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トヨタが沈めば日本も沈む。コロナ禍で露呈した自動車依存経済の危うさ=斎藤満

コロナ禍で自動車の輸出・生産が大きく落ち込んでいます。需要の大幅減少は一過性で終わらず、自動車業界に大きく依存する日本経済も窮地に立たされています。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

※本記事は有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2020年6月1日の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

自動車の輸出・生産が急減

新型コロナのパンデミックは、自動車業界には天地を揺るがす大ショックに違いありません。

そしてその自動車業界に大きく依存する日本経済も、この自動車ショックをまともに受け、経済がピンチに立たされています。

これを象徴するような数字が公表されました。

5月末に経済産業省が発表した「4月の生産統計」は、生産が前月比9.1%減と、リーマン危機直後の2008年12月・2009年1月にそれぞれ8.9%減を記録していますが、これを上回る衝撃です(編注:原稿執筆時点6月1日)。
※参考:本年4月の鉱工業生産は、前月比マイナス9.1%と、前月より更に大幅な低下 – 経済解析室ニュース|経済産業省

この生産急減をもたらした主犯が自動車です。自動車の生産は前月比33.3%減となり、これだけで生産全体を5.1%も押し下げています。

つまり、自動車を除けば生産は4%の減少で済んだ計算です。この自動車、5月も22%の減少予想となっていて、これも生産全体を3.6%あまり押し下げます。まさに自動車が日本の生産全体を圧迫しています。

その自動車業界、今や内も外も嵐に襲われています。4月の国内新車販売台数は前年比27.5%減と、消費税引き上げで大きく落ち込んだ昨年10月と同じ大きな落ち込みとなりました。

消費増税の後は減少幅が縮小しましたが、コロナで外出も自重気味のなかでは、5月以降の数字も回復は期待できません。特に仕事を失い、所得の不安、雇用不安が続く中では、自動車などの大型耐久消費財にはなかなか手が出ません。

輸出はさらに厳しい状況です。日本の「4月の輸出」は前年比21.9%減となりましたが、このうち自動車は50.6%減、自動車部品は同39.2%減となりました。この自動車関連だけで輸出を10%も押し下げました(編注:原稿執筆時点6月1日。財務省が6月17日に発表した貿易統計によると「5月の輸出」は前年比28.3%とさらに悪化し、このうち自動車は64.1%減、自動車部品も57.6%減となっています)。
※参考:令和2年5月分貿易統計(速報)の概要 – 財務省

自動車輸出が半減するなど、これまではおよそ考えられないことが起きています。これはコロナ禍で世界の自動車需要が落ち込んでいるためです。

因みに、トヨタの4月の世界生産も半減しています。

自動車依存型経済に衝撃

日本経済は自動車産業に大きく依存しています。

自動車は今や世界で生産するグローバル企業群となり、海外現地生産化も進んでいますが、それでも日本の輸出に占める自動車の割合は20%を占め、さらに自動車部品まで入れれば25%を占めます。

また国内生産に占める自動車の割合は15%強ですが、タイヤのゴム製品、車載半導体、電気機械、鉄鋼など、多くの製造分野が自動車を最大の顧客として頼っています。

このため、自動車(親亀)がこければ皆(子亀も)こける構図になっています。

Next: この自動車を襲った嵐が、1か月や2か月で済むなら、じっと嵐が過ぎ去るの――



自動車需要減は一過性ではなさそう

この自動車を襲った嵐が、1か月や2か月で済むなら、じっと嵐が過ぎ去るのを待てばよいのですが、どうやら一過性では済みそうにありません。

コロナ自体、この影響が収まるのに何年もかかりそうで、その間、雇用や所得の不安、消費パターンの変化など、自動車には継続的な重しが残りそうです。

さらに、自動車を巡る環境は、足元のコロナ禍だけではありません。

この春、一部の自動車メーカーで部品の供給が制約となって九州の工場を操業停止にしましたが、この時はコロナの影響で中国などからの部品が来ないためと言われました。

しかし、米国のトランプ大統領が世界のサプライチェーンを破壊し、米国回帰を進め、グローバル企業に米国への復帰を求めています。

この流れで行けば、仮にコロナの影響が一段落しても、サプライチェーンが使えない可能性があります。

中国への投資拡大が今になって足かせに

さらにそのトランプ大統領は、秋の大統領選挙も考えてと見られますが、中国経済とのデカップリングを企てています。そこへ中国が今般の全人代で「国家安全法制」を決め、香港に「治安維持法」のようなものを導入することになり、香港がまたきな臭くなりました。

そしてこれが米国の中国強硬論をさらに刺激してしまいました。

トランプ大統領は29日、香港の自治を阻害する関係者への制裁と、香港への優遇措置撤回を指示しましたが、中国・香港行政府の出方によっては、今後米中通商合意の見直し、新たな関税賦課など、米中の経済戦争は強まる懸念があり、日本もこれに巻き込まれます。

