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さすが日経新聞?2020年元旦の予測的中、なぜ企業成長の方程式は崩れたか=山田健彦

2020年元旦の日経新聞の一面トップを読み返すと、多くのことが的中していることに気づきます。成長の方程式が崩れ、「良い企業」の定義も変わっています。そして、第三次世界大戦の瀬戸際にあることも示唆されています。(『資産1億円への道』山田健彦)

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成長の方程式が崩れつつある

毎年、1月1日の日経新聞は必ず手元に置いて時々読み直すと良いとお伝えしています。

今年2020年の一面トップのテーマは「さびつく成長の公式 競争・革新 新たな挑戦」でした。サブタイトルとして、「富の源泉はモノの大量生産から知識や情報にシフト」が付けられています。

今までの成長の方程式は、次のような流れになっていました。企業が出資者を募ってお金を集め、そのお金で工場設備を整え、雇用を増やせば生産が拡大する。生産が拡大すれば生産物の価格が低くなり、生産物の価格が低くなれば購買者がさらに増え、購買者がさらに増えれば、企業はさらに出資を募り、再度工場設備を拡大し、雇用も拡大し…というものです。

企業も出資者も従業員も購買者も皆ハッピーという「経済循環」の形が、これまでの成長の公式でした。

一方、この過程では競争を勝ち抜くために「売上を増やす」か「コストを削減する」または、その両方が奨励されますが、テクノロジーの発達により、これらにソフトウェアを活用することが可能になってきました。

ソフトウェアは一度作ってしまえば、それほど大きなカスタマイズを行うことなく大量販売が可能。ごく少数の優秀な人がそのようなソフト・プログラムを作れば良いので、雇用の再拡大は望めなくなり、優秀なITエンジニアには求人が集中しますが、社会全体が雇用拡大の恩恵を受けることはなくなります。

米カリフォリニア州シリコンバレーでは高収入のIT人材が大量に流入した結果、住宅費や生活費が高騰し、工場や飲食店などで働く人が中古のキャンピングカーでの生活を余儀なくされている。

出典:さびつく成長の公式 〜逆境の資本主義1:日本経済新聞(2020年1月1日配信)

日経新聞の元旦の記事にも記載がある通り、経済格差も物凄い勢いで拡大中です。

Next: 良い企業の定義が変わってきた



高PBR銘柄がスポットライトを浴びた

ところでこのようなIT主体の企業は大掛かりな工場や機械設備を必要としないので、有形固定資産が少なく、PBR(株価純資産倍率)がかなり高くなるのが特徴です。

日経でも「米アップルなど世界の大手10社のデジタル事業の市場評価額は約6兆ドルと、全ての日本企業の有形固定資産(金融除く、約5兆ドル)を2割上回る」と報じています。

つまり投資の尺度の1つとして有効と考えられてきたPBRは、今ではそれほど有効ではなくなってきているのです。

今年はまさにそのような高PBR企業の代表であるGAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)と呼ばれる巨大IT企業が株式市場でも実体経済でも高く評価された年でした。

こうした高PBR企業隆盛の流れは「世界の高中所得国では3億人超の製造業雇用が今後8年間で約1割消える見通し」「こうした富の偏りが成長を鈍らせ、極端な金利低下をもたらす」という結果をもたらしましたが、これも元旦の日経新聞が喝破していたことです。

ちなみに以前もご紹介した「バフェット・コード」でPBR30倍以上で検索してみると29銘柄がマッチングしましたが、すべてではありませんが、ほとんどの銘柄は株価が綺麗に上昇しています。

ただ、これらの銘柄はすでにかなり高値圏で取引されているので、すぐに飛びつくのは考えものです。

PBR10倍以上かつ20倍以下で売上成長率が3期連続で対前年比10%以上など他の条件も付けて投資候補を検討してみるのも良いと思います。

良い企業の定義が変わってきた

元旦の日経の記事に話を戻すと「企業は株主の利益最大化を図るのが使命」という考え方も修正が見られる、としてスウェーデンのイケヤが温暖化ガスの排出より吸収の方が多い企業に2030年までになる、と宣言し「企業の使命」が変わってきたことも日経は紹介しています。

