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日本の医療崩壊は目前か。都市封鎖せずに善戦するスウェーデンから学べること=矢口新

日本でも医療崩壊が起こる可能性があります。初期からロックダウンを放棄して長期戦で挑んだスウェーデンのケースと比較しながら、これから日本が取るべく対策を考えます。(『相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー』矢口新)

※本記事は、矢口新氏のメルマガ『相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー』2020年7月13日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。信済みバックナンバーもすぐ読めます。

プロフィール:矢口新(やぐちあらた)
1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。アストリー&ピアス(東京)、野村證券(東京・ニューヨーク)、ソロモン・ブラザーズ(東京)、スイス・ユニオン銀行(東京)、ノムラ・バンク・インターナショナル(ロンドン)にて為替・債券ディーラー、機関投資家セールスとして活躍。現役プロディーラー座右の書として支持され続けるベストセラー『実践・生き残りのディーリング』など著書多数。

世界の訓話となったスウェーデン

7日7日付けのニューヨークタイムズに、「世界の訓話となったスウェーデン」と題したコラム記事が載った。米国や英国は新型コロナウイルス対策として行っていた「封鎖」を、経済面への悪影響を考慮して解除した。

しかしその後、新規感染者が再拡大していることで、スウェーデンの失敗の教訓を生かせなかったというような内容だ。

ご存じの方々も多いと思うが、コロナ対策として、世界のほとんどの国々が「封鎖」や「自粛」で数週間から数カ月間、国民の日常生活を大きく制限、経済活動を大きく減退させた中で、スウェーデンは高校や大学を休校、介護施設への訪問を禁じたことを除いては「ほぼ何も規制せず」、日常生活の継続は国民の良識に任せた。

このスウェーデン方式は、コロナ退治は容易ではなく、長期間にわたるものだとしてマラソンに例え、日常生活や経済への悪影響を最小限に留めながら、ウイルスと戦い続けるというものだ。

結果としてある程度の感染を許容することになり、それが集団免疫の獲得を早めると期待している。

ところが上記の記事によれば、スウェーデンの「この型破りな方法」は、近隣諸国より数千人も多くの死者を出すという犠牲を国民に強いたのに対し、経済成長もマイナスとなったと指摘した。

そして、「スウェーデンはすべてを失った。これは自傷行為による怪我だといえる」との識者のコメントを引用した。

こうした論調は日本のメディアで見聞きした人たちも多いことと思う。

英文メディアでは「ロシアンルーレット」に例えるものがあるほど、危険な行為として報道するものが多い。

とはいえ日本や米英を含めて、世界のコロナ対策は「山場は今後の数週間」だとした短期決戦に失敗したことで、「長期間にわたるものなので、日常生活や経済への悪影響を最小限に留めながら、ウイルスと戦い続けるというもので、結果としてある程度の感染を許容することに」なってきた。

つまり、スウェーデン方式を遅ればせながら導入しているのだ。

では、スウェーデン方式を導入した世界は上記の記事のように、コロナのために「人命も経済も失う」ことになるのだろうか?

Next: 本当にスウェーデンは失敗したのか?2020年7月10日時点で、スウェーデン――



本当にスウェーデンは失敗したのか?

2020年7月10日時点で、スウェーデンの感染者数は世界216カ国・地域中の25位で7万4,898人となっている。

ちなみにロシアを含む欧州では、

ロシア:71万3,936人
英国:31万9,587人
スペイン:27万1,762人
イタリア:24万2,639人
フランス:20万5,898人
ドイツ:19万7,954人

の順となっている。いずれも桁違いで、スウェーデンは7位となる。もっとも、どの国もスウェーデンよりも人口が多いので、参考までの数値だ。

問題とされている死者数だが、スウェーデンは5,526人と、世界で17位。

スウェーデンの近隣として比較される欧州では、

英国:4万4,650人
イタリア:3万4,938人
フランス:3万0,004人
スペイン:2万8,403人
ロシア:1万1,017人
ベルギー:9,781人
ドイツ:9,025人
オランダ:6,136人

