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Rafal Olkis/Shutterstock

なぜ中韓と信頼関係を結べない?答えが独メルケル首相のスピーチの中に

同じ第2次世界大戦の敗戦国ながら、隣国と信頼関係を結ぶことができたドイツと、中国・韓国との関係が悪化する一方の日本。どうして2国はこうも違うのか、なぜ安倍首相らは過去の否定にこだわるのかという答えを、ソフトウェア・エンジニアでブロガーの中島聡さんはドイツのメルケル首相のスピーチ内に見たと記します。そして「戦争やむなし」という空気が作られるのが一番危険とも。

ドイツとの違い

『週刊 Life is beautiful』2015年3月17日号より一部抜粋

ドイツのメルケル首相が訪日し、安倍首相と対談しましたが、彼女の日本政府へ向けたメッセージは、隣国からの信頼を勝ち取ることの重要性と脱原発でした。どちらも直接的に安倍政権を非難することはしませんでしたが、「ドイツではこうしている」と語ることにより明確なメッセージが伝わって来る、素晴らしいものでした。

特に前者は、同じく第2次世界大戦の敗戦国であるドイツだからこそ言える非常に意味深いものであり、そこには「日本が南京大虐殺や従軍慰安婦への軍部の関与を否定することは、ドイツがホロコーストを否定するようなもので、百害あって一利なし」という明確なメッセージが込められたものでした。

安倍政権の極端な右傾化は、単に日本国内の問題ではなく、国際的に見ても問題視されていることが今回の訪問でとても明確になりました。それも外交ルートを通じた舞台裏のメッセージではなく、対談や講演という公のルートを使って来たことは、非常に意味深いと思います。ある意味、(票という力を持った)日本国民に向けたメッセージでもあるのです。

ドイツが第二次世界大戦を過去のものとして隣国と信頼関係を結ぶことができているにも関わらず(それどころかユーロ圏のリーダーの役割を果たしています)、日本と中国・韓国との関係は、悪化する一方です。

特に最近の悪化の原因は、日本の政治家の中にまで南京大虐殺や従軍慰安婦の問題への軍部の関与を否定しようという動きが出ていていることにありますが、私の中で納得できないのは、安倍首相をはじめとする人たちが、なぜ「過去を否定しない限り前に進めない」と感じているのか、という点です。

メルケル首相に指摘されなくても、それらの歴史的汚点を否定し続けることが、隣国との関係を悪くするだけであることは火を見るよりも明らかです。東京裁判が戦勝国の論理で行われたことは誰でも知っています。しかし、それを今さら蒸し返すことには何の利点もないからこそ、過去の政権は、村山談話・河野談話という形で過去に決着をつけてきたのです。

にも関わらず、安倍首相とその周りの人たちは、なぜ、そんな無駄なことをし続けるのでしょうか?

この疑問は、長い事私の頭の中にわだかまっていました。しかし、その答えが、メルケル首相が朝日新聞主催のイベントでした講演の中に見えたように感じたので、紹介します(メルケル独首相、講演全文で読めるので、ぜひとも読んでいただきたいと思います。

破壊と復興。この言葉は今年2015年には別の意味も持っています。それは70年前の第2次世界大戦の終結への思いにつながります。数週間前に亡くなったワイツゼッカー元独大統領の言葉を借りれば、ヨーロッパでの戦いが終わった日である1945年5月8日は、解放の日なのです。それは、ナチスの蛮行からの解放であり、ドイツが引き起こした第2次世界大戦の恐怖からの解放であり、そしてホロコースト(ユダヤ人大虐殺)という文明破壊からの解放でした。

私はこの「ナチスの蛮行」という言葉がとても重要な役割を果たしていると思うのです。確かに、ナチスのメンバーはドイツ人だったし、ヒットラーを選挙で選んだのもドイツ人です。しかし、ホロコーストを起こしただけでなく、そもそもドイツを第二次世界大戦に巻き込んだのも、すべて「ナチスの蛮行」だと言い切ってしまうことにより、ナチスさえ過去のものにしてしまえば、現代のドイツ人は過去の罪から解放される、という非常に合理的な論理が働いているのです。

日本の場合、残念なことに「ナチス」に相当する明確な団体も固有名詞も存在しないのです。ナチスに相当するのは「大日本帝国軍」ですが、これは一般名詞でしかなく、罪を追わせて過去に葬り去る対象としては不十分なのです。

もしその罪を追わせるべき対象に「XX」という名前がついていれば、「南京大虐殺を起こしたのも、韓国の女性を従軍慰安婦として強制的に働かせたのはXXだ。そもそも日本人を戦争に巻き込んだのもXXであり、彼らのせいで大勢の日本人が落とさなくて良い命を落とした」と言い切ることができるのです。

しかし、実際には「ナチス」のような明確な主犯格が存在しないため、ドイツのように「ナチスの蛮行」という割り切った言い方が出来ないのです。そのため、第二次世界大戦中の蛮行はあくまで「日本人の蛮行」であり、(安倍さんたちから見ると)「過去の過ちを認めることが日本人全員の名誉を傷つけることになる」という発想になってしまうのです。

「ナチス」のような特定の団体があったわけでもなく、ヒットラーのようなリーダーがいたわけでもない、誰を首謀者とするわけでもなく、「列強に対抗するにはアジア全土に領土を広げるしかない」という「空気」が作られ、「空気を読まない」人たちを「非国民」として排除することにより、日本が引くに引けない戦争に巻き込まれてしまったのです。

二度とあのような不幸を起こさないためにも、今の日本人が一番警戒すべきなのは、国民に戦争もやむを得なしと思わせる「空気作り」なのです。そんな厳しい目で、安倍政権が次々と閣議決定している、秘密保持法案、集団的自衛権の容認、武器輸出制限の撤廃を見ることが重要なのです.

 

『週刊 Life is beautiful』2015年3月17日号より一部抜粋

【2015年3月17日号の目次】
■今週のざっくばらん
・ドイツとの違い
・Apple Watch
・新型MacBook
■今週のクラウドファンディング
・Introducing the Artiphon INSTRUMENT
・Trickey – Any key, anywhere!
■私の目に止まった記事
・大阪工業大:「ロボット」核に新学部 17年春開設構想
・A fully transparent solar cell that could make every window and screen a power source
・Why the Clinton email server story matters – and why it may be worse than you think
・2011年3月11日、なぜ「Twitter」は落ちなかったのか? 多くの人が知らない、意外な真実
・How two lawsuits could destroy Uber and Lyft’s business models – and set a precedent for the rest of the sharing economy
・Population Of Humans Found To Have Adapted To Arsenic
・産業振興センターで一言「私はお金は要りません」と啖呵を切った料亭の女将
・ロボット社会の実現へ向け、V-Sido で低レイヤーを狙う
・Out of Japan’s Nuclear Disaster, New Indoor Farms Grow 100x More Food
■読者からのご質問・ご意見コーナー

 

『週刊 Life is beautiful』

著者/中島聡(ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア)
マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。IT業界から日本の原発問題まで、感情論を排した冷静な筆致で綴られるメルマガは必読。
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