ESG的企業(環境・社会・ガバナンス重視)が社会からも株主からも支持されるようになるのでは、と経営陣の意識が変わってきたようです。

どこの業界も各社で似たような製品を作っていて価格競争の蟻地獄に陥っている中、株主からも支持してもらい、顧客からも「同じものを買うのだったらESGを強く意識しているこの会社の製品を買いたい」と思ってもらえるためにも、ESG重視の経営は重要になってきています。

ESG重視の会社は我が国ではファーストリテイリングが有名です。この会社は商品生産を委託している海外企業の工場現場での労働環境等にまで目を光らせています。

アメリカではダントツにウォルト・ディズニーです。ディズニーとライセンス契約を結んで、例えば赤ちゃん向けのミッキーのぬいぐるみを生産しようとすると、原材料に有害物質が含まれていないか、生産現場で過酷な労働が強いられていないか、完成物の検査体制など事細かにチェックが入り、事故などでディズニーのブランドに傷がつかないようライセンシー業者をチェックしています。

「ディズニーとライセンス契約を結ぶと、経理以外の部署はすべてディズニーに乗っ取られたような感じで事細かなチェックが入ってくる」と言われています。

何をもってESG的に優れた企業か、を数値的、客観的に評価するのは難しいので、しばらくの間はメディアの報道などで判断するしかないでしょう。

直近、菅政権が「脱炭素支援2兆円基金」構想を打ち出しました。これはESGのE(環境)関連ですが、EV、全固体電池、水素電池、パワー半導体、洋上風力発電などこの「脱炭素化」を支えるサブテーマは要注目です。どのような銘柄があるのかは「株探(かぶたん)」などで検索してみてください。

Next: 第三次世界大戦の瀬戸際?元旦の日経新聞は「対中問題」にも言及



再度の世界大戦の瀬戸際か

元旦の日経は、中国の国家資本主義の台頭にも触れています。

異型の統制型経済は強制的な技術移転や巨額の産業補助金で自由経済の競争ルールに真っ向から対立する。それなのにそのダイナミズムは恐ろしいほど。

18年の起業数は670万社と4.7秒ごとに新たな会社を生み出し、GDPは米国GDPの65%の水準に迫った。このような統制型経済は長期的には効率悪化は避けられないはずだが、追われる側の焦りは強く、米国は貿易戦争という禁じ手に出た。保護主義が最終的には世界大戦を招いた30年代の教訓はかすむ。

出典:さびつく成長の公式 〜逆境の資本主義1:日本経済新聞(2020年1月1日配信)

上記の通り、暗に今は再度の世界大戦の瀬戸際では?という警鐘を鳴らしています。

日本は地理的に中国と近いうえに、中国は日本製品の輸出先第1位、また今はコロナで途絶えてしまっているものの、観光来日客数で第1位のお客さんです。

トランプさんはまだ白旗を上げていませんが、バイデンさんの後ろ盾である民主党は歴史的に対外貿易赤字問題には共和党より強硬で、かつトランプさんがほとんど触れなかった中国国内の人権問題に対しても民主党は関与してくるものと思われます。

そのような中で、我が国は中国国内や香港の人権問題にはダンマリを通しており「日本は対中では経済重視で、人権問題には関与しないのか!?」と欧米から突き上げを喰らう場面も出てきそうです。

中国での売上比率の多い企業への投資はちょっと考えたほうが良いかもしれません。

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資産1億円への道』(2020年12月6日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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資産が1億円あるとゆとりある生活が可能と言われていますが、その1億円を目指す方法を株式投資を中心に考えていきます。株式投資以外の不動産投資や発行者が参加したセミナー等で有益な情報と思われるものを随時レポートしていきます。

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