天才投資家バフェットが日本の5大商社に投資したことが話題になっています。彼の狙いはどこにあるのでしょうか?また、誰もが気になる「マネすれば儲かる?」という疑問について解説します。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
ついに本格的な「日本株」投資に乗り出した?
ウォーレン・バフェットが「日本の5大商社に初めて投資した」と発表して、大きな話題になっています。
これまでバフェットは本格的に日本株への投資を行ったことがなかったのですが、ここでついに本格的な投資に乗り出したということです。
いったいバフェットの真の目的は、どこにあるのでしょうか?
また、我々はバフェットに追随して買うべきなのでしょうか? それについても合わせて解説したいと思います。
「晩年割安株」の商社とは
『バークシャー、5%を超える商社株を取得 – 伊藤忠や三菱商事など5社』とニュースが出ました。この5社というのは、伊藤忠・三菱商事・三井物産・住友商事・丸紅で、いわゆる日本の「5大商社」と言われるところです。
それぞれ5%超える株を保有したので、日本の制度で大量保有報告書を提出しなければなりません。それが提出されたのと時を同じくして、バークシャー自身もをご丁寧にプレスリリースを発表しています。
なぜバフェットがこのような投資を行ったのか?ということについて、考えてみようと思います。
商社というといろんなビジネスを行っていて、イマイチよくわからないというところもあります。コンビニに投資していたり、資源に投資していたり、不動産にも投資していたりします。
そういった中でもっとも多いのはやはり「資源」ということになっていて、その資源がどれだけの割合あるかというのが各社の特色として現れます。
例えば、三井物産は資源に非常に特化した企業なので、その資源価格の変動を受けやすくなっています。
一方の伊藤忠は、非資源ナンバーワン商社を目指しています。特に生活分野、最近ではファミリーマートにTOB株を買い付けて完全子会社化しようということも行っていましたので、資源以外の分野が強みの伊藤忠ということになります。
それぞれ色がありますが、共通しているのは、PBRが伊藤忠を除いてすべて1倍を切っているという割安な状況です。
利回りでも見ても三菱商事が5%を超えていて、その他も5%の周辺という形になりますから指標で見た時に割安というのは間違いありません。
一方で、これらの会社が割安になったのは今に始まったことではなくて、晩年割安株としても知られています。
なぜそうなのかというと、いろいろなビジネスをやっているがゆえに、投資家から見てわかりにくいというところがあるので、『コングロマリットディスカウント』、日本語で言うといろいろやっててわかりにくいから売ってしまうというものが働いています。
また、資源価格はなかなか予想ができないので、その変動リスクということを考えたら、なかなか投資できないということです。
晩年割安、しかも割安と割安だと言われながらなかなか上がらないという状態が続いています。
Next: バフェットはコロナショックの何を恐れた? 日本の商社を買った狙いは
バフェットの目的はリスクヘッジか
バフェットがなぜそんな会社に投資したのでしょうか。
ひとつ考えられるのは、やはりこの新型コロナショックによる動きです。バフェットがこの新型コロナショックで何を懸念していたのかというと、政府による金融緩和の弊害です。
例えば5月に行われた株主総会で、「起こりうるのは通貨への疑念」だということを言っています。新型コロナの対策で政府がバンバン国債を刷っている中で、経済論的に言えばお金をたくさん刷れば刷るほどお金の価値が下がってしまう、つまりインフレになるということが懸念されています。
そういった中でインフレをヘッジしようと思ったら、金などが代表される実物資産、あるいは資源や一般的な商品などもそれに該当すると思いますが、とにかくこの部分を気にしていたということがありました。
そんな中で出てきたのは、この金鉱株への投資です。
バフェットはそれまで金そのものへの投資は金利を生まない以上、株式に対して劣る資産だと言っていました。ただバフェットはその発言を覆して金鉱株、金を掘る会社の株を買いました。もちろん株なのでやがてはそこから配当というのも見込めるので、単純に金への投資ではなくて配当付きの金の権利を買ったということになります。
これによって将来的なインフレが起きた時に、この金を持っていればそのリスクをヘッジできると考えたのではないかと想像できます。
さて、先ほど説明しましたように商社は資源に大きくベットしています。
資源価格というのは当然インフレになれば、それに比例して上昇するということが想定されるので、この資源価格連動の商社株というのはインフレヘッジという意味でも、大きな意味合いを持っているのではないかということが想像できます。
ただしウォーレン・バフェットは今この新型コロナショックを受けて、慌てて動いたというわけでも商社に関してはなさそうです。
この短期間で商社株を買ったわけではなくて、長い期間をかけてどんどん少しずつ買い増していたというのが実情です。
バフェットが本腰を入れた投資ではない
その1年前に何があったのかというと、以下の記事に示されているものです。
※参考:バークシャー、初の円建て債4300億円 海外企業で最大 – 日本経済新聞(2019年9月6日配信)
バークシャー・ハザウェイが初めて円建て債を発行しました。
4,300億円と海外企業で最大という驚きのニュースではありましたけれども、いったい何に使うのかというところが正直この時は見えませんでした。しかし、今になって考えてみると、ここで発行した債券で商社株を買っていたわけです。
