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辞任の安倍首相は何を間違えた?コロナが示した各国リーダーの力量=斎藤満

新型コロナが、世界のリーダーの力を測る「リトマス試験紙」の役割を果たしたとするコメントがテレビ報道で紹介されていました。思わず納得です。日本のリーダーはどうでしょうか。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

(編注:原稿執筆時点8月26日。安倍首相は28日、持病悪化を理由に国政への影響を避けたいとして辞意を表明しています。)

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※本記事は有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2020年8月26日の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

コロナはリーダーのリトマス試験紙

テレビ報道の中で、今回の新型コロナが、世界のリーダーの力を測る「リトマス試験紙」の役割を果たした、とする大学教授のコメントを紹介していました。思わず納得してしまいました。コロナ対応で強いリーダーシップを見せ、その成果と存在感を示した国のリーダーと、対応を誤って批判を浴びたリーダーとに色分けされたのも事実。

高い評価を得たリーダーとしては、ニュージーランドのアーダーン首相をはじめ、台湾の蔡英文総統、韓国の文大統領など。

反面、批判を浴びたのが米国のトランプ大統領、日本の安倍総理、ブラジルのボルソナーロ大統領などです。

新型コロナに対するトップの対応が感染拡大の収束、及び国民生活に大きな差異をもたらした、との指摘で、結果的にコロナが各国トップの力量を測る「試薬」になったと言います。

リーダーシップに4つの形

そのリーダーシップには、4つの類型が見られます。

大別すると「独裁型」と「民主主義型」に2分されますが、それぞれにも成功型と失敗型があります。

当初は中国共産党政権のように、独裁的強権的な対応が効率的で成果を上げたとみられましたが、同じ独裁的強権的なブラジルでは放任型となって感染を拡大させ、経済に負担も与えました。

民主主義型でも、ニュージーランドや台湾、韓国では一時的に国民の負担を強いる「規制」を求めましたが、トップがそのための説明を十分に果たし、国民が理解し、納得して「規制」を受け入れ、感染の早期収束を可能にしました。

またスウェーデンでは経済的な規制をかけずに、最低限のルール(社会的な距離、大規模集会の制限)だけで、当初は感染が拡大しましたが、抗体、T細胞などの免疫効果を説明、実際感染は縮小しています。

半面、日本や米国、英国はコロナに対して国としてのリーダーシップは弱く、説明も中途半端で具体性がなく、地方の自治体や国民任せでした。結果的に感染の拡大、長期化から、経済活動や財政への負担も大きくなり、自治体トップや国民からの批判が高まりました。

日米ともにトップのコロナ対応に対する世論調査結果は、「支持しない」が多数となっています。

Next: 国と自治体の考えがバラバラ。根拠なき「お願い」には従わない国民も



国と自治体、どっちに従えばいいのか?

一党独裁の中国や独裁的大統領を抱えるブラジルなどのもとでは、指示がストレートで、直接国民に伝わる分効率的と見えますが、間の組織がトップに反対の姿勢を見せると職を解かれ、民主的な歯止めがかかりません。

半面、民主国家では、大統領・首相などトップの下に、地方自治体があり、さらに民間団体・国民層があり、いわば3段階のフィルターがあります。

指示命令系統が多い分、効率が悪く、時間がかかる面があるものの、トップが機能しなくても、自治体や国民レベルでカバーできる面もあります。

日本の場合、政府と地方自治体のトップとでいうことが異なり、国民から見ればどちらに従えばよいのか、わかりにくい、との不満も聞かれました。政府は「Go Toトラベル」を企画して旅行を促す一方で、東京都などは旅行、帰省の自粛を求めました。

政府も自治体も「お願い」ベースの要請で、罰則付きの規制は行わない分、国民の行動にもばらつきが見られます。県をまたぐ移動はしないよう「お願い」しても、これに従わない人も少なくなく、ソーシャル・ディスタンス、マスクの着用を「お願い」しても、公共の場でもマスクをしない人も多く見かけます。

国民の良心に任せるしかないのですが、幸い、日本ではマスクに対する抵抗感が少ない分、欧米よりも着用が多くみられます。

政府が緊急事態宣言を発動した当時よりも感染者が多くなり、検査の「陽性率」が高くなっても、政府は再び緊急事態を宣言せず、政府の判断基準に統一性がないとの批判もあります。

