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コロナ禍のリゾマン詐欺に騙される人々。「テレワークに最適」売り文句、ワーケーション破産でリゾートマンションの腐動産化が社会問題に=姫野秀喜

コロナ禍で出社の必要がなくなったサラリーマンを中心に、移住先として田舎のリゾートマンション(リゾマン)が見直されているという報道が出てきました。仕事しながら休むという「ワーケーション」という造語まで生まれています。この動きに非常に危機感を抱いています。コロナ禍で本当にワーケーションや移住は進んでいるのか、憧れのリゾートマンション生活にリスクはないのかについて解説します。どうしても買いたいという人のために、買ってもよい人の条件、買ってもよい物件の条件もお伝えします。(『1億円大家さん姫ちゃん☆不動産ノウハウ』姫野秀喜)

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プロフィール:姫野秀喜(ひめの ひでき)
姫屋不動産コンサルティング(株)代表。1978年生まれ、福岡市出身。九州大学経済学部卒。アクセンチュア(株)で売上3,000億円超え企業の会計・経営計画策定などコンサルティングに従事。合間の不動産投資で資産1億円を達成し独立。年間100件以上行う現地調査の情報と高い問題解決力で、顧客ごとに戦略策定から実行までを一貫してサポートしている。著書に『確実にもうけを生み出す不動産投資の教科書』(明日香出版社)、『誰も教えてくれない不動産売買の教科書』(明日香出版社)、『売れない 貸せない 利益が出ない 負動産スパイラル』(清文社)がある。

コロナ禍で「リゾートマンション」に見直しの動き

最近、コロナ禍に対応し、安い家賃の家に引っ越したり、田舎に引っ越したりしている人の報道が増えています。

もちろん、移住している人がいることは事実です。しかし、報道されているほど地方移住が過熱しているかというと疑問が残ります。

さらに、コロナ禍に対応した新しい働き方として「ワーケーション」という造語が生み出されました。

この「ワーケーション」とは「ワーク+バケーション」という、仕事するのか、休むのか、どっちなのか意味不明な造語です。

その仕事しながら休むという「ワーケーション」の移住先として田舎のリゾートマンション(リゾマン)が見直されているという報道もなされており、非常に危機感を抱いています。

余談ですが、こういった中身のないフワっとした造語って、数年で忘れ去られるんですよね。皆様、覚えていますか?「Web2.0」とか「ロングテール」とか「セカンドライフ」とか。きっと5年後には「ワーケーション」という造語は「Web2.0」と同様に、あの言葉って結局なんだったんだ?ってなるかもしれませんね。

コロナ禍で本当にワーケーションや移住は進んでいるのか、憧れのリゾートマンション生活にリスクはないのかについて解説します。

1. そもそも東京からの地方移住は流行しているのか?

コロナ禍で、事務所を縮小したり、住居でも家賃が安い物件に引っ越したりするという影響が出始めているというのは本当です。

弊社の周辺のオフィス街でも空店舗、空事務所が目立ってきました。また、賃貸物件の仲介業者では、家賃レンジが低めの物件に人気が出て高めの物件からの転居需要で忙しくしているところもあります。

しかし、転居が増えているといっても新聞やテレビなどで報道されるような地方移住が本当に増えているかというと、そうではありません。

下の表は2019年と2020年の「東京都 転入超過数(※総務省統計局データより)」を表します。転入超過数とは転入者数から転出者数を引いた人数を出したもので、移住により人数が増えたのか減ったのかが分かる指標です。

この「東京都 転入超過数」を見ると、コロナが国内で流行りだした4月から東京への転入者は徐々に減っていき、7月~10月は4か月連続で転出者が多い状況となっています。

しかし、この数字だけを見て、転出者が多いと判断するのは早計です。

なぜなら、東京都には2019年時点で1,392万人もの居住者がいるため、すべての居住者のうちどれくらい純転出がいるのかというのを見なければ意味がないからです。

コロナ移住は「少数派」

そこで前述の「東京都 転入超過数」が東京都の人口に対し、どれくらいの比率なのかを算出したものが下表となります。

この表を見ると、東京都の転入超過数のうち、最もマイナス幅が大きくなった2020年8月は純転出が4,514名ですが、この数は東京都の人口の約0.032%にすぎないことがわかります。

このパーセンテージを多いと見るか少ないと見るかは個人の主観によるとは思いますが、統計的に見る限りでは、コロナ禍に対応した移住という現象は圧倒的な少数派であり、決して過熱しているということはないと考えます。

さらに、コロナ禍で田舎のリゾートマンション(リゾマン)へ移住しようとしている数は、0.032%未満の極めて特異な現象ではないでしょうか。

Next: 埼玉・神奈川・千葉は変化なし。ワーケーションの実態は?



