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トヨタ「首位転落」で激震の自動車業界、伸びる会社・倒れる会社の分かれ目は?=栫井駿介

電気自動車・自動運転車のテスラが時価総額でトヨタ自動車を逆転しました。自動車業界はどうなってしまうのでしょうか。各社の特徴とこれからの見通しを解説します。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

自動車業界は「時代の分岐点」にいる

自動車企業の決算が発表されました。

トヨタは黒字を確保して今期通期での見通しも黒字予想を出していますが、一方で日産などは大赤字を出していて、見事に明暗分かれる決算となっています。

もっと視野を広げて自動車業界というところを見てみますと、電気自動車・自動運転車のテスラがトヨタの時価総額を抜いたということで、これはもう時代の分かれ目なのではないかという見られ方もあります。

果たして今後、自動車業界はどのようになってしまうのでしょうか。

そこにおいて、私の観点で見た「買える会社」「買えない会社」を分けてみて、今後の自動車業界を占いたいと思います。

コロナのせいにして赤字を出し切る企業も?

2021年3月期の予想純利益をグラフにしてみました。

トヨタは7,300億円の黒字、ホンダは2,650億円、スバルは600億円の黒字と、新型コロナ禍においても黒字を出している企業はあります。

一時的に営業ができなくて販売が落ちたということはありながらも自動車に対する需要はまだ全くゼロになってしまうというな性質のものではないので黒字を確保できているというところがあります。

一方で、日産は6700億円の赤字というとんでもない数字を出しています。

同じく日産ルノーグループに所属する三菱自動車はマイナス3,600億円、マツダはマイナス900億円という厳しい結果となっています。

スズキに関しては通期の見通しは非開示となっていますが、第1四半期は黒字を確保しています。

この新型コロナ禍における業績というのが、実は各社それぞれの力を表していると言っても過言ではありません。

自動車というと、販売のタイミングによって利益を操作できる部分があるわけなんですけれども、この新型コロナ禍においては、ごまかしが効かなくなっているという面があります。

むしろこれまで無理をしてきた会社ほど、コロナのせいにして赤字を出してしまおうというような動きも目立っています。

次項から各社の特徴を見ていきます。

Next: トヨタ、ホンダ、スバル、スズキ…好調組の特徴は?



トヨタ

トヨタ自動車<7203> 日足(SBI証券提供)

トヨタ自動車といえば世界最大級の自動車会社で、1年間世界全体で1,000万台を売り上げるという超巨大な自動車会社となっています。

トヨタ生産方式というのはあまりにも有名で、「カイゼン」という現場におけるコスト削減努力や技術の改善といったことに取り組んで、日本を代表する製造業として名を馳せています。またプリウスに代表されるような高いハイブリッド技術を持っていて、自動車業界を技術でリードする会社と言えます。

これは見事に日本の製造業、つまり安く良いものをたくさん作る技術、それから研究開発などの高い技術も持ち合わせた万能の会社だと言えます。実際にトヨタの車に乗っている方も多いと思いますし、何よりトヨタの安心感というものは大きいです。

ホンダ

本田技研工業<7267> 日足(SBI証券提供)

規模に関しては売上高でトヨタのおよそ半分という形になっています。

かつては独自技術を多く持っていました。オートマチック技術が開発されたときに、特許を買うのにコストが高すぎるからといって、「ホンダマチック」と言われる独自の技術を開発して安く車を販売したということから、技術集団と見られていました。

しかし最近は特に目立った技術というのは普通の車ではあまり見かけなくなって、埋もれがちになっているというところがあります。

一方で、ホンダの強みが二輪事業(バイク)です。主戦場は東南アジアですが、バイクに関して世界トップシェアを誇る会社です。

したがって、バイクは一番ですけれども、車に関しては二番煎じというところがあります。しかし、東南アジアで培ったバイクの開発力には絶対的な強みがあります。

スバル

SUBARU<7270> 日足(SBI証券提供)