特に、東京や沖縄では10万人当たりの感染者数、1週間ごとの増加ペース、陽性率などから「宣言再発動」でもおかしくない状況でも動きませんでした。この政府の一貫性のなさも、コロナによって改めて確認される結果となりました。

感染者数「だけ」に注目させる報道

新型コロナウイルスについては、従来のインフルエンザ・ウイルスなどとは異なり、新しいウイルスで、その実態がよくわからないということはあるにしても、政府の発表や報道は感染者数に偏重した感があります。

新型コロナの特性についての説明、研究結果の説明も少なく、その間に、国によって、あるいは国内にも「ただの風邪」との見方もあれば、死に至る恐ろしいウイルスとの認識もあります。

Next: 不安を煽るだけの報道。安倍政権のメディア戦略は失敗に終わった



安倍政権のメディア戦略は失敗

日本ではこれまでSARS(重症急性呼吸器症候群)や新型インフルエンザの国内感染を水際で回避した経緯があるなかで、今回はクルーズ船や中国からの旅行者などによるウイルスの侵入を水際で抑えることができず、市中感染に至りました。

しかも、抗ウイルス薬やワクチンがなく、高齢者や基礎疾患のある人では致死率が高いと説明され、国民の間に恐怖感が広がりました。

政府は医療専門家の意見を尊重したうえで判断と言いますが、医療専門家チームは医療崩壊の危機を懸念し、慎重な行動が必要との意見をテレビなどで開陳する一方で、政府はこれとは別の判断をしています。

またテレビ番組に出演して解説する「専門家」は総じてコロナの危険性を強調し、危機感を募らせます。

これらはワクチンの製造会社に都合の良い「危機感の醸成」に協力しているとの批判も見受けられます。ワクチンも抗ウイルス薬もないまま、感染が拡大し、重症者は死に至るリスクを毎日のようにテレビで解説されれば、国民は特に高齢者ほど恐怖感、不安に駆られます。その結果、外出自粛を促し、経済活動の停滞を招いています。

何が真実かわからないまま、テレビは国民の不安を煽っている印象があります。

政府はこれで求心力を高め、医薬品業界の利益に協力しているのかもしれませんが、国民はたまったものではありません。

現に、政府のコロナ対応には、世論調査で過半が「支持しない」と答えています。政府のメディア活用は失敗し、墓穴を掘ったことになります。

オール・ユー・ニード・イズ・ラブ

トップのリーダーシップや様々な利権がうごめく中で、数少ない「良い話」がイタリアから届きました。

イタリアでも当初は政府の対応にもかかわらず、国民はハグ、キスの習慣は変えられないと言い、マスクもしていませんでしたが、このところはすっかり生活様式が変わりました。ほとんどの人がマスクを着用し、挨拶はグータッチかエアタッチです。

現地の人によれば、愛する家族や大切な友人に感染させたくない、との思いやりの心がこうした「変化」につながったと言います。そして感染者数は、はっきりと減少しました。

米国や日本では「自分は大丈夫」としてマスクをしない人が多いのですが、自分よりも相手や周りの人を思いやる心が、マスクの着用、3密の回避につながり、感染を抑制した良い例です。

権力、リーダーシップの前にまず「愛」「思いやりの心」ということのようです。ビートルズは50年以上も前に、これを歌っていました。

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2020年8月配信分
  • コロナで不動産業界に激震(8/28)
  • コロナが教えてくれたもの(8/26)
  • 今こそ消費主導経済の重要性(8/24)
  • コロナで収縮する貿易に備える(8/21)
  • ドル安は長期化の可能性(8/19)
  • アフター・コロナよりもポスト・アベノミクス(8/17)
  • 中国がV字回復できないわけ(8/14)
  • 経済崩壊を回避する10兆円予備費の活用(8/12)
  • 米大統領選、バイデン候補の勝ち目は(8/7)
  • コロナフリーを獲得したニュージーランド(8/5)
  • 先鋭化するトランプの対中戦略(8/3)

