マネーボイス メニュー

人材不足の自民党に「安倍のほうがマシだった」リスク。後釜は菅か小池百合子か=江守哲

安倍首相が辞意を表明した。今後のシナリオは、まずは議員総会で麻生副総理に首相を移行し、内閣改造を行ったうえで、秋に衆院解散・総選挙で菅氏が首相というのが基本路線だろう。だが、別の動きもある。(『江守哲の「ニュースの哲人」~日本で報道されない本当の国際情勢と次のシナリオ』江守哲)

本記事は『江守哲の「ニュースの哲人」~日本で報道されない本当の国際情勢と次のシナリオ』2020年8月28日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方はぜひこの機会に、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:江守哲(えもり てつ)
エモリキャピタルマネジメント株式会社代表取締役。慶應義塾大学商学部卒業。住友商事、英国住友商事(ロンドン駐在)、外資系企業、三井物産子会社、投資顧問などを経て会社設立。「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」。商社・外資系企業時代は30カ国を訪問し、ビジネスを展開。投資顧問でヘッジファンド運用を行ったあと、会社設立。現在は株式・為替・コモディティにて資金運用を行う一方、メルマガを通じた投資情報・運用戦略の発信、セミナー講師、テレビ出演、各種寄稿などを行っている。

実績ないまま辞任?与党内からも批判

安倍首相が辞任の意向を示した。いまこれを書いているときに、まさに一報が飛び込んできたのである。ここまで書いていた原稿をすべて差し替え、この報道を分析し、今後の動きを推察したい(※編注:原稿執筆時点8月28日)。

安倍首相の連続在職日数が8月24日、歴代最長を更新した。与党は長期政権の成果をアピールする一方、野党からは弊害を指摘する声が出ていた。

自民党の岸田政調会長は「経済・外交を中心にさまざまな大きな成果が上がってきた」としていた。公明党の山口代表は「首相のリーダーシップを支えた与党の結束も大事な要素だ」と強調し、政権の緩みが指摘されていることを踏まえ、「襟を正して政権運営に臨んでいく」としていた。

安倍首相は17日と24日に2週連続で慶応大学病院を訪問。両日とも官邸に戻ってから記者団に対し、検査を受けたと説明しているが、実は治療だった。

一方、立憲民主党の安住国対委員長は、森友・加計学園問題などに触れ、「霞が関は『1強』の方を向いて国民の方を向かないということが非常に見られた」と指摘。共産党の小池書記局長は「国民にとってみれば歴代最長の苦しみを強いられた。国政の私物化は極限まで達している」と批判した。

自民党の石破元幹事長は、「政治の任にある者は歴史の評価を受ける」とした。首相の実績が乏しいとの見方が一部にあるが、石破氏は「総裁任期は1年残っている。その間に劇的に変わるということもある」と指摘した。この発言はきわめて興味深い。つまり、これまでは実績に乏しく、あと1年で成果を上げられる可能性があると指摘していたのである。

次の政権候補者としての間接的な現政権への批判であろう。しかし、現状では石破包囲網が敷かれている。これを破るのもまた難しい。

周知の事実だった健康不安

一方、当の安倍首相だが、2週連続で病院の検査を受けたことになっている。きわめて強いストレスがかかる中での政権運営が続ており、第1次政権で退陣の引き金を引いた持病の潰瘍性大腸炎が悪化している。実際には検査ではなく、「治療」との情報が入っていた。

この治療は、血液をいったん抜き、炎症の要因になっている顆粒球を除去し、再び血液を体内に戻すという治療である。5時間程度かかり、さらに毎週の治療が必要とみられている。これでは、首相としての職は全うできないと私はみていた(実際の治療は2時間以内で可能らしい)。

首相に近い自民党幹部は「検査」後に、「思ったより顔色も良かったし、元気そうだった」とし、健康上の問題はないと強調しているが、あまりにわかりやすい嘘だったことになる。別の幹部は「体調は本人しか分からない」と静観の構えを示している。

このような状態であり、さらに連続在職日数が歴代最長を更新したことから、安倍首相はすでに退陣を決めている可能性があると私は見ていた。そして、やはりそうなった。

Next: 着々と進んでいた退陣準備。ここがベストなタイミングだった?