米軍が香港で軍事行動に出れば、さらにリスクは拡散します。日本の自動車メーカーは中国進出が遅れたこともあって、近年急速に中国投資を拡大しました。

その中国での生産が米国に圧迫され、中国投資が見合わなくなれば、投資の回収を考えねばなりませんが、中国から引き揚げるにも、現地の資産が回収されないまま、明け渡さねばならないリスクがあります。

産業構造変化の序章

冒頭で紹介した4月の生産統計は、日本経済が新型コロナの影響を受けて、大きな構造変化の序章を提示したとも言えます。

その象徴的な数字が、自動車の生産水準の凋落です。2015年を100とする指数で、4月の自動車生産は63.1となり、5月の生産計画通りなら、5月の水準は48まで低下します。5年前の半分になるわけで、全産業の中でも最大の低下となります。

4月の他の産業の生産水準を見ると、自動車の影響を受けるゴム製品工業が73.9、鉄鋼が75.6となっています。自動車の落ち込みが、関連産業の足も引っ張ります。

これに対し、2015年の水準を超えているのは、化学業界のうち医薬品、無機有機化学を除いたものが115.8となっているのみで、これに次ぐのが電子部品・デバイスの97.2、業務用機械の96.0です。

つまり、化学の一部を除くと、5年前の生産水準を超えている分野はなく、従って自動車が大きく落ち込んだ分を穴埋めしてくれる業界は、ここまでのところ無いことになります。

長年自動車業界に頼ってきて、米国の「GAFA」のような経済をリードする新業態が日本では育っていません。

Next: 今回の生産統計は、日本経済の構造的な弱さを提示、自動車依存が崩れつつ――



コロナで日本経済の弱さが露呈

今回の生産統計は、日本経済の構造的な弱さを提示、自動車依存が崩れつつあることを示唆しました。

よい技術を持っていても、米国支配のもとでは頭を押さえつけられてしまうものも少なくないことは事実です。

高い技術を持ちながらいつになっても飛ばせられない三菱飛行機や、コロナに有効とされながらも米国医薬業界が立ちはだかって承認されない日本の抗ウイルス薬などがよい例です。

日本の場合は技術面の開発努力だけでなく、政治的な交渉力の弱さも、成長企業、成長産業の台頭を拒んでいます。

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  • 崖っぷちの習近平政権(6/17)
  • FRBが作ったドル安株高の流れに待った(6/15)
  • 長期金利上昇を意識し始めた主要中銀(6/12)
  • コロナで狂った中国の覇権拡大(6/10)
  • トランプ「拡大G7」の狙いは(6/8)
  • 準備不足の経済再開で大きな代償も(6/5)
  • コロナより政権に負担となった黒人差別(6/3)
  • 自動車依存経済に警鐘を鳴らしたコロナ(6/1)

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2020年5月配信分
  • 非効率のビジネスモデル(5/29)
  • 再燃した香港での米中戦争リスク(5/27)
  • 日本は反グローバル化への対応に遅れ(5/25)
  • 日銀の量的質的緩和は行き詰まった(5/22)
  • トランプ再選に暗雲(5/20)
  • トランプ大統領、ドル高容認発言の真意は(5/18)
  • 堤防は弱いところから決壊する(5/15)
  • コロナの変革エネルギーは甚大(5/13)
  • 株の2番底リスクは米中緊張からか(5/11)
  • 「緊急事態宣言」延長で経済、市場は?(5/8)
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2020年4月配信分
  • コロナ対応にも米国の指示(4/27)
  • 原油価格急落が示唆する経済危機のマグニチュード(4/24)
  • ソーシャルディスタンシングがカギ(4/22)
  • ステージ3に入る株式市場(4/20)
  • 「収益」「効率」から「安心」「信頼」へ(4/17)
  • コロナショックは時間との闘い(4/15)
  • 株価の指標性が変わった(4/13)
  • 108兆円経済対策に過大な期待は禁物(4/10)
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  • コロナを巡る米中の思惑と現実は(4/6)
  • 働き方改革が裏目に?(4/3)
  • 緊急経済対策は、危機版と平時版を分ける必要(4/1)

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2020年3月配信分
  • コロナ大恐慌(3/30)
  • 大失業、倒産への備えが急務(3/27)
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  • 市場が無視する大盤振る舞い政策(3/23)
  • 金融政策行き詰まりの危険な帰結(3/18)
  • 政府の面子優先で景気後退確定的(3/13)
  • 市場に手足を縛られたFRB(3/11)
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  • 2月以降の指標パニックに備える(3/4)
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2020年2月配信分
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マンさんの経済あらかると』(2020年6月1日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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