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「裁定解消売りに押された」に納得する個人投資家は負け犬=近藤駿介

「裁定解消売りに押された」「ヘッジファンドの売りが出た」株価の下落を報じる際にメディアが使う枕詞だが、これに納得するようでは市場のカモになる危険性がある。(『近藤駿介~金融市場を通して見える世界』近藤駿介)

プロフィール:近藤駿介(こんどうしゅんすけ)
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験。評論活動の傍ら国会議員政策顧問などを歴任。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝える無料メルマガに加え、有料版『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』を好評配信中。

自らを「敗者」「カモ」にする危険思想に染まっていないか?

市況ニュースの常套句に気をつけろ

「裁定解消売りに押された」「短期筋、ヘッジファンドの売りが出た」

これらは、株価が下落したことを報じる際にメディアが使う枕詞だ。このような枕詞が横行する裏側に見え隠れするのは、「裁定業者」や「ヘッジファンド」という、一般投資家と常識が違う市場参加者のせいならしかたがないという負け犬根性である。

一般に、人間は自分と常識が異なる人間に対しては警戒心と一種の恐怖感を覚え距離を置こうとするものだ。

実生活の中ではこれは生活の知恵であるが、金融市場におけるこうした「さわらぬ神に祟りなし」という姿勢は、自らを「敗者」あるいは「カモ」にしかねない危険な思想である。

ライオンに襲われて、命を落とすのであれば仕方がないと考えているシマウマがいるだろうか。

シマウマがライオンよりも強くなる可能性はないが、現実として同じフィールドで生きていく以上、ライオンから身を守る術を持たなければならない。

そのためにはライオンの習性や、ライオンの動きを察知する能力が必要になる。

金融市場も同じことだ。「ヘッジファンド」や「裁定業者」がいない市場は存在しない。一般投資家がそこに生息している限り、彼らは必ずそこにやってくる。

「ヘッジファンド」や「裁定業者」にならば損をさせられても仕方がないと考えている投資家がいるのだろうか。

ほとんどいないだろう。

では、彼らの習性や、彼らの動きを察知する能力を身に付けようとしている投資家はどれほどいるだろうか。

これまたほとんどいないというのが現実だ。

日本の多くの投資家は、「ヘッジファンドの動向」や「裁定業者の動向」ばかりを気にしている。つまり、「カンニング」で彼らの動きを知ろうとしている。

こうした考えは、シマウマがライオンに「何時狩りに出かけるのか」「どいつを狙うのか」を教えて貰おうとするようなもので、何の解決策にもならない。

大切なことは自分で察知出来るようになることだ。

Next: ヘッジファンドの次の一手を自分で察知できるようにする習慣とは?



マーケットをより多角的に見る

多くの投資家は、「相場を当て」「相場をトレース」することでリターンを出そうとしている。確かに「相場を当てる」こと以上に大きな収益をあげる方法はない。

しかし、「相場を当てる」こと、「相場を当て続ける」ことは、例えジョージ・ソロスでも、ウォーレン・バフェットでも不可能だ。例えて言えばシマウマが「チーターと同じ位早く走れたらライオンに捕まることはない」と考えるのと同じようなこと。

重要なことは、自分達とは異なった価値観を持った投資家が同じ市場に存在していることを認識することだ。

「ヘッジファンド」などは、「相場は利用する」が、「相場をトレースする」とは限らない。

例えば、「株を買う」という判断をした場合、「(ETFを含め)現物株を買う」「先物を買う」「コールオプションを買う」「プットオプションを売る」という、4つの選択肢がある。

この中で、どの選択肢が最も効率的か、どの選択肢が自分の相場観に合っているのか、どの選択肢が自分のリスクリターンに相応しいのか…。こうしたことを考える習慣を身に付ければ、自ずと「ヘッジファンド」がどのように動く可能性があるのかは想像できるようになる。

こうした習慣を身に付けるためには、オプションや裁定取引などに関する最低限の知識を身に付けておかなければならない。

デリバティブの本質を押えておけば、現物株市場とデリバティブ市場がどのようなメカニズムで影響し合っているかを想像できるようになる。

そしてそれは、結果的に投資家の相場観の向上をもたらすことになる。

決してそれは「相場予知能力」が上昇するからではない。デリバティブ取引の本質を身に付けることで、市場をより多角的に見られるようになるからだ。言い換えれば「相場観察能力」が上昇するということである。

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近藤駿介~金融市場を通して見える世界』(2016年3月22日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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