元妻を探すのは比較的容易であった。
彼女はブログで小遣い稼ぎをしていた。いわゆるブロガーというやつだ。
今時、そんなもので子どもの小遣いも稼げないであろうが、セコセコとブログを更新していた。
その日に食べた食事とか、どこに買い物に行ったなどが記載されている。
そこから大体の生活圏は知ることができる。
また、過去の勤務先を調べると、元上司はすぐに見つかった。
もともと、この上司は課長職であったが、1年ほど前に元上司は離婚していた。その理由は、やはり不倫であった。
それが社内で騒動になり、元上司は、この会社が持つ郊外の工場へ出向となったのだ。工場長補佐という、取ってつけたような役職が今の肩書きであった。
元上司は、工場に自転車で通っているということで、相当な慰謝料を支払っているというのが噂になっていた。
自転車通勤圏内といえば、元妻のブログの生活圏とも一致している。
この工場には、ほとんどの従業員が普通自動車かスクーターなどで通っている。自転車で通うのは学生のバイトくらいのものだった。
だから、中年男性が自転車で帰るのを見つけるのは容易であった。
下山は車のトランクに積まれている折りたたみ自転車に乗り、尾行を行い、この元上司の家を割り出した。
この会社では社員寮か家賃補助などを利用する従業員が多いそうだった。
社員寮は主に独身の者が入り、家族ができると家賃補助の申請をするそうだ。
周辺のアパートはファミリー用の物件が多く、都心と比べれば、ワンルームほどの家賃で借りることができる。
元上司は、ファミリー用物件であろうアパート群へ自転車を走らせていた。
同じ建設会社が建てたのであろうか、同じような2階建で、1階に2部屋という作りの広めな間取りであろうアパートが並んでいる。
洗濯物を見る限り、やはりこの辺りはファミリー用のアパートが建つ地域に違いないと下山は思った。
元上司は、鍵も刺さずに「ただいまー」と言って、アパート2階の1室に入っていった。玄関先には子供用の自転車があり、そこには、元上司の名字で、依頼人の娘さんの名前が続けて書いてあった。
”◯△リナか・・・再婚したということだな”
下山はその日は、事務所に戻り、状況を報告することにした。