次いでスウェーデンと、9位に下がる。ベルギーとオランダが加わるからだ。

ちなみに2019年7月の時点で、スウェーデンの人口は1,003万6,400人、ベルギーは1,153万9,300人、オランダは1,709万7,100人だ。

死亡率では世界で18位。欧州内では、ベルギー、フランス、イタリア、ハンガリー、英国、オランダ、スペインに次いで8位となる。

回復率は206位とワースト11位だが、欧州では、英国215位、ノルウェー214位、オランダ213位、の3カ国がスウェーデンよりも悪い。

ちなみに、米国(7月11日時点)は感染者数世界一で326万2,964人、死者数も世界一で13万4,659人、死亡率55位、回復率は188位となっている。
※参照:新型コロナウイルス感染の現状 – reuters

スウェーデンの被害は平均的、感染者数もピークを過ぎた?

これで分かるのは、スウェーデンは欧米諸国と比較して、被害が最悪どころか平均的に留まっている点だ。

スウェーデンで気になるのは、死者数こそ随分前にピークを付けているものの、感染者数が増え続けているように見えることだ。

上記資料によると、世界的な感染者数は未だに右肩上がりだが、欧州とオセアニアだけはピークアウトしている。そんな中で、スウェーデンが右肩上がりに見えるのは気になるところだ。

そこで、スウェーデンの状況を確認してみた。

左側の3列は、左から感染者数、集中治療室、死者数で、その下が年代別のグラフだ。
右の3段は、上から感染者数、集中治療室、死者数の日ごとの推移のグラフだ。

これで見ると、感染者数は20歳台から50歳台が多いものの、重症化するのは50歳台以上、死亡するのは70歳台以上が圧倒的に多いことが見て取れる。そして、重症化と死亡例は4月にピークをつけ、感染者数は6月下旬にピークをつけたことが分かる。

つまり、感染しても重症化しない時期が続き、遂に感染者も減ってきたのだ。

Next: ちなみに、死者数の多さについては、スウェーデン独自の事情があるよう――



医療崩壊を免れたスウェーデン

ちなみに、死者数の多さについては、スウェーデン独自の事情があるようなので、後述する参考記事「スウェーデン新型コロナ『ソフト対策』の実態」をお読みいただきたい。

スウェーデン当局は以前から6月中にはストックホルムで集団免疫獲得の可能性があるとしていた。しかし、6月半ばでも抗体を持つ人の比率が低く、また4月、5月に多くの死亡者を出した事実があることから、「もっとよい方法があったかもしれない」としたことを、謝罪したと曲解されるようなこともあった。

しかし、もしかすると、ようやくスウェーデンは集団免疫の獲得に成功したのかも知れない。

いずれにせよ、これらのグラフが示しているのは、スウェーデンに医療崩壊が見られないことだ。感染者がいても重症化せず、死亡者は高齢者にほぼ限られているからだ。

その理由は、現地の医師のコメントに詳しいので部分引用する。

医療崩壊を招かないためには、感染のピークを可能な限り低くし、医療現場のキャパシテイーを超えない患者数(殊にICU治療が必要な重症者)に抑えなければいけません。具体的には、リスクグループの隔離に力を入れ、ソーシャルディスタンスを取ることも繰り返し指示しましたね。子供はクラスターにはならないという判断から、保育園や小中学校は休校にはしませんでした。
共働きが基本のスウェーデンでは、休校することで、医療従事者など今必要な現場での人手が減るリスクも考慮されました

出典:スウェーデン新型コロナ「ソフト対策」の実態。現地の日本人医師はこう例証する – Forbes JAPAN(2020年5月7日配信)

新型コロナ以前のスウェーデンのICUベッド数は、人口10万人あたり約5.8床でした。これは、今感染の被害を最小限に抑え込んでいるドイツの5分の1程度で、これまでもICUのベッドが足りない状況はしばしば起こっていました。しかし、まだ感染が拡大していない2月頃から、ICUのベッドを増やす計画が立てられていました。私の職場でもあるスウェーデン最大のカロリンスカ大学病院でも、以前の約5倍の200床程度まで増床されています。

出典:同上

ベッド数だけでなく、ICUで働く医師や看護師の確保も行われました。各臨床科の希望者や若手医師、麻酔科専門看護師、手術室専門看護師を始めとする看護スタッフを、ICU治療に当たれるように教育したり、全国から有志の医学生がトレーニングを受けて医療現場を手伝ったりと、各方面でスタッフの調達準備がされました。また、今回、ICUなどの最前線での診療行為につくことになった臨時スタッフには、220%の給与の支払いをすることになりました。

出典:同上

欧米の医療崩壊はなぜ起きた?