2. 一都三県のうち東京以外の三県はあまり変わらず

一都三県のうち東京以外の三県(埼玉県、神奈川県、千葉県)はどうなっているかも見てみましょう。

下表は埼玉県、神奈川県、千葉県の2020年、2019年の転入超過数です。

この表で前年比の減少幅が大きいと思われるところを赤点線の枠、増加幅が大きいと思われるところを青点線の枠で囲んでいます。

埼玉県では4月~7月、神奈川県では4月、5月、7月にかけて、前年よりもやや純転入者数が少ない状態であったことがわかります。

それに対し千葉県は、4月こそ前年比で減少したものの、5月以降は転入者が大きく増加していることがわかります。

これは東京からの転入者もありますが、4月に転入できなかった人が5月以降に転入してきたというのも理由の一つだと考えられます。

地方移住やワーケーションは流行っていない

では、三県のそれぞれの純転入数を各県の人口比で見比べてみましょう。下表はそれぞれ埼玉県、神奈川県、千葉県の転入超過数人口比率です。

この表を見ると千葉県の関しては、2019年8月が0.003%だったのに対し、2020年8月には0.027%と9倍に増加しており、ややコロナ禍による転入超過数への影響を見て取れるかもしれません。

とはいえ、各県の人口比で0.01~0.05パーセント程度、累計でも数千人から1万人程度の話です。累計1,750万人を超えたという鬼滅の刃の劇場動員数に比べるべくもない人数です。

これほど少数の移動者数しかいないわけですから、コロナ禍での地方移住やワーケーションが流行しているというには程遠いのではないでしょうか。

Next: やがて負動産に?ワーケーション目的でのリゾマン購入はリスクだらけ



3. ワーケーション目的でのリゾマン購入のリスク

百歩譲って、コロナ禍でワーケーションや地方移住をしている人が増えているとしても、リゾートマンションを購入するのはおすすめではありません。

というのも共同住宅であるマンションは、その共同住宅であるがゆえに生じる問題があるからです。

その問題とは、マンションの廃墟化です。そして廃墟化しても手放すことができず固定資産税を払い続けなければならない負の遺産となる「負動産化(腐動産化)」です。

マンションの老朽化は、所有者の高齢化とともに進行します。さらに相続が発生した部屋は所有者が不明となり、管理費の滞納が始まります。

老朽化したマンションを建て替える場合、一般的には1戸当たり1,000万円程度のお金が必要となるといわれますが、管理費を滞納するような所有者が素直に支払ってくれるとは考えられませんし、そもそも所有者が不明だと建て替えの決議も行うことができません。

現に、全国の築40年以上のマンション約1万5,000棟のうち、無事に建て替えられたマンションは計画段階のものを含めて300棟弱であり、約2%しか存在しません。

つまり、残りの98%のマンションは建て替えの計画すら立てられない状態でなのです。

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なお、建替えができているマンションについては、都心の一等地であったり、分譲された時よりも容積率が緩和されたりして、現在の建物よりも戸数が増えるなど、好条件なものがほとんどです。戸数が増えるマンションの建て替えが可能なのは、増えた分をデベロッパーが新規顧客に販売し、その販売益の一部で住民の自己負担額を賄うことができるからです。

そういった恵まれた環境にあるもの以外の、田舎の不便な立地のマンションの建て替えには厳しいものがあるでしょう。

そんな暗雲立ち込める未来しか予想できないのが、地方の築古マンションです。コロナ禍に便乗して、ワーケーションや地方移住、新しい生活様式などの美辞麗句を並べて、地方の100万円前後で売られているマンションを礼賛することほど愚かしいことはありません。

やがて「負動産」になって子孫を苦しめる

つい先日までは、地方の築古マンションの中には売主がお金を支払うから買ってもらいたいというような案件すら存在していました。そういった売主たちは、ここぞとばかりに「ババ抜きのババ」である地方のマンションを売却していることでしょう。

ちなみに、私は地方創生のために尽力している方々に対し批判しているのではありません。地方の人口が減少し、町に空き家が増え、税収が減り、活気が減っていくことをなんとしてでも食い止めたいというのは誰もが願うことだからです。

ですが、その具体策としてリゾマンや築古マンションを活用するというのは反対です。管理の行き届いていないマンションはいずれ廃墟化し、所有者に解体費用など巨額の負担を強いることになります。

