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「定年退職後に起業したい」は手遅れ? 老後破綻しないための正しい起業準備=牧野寿和

定年退職後、家計を支えるためにも起業したいと考えている人は多いのではないでしょうか。しかし、ただ闇雲に起業しようとするのは危険です。老後破産しないための起業準備について、FPの立場から考えていきます。(『【人生の添乗員(R)】からのワンポイントメッセージ』牧野寿和)

プロフィール:牧野寿和(まきの ひさかず)
ファイナンシャルプランナー、牧野FP事務所代表。「人生の添乗員(R)」を名乗り、住宅取得計画やローンプラン、相続などの相談業務のほか、不動産投資、賃貸経営のアドバイスなども行う。著書に『銀行も不動産屋も絶対教えてくれない! 頭金ゼロでムリなく家を買う方法』(河出書房新社)など。

「老後に起業したい」という相談

数年先に定年退職を控えたサラリーマンの方から、退職後の生活設計についての相談を受けることがあります。中には「退職したら永年の夢を叶えるために起業したい」と話される方もいます。

そこで今回は、私の長年に渡るファイナンシャルプランナー(FP)業務の相談経験をもとに、現在の務めを辞めた後、定年退職後に起業する場合の家計との関係を考えていきたい思います。

ただし、FPの主な業務は老後の人生設計を行うリタイアメントプランニングを含め、相談者の現在、またこれからの収入と支出、資産を含めた貯蓄を基本的なベースとしたプランニングをして、また提案することです。

従って、どのように起業したらよいか、自分はどの業種に向いているかなどの、いわゆる「起業の方法」に関わるお話でなく、起業と家計収支との関わりの話になることをご了承いただきたく思います。

どんな老後生活を送りたいのか?

老後生活の相談に来る方の中には、「具体的に老後の生活はどのようにしたいのか?」と伺うと、すでに個人事業主として起業の準備を始めていて、事業での収入の予測を立て、同時に進行する老後生活における家計収支と貯蓄の推移を計算している方もいます。

一方で、五里霧中の状態で相談に来る方もいます。

私はこれまでも、当メールマガジンの記事の中で、何度となく皆さんに「老後の生活をどのように過ごすのか?」と問うてきました。

老後になってから考え始めるようでは、何ら具体的に考えることなく5年や10年はあっという間に過ぎて、「もはや、この歳(70歳代)になって今さら何をする!?」「このまま余生が無事に過ごせればよいか……」の状況になりかねないのです。

実際、家計的には何事もなく生涯を終える方もいます。

しかし、年金の収入だけでは生活が成り立たなくなることもあります。最悪の場合は、「老後破たん」になりかねないと、警鐘を鳴らさせていただいております。

老後に起業して成功すれば、家計の収入が増え、お金の心配のない老後が送れるかもしれません。

ただし、起業した事業がうまく回らないと、始める事業の規模にもよりますが、年老いてからいらぬ苦労を背負うことになるかもしれないのです。

歳を追うごとに、それなりの資産を所有しているなどの返済能力がないと融資は受けにくくなり、資金繰りも難しくなります。

Next: 通常、事業を起こすときは、その事業が軌道に乗るまで(安定した収入が稼――



時間をかけて十分に準備する必要がある

通常、事業を起こすときは、その事業が軌道に乗るまで(安定した収入が稼げるようになるまで)はお金を使います。

そのお金を無駄に使わないために、起業準備に関しての詳細は、以下などで専門家のアドバイスや支援を受けて的確な準備をすることも可能でしょう。

・お近くの商工会議所や商工会
・公的な機関
・(現在のお勤め先に)退職後の起業支援の部署があれば、その部署
・専門のコンサルタント事務所

それに、これまで培った人生経験と人との信頼関係によるその方からの助言は、老後起業の大きな武器といえば武器かもしれません。

従って、老後に起業するには時間をかけた十分な準備が必要となります。

事業に失敗すると家計も吹き飛ぶ

どんな業種で起業するかにもよりますが、起業するには一般的に、開業するための準備資金と事業を維持するための費用が必要です。どれだけのお金が必要になるかは、実際に計算をしてみないと分かりません。

ただ、この計算をする段階で、費用をかける割には収入が期待できず、起業を断念するケースもあります。

まだ年齢的に若いのであれば、強引に事業を始めて、順次、収益が上がるように業務の内容を見直して修正することも可能です。

しかし、歳をとってから強引に事業を始めても、事業がうまく成り立っていかない場合は、最悪の場合、事業とともに家計も破たんすることになりかねないのです。

どのような事業をするのか

老後に起業される業務の形態としては、以下など様々なケースがあるでしょう。

・今まで勤務した企業の業務の一部を個人で請け負う
・現役の間に培った趣味を事業化する
・興味はあるが、まったく知らない業種で事業をしてみる

そして、実際に事業を始めてみると、想定以上の収益を上げることもあるかと思います。

収入が上がれば個人事業の場合は、所得税、住民税や消費税の納付が、法人事業の場合も法人税など各種税金の納付が必須です。

その資金繰りも大切になることも念頭に入れておくことが必要です。

また、うまく事業が回っても、事業主が年を老いていけば、

・子ども
・親戚
・事業を売却

などの事業承継も考えておかなくてはいけません。

事業主が認知症に罹ってからでは家族に迷惑がかかります。また、その家庭の家計にも思わぬ出費が必要になることもあります。

Next: 老後の起業がうまくいかないと家計に大きなダメージを与えます。従って――



老後起業は失敗が許されない

ここまで老後に起業する基本的なところを見てきました。

老後の起業がうまくいかないと家計に大きなダメージを与えます。従って、失敗は許されない、と言っても言い過ぎではありません。

また、事業主にとっても、うまくいかなかった場合の心身へのダメージは、その後の生活の致命傷になりかねません。現役の時代から、老後事業の始め方と終わり方も決めたシナリオと予算をつくっておいて、十分に準備が整ってから起業することが大切なのです。

老後に起業できる目安の1つとしては、「当面、事業収益と家計収支の両方が成り立つか」ということです。

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image by:Shutterstock.com

【人生の添乗員(R)】からのワンポイントメッセージ』(2020年7月8日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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