それにしても、先進国であるはずの欧米の被害が大きい。西洋医学のお膝元で、医療崩壊が起きたのだ。1つの原因は、欧州連合の分業体制の中で封鎖が行われたため、医薬品やマスクを他国に依存していた多くの国々が調達できなくなったこと。もう1つの原因は、押し並べて儲かる医療に傾斜していたためだ。

コロナウイルスとその対策により、米国人が医療機関の利用を思いとどまった結果、3月に始まった医療機関の失業が、4月には140万人に加速した。パンデミックの渦中に起きた医療関連支出と雇用の急減は、逆説的に思えるかも知れない。しかし、これは医療関連産業がどのようにして収益を上げる傾向があるかを反映している。死に至るような病気の患者を治療することは、必要不可欠ではない手術を患者に提供するより、はるかに儲からないのだ。

出典:Why 1.4 Million Health Jobs Have Been Lost During a Huge Health Crisis

手術に必要・不要と分けられるものがあるかどうかは断定できないが、緊急ではなくても一縷の望みを託して高額治療を受けたいとする人々はいるだろう。また美容整形なども、コロナ感染のリスクを冒してまでも…とためらうことがあるかもしれない。

いずれにせよ、事実として分かっているのは、コロナ治療では儲からないため、経営難で1カ月間だけで140万人もの人員整理が行われたということだ。

上記の記事を5月初めに目にした時、私は米国式のビジネスの弊害がここまで、つまり、死者数世界一につながるほどにまで大きいことを痛感した。

そして、その時はまだ対岸の火事だと思っていた。

Next: ところが、日本でも医療崩壊が目前に迫っていることを強く示唆する記事を――



日本でも医療崩壊が目前に迫っている?

ところが、日本でも医療崩壊が目前に迫っていることを強く示唆する記事を目にした。

「当初は感染症指定病院外のためコロナ患者の受け入れは行っていませんでした。もともと経営難が指摘されていましたから、上司からも「コロナ患者を受け入れると更なる経営の圧迫が見込まれるため、病院としては断固として断るつもり」と聞いていました。ところが感染が拡大し、都からの再三の要請を受けた結果、コロナ患者を受け入れることが決まりました」

出典:《コロナ医療体制は大丈夫か》東京女子医大で看護師400人が退職希望「ボーナスゼロ、給料減額では最前線で働けない」悲痛告白 – 文春オンライン(2020年7月9日配信)

そんな医療崩壊の危機と隣り合わせで激務をこなす看護師たちを待っていたのが、コロナを理由にした「減給」だった。

「私たちの病院では全看護師に特別手当や危険手当などは一切ありません。さらに、緊急事態宣言明けの6月に看護師の私たちに、上長から口頭で『一時帰休』が求められました。『月に必ず2日間とってください』と言われ、ほぼ強制的に一時帰休が6月のスケジュール表に組み込まれました。帰休中の賃金は60%に引き下げられた」

「一時帰休」とは、経営の悪化や業績低下に陥った際に会社側の指示で従業員を一時的に休ませること。東京女子医大の理事会は4月17日に職員に対して「一時帰休の実施」を通知。

理由として「教職員の方々の生命身体の安全の確保を図りつつ、また他方で支出を抑え法人財政の悪化を少しでも軽減する」ため、としている。

「給与が減る問題以上におかしいと思うのは、現場はコロナ対応で人手が足りないのに休まなくてはいけなかったこと。病院側は現場のことを考えているとは思えません」(Aさん)