スバルは走りにこだわる会社です。とにかく車好きのための会社と言ってもいいかもしれません。

車好きではない人にとってあまり馴染みがないかもしれませんが、スバルの車は人気で、特に最近のSUVの人気というのが世界中で沸騰していまして、日本でもシェアが高まっています。アメリカや中国でも、SUVが一番売れるという状況になっています。

もともとSUVをこだわって作っていたスバルに対して、人気が高まってアメリカでは「スバリスト」というスバルの車に熱狂する人たちも生まれています。このように独自路線を走っていながら今はブームで高い収益性、あるいは成長性を誇っていました。

最近では自動車のリコールも発生したりしてちょっと冴えない所もありますが、このような独自路線というのを貫いていくんだろうなというところではあります。

スズキ

スズキ<7269> 日足(SBI証券提供)

これはもう皆さんご存知の通り軽自動車や小型車に特化している会社です。何より安いです。

最近、売上台数のトップに立つのはほとんど軽なので、軽自動車がどんどんシェアを高めるに従って、このスズキの力というのも強くなっています。

またその小型車を安く作る技術というのを持って、インドに進出した結果、今やインドのシェアは4割を誇るという結果になっています。これはものすごいことです。

インドというと10億人以上の人口を抱えているので、そこで4割のシェアを持っているということはとんでもないことで、さらに言えば、ここから経済成長が続くに従って人々が車を買うということなると、さらなる成長性も期待できるということになります。

もちろん、まだ経済力はそんなに豊かではないので、安く車を作らなければなりません。さらに頑丈というのがもちろん一番好まれるので、その力をスズキは持っているといえます。

だからこそ、トヨタが今は5%弱を出資していますが、かつてから仲が良いということもありまして、常にラブコールを受けている段階ということです。

価格競争力なら負けない、小型車を作る技術ではどこにも負けない会社ということができます。

さて、ここからは結構きびしい会社ということになります。

Next: 日産、三菱、マツダ…不調組はなぜダメだった?



日産

日産自動車<7201> 日足(SBI証券提供)

リーフを作った電気自動車の先駆けでもあって、これまでの歴史を振り返ると一度は潰れかけましたが、カルロス・ゴーンの下で強烈なコストカットを行いました。

一方で、最近の業績は販売台数を伸ばすことを最大限に重視したハリボテだったということができます。フリート販売といってアメリカではタクシー会社、あるいはレンタカー会社に大量販売することによって、販売台数を伸ばすことができていたのですが、それらで大量に売った物というのは、すぐに中古車市場に出回りやすいです。そこで安い価格で大量に日産の中古車が出てくるということになると、ブランド価値自体が毀損してしまうことになっているわけです。

今の日産は、そうやってブランド価値を毀損して、見かけ上の売上だけを立てて業績を増やしているように見えました。けれどもゴーンがいなくなってハリボテの意味がなくなってしまいましたし、その反動というのが今の巨大な赤字という形で出てきています。

また、ルノーとの関係も微妙です。そもそもゴーンを派遣してきたのが、この3分の1以上の株式を持つ大株主のルノー。ルノーが日産系列の利益をグループとして取り込んでいきたいという思いから、ルノーからの指示が資本関係上強くなってしまっています。

さらに、このルノーとフランス政府の力がものすごい強い会社になっていて、もはや国vs国との軋轢(あつれき)を生むような会社になって、とても難しい状況になっています。このような状況から、今どうしても出口が見えない状態になってしまっています。

三菱

三菱自動車工業<7211> 日足(SBI証券提供)

三菱は、日産が3分の1以上出資したことにより、ルノー・日産グループに入りました。

三菱というと悪路や急な坂に強い車を作る技術を持っていて、東南アジアや欧州といった道の険しい所に人気があります。

一方で、業績を見ますと営業利益率が低かったり、技術を持っていながらそれを必ずしも安く作ることができず今ひとつですし、規模がかなり小さいというところもあります。

規模があればコスト削減のひとつの大きな要素になりえますが、規模がないということで、コスト競争力もありません。ルノー・日産グループで他の部品の共通化などをすると、コスト競争力はついてくるかなとも思いますが、そうなると、今度は車自体の独自性が失われてしまうということにもなり兼ねないので、結構むずかしいところです。