着々と進んでいた退陣準備

その一方で、二階・菅会談が実施されるなど、すでに内閣改造・自民党役員人事や衆院解散・総選挙が視野に入ってきていた。準備は着々と進んでいたのである。

一方、立憲民主党の安住淳国対委員長は記者団に「元気な首相と臨時国会で論戦したい」と気遣いを示すと同時に、「国民も心配になる。その時々で発信してもらった方が良い」ともし、検査結果についてきちんと説明するよう求めている。別の立憲幹部は「薬が効かないとなればまずい」と指摘し、首相の早期辞任に備える意向を示している。すでに気づいているひとは気づいているという状況にあったのだ。

甘利自民党税調会長は25日、懸念される安倍首相の体調について、「盆休み前に会った際の憔悴した様子と比べ、以前の元気な姿に回復している」としていた。そのうえで、9月の党役員人事と内閣改造は首相自らが行い、来年9月まで任期を全うするとの見通しを示していた。

24日の安倍首相の記者とのやり取りを見た甘利氏は、「体調はかなりいいと思う」としている。「お盆休み前に会った時は、正直心配だった。かなり憔悴した表情だったし、声にも力もなかった」としている。体調の悪化は事実だったのだろう。一時は新型コロナウイルス対策に伴うストレスで体調を崩していたようだとの見方を示している。しかし、24日の様子については、「そのときとはまったく様変わりしていた。元に戻ったという感じだった」とした。確かに24日の会見の顔色は良かった。

そのうえで甘利氏は、「安倍首相は来年9月までの任期を全うするだろう」とし、「来月9月の党、内閣の人事も自分でやると言っているようだ。それは、残りの任期をきちんと務めるということだ」とした。観測が浮上する解散・総選挙については「当面ないだろう。首相が決めることだが、コロナ対策に全力を投入すると言っているのだから、当面はないのだろう」とした。

「先延ばし」は限界に来ていた

しかし、これまでの衆院解散時期と株価の関係を考えると、解散を来年に延ばすのは危険である。まして、安倍首相の体調問題がある。

安倍政権は24日、連続在職日数が過去最長となり、党総裁任期は約1年残っていたが、甘利氏は後継者レースについて「もうすでにそれぞれの候補者の動きは始まっている」としていた。

甘利氏は、「岸田氏が党の求心力になればそれにこしたことはないと思っている」とし、岸田文雄政調会長に期待をかけるとしていた。一方で、「岸田氏としては存在感をしっかり示すことができるかどうか次第で、この1〜2カ月が正念場だ」としていた。

私は「辞任は時間の問題である」として、メディアなどで一部のシナリオについて解説済みだったが、やはりそうだった。このメルマガでお伝えできなかったのは、発行のタイミングの問題とはいえ残念である。

Next: 秋に衆院解散総選挙、菅氏が次期首相というのが基本路線。ただし…



すっかりやる気の菅氏。今後のシナリオは?

さて、今後のシナリオだが、まずは議員総会で麻生副総理に首相を移行し、内閣改造を行ったうえで、秋に衆院解散・総選挙で菅氏が首相というのが基本路線である。

菅氏は完全にやる気になっている。器ではないのだが、人がいない。岸田氏は論外であり、石破氏は現政権から完全に嫌われている。

結局は、現政権のきわめて限られた人間で政治が決められているのである。民主主義など存在しないのが、いまの日本の政治であることが明白にわかる事実であろう。

いまの状況では、麻生氏に一時的に権限を移し、そのあとに菅氏に総裁ならびに首相の座を明け渡したうえで、衆院解散・総選挙となる可能性もある。

この場合、自民党内で党首をどうやって決めるかの問題はある。また、首相を民主的に決めることにはならないため、森首相誕生時のような内輪での取り決めへの批判も高まるだろう。

