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東京五輪特需はすでに完全終焉。開催しても経済浮上せず、中止でも関連企業が損するだけ=今市太郎

都知事選で再浮上した東京五輪の開催可否。事前段階ではえらく経済効果が盛られていましたが、どうやらそんな夢のようなものはないことが露見し始めています。(『今市太郎の戦略的FX投資』今市太郎)

※本記事は有料メルマガ『今市太郎の戦略的FX投資』2020年6月23日号の抜粋です。興味を持たれた方は、ぜひこの機会にバックナンバー含め初月分無料のお試し購読をどうぞ。

今さら東京五輪が争点に

6月18日に東京都知事選挙が公示されています。

今回は一部の候補者の公約として今さら「東京五輪開催の中止」が出されていることから、また21年の東京五輪の開催の成否が選挙戦で問われることになりそうです。

政治の話はとりあえず置いておいて経済的に見ますと、事前段階ではえらく東京五輪の経済効果が盛られていました。

開催までその関連特需が続き、開催年に大きな消費が示現、その後もレガシー効果が発揮されるとされてきた東京五輪の経済効果。

どうやら、そんな夢のようなものはないことが露見し始めています。

すでに五輪特需は完全終了?むしろ来年まで持たない業界すら示現

東京五輪に関して事前に予測されてきた経済効果は、インフラの建設などで大きな資金が動き、実施年にすべての事業がピークに達して大きな特需が形成される、というものだったはず。

しかし、すでにインフラは完成しており、本番の実施以外には特段新たな需要はでない状況です。

また警備業界や観光バスをはじめとするトランスポーテーションの業界、ホテル等の宿泊業界は新型コロナウイルスの問題から足元での需要がまったく失われてしまい、夏に向けてフル稼働するはずの需要まですべからく喪失。むしろ来年7月に実施にこぎつけられたとしても、それまでどうやって経営を持たすのかが大問題になりつつあるようです。

さらに深刻なのは「地方都市」で、五輪開催のついでにインバウンドの観光収入の増加を見込んでいた地域です。

足元では完全に目算違いとなっており、むしろ既存のインバウンド消費のためにインフラ投資した資金すら回収できず、経営危機に陥っているところが水面下でかなり増加している状況です。

今年に関しては海も山もほとんどすべてのイベントが中止ですから、国内消費すら期待できるものはなく、2021年を待たずに廃業や破綻に追い込まれる事業者が続出しそうな厳しい局面に追いやられています。

昨年あたりは人手不足が大きくクローズアップされたものですが、足元ではそうした需要はすべて消滅しており、消費という側面での特需はここからはほとんど表れないことになりそうな、かなり悲惨な段階に入りつつあります。

ここから1年延期になるからと言っても、当然、新たな投資が出るはずはありません。現状で刈り取れる五輪関連需要は、ほぼ何もなくなってしまったのは明らかです。

Next: もともと2017年に東京都が策定したデータによれば、2020年の東京オリン――



そもそ開催年に経済的効果ピークという考え方が間違っている

もともと2017年に東京都が策定したデータによれば、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに関連する経済効果は、オリンピック招致が決まった2013年から大会終了後の2030年までの18年間で32兆円とされてきました。そのうち大会実施までが21兆円、大会終了後から30年までが11兆円。経済効果の振り分けとしては、その6割が東京で、残り4割がその他の地方都市とされています。

ロンドン五輪やワールドカップの日韓開催などの事例を見ても、実は五輪開催年はどこの国でも宿泊施設がブッキングできないなどから、前年よりも外国人の来訪客が減少しているのが実態です。

たしかに開催期間の2週間強はそれなりの消費が見込まれるのでしょうが、事前の経済効果のほとんどは昨年までに消化されている必要があることがわかります。国内シンクタンクの試算では「完全中止なら3兆円強の損失」という数字が出ていますが、これまでに18兆円を稼げているのであれば大した数字ではないのでは?という気もしてくるわけです。

新スタジアムの建設、選手村の建設など施設に対する直接的な投資額は5,000億円程度ですが、日銀が2015年にまとめたペーパーによれば、建設関連費の総額を含めればほぼ10兆円の効果はすでに刈り取られたことになるわけです。

しかし、昨年までにそんなに大きな経済効果は感じられたでしょうか?