ルノー・日産グループの中で飲み込まれ、埋もれてしまうという危険性は十分にあると思っています。そもそも今の時点でも利益が出ている会社ではありませんから、厳しい状況にあると考えます。

マツダ

マツダ<7261> 日足(SBI証券提供)

マツダは近年はSUVなどに傾注して人気でしたから、売り上げを伸ばしていた側面もあって、エンジンに強みがあり、車好きには好きな人も多いという会社です。一方で、この会社はそれ以外の特徴というのがあまり見当たりません。

一時は、「マツダ地獄」といわれるようなことがありました。マツダが値引き販売をして車を売る結果、買取価格も安くなってしまいました。買い取る価格があまり付かないということになると、新車を買いたくても安い車しか買えなくて、結局、値引き販売をしてくれるマツダで買うしかない。つまり、マツダから延々に逃れることはできない……といったようなことが起きていた時期もありました。

それが何を意味しているのかと言うと、ブランド力が強くはなかったということを意味しています。ブランド力が確立していない今、車好き以外のニーズがあるのか?というところには疑問を覚える会社です。

業績的にも、あまり振るわない結果になっています。

Next: テスラがトヨタを抜き時価総額世界一に。自動車業界に大変革が起きる?



自動車がコモディティ化する!?

冒頭で申し上げました通り、テスラがトヨタ自動車の時価総額を抜き、自動車メーカートップに立ちました。

トヨタ自動車<7203> 日足(SBI証券提供)

TESLA INC<TSLA> 日足(SBI証券提供)

トヨタがこのようにはずっと横ばいで株価が推移する中、テスラがここ最近、特に新型コロナショックの後、株価を上げて500円から1,500円ぐらいに上がって3倍になりました。

時価総額に関してはトヨタが今22.5兆円ぐらいありますが、テスラが29兆円ということで、逆転してしまったということになります。

しかしながら、売上に関してはテスラはトヨタの10分の1しかありません。バリエーション的に考えたら、やはりテスラはどう考えても割高といったところではあります。

ただ一方で、将来に対する期待というものが込められたものでもあります。テスラというと電気自動車や自動運転車モデル3などの量産を目指していまして、実際に自動運転車を本格的に売っているのはテスラだけです。

しかも、これまでは黒字にならなくて苦しんでいましたが、直近の四半期が黒字化するなど明るい兆しも見えつつあります。

これが今後、大きく変革していくにあたって、自動車業界のAppleになるのではないかと見られています。電気自動車は部品を組み立てるだけなので、考えようによっては、今後はかつてのPCやスマートフォンのような製品になってしまうのではないかということが考えられます。

これから自動車業界で起こることとしては、電動化、自動運転化、つまりコモディティ化を意味します。このコモディティ化というのは、部品や設計図さえあれば誰でも作れてしまうというような状況です。

実際、スマートフォンなども中国の会社でも簡単に真似をして、AppleのiPhoneのパクリのような商品を出してしまえたというようなことがあります。

蓄積した技術とブランド力が大事

つまり、今後は自動車も、PCやスマホのようになってしまうのではないかということが懸念されています。その中で生き残っていくためには、やはり競争力がないといけません。

日本の電機メーカーも、富士通やNECなどがいろいろな製品を作っていましたけれども、多くは撤退してしまいました。これはパソコンがコモディティ化してしまったからですし、かつてガラケーなどでも各社が出せていたのですが、もはや日本メーカーはほとんど残っていなくて、iPhoneと中国製のAndroidというような状況になっています。