将来、不幸になる人を増やすような可能性のある施策はあまり良い施策ではないと考えるからです。地方創生のための人口増加施策を実施するなら、一戸建てなど所有者だけの意思で解体などができる物件で行うべきだと思います。

まぁ一戸建ての場合でも、手放すことができないので未来永劫固定資産税を払い続ける負動産になる可能性は残りますが、田舎の固定資産税は都心ほど高くはありませんし、なにより老朽マンションの解体費用として何百万円も請求されるリスクはありません。

一時のコロナ禍転居ブームで購入した地方のリゾマンが、自分だけでなく、自分の遺産を相続した子供や孫を苦しめる「負動産」となるということをしっかりと認識したうえで判断してください。

Next: 憧れのリゾマンを購入してもよい人、購入してもよい物件の条件とは?



4. 憧れのリゾマンを購入してもよい人、購入してもよい物件の条件とは

これまで警鐘を鳴らし続けてきましたが、それでも購入したいという人のために、あえて購入する時に注意すべき点を述べたいと思います。

<購入してもよい物件の条件>

購入してもよい物件の条件は、「管理組合が機能しており、修繕積立金が潤沢」かつ、できれば「築10年以内」です。

マンションは管理組合により管理されていますが、これが機能していないと共用部などのメンテナンスが行われていなかったり、管理費や修繕積立金が集められなかったりします。1人で意思決定できる戸建と違い、マンションは共同で運営されているわけですからより良い運営がなされているものを選ぶのが廃墟化のリスクを減らすことにつながります。

また、修繕積立金も同様に定期的な大規模修繕を行うことができる預金額になっているのかをチェックする必要があります。万一、修繕積立金が不足している場合は大規模修繕時に各戸が一時金を負担しなくてはならず、最悪の場合、買った瞬間に大規模修繕の費用負担を迫られることになるでしょう。

また、築10年以内の物件であれば、将来マンションを売却できる可能性が高く、負動産化するリスクを抑えることができます。

マンションの法定耐用年数は47年ですが、築10年以内の物件であれば、購入後10年ほど住んでもまだ耐用年数が30年ほど残っており、次の購入者も30年の住宅ローンが使えるため買いやすく、売りやすいのです。

<リゾマンを買ってもよい人の条件>

次に、激安築古リゾマンをどうしても買いたい!激安だから買いたい!という人向けに、買ってもよい人の条件を述べます。

本来は廃墟化するかもしれないそんなハイリスクなリゾマンを買ってもよい人の条件などないのですが、あえて言うとすれば、それは……「天涯孤独」だということです。

家族もおらず、相続させる相手もいない、そういう条件の人であれば、未来永劫固定資産税を支払い続ける義務を持つ負動産を買ったとしても怖くありません。

ある意味で、開き直りとも言えるのですが、天涯孤独であれば、子孫や親戚筋に負動産を相続させるという迷惑をかけずに済むからです。

もちろん、そういった天涯孤独の人たちばかりが激安リゾマンを購入したら、そのリゾマンの廃墟化は免れないでしょう。彼らが他界した後は管理費・修繕積立金は滞納され、廃墟化し最終的には地方自治体などが公費で解体することになるでしょう。ただでさえ厳しい、地方財政を圧迫することになるかもしれません。

まぁそれが良いかどうかはわかりませんが、家族に囲まれて幸せに暮らした人から徴収した税金が巡り巡って、天涯孤独な人が住んだ廃墟リゾマンの解体費用として使われるのだとしたら、それは富の再分配ならぬ、幸せの再分配として、ある意味ではとても公平で正しい税金の使われ方と言えるのかもしれません。

Next: 安易な手出しは禁物!激安には激安な理由(リスク)がある



激安には激安な理由(リスク)がある

今回の内容をまとめます。

・コロナ禍でのワーケーションや地方移住は統計的には0.01%程度で報道されるほど過熱していない
・激安リゾマンや地方の激安マンションは子孫を苦しめる負動産になるリスクがあるので安易に飛びついてはいけない
・購入してもよいのは「管理組合が機能しており、修繕積立金が潤沢」かつできれば「築10年以内」(でもそういう物件は激安ではない)
・子孫や親せきに迷惑をかけない「天涯孤独」の人なら激安リゾマンを購入することもできるが、将来の地方財政を圧迫することになる

マネーボイスの読者様は賢明なので大丈夫ですが、安易に激安リゾマンに手を出すのはやめましょう。激安には激安な理由(リスク)が潜んでいるのですから。

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image by:polkadot_photo / Shutterstock.com

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2020年12月1日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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