そもそも五輪の経済効果のうちのほとんどは開催年度以前に完全に示現しているべきものですから、ここで延期しても、中止に追い込まれたとしても、すでにかなりの経済効果は享受できていなくてはならないことになります。

ですが、この数年で五輪開催がそんなに景気を押し上げたという印象はまったくありません。

内閣府がいじくりまわす捏造風味満載の経済指標でも、そんな大きな効果があったことはまったく確認されていないのが実情です。

また、レガシー経済効果という五輪実施後の効果については、金融の世界では未実現益の世界の話で「取れたらいいね」という程度で、本当に効果として示現するかどうかはまったくわからないことがまことしやかに語られているだけに過ぎません。

たとえば、8年前の他国のオリンピック、4年前のオリンピックの開催地を見ても、「レガシー効果」などという後年度経済効果が発生しているなどとはまったく言えないのが現実です。

4年前の開催地であるブラジル・リオデジャネイロは、新型コロナ感染者爆発で五輪の後年度効果どころではないのが実情でしょう。

猛烈に速いスピードで日々動いている世界経済の中で、レガシー効果などという荒唐無稽でおめでたい話に11兆円の効果を期待するのも、相当な違和感を感じさせられます。

損失はもっぱら日本勢だけか?

この東京五輪1年延期で、6,000億円超えの損失金額が算定されはじめています。

延期の問題が浮上したとき、もっとも影響を受けるのは「米国」とされてきました。さらに言えば、五輪の放送権料を日本円にして11兆円支払い、すでに12億5,000万ドル以上の広告枠を販売してしまった米NBC局であるとされてきました。

しかし、よくよく調べてみると、リスク管理についてはぬかりがない様子。実は過去の苦い経験からしっかり保険に加入しており、延期しても中止でも儲からないだけで、莫大な損失は生じない手立てがすでに履行済みのようです。

むしろ問題は、国内でスポンサーを集めて番組を販売し、協賛各社のキャンペーンにそれを利用しようとしている電通とテレビなどのメディア、ならびに協賛したスポンサー企業で、ここからの損失は民間企業としてのリスクヘッジマネジメントの問題に入ってくるものと思われます。

Next: しかし、これで損失が出たとしても関与した各企業に問題があるだけで――



東京五輪で景気は浮上しない

しかし、これで損失が出たとしても関与した各企業に問題があるだけで、別に国民的な損失ではありません。

結論を言えば、中止すればそれなりの損失が出ることは間違いないでしょうが、すでに刈り取れている経済効果から考えれば決定的なダメージではなく、新国立競技場も選手村も今後にしっかりと利用できるわけですから、本質的な損失は少ないことが容易に予想されるところです。

いずれにしても来年7月に東京五輪がなんとか開催にこぎつけられたとしても、2021年がオリンピック開催起因で大きな景気回復につながることなどはありえず、「やらないよりはやったほうがまし」程度の経済効果しか得られないのではないか?という疑問が浮上してきます。

日本も経済立て直しを優先すべき

我々は自国のことだけを優先して考えがちですが、主要国以外の参加国は21年に向けて参加代表選手を再選考する余裕もなく、経済と財政の立て直しのほうを優先すべきところがほとんどの状況です。

仮にワクチンがなんとか完成したとしても、世界にそれが流通することを短期間に実現するのは不可能でしょう。実はもう関係者は実施が不可能であることを認識していて、発表を遅らせているだけではないか?という穿った見方も登場しています。

石原元都知事が「日本人には夢が必要だ」などというもっともらしい話で開催に立候補したところから始まった東京五輪。贈賄疑惑は出るは、真夏の開催にはなるはで、ケチの付き通しとなっています。

最後には新型コロナで開催すら危ぶまれるというこの流れは、日本が置かれているどうしようもない現状を実に彷彿とさせるものがあります。

個人的には、とにかく一刻も早く中止にして、もっと本質的な国の立て直し・経済の立て直しに尽力すべきではないかと思いますが、皆さまはいかがお感じでしょうか。

五輪の経済効果については実に様々な予測が出ていますが、ここまでのところで本当にどれだけの効果があったのかは常に事後測定をして、現実の経済効果がどれだけあるのかを厳密に測定すべきものがありそうです。

金融投資でいえば、タラ・レバの未実現益を勝手に想定しておいて、それが得られないから損失とわめいているだけに見えます。

都知事選では、いま五輪の開催がもっともプライオリティの高い問題であると都民が考えるのかどうかについても注目が集まることになりそうです。

ちなみに株式市場では、五輪特需銘柄などというものはとっくの昔に消えてなくなっているのが現状です。

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今市太郎の戦略的FX投資』(2020年6月23日号)より抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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