現執行部はこれらを考慮した策を講じることも必要であり、頭の痛いところであろう。

小池百合子、小泉純一郎……役者が続々と集まってくる

最終的には安倍首相が再び健康問題で退陣することになったことは、きわめて残念である。しかし、去る人のことを悪く言っても意味がない。お疲れさまでしたと言おう。そして、早く体調を回復されることをお祈りする。潰瘍性大腸炎に罹るのは、ストレスが大きいという。首相を辞めれば、快復も早いだろう。

あとは、小池都知事がいつどのタイミングで国政に戻ってくるか、である。

最終的には二階氏が何かしらの動きを見せるだろう。場合によっては、小泉純一郎氏も絡んでくるだろう。

自民党は明らかに人不足である。人気と実力を兼ね備えた候補者がいない。どちらかがあればまだましだが、それもいない。内輪で物事を進めてきた安倍政権のツケは、今後の日本に大きくのしかかってくるだろう。

日本の政治が大きく動き始めた。大きな動きである。今後の動きをじっくりとみていきたい。

続きはご購読ください。初月無料です

<初月無料購読ですぐ読める! 8月配信済みバックナンバー>

※2020年8月中に初月無料の定期購読手続きを完了すると、以下の号がすぐに届きます。

2020年8月配信分
  • 「安倍首相が辞意」(8/28)
  • 「米中対立の末路は米国にとって悲惨な結果に」(8/14)

いますぐ初月無料購読!


本記事は『江守哲の「ニュースの哲人」~日本で報道されない本当の国際情勢と次のシナリオ』2020年8月28日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方は、バックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。本記事で割愛した米国市場金、原油各市場の詳細な分析もすぐ読めます。

<こちらも必読! 月単位で購入できるバックナンバー>

※初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分:税込3,300円)。

2020年7月配信分
  • 「米英同盟はこのまま沈没するのか」(7/24)
  • 「トランプ大統領は末期症状」(7/10)

2020年7月のバックナンバーを購入する

2020年6月配信分
  • 「北朝鮮は学習しない」(6/26)
  • 「トランプとともに沈みゆく米国」(6/12)

2020年6月のバックナンバーを購入する

2020年5月配信分
  • 「ますます追い込まれる米国」(5/22)
  • 「200年ぶりの大変革が起きるのか」(5/8)

2020年5月のバックナンバーを購入する

2020年4月配信分
  • 「米国の怒りと新秩序への序章」(4/24)
  • 「新型コロナウイルスと米大統領選の行方」(4/10)

2020年4月のバックナンバーを購入する

2020年3月配信分
  • 「新型コロナウイルスはとんでもない大事件」(3/27)
  • 「新型コロナウイルスの影響は甚大」(3/13)

2020年3月のバックナンバーを購入する

【関連】辞任の安倍首相は何を間違えた?コロナが示した各国リーダーの力量=斎藤満

【関連】前澤友作は打倒ユニクロを実現するか?この天才はバフェットすら超えてくる=栫井駿介

【関連】中国の「超異常気象」は天罰か?災害集中は必然、超高齢化で亡国へ=勝又壽良

江守哲の「ニュースの哲人」~日本で報道されない本当の国際情勢と次のシナリオ』(2020年8月28日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

初月無料お試し購読OK!有料メルマガ好評配信中

江守哲の「ニュースの哲人」~日本で報道されない本当の国際情勢と次のシナリオ

[月額880(税込) 毎月 第2金曜日・第4金曜日(年末年始を除く)]
このメールマガジンでは、国際情勢や国内外の政治情勢の「真の背景」を読み解きます。経済は政治で決まり、政治は国の組織が決めます。そして、すべてのことがシナリオに基づいて動いています。しかし、その舞台裏は意外とシンブルです。それらの「真の背景」を理解すれば、すべてが面白いように見えてきます。毎月第2・第4金曜日にお届けするこのメルマガでは、これまで世界各国の人間と仕事をしてきた経験と人脈から、マスコミが報じることができない独自の見解をお届けします。ビジネスマン、投資家、学生など、様々な立場のひとにとって有益な情報となるでしょう。

シェアランキング

編集部のオススメ記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MONEY VOICEの最新情報をお届けします。