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「焼肉の和民」転換は大正解。沈む居酒屋業界から這い上がる理想の一手=馬渕磨理子

居酒屋チェーン大手のワタミ<7522>が既存の居酒屋120店舗を「焼肉の和民」に転換すると発表。これはコロナ下での勝ち馬に乗る英断です。ワタミはさらにもうひとつコロナに打ち勝つ主力事業を持っており、沈む居酒屋業界から這い上がって生き残ることは間違いないでしょう。

プロフィール:馬渕 磨理子(まぶち まりこ)
京都大学公共政策大学院、修士過程を修了。フィスコ企業リサーチレポーターとして、個別銘柄の分析を行う。認定テクニカルアナリスト(CMTA®)。全国各地で登壇、日経CNBC出演、プレジデント、SPA!など多数メディア掲載の実績を持つ。また、ベンチャー企業でマーケティング・未上場企業のアナリスト業務を担当するパラレルキャリア。大学時代は国際政治学を専攻し、ミス同志社を受賞。
Twitter:https://twitter.com/marikomabuchi

なぜ、ワタミが「焼肉」に業態転換?

居酒屋チェーン大手のワタミ<7522>は20年10月5日、「居酒屋 和民」など既存の居酒屋120店舗を新業態「焼肉の和民」に転換し、今後の主力にすると発表しています。同社では21年3月末までに60店舗、21年度中に60店舗を順次転換していく予定です。

日本フードサービス協会によれば、新型コロナウイルスの影響で今年8月の居酒屋の売り上げは対前年42.3%と壊滅的な状況が続いています。一方、焼肉店は85.6%にまで回復している状況です。

焼肉はコロナ時代の「勝ち組」なのです。

アフターコロナで居酒屋は7割しか戻らない

この流れもあり、ワタミの会長である渡邉美樹氏によると、「居酒屋業態の需要は新型コロナウイルス感染症が流行する以前から減少傾向にあり、その中で、コロナショックが起き、居酒屋業態の売り上げは大幅に落ち込んだ」そして、今後、経済が回復しても「コロナ以前の7割程度にとどまる」と見ているようです。

ワタミは20年5月に居酒屋65店舗の閉店を発表しており、窮地に立たされていることは間違いありません。新業態に移行することで、従業員の雇用を守りたい考えです。

そして、アフターコロナの外食産業の中心は焼き肉になると、渡邉氏は考えているのです。

「来店目的が明確な焼き肉店は支持され、生き残るために変化を受け入れなくてはならない」とも述べています。

焼肉は換気がクリーンなイメージ

リモートワークの普及で、「仕事帰りに仲間と一杯」といった需要は確実に減少しています。

一方、家族など身内での外食が少しずつ増えてきています。その中でも、煙を吸い込む強力な換気システムがある焼肉は、客席全体の空気が入れ替わる、よいイメージがあり、家族でも安心して利用できることから人気化しているのです。

リクルートライフスタイルが9月15日に発表したアンケート調査で、外食ニーズが高いメニューとしては、1位が「ラーメン」、2位は「焼肉」という結果が報告されています。

焼肉の人気は、依然、高いのです。

外食に対して「感染が不安」と考えている人が増えていることも分かっており、コロナの感染に警戒しながらも、比較的安心して食事ができる場所として、焼肉が選ばれているのです。

Next: 焼肉店こそコロナキラー?さらにもうひとつ主力事業を用意している



「焼肉の和民」店舗スタッフとの接触率は80%減

焼肉の根強い人気はアフターコロナでも変わらないと確信したワタミは、焼肉を主力事業にすると、大きく舵を切ったわけです。

そして、ワタミの焼肉では、アフターコロナを見据えた店舗を意識しています。非接触、換気に配慮しているのも「焼肉の和民」のポイントです。

配膳ロボットや、調理場から客のテーブルへ料理を直送する「特急レーン」を採用したことによって、店舗スタッフとの接触は、従来の居酒屋業態と比べて80%減になるとのことです。

ロボットや、特急レーンの配置によって、ホール業務の効率化と同時に、新型コロナウイルス感染症の拡大防止対策を徹底することができます。

「焼肉の和民」では、ニューノーマルな時代への対応にチャレンジしています。

また、焼肉店ならではの各テーブルに設置された強制換気システムは、3分に1回の完全換気を実現しているようです。

本来、焼肉業態は居酒屋業態と比較して、厨房の人数は少なくて済む傾向があります。

また、ワタミは焼肉業態への進出を機に、オリジナルの「和民和牛」も開発しています。九州産黒毛和牛の経産牛を再肥育したもので。安価で入手でき、居酒屋事業を含めたワタミグループ全体で利用するようです。

ワタミが焼肉店に業態転換するというのは、アフターコロナ時代を見据えた飲食業界の戦略として学ぶべき点がたくさんあると思います。

ワタミのもうひとつの主力事業「ワタミの宅食」

一方で、ワタミのもうひとつの主力事業である「宅配事業」では、労働問題に関する告発がなされるという、残念な報道もあります。

(21年3月期 第1四半期決算短信より作成)

ワタミといえば、外食のイメージが強いかもしれませんが、21年3月期 第1四半期決算短信のセグメント別の売上高の割合をみると、国内外食が51%に対して、宅食は37%を占めています。実は、ワタミの第2の主力事業が宅食なのです。

ワタミが女性社員に残業代の一部を支払っていなかったとして、高崎労働基準監督署から是正勧告を受けています。女性社員の長時間残業は、精神疾患に罹患する直前の1ヶ月前の6~7月には、過労死ラインの2倍となる月175時間に及んでいたようです。

勧告により、経営責任を明確にするとして渡辺美樹会長らの月額報酬を6カ月間50%の減額。また、宅食事業に関わる全所長を対象にしたオンライン会議を開き渡辺会長が謝罪しています。

今後、労働組合を通じてアンケートを実施し実態調査を進めるということです。

Next: 「ワタミの宅食」はコロナで急成長。瀕死の飲食業界を照らす光となるか



「ワタミの宅食」はコロナで急拡大

ワタミの宅食事業は、コロナ禍の中でも、売上を伸ばしています。

コロナ禍の今年4~6月においても、商品のお届け数は1,539万食(前年同期比106.7%)、売上高は89億円(前年同期比105.7%)と、コロナ禍前の前年同期よりも売上が増加しているのです。

背景には、ワタミの宅食は、コロナ禍を機に、幼稚園・小学校・中学校・高校等の休校によって、子供が家にいる世帯向けの低額キャンペーンを行ったことで需要を伸ばしたのです。

ワタミの宅食は高齢者への宅配のイメージが強いですが、コロナ禍をビジネスチャンスとして、子育て世帯にもターゲットを拡大していたのです。

このように、ワタミの収益の柱は外食ではなく、宅食にもあるのです。その中で、起きた長時間労働の問題。是正されることを望むばかりです。

ワタミはコロナ禍を乗り越える

第二の柱である「ワタミの宅食」は、コロナ禍でも売上高を伸ばしており、この先も拡大が見込めます。

また、外食産業の勝ち組である「焼肉」に全店業態転換という決断を軸に、大きく方向転換するワタミ。時代の流れとニーズに合わせて臨機応変に対応し、ニューノーマルな時代の流れをしっかりと捉えていることが伺えます。

「自社の成長」を最優先に変化を続けるワタミは、コロナ時代でも生き残ることは間違いないのでしょう。

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image by:PR TIMES, 著者提供

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2020年10月23日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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