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日銀・岩田副総裁の誤り なぜ円安でも輸出は増えなかったのか?=三橋貴明

日本政府や日本銀行は認めていないが(認められるはずもないが)、「異次元の金融緩和」の目的の一つに「円安誘導」があったことは疑いない。

円安になれば、日本が輸出する製品やサービスの「外貨建て価格」が下がる。すなわち、グローバル市場における価格競争力が向上するわけで、普通に考えて「円安⇒輸出増」は常識と表現しても構わないほどに当たり前の経路に見える。

ところが、現実は違った。(『週刊三橋貴明 ~新世紀のビッグブラザーへ~』三橋貴明)

異次元緩和の目的の1つ「円安で輸出増」が実現しなかった理由

リフレ政策の狙いに「円高の是正」

日本政府や日本銀行は認めていないが(認められるはずもないが)、岩田規久男教授(現:日本銀行副総裁)らが主導したリフレ政策の目的の一つは、円高の是正であった。

本来、我が国のように経済規模が大きい国が、「円安誘導」の金融政策を実施してよいとは思わない。国際的に批判されるのはもちろんのこと、下手をすると世界的な通貨安競争の引き金になりかねないためだ。

とはいえ、岩田教授が2014年9月10日に公表した資料「最近の金融経済情勢と金融政策運営」の図表11「「量的・質的金融緩和」の波及経路」には、「予想実質金利↓(低下)」⇒「円高修正」⇒「企業収益↑(上昇)」「輸出↑」という経路が書いてあるのだ。

日本政府や日本銀行が認めずとも、「異次元の金融緩和」の目的の一つに「円安誘導」があったことは疑いない。

Next: 輸出量増えず。外れた日銀・岩田副総裁の目論見



輸出量増えず。外れた日銀・岩田副総裁の目論見

ところで、黒田日銀発足後の円安政策は、確かに「外貨を稼ぐ企業の円建て収益」を嵩上げした。例えば、1ドル80円の時点で1億ドルを稼いでいた企業の収益は、日本円換算で80億円となる。これが、1ドル120円になれば、日本円換算の収益が120億円に跳ね上がるのだ。

別に、実質的な付加価値の生産が増えたわけではないが、為替レートという「物差し」が変わることで、日本円建ての売上や利益が激増するわけである。結果的に、日本円で支払われる「法人税」が増え、14年度の税収を押し上げた。

とはいえ、デフレ脱却という点で言えば、企業の支払う法人税が円安で増えたところで、あまり意味はない。もちろん、増収になった政府が財政政策で消費(政府最終消費支出)や投資(公的固定資本形成)を増やすのであれば、総需要が拡大し、デフレ脱却に一歩近づく。

ところが、現実の安倍政権は2014年度以降に「超」がつくほどの緊縮路線を邁進しているわけだ。財政政策を拡大するどころか、縮小している。

というわけで、円安政策がデフレ脱却に貢献するとするならば、それは「輸出増」によりもたらされることになる。輸出とはGDP(総需要)の需要項目の一つだ。輸出が拡大すれば、当然ながら総需要不足は解消の方向には向かう。実際、岩田教授の「波及経路」にも、「円高修正⇒輸出↑」というルートが書いてある。

円安になれば、日本が輸出する製品やサービスの「外貨建て価格」が下がる。すなわち、グローバル市場における価格競争力が向上するわけで、普通に考えて「円安⇒輸出増」は常識と表現しても構わないほどに当たり前の経路に見える。

ところが、現実は違った。

日本の実質輸出と為替レートの推移

上図の通り、第二次安倍政権発足後、円の為替レートは1ドル80円台から120円台へと急落した。ところが、輸出「量」で見た実質輸出は全く増えていない。直近の実質輸出は、リーマンショック前はもちろんのこと、東日本大震災前すら下回っているのである。少なくとも、「異次元の金融緩和」が輸出「量」の拡大にほとんど貢献していないことは確かだ。

Next: 「円安⇒輸出増」の常識が崩れた理由とは?



「円安⇒輸出増」の常識が崩れた理由とは?

大幅な円安にも関わらず、輸出が増えないのは、現在の世界は貿易量が経済成長率を下回る「スロートレード」の状況にあるためである。世界銀行によると、08年以降の「世界のGDP」に占める貿易の割合は、30%で停滞している。

すなわち、現在は「外需」が伸びにくい状況にあるのだ。そもそも、需要が拡大していない以上、円安政策とはいえども実質輸出を拡大する効果はないのだ。

逆に、小泉政権から第一次安倍政権にかけ、日本の実質輸出は六割も増えた。当時はアメリカの不動産バブルが継続しており、世界全体の需要全体が拡大していた。

円安により、日本の実質輸出が増える」は、あくまで世界の需要もしくは貿易が膨張しているという前提の上でしか成立しないのだ。

加えて、2013年1月以降に急激に進んだ円安が、果たして「何」に基づいていたのかという問題もある。

例えば、「異次元の金融緩和」によりインフレ率が上昇し、日本円の価値が外貨に対して落ちた。結果的に円安が進んだというならば、まだしも理解できる。とはいえ、現実には日本のインフレ率はゼロ近辺で停滞し、未だにデフレ脱却を果たせていない。

それでは、第二次安倍政権期の円安をもたらしたのは、果たして何者なのか。答えは「投機」である。

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