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2020年7月配信分
  • 失った時間は永久に取り戻せない(7/31)
  • ワクチン開発の政治化リスク(7/29)
  • フラット化の中でドル高が修正(7/27)
  • 「骨太」の内需拡大策は付け焼刃(7/22)
  • 米国のW字型回復を懸念するFRB(7/20)
  • 劣勢のトランプ大統領に「ウルトラC」はあるか(7/17)
  • ウィズコロナで注目される健康ビジネス(7/15)
  • コロナ対策で使った11兆ドルの後始末(7/13)
  • 回復の力をそぐ2メートルの壁(7/10)
  • 試される人間の知恵(7/8)
  • 計算違いした香港中国化の代償(7/6)
  • 政治リスクが高まる日米株式市場(7/3)
  • 規制と自由、コロナ共生下の経済成果は(7/1)

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2020年6月配信分
  • 世界貿易にもコロナ・ショック(6/29)
  • 転倒した憲法改正解散(6/26)
  • 市場の期待と当局の不安がぶつかる米国経済(6/24)
  • 狂った朝鮮半島統一シナリオ(6/22)
  • 見えてきたコロナ危機の深刻度(6/19)
  • 崖っぷちの習近平政権(6/17)
  • FRBが作ったドル安株高の流れに待った(6/15)
  • 長期金利上昇を意識し始めた主要中銀(6/12)
  • コロナで狂った中国の覇権拡大(6/10)
  • トランプ「拡大G7」の狙いは(6/8)
  • 準備不足の経済再開で大きな代償も(6/5)
  • コロナより政権に負担となった黒人差別(6/3)
  • 自動車依存経済に警鐘を鳴らしたコロナ(6/1)

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2020年5月配信分
  • 非効率のビジネスモデル(5/29)
  • 再燃した香港での米中戦争リスク(5/27)
  • 日本は反グローバル化への対応に遅れ(5/25)
  • 日銀の量的質的緩和は行き詰まった(5/22)
  • トランプ再選に暗雲(5/20)
  • トランプ大統領、ドル高容認発言の真意は(5/18)
  • 堤防は弱いところから決壊する(5/15)
  • コロナの変革エネルギーは甚大(5/13)
  • 株の2番底リスクは米中緊張からか(5/11)
  • 「緊急事態宣言」延長で経済、市場は?(5/8)
  • 敵を知り己を知らば百戦危うからず(5/1)

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2020年4月配信分
  • コロナ対応にも米国の指示(4/27)
  • 原油価格急落が示唆する経済危機のマグニチュード(4/24)
  • ソーシャルディスタンシングがカギ(4/22)
  • ステージ3に入る株式市場(4/20)
  • 「収益」「効率」から「安心」「信頼」へ(4/17)
  • コロナショックは時間との闘い(4/15)
  • 株価の指標性が変わった(4/13)
  • 108兆円経済対策に過大な期待は禁物(4/10)
  • コロナ恐慌からのV字回復が期待しにくい3つの理由(4/8)
  • コロナを巡る米中の思惑と現実は(4/6)
  • 働き方改革が裏目に?(4/3)
  • 緊急経済対策は、危機版と平時版を分ける必要(4/1)

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2020年3月配信分
  • コロナ大恐慌(3/30)
  • 大失業、倒産への備えが急務(3/27)
  • 新型コロナウイルスと世界大戦(3/25)
  • 市場が無視する大盤振る舞い政策(3/23)
  • 金融政策行き詰まりの危険な帰結(3/18)
  • 政府の面子優先で景気後退確定的(3/13)
  • 市場に手足を縛られたFRB(3/11)
  • コロナの影響、カギを握る米国が動き始めた(3/9)
  • トランプ再選の真の敵はコロナウイルスか(3/6)
  • 2月以降の指標パニックに備える(3/4)
  • 判断を誤った新型コロナウイルス対策(3/2)

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2020年2月配信分
  • 世界貿易は異例の2年連続マイナス懸念(2/28)
  • 政府対応の失敗で「安全通貨」の地位を失った円(2/26)
  • 信用を失った政府の「月例経済報告」(2/21)
  • 上昇続く金価格が示唆する世界の不安(2/19)
  • IMFに指導を受けた日銀(2/17)
  • 中国のGDP1ポイント下落のインパクト(2/14)
  • 習近平主席の危険な賭け(2/12)
  • 政府の「働き方改革」に落とし穴(2/10)
  • コロナウイルスは時限爆弾(2/7)
  • 鵜呑みにできない政府統計(2/5)
  • FRBにレポオペ解除不能危機(2/3)

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マンさんの経済あらかると』(2020年8月26日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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