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ソフトバンクグループ巨額赤字は何が危険? 孫社長を悩ます「解体」の二文字=栫井駿介

ソフトバンクグループ<9984>は4月13日、1兆3,500億円の営業損失を計上することを発表しました。10兆円ファンドでさまざまな問題が発生する中、この先は本当に大丈夫なのでしょうか。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

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プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

倒産の危機は考えにくい

結論から言えば、倒産などの危機に陥ることはありません。なぜなら、ソフトバンクグループは世界第6位の時価総額を持つ中国アリババ・グループの株式を16兆円保有しています。

純有利子負債が6兆円ですから、アリババ株を売却すれば借金を返済してなお、十分におつりが来る状況です。

出典:ソフトバンクグループ 2020年3月期第3四半期決算説明資料

3月23日には4.5兆円の資産を売却し、借金返済と自己株式取得に充当することを発表しました。この資産売却には、アリババ株も含まれていると報道されています。

アリババという「虎の子」がある限り、ソフトバンクグループが財務的に窮地に陥ることは考えにくいのです。

元凶は「10兆円ファンド」

では、何がこんなにも不安視されているのかと言えば、ソフトバンク・ビジョン・ファンド(10兆円ファンド)の行く末が怪しいということです。

ビジョン・ファンドも出資したWeWorkは、利益の見込めない単なるサブリースだったことが分かり、経営危機に陥りました。その株式をソフトバンクグループが買い取る予定だったのですが、4月2日に撤回を発表しました。

すでに上場した投資先のライドシェアのUberの株価も、ピークからおよそ4割下落しています。

大きな投資先の一つである「世界最大のホテルチェーン」OYOは、急激に規模を拡大させていたのですが、ここにきて大赤字を出してしまい、5,000人をリストラするという状況になっています。

2,000億を投資したOneWebという衛星通信の会社に至っては、3月27日に経営破たんしてしまいました。

いずれも新型コロナウイルスの影響が少なからずありますが、投資先が立て続けに経営不振に陥ってしまうと、いよいよソフトバンクグループも危ないんじゃないかと見られているのです。

Next: これはあくまでビジョン・ファンドの失敗であり、もしファンドの価値がゼロ――



ビジョン・ファンドが背負う4兆円の「隠れ債務」

しかし、これはあくまでビジョン・ファンドの失敗であり、もしファンドの価値がゼロになったとしても、最大損失は3.2兆円までです。アリババの16兆円がある限り、ソフトバンクグループの財務には大きな影響はないのです。

ただし、このビジョン・ファンドには数字以上に厄介な仕組みがあります。

ビジョン・ファンド10兆円の構成は、ソフトバンクグループなどが持っている、議決権のある普通株式が6兆円、議決権のない「優先株式」が4兆円です。

優先株式は主にサウジアラビアの政府ファンドが出資しています。この優先株式に対しては、年間固定の7%配当を支払い続けないといけないという決まりがあります。

すなわち、年間3,000億円は外部に確実に支払わなければならないものです。

普通株式の配当は会社が決められるので、業績次第で上げたり下げたりすることができますが、優先株式の配当は下げられません。これでは、株式というより、確実な支払義務を負う「債務」に近いものです。

これを見る限り、ビジョン・ファンドは、「優先株式」という名を借りた隠れ債務を使って、「レバレッジ効果」によって大きく膨らましたにすぎないことが理解できます。

IPOができない中で、優先株式の配当をどう払う?

優先株式の配当は、ビジョン・ファンド内で支払わなければなりません。これまではIPOなどで売却した資金を配当に回すことができましたが、この経済環境ではIPOどころか、投資先企業が次々に潰れてしまいかねない状況です。

ファンドが現金を生み出すことが出来なければ、いよいよ配当が支払えないということになってしまうのです。

配当を支払えないとなると、お金を借りて配当を支払わなければなりませんが、今の金融環境では、配当のためにお金を貸してくれる金融機関や銀行があるとは思えません。

もうひとつの手段としては、「ギブアップ」です。すなわち、ビジョン・ファンドを破綻させてしまうということです。

そうなると、先ほど説明したようなこの普通株式の部分が無くなり、残っている優先株式を持っている外部株主が普通株主となります。ファンドに残った企業を売却するなりして、残った資金を回収することになります。

損切りとなり、ソフトバンクグループとビジョン・ファンドは切り離されます。ビジョン・ファンドの3.2兆円は損失となりますが、それ以上の損失は免れるのです。

しかし、もしこれを実際にやってしまうと、金融業界におけるソフトバンクの信頼性が地に落ちてしまいます。これからもビジネスを続けることを考えると、孫さんは絶対にやりたくないでしょう。

Next: 最後に取れる手段は、ソフトバンクグループ本体がこのファンドに対して――



「現金」を持たない持株会社

最後に取れる手段は、ソフトバンクグループ本体がこのファンドに対して融資や増資をして、何とか優先株式の配当を支払うということです。

しかしソフトバンクグループは、実はそんなに「現金」を持っていません。

すでに6兆円の有利子負債があり、ソフトバンクグループ本体が事業を行っているわけではないので、現金を得る手段としては傘下企業からの配当や子会社株式の売却ということになります。

このような流れもあり、アリババ株を含む4.5兆円の資産売却という判断に至ったと考えられます。

ただし、子会社の株式を売ると言うことは、結果としてソフトバンクグループ自体がもぬけの殻になってしまうということ繋がります。それは株主価値の減少を意味するのです。

顧客不在の経営が行きつく先は……

なぜこのような苦境に陥ってしまったのでしょうか。

それは、株式市場は高騰しているタイミングで、スタートアップへの投資というリスクの高いものを、それも優先株式という実質的な債務を使って買うという、無謀な取引を行ったことが根底にあるわけです。

現在のような市場の崩壊があると、リスクの高い行為は逆回転によって次々に問題を引き起こします。現在の慌てようを見ると、このような事態を想定していたのか疑問に感じざるを得ません。

孫さんはもともと「インターネット革命を起こす」と言って、インターネット接続料の値下げや携帯料金の値下げなどに力を入れていました。

しかし、アリババの投資の成功あたりを契機に、お金を増やすことばかり考えて顧客不在の経営を行っているような気がします。決算説明会でも、どれだけお金が増えたかという話ばかりでした。

しかし、お金のことばかりを考えると、やがてツケが回ってきます。

株価は多少回復していますが、今後どのようにして経営と市場評価の回復を図るのか、見通せない状況です。

孫さんはいつも株式が「割安だ」と言っていますが、そう簡単な銘柄ではないことは確かです。このまま行くと、グループの「解体」が現実味を帯びてきます。

しばらくは方向性を見極めたいと思います。


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image by:glen photo / Shutterstock.com

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2020年4月26日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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