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“菅新総理”のスガノミクスは財務省に勝てる?誰もが嫌がる安倍政権の尻拭い=澤田聖陽

突然の安倍総理辞任発表で始まったポスト安倍レースは、菅義偉氏を本命に据えて展開しています。早くも“スガノミクス”という言葉が聞かれますが、日本はコロナ禍に打ち勝ち、再び活力を取り戻せるのでしょうか? メルマガ『元証券会社社長・澤田聖陽が教える「投資に勝つニュースの読み方」』を発行する澤田聖陽さんは、安倍政権の8年間を金融・経済の面から総括するとともに、次期総理の重要政策課題を分析。日本経済活性化のために公的資金を投入しようにも、財政破綻リスクが囁かれる現状について、「財政危機論の方が害悪」と切り捨てています。

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※本記事は有料メルマガ『元証券会社社長・澤田聖陽が教える「投資に勝つニュースの読み方」』2020年8月28日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

低成長に終わった8年間

8月28日、安倍総理が辞任を発表しました。持病の潰瘍性大腸炎が悪化し、首相の職務を継続するのは困難と判断し、退陣を決めたとのことです。

すでに安倍政権のレガシーは何かという、安倍政権の総括が始まっています。私は金融・経済が専門なので、金融・経済の面を中心に検証してみたいと思います。

安倍政権は2012年12月26日に発足しました。以下は、2012年以降の名目GDPの推移です。

<名目GDPの推移(兆円未満四捨五入)>

2012年:495兆円
2013年:503兆円
2014年:514兆円
2015年:531兆円
2016年:536兆円
2017年:545兆円
2018年:549兆円
2019年:553兆円

2020年はコロナの影響もあり厳しい数字になっていますが、昨年まではそれなりに順調に推移してきたのではないかと思います。

一方、他の先進国と比べて、GDPの成長率が著しく低いと言われており、就任以来、名目GDPは8年で10%程度しか成長していません(低成長については、この30年続いていることですので、安倍総理だけの責任ではないのですが)。

日経平均株価は2.27倍に高騰

次にマーケットの推移です。

総理就任時(2012年12月26日)の日経平均株価の終値が1万0,230.40円、辞任発表前日の2020年8月27日の日経平均株価の終値が2万3,208.86円。

就任期間中の日経平均株価は2.27倍になっています。

日経平均株価 月足(SBI証券提供)

東証1部の時価総額の合計が2012年末で296兆円、2020年8月27日終値ベースで617兆円。東証1部の時価総額は就任期間中に2.08倍になっています。

「アベノミクス」の肝であるマネタリーベース(日本銀行が世の中に直接的に供給するお金)は2013年の3月に黒田日銀総裁が就任後に約135兆円(日銀券残高約85兆円と日銀当座預金残高約50兆円)だったものが、2020年7月末には約576兆になっています。

期間中に4倍強になっており、まさに異次元の金融緩和を行ったことが分かります。

Next: 誰もが本当はやりたくない?「ポスト安倍」が日本の命運を握る



日本は「オールドエコノミー」のまま進歩せず

個人的には、安倍政権は、経済・金融分野に関しては及第点だと考えています。特にマーケットの観点から見ると、安倍総理は投資家にとって非常に有能な総理だったと言えます。

一方、在任期間中に中長期の日本経済のグランドデザインを示し、構築できたかというと疑問符が付きます。

通常の経済運営では及第点であったが、日本経済の変えるべき仕組みの変化を起こすことはできなかったということだと思います。

アメリカはここ10年で、GAFAMのようなIT企業が株式時価総額上位を占めるような構造の変化を起こしました。中国もアリババやテンセントのような企業が巨大企業に成長しました。

一方、日本は相変わらずオールドエコノミーが経済の中心で、アメリカや中国のような大きな構造変化が起きたとは言い難い状況です。同期間中にアメリカや中国がイノベーティブな構造変化を起こしたのと比べると物足りなく見えます。

安倍政権は、通常の経済運営は及第点であったが、日本経済の構造の変化を起こすことはできなかった、実務畑では優秀であったけど、新しいものを作り上げるような創造性には欠けていたというのが、私の評価です。

これは安倍政権がというよりは、日本経済、日本の社会全体が陥っている状況と言えるかもしれませんが。

誰もが本当はやりたくない?「ポスト安倍」が日本の命運を握る

また今年に入ってから、コロナで状況が大きく変わりました。

今はまだコロナ対応の真最中の状況ですので、コロナ対策をしながら経済の悪化をどれだけ防げるかという目先の対応に全力を注ぐ段階です。

ただコロナ終息後は(消息が見えてきたら)、アフターコロナの新しい成長モデルを示す必要があります。

安倍総理にはここまでやっていただきたかったのですが、ご病気ですので大変残念ですが、しょうがないですね。

すでにポスト安倍が誰になるかという報道で盛り上がっています。今の自民党総裁の任期は来年9月いっぱいまでですので、残りの任期は約1年です。

何人か候補者の名前が取り沙汰されていますが、候補者の多くが手は上げるけど、このタイミングでやりたくないというのが本音じゃないかと思っています。

いま総理をやっても、コロナ下で何らかの失敗があれば大きく叩かれるし、任期が短いわりにメリットが無い。来年の自民党総裁選で3年の任期で当選したいというのが候補者の本音でしょう。

ただ今回の総裁選でエントリーもしないと、重要な局面で逃げたというイメージになり、来年の総裁選の目もなくなるので、名前だけは刻んでおかなければいけない。

そんな背景もあるので、私は菅官房長官か麻生副総理(麻生さんは現時点では出ないと言っているようですが)が繋ぎで来年の9月まで務めるのが本命だと思っています。

このお二人はご年齢も70歳を超えていますし、短期でも総理をやった(麻生氏は既に一度やっていますが)という実績を残したいでしょうし、危機の時に総理を引き受け、若い世代に譲ったというような良いイメージを得て引退したいという思いもあるでしょう。

個人的には菅官房長官が本命ではないかと思いますが、ご本人が受けるかどうかわかりませんし、政治のことは予測不可能なことが起こりますので、結果を御覧じろといった感じです。

Next: アベノミクス継承は既定路線。問題は「財務省」との関係性



アメリカと歩調を合わせるしか道はない

さて、新総裁の下では経済、金融、外交政策がどのような方針となるかですが、すでに世界のブロック経済化、チャイナデカップリングの方向性は後戻りできない状況になっており、仮にアメリカで大統領がバイデンになっても(トランプ再選だと思っていますが)その大きな流れは変わりません。

【関連】実はトランプ再選濃厚?コロナで支持率低下も、2つの秘策でバイデンを返り討ちにする=澤田聖陽

安全保障の多くの部分をアメリカに依存している日本は、次の総理が誰になってもアメリカと歩調を合わせるしか道はないでしょう。そうすると、今よりも中国とは距離を置かざるを得ないという結論になります。

外交については独自外交の余地はかなり少ないのではないでしょうか。どのような立場に立つのか、ある程度明確な覚悟を決める必要があるのではないかと思います。

チャイナデカップリングの影響は結構大きいですが、今まで中国企業が取っていた中国以外でのシェアの一部を、日本企業が代替して獲得できるというチャンスはあります。これを活かせるかどうかは日本企業次第ですが。

アベノミクス継承は既定路線。税制がポイントに

金融政策については、「アベノミクス」を継承する以外にありません。

前述の通り異次元の金融緩和を行っており、この政策を急に方向転換することなどできるわけがありません。むしろコロナにより経済の悪化で、より金融緩和を進めざるを得ない状況でしょう。

財政政策についても同じくで、いきなり緊縮財政にするようなことは、今の経済状況下では無理でしょう。当面は大きな予算で財政支出を続けていく以外ありえないでしょう。

ポイントは税の方針です。その中でも消費税の扱いは注目されるところです。消費税の扱いとしては、以下の3つの方針が考えられます。

1. 現状維持
2. 将来的に消費税を増税する
3. 消費税減税を行い、景気対策とする

個人的には、今は(3)を行い経済のテコ入れを行うべきであると以前から主張しているのですが、与党内でのハードルはなかなか高いようです。

最近コロナ対策の財政出動で国の負債が増加しているので、将来的に消費税を再度上げるべきだという意見が出てきているのを懸念しています。

この「財政危機論」は財務省を中心にここ20年ずっと唱えられてきたものですが、その真偽を冷静に判断する必要があります。

Next: 「財政危機論」の方が害悪。スガノミクスは財務省に勝てるのか?



「財政危機論」の方が害悪

相変わらず円はドルに次ぐ信用力のある通貨ですし、日本国債は10年国債で0.04%という利回り水準です。

もちろん悪戯に国債残高を増やすことをよしとは考えませんが、客観的な事象を見て、直近で日本に破綻懸念があると思いますでしょうか?

むしろ現在のような危機的局面で、国債を大きく発行してダイナミックな財政支出で経済の回復を図るべきだと思いますし、それを阻害するような「財政危機論」は害悪の方が大きくなっていると思います。

財政支出をダイナミックに行い、その財源は国債発行で賄う、また同時に消費税減税を行い消費の喚起を促すというのが世界的な潮流ですし、日本だけ合理的でない「財政危機論」に縛られていると、いよいよコロナからの復興局面で、経済的に日本は取り残されるということになりかねません。

安倍総理は、長い間大変お疲れ様でした。

新総理は難しい局面でのかじ取りを引き継ぐことになりますが、ぜひ大胆にリーダーシップを発揮して、早期の経済回復に努めて頂きたいと考えております。

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