そして、看護師らの苦境に追い打ちをかけたのは、例年6月に振り込まれるはずだった夏季ボーナスの全額カットだった。

出典:同上

コロナ禍と、封鎖・自粛禍により、日米欧の2020年の成長率はマイナスとなる見込みだ。各国政府は事業を止めた損失補填で巨額の財政支出を行っているが、それは事業継続化や生き延びるための資金で、前向きの成長には必ずしも繋がらない。

つまり、今後の低成長は避けらないとの見通しだ。

一方で、すべてを失ったとされるスウェーデンは、近隣諸国がいずれも経済封鎖したため、第1四半期こそマイナス成長だったが、通年ではプラスを維持できると見込まれている。そのことは、
医療崩壊を防ぐための原資を確保できていることを意味する。

医療崩壊を防ぐための原資が日本にあるか

日本は消費増税後の景気失速で税収見通しが引き下げられていた所に、コロナ禍と自粛禍が襲ったため、2019年度の税収は59兆円台と、前年度から1兆円余り減収となる見込みだ。

これで、日本の総税収は1990年度と、2018年度の2回だけが60兆円台に乗ったことになる。いずれも消費税がその後の税収減に繋がった。

【関連】日本の税収はもう60兆円を超えられない。税制改悪で経済復活しても財政危機まっしぐら=矢口新

そこに補正予算が31.9兆円上乗せされるので、歳出が130兆円を大きく超え、赤字幅が70数兆円にもなろうとする勢いだ。収入よりも借金の方が2割も大きくなる。

ここに7月9日には2.5兆円で米戦闘機を購入すると決めたので、政府はもうプライマリーバランスなどは歯牙にもかけないのだろう。

私は過去30年間の日本の経済政策には絶望しているので、こうしたことに驚きも怒りもない。いずれ何らかの形で、民間資金が没収されても驚かない。

Next: とはいえ、政府や都に切に願いたいことがある。医療崩壊を防ぐため、スウェ――



日本の医療崩壊を防げ

とはいえ、政府や都に切に願いたいことがある。医療崩壊を防ぐため、スウェーデンを見習っていただきたいのだ。コロナ禍はまだ終わっていないからだ。

再度、先にも紹介したスウェーデンの医療現場を伝えている記事を載せる。

ベッド数だけでなく、ICUで働く医師や看護師の確保も行われました。各臨床科の希望者や若手医師、麻酔科専門看護師、手術室専門看護師を始めとする看護スタッフを、ICU治療に当たれるように教育したり、全国から有志の医学生がトレーニングを受けて医療現場を手伝ったりと、各方面でスタッフの調達準備がされました。また、今回、ICUなどの最前線での診療行為につくことになった臨時スタッフには、220%の給与の支払いをすることになりました。

出典:スウェーデン新型コロナ「ソフト対策」の実態。現地の日本人医師はこう例証する – Forbes JAPAN(2020年5月7日配信)

上記を見習うための兆円単位の支出など、これまでの無駄遣いに比べれば何のことはない。私は戦闘機の2.5兆円よりも、国民の命を守ることにつながると見ている。

ちなみに、日本の感染者数は56位、死者数40位、死亡率52位 回復率75位だが、陽性者数、入院治療数ともに右肩上がりだ。
※参考:国内の発生状況 – 厚生労働省

ここでの医療崩壊は許されない。

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・意識している価格(7/16)
・Q&A:FXレートはどうして決まる?(7/15)
・巨額資金はどこに消えた?(7/14)
・コロナが正した医療界の無駄(7/13)
・日本にも医療崩壊が来る?(7/13)
・人なし金なしでも世界一の技術(7/9)
・二極化する世界への備え(7/8)
・任務(7/7)
・エマニュエル・トッドが語る“パンデミックの深層”(7/6)
・本当に「昔は良かった」のか?(7/6)
・Q&A:銘柄との相性(7/2)
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※本記事は、矢口新氏のメルマガ『相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー』2020年7月13日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。信済みバックナンバーもすぐ読めます。

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image by:StreetonCamara / Shutterstock.com

相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー』(2020年7月13日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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