ここで4,300億円となっていますが、今は6,300億円くらいになっています。ちょうどこの商社5社に投資した金額が6,300億円ぐらいなので、ぴったりと合います。
なぜこの債券を発行して買ったのかということです。
まあ1つは為替のヘッジ選んで発行していれば、ドル円のレートが動いた時にそこのリスクはヘッジできるということが考えられるわけですが、実はもう1つあるのではないかと思います。
それが低金利環境を利用したということです。
このニュースでもありましたが、0コンマ数パーセントの単位で債券を発行しているわけなんです。それで資金を調達して、先ほど見ました通り、利回りが5%といった高いものがあります。これだけでも0.5%と5%だとしたら4.5%利回りが取れるということになり、ものすごく優位な取引です。
しかも商社株というと晩年割安なので、上がる可能性は低いかもしれませんが、逆にいえば、ここより下がる可能性というのも極限まで抑えられるわけです。
またバフェットがこれまでの本腰を入れた投資というのは、この5社に一気に投資するバルクのような買い方ではなくて、1社に集中しています。今のバフェットのポートフォリオのほとんどはアップルが占めますが、そういった買い方をしたと思います。なので、バルクで買ったということは、本腰を入れた投資とはやはり違うのではないか、ということが想像できます。
まして14兆円も余力資金がある中で、6,000億の債券を発行して買った、それもバルクで買ったということは、つまりリスクヘッジの取引をしたのではないかと考えられます。
Next: 「守りの投資」を貫いた結果。バフェットのマネをするのはアリ?
徹底した「守りの投資」
これを発表したのがバフェットの90歳の誕生日でした。
バフェットも高齢なので正直あと何年生きられるかということは分かりません。バフェットの今の目的としてはいかに次の世代に、資産を安全なポートフォリオとして渡すかということに焦点が移っていると思います。
だからこそこの商社や債券を発行して商社株を買うというのは、安全にリスクヘッジという意味ではとても意味のある動きだったのではないかという風に想像できます。
結論をまとめますと、晩年割安な商社株に対して、1つにはこの新型コロナを受けたインフレヘッジとして資源株としての商社を買ったということです。
また低金利の円建ての債券を発行して裁定取引と言いますが利ざやの差、つまり0.5%の金利と5%の利回りの差を利用した、プラスとなる取引を行ったということです。
その結果は徹底した「守りの投資」、とにかく失う可能性を少しでも減らした投資というのを行ったのではないかと考えられます。
バフェットも言っていることに『投資の一番大切なことは第一にお金を減らさないことだ、そして第2に第1のルールを忘れないことだ』と言っています。
そのような守りの投資というのを徹底的に体現したのが、この商社株への投資だと考えられるわけです。
バフェットのマネをして大丈夫?
さて、気になるのが、私たちがこの商社株へ投資すべきかどうかということです。
ここまで説明してきたように、バフェットはこれらの会社が急激に成長するということを望んで投資したわけではなさそうだということです。
あくまで安全な資産あるいはこれから想定される大きな動きに対して、負けてしまわないような資産構成をとったということが考えられます。
したがって、これで大きく儲けてやろうと思う人は、投資の対象ではないということです。
もっといけないのはバフェットが買ったからというだけで、商社にどういう特徴があるのかもわからずに投資してしまうというのは最悪なので絶対にやめてください。
商社がどのような特徴、どのようなビジネスをしているかということを理解したうえで投資して、初めて意味のある判断ができます。
バフェットがいつ売るかということもわかりませんから、バフェットが売ってから損をしたと言っても遅いわけです。
バフェットが買ったということで株価が上がってしまっていますので、損をする確率は上がってしまっているということになります。
Next: 上昇余地は限定的? 「商社」を理解せずにマネするのは危険
「商社」を理解せずにマネするのは危険
私自身も商社を説明する時に説明が難しいところもありますが、「投資信託の一種だと考えてください」と言っています。
投資信託というといろんな会社に投資するわけなんですが、同じように商社もいろんなビジネスに投資をしています。
だからこそリスクが抑えられる反面、上昇余地も限定的であるという考え方です。
そこまで理解したのだったら投資すればいいと思いますし、どの銘柄に投資すればいいかということについては私も動画で出しておりますので、ぜひ、そちらもご覧いただければと思います。
(※編注:今回の記事は動画でも解説されています。ご興味をお持ちの方は、ぜひチャンネル登録してほかの解説動画もご視聴ください。)
※上記は企業業績等一般的な情報提供を目的とするものであり、金融商品への投資や金融サービスの購入を勧誘するものではありません。上記に基づく行動により発生したいかなる損失についても、当社は一切の責任を負いかねます。内容には正確性を期しておりますが、それを保証するものではありませんので、取扱いには十分留意してください。
『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2020年9月4日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。