自動車産業に関しても、これと同じようになってしまうのではないかと考えられます。

一方では、自動車というと人の命を預かるものですから、そう簡単に動かないというような考え方もあります。

そこで重要になってくるのは、やはりこれまでに培ってきた技術というのは間違いないわけです。

安全性に対してももちろんですし、途中で故障があると非常に困るものなので、そのノウハウを蓄積された自動車メーカーというのは大切なわけです。

一方で、多少の技術は持っているかもしれませんが、中途半端な位置づけの自動車会社というのは、なかなか自動化の波にも付いていけず、成長もなければ、どんどんシェアを落として衰退してしまうというような危険性があります。

そんな中で私たちが投資すべきなのは、もちろん自らのブランド力をもって、自らの製品を販売し続けられる会社です。

あるいは、iPhoneのカメラにはソニーのセンサーが採用されていますが、独自の技術を持った会社というのは部品の供給という形になるかもしれませんけれども、そこで生き残っていく可能性もあるわけです。

Next: 買ってもいいかなと思える会社は○○だけ?中国企業の台頭もある



買える会社の本命は「トヨタ」

そのような観点で買ってもいいかなと思えるメーカーを挙げるとするならば、やはり本命はトヨタということになります。

トヨタのハイブリッド技術というのは当然、電気自動車などにも応用できる話でしょうし、安全性や長く頑丈に使えるという技術はここに集約されているわけです。

ガソリン車にしても丈夫で長く使えれば、コストパフォーマンスも良いということになるので、新興国でも根強い人気があります。

トヨタがこのハイブリッド技術で人気を伸ばし続ける限り、電気自動車でそのコストパフォーマンスで追いつける日はまだまだ遠いのではないかと考えられます。

対抗馬は「スズキ」

対抗となるのがスズキです。

コスト競争力を持っている会社ですが、先ほど申し上げたように、インドで非常に高いシェアを誇っています。この成長市場に4割というシェアに軸足を置いていれば、余程おかしなことにならない限り、この市場の成長に従って伸びていくことが考えられます。

そこで脅威となるのは中国の企業です。

より安い価格でインドに輸出、あるいは現地生産する事で伸ばしていくということが考えられますが、インドと中国は少し政情不安なところもありますので、そこでやはり日本の企業というのは優位に働く可能性があるということです。

因みに、海外という話に関してはトヨタも最近中国で正直上手くいってなかったのですが、徐々にシェアを伸ばしつつあるので、それも注目できるところではあります。

大穴は「日産」

大穴としては、日産を挙げさせていただきたいと思います。

当然、目先の動向は先ほど出口がないと申し上げました通り、当面きびしい状況にあることは間違いありません。しかし、ゴーン改革ではないですが、柵を断ち切っていくことができて、「リーフ」という電気自動車持っていることから、これをテスラレベルにしていくことができれば、今は株価は下がっていますが、そこからを再び大きく上げていける可能性があります。

ただし、私としてはお勧めはしません。というのも、現状の日産の決算説明資料を見ますと、ゴーンがいなくなった後の「事業構造改革計画」というのを立てているのですが、ここに出ているのは「収益を確保した着実な成長」だとか「日産らしさ」という言葉が並んでいますが、正直、のっぺりとした目標にしか見えません。改革をやるからには、もっと思い切った政策が必要になってきます。

そう考えると、今のままの日産にはまだ、決して投資できる段階ではないと考えます。

焦って投資する必要はない

自動車業界は投資先としても人気のあるところですが、ここ数年、ずっと難しい状況に置かれています。

「景気が悪くなると自動車売れなくなる」ということもありますので、いま焦って投資するような企業はなかなかないと考えます。一方で、伸びる企業が割安に放置され続けるということもあり得ますので、これはという光る原石のような物を見つけたら、 その時は投資する時だと考えます。

そういった観点で、今後の自動車業界の動きをよく眺めてみてください。

(※編注:今回の記事は動画でも解説されています。ご興味をお持ちの方は、ぜひチャンネル登録してほかの解説動画もご視聴ください。)

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バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2020年8月10日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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