検索にもヒットするようになります。
こちらの動画でPointyの利用者の声を見ると、今まで1店舗の店にしかなかった商品が、Googleというチャンネルを通じて多くの人の目に触れることになり、小規模店舗の集客問題が一気に解決するケースがあると言っています。
Pointyを活用したGoogleの小売戦略とは?
勘が良い方であればすでにお分かりいただけたかもしれません。Googleの狙いは、「今までオフラインにしかなかった小売店の在庫情報をオンラインに吸い上げる」というのが最大の目的ではないかと思います。
このグラフを見れば分かるとおり、アメリカにおいても現在のEコマース化率は10%程度に過ぎません。別の言い方をすれば、残りの90%はオフラインの店舗に在庫として眠っているわけです。
Googleとしては、そのオンライン上に情報が無い市場の90%の商品情報、在庫情報を全てオンライン上に吸い上げて、全てGoogleで検索可能にする。そしてそこから店舗への送客を行い、最終的には広告でマネタイズする。というモデルを狙っているのではないでしょうか。
Amazon GOとは全く異なる小売戦略ですが、いかにもGoogleらしい、そして目の前に明確な戦略がある素晴らしいM&Aだと個人的には思いました。
今後のAmazonとGoogleの小売市場での動きにも注目していきたいと思います。
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image by : PK Studio / Shutterstock.com
『決算が読めるようになるノート』 2020年1月21日号『Q. Googleの小売戦略はAmazon Goと何が違うのか